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旧作 作者:hayashi

シーズン3 第4章「殲滅」

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殺人部隊―軍出向組のやり方

 しばしの時間が過ぎた。
 その間、こう着状態が続いていた。

 1班は工場を取り囲んだまま動かず、2班は再び倉庫へ向かい、敵の狙撃により任務を続行できる隊員が減ってしまった3班に合流した。

 銃撃してきた犯人らが立てこもっている工場にも倉庫にも動きはなかった。
「別働隊に応援要請をした」とのことで、その応援部隊が到着するまでファン隊長から待機命令が下されていた。

 セイヤたち3班は、2班と共に大型防弾盾に身を潜めながら、倉庫の様子を伺っていた。『ゴリラその2』と『クール』はそれぞれ棒の先についた手鏡を盾から出し、倉庫を映し、状況を探る。が、倉庫のどこかからか、手鏡も狙撃され、粉砕された。

「……相当、優秀な狙撃手だな」
『ゴリラその2』が舌打ちした。
 あの少女に違いない……リサは銃を握りしめた。

 刻々と時間だけが過ぎていく。

「こっちも戦力、相当削られたな」
 セイヤは片膝を地面につき、盾の陰に隠れながら、ため息をついた。

 ジャンを含め負傷した隊員らは治療のため、現場を離れることになった。2班の機動部隊による大型防弾盾に守られながら、特戦部隊の隊員らが負傷者を運ぶ。
 中央地区管轄の特戦部隊は、この前の「金属加工センター倉庫立てこもり事件」で死者2名と負傷者11名を出し、ただでさえ人員が不足していたのに、さらに任務可能な隊員の数を減らしてしまった。

「……敵は何を考えている?……工作員が関わっているのは確実だ。彼らが何の考えもなしに無駄なことをするとは思えない。いずれ、こちらには応援部隊がやってくる。彼らにしてみれば待てば待つほど不利になる。今、動かなければ彼らには勝ち目はない……」
 ふとセイヤは違和感をおぼえた。

 同じように大型防弾盾の陰で銃を抱えているリサがセイヤを見やった。
「もしかして、これって陽動?」
「……かもな」

 そこへファン隊長から連絡が入った。ほかの地域や地方地区でも同じようなたてこもり事件や犯罪が同時多発的に発生しており、また、あちこちでシベリカ人による大規模なデモも行われ、暴徒化する恐れも捨てきれないため、治安部隊は全て出払っている――よって、こちらへの応援部隊派遣は難しく、今の人員で対処せざるを得なくなったとのことだった。

「……やはりか……」
 セイヤは誰に言うでもなく、ひとりごちた。
「今現在行われている犯罪は全て陽動だ。デモも工作員らが裏で糸を引き、この日に合わせて行われているんだろう。敵の本命はどこか別にある」

 それを聞いた『ゴリラその2』がヘルメットを脱ぎ、盾の外にころがした。すると、そこに銃弾が撃ち込まれた。
「なるほどな、オレらはここで足止めされているってわけか」

「本命が別にあると言われても、こんな重犯罪をやらかしている連中を放って、本命へ向かうわけにもいかないしな……」
「つまり、私たちを引き留めるためにこんなことを? じゃあ、私たちは敵の策略にまんまとひっかかっているってわけ?」
「そういうことになるのかもな……」
 セイヤが逡巡するように答えていると、『ゴリラその1』が「1班を工場に突入させてほしい」とファン隊長に判断を仰いだ。

 だが、ファン隊長はそのまま待機を続けるように指示を出していた。
「いずれ、敵も疲れてくる。時間が長引くほど不利になるのは相手のほうだ」

 それを聞いたセイヤが無線機に向かって、ファン隊長に意見した。
「いえ、早期に解決すべきです。敵の本命は別にあります。そのうち、敵の別働隊がその本命への攻撃を仕掛けるでしょう。我々は本命に備えるべきです」

 そんなこと言っても、ファン隊長は若造のセイヤの意見なんて聞かないよ……と心の中でつぶやきながら、リサは覚めた目でセイヤを見つめた。

『お前はそう思うのか?』
 無線機からファン隊長の声が聞こえてきた。

「はい。ですから、その……特命チームのやり方で……やらせてもらえませんか?」
 セイヤはちょっと詰まりながらも提案した。

『分かった。早期解決を目指そう。1班、突入準備せよ』
 ファン隊長からの命令が下った。

「え?……ファン隊長、なんだか変わったね……」
 リサが目を丸くし、セイヤを見やる。
 が、セイヤは無言で地面に目をやっていた。

「お前、うちのリーダーのやり方、分かってるのか?」
 鋭い視線を投げかけながら『ゴリラその2』がセイヤに話しかけてきた。

「ええ、何となく……オレらも特命チームが結成されてから軍の訓練に参加してますから、軍のやり方は分かります。治安部隊は基本『犯人確保』を目指しますが、軍は違うことは承知してます」

「へえ……」
『ゴリラその2』はちょっと見直したようにセイヤを見つめた。
『クール』は相変わらず無視を続けていたが、ほんのちょっとだけ顔が動いた。

「ま、そこの女はオレたちのやり方を支持しないだろうがな」
 うすい笑いを顔に張り付かせて『ゴリラその2』は、今度はリサに目をやる。
「だから、女は困るんだけどな」

「……いえ、これは戦争です。だから……軍のやり方を支持します」
 リサは『ゴリラその2』をまっすぐ見つめて、頷き、こう続けた。
「血に染まって死んでいった仲間を見てきたしね……生き残るために、この期に及んできれいごとなんて言いませんよ。それに……」
 そう言いながら、リサは銃身を撫でた。
「すでに私の手も血に染まってます。きれいごとと心中する気はありません」

「へえ……そうか……」
『ゴリラその2』の表情がちょっとだけ和らいだ。
『クール』はリサとセイヤにそれぞれ視線をやった。ずっと無視を続けていた『クール』が初めて反応した瞬間だった。

 セイヤは黙り込み、ただただ地面を見つめていた。

 ファン隊長から突入命令がきた。現場の指揮は特命チームリーダー『ゴリラその1』に一任するとのことだった。

 第1班が待機していた工場前――
 指揮官となった『ゴリラその1』は背負っていた大口径銃を取り出し、2つ並べた大型防弾盾の隙間から工場入り口を狙う。そして煙幕を張った。

 大口径銃は装甲車を破壊する威力を持つ。
 工場入り口は簡単にふっとんだ。

 機動部隊の持つ大型防弾盾に身を隠しながら、工場へ突入し、入り口前から手榴弾を投げ入れた。その後、すぐにマシンガンで弾幕を張る。地雷に気をつけながら、奥へ進み、さらに手榴弾を投げ入れていく。銃を手にしている敵を見たら、急所を外して確保するなどという気遣いはせず、戦闘不能にさせるために即座に撃った。基本、射殺だ。

 その間『メガネ』は特戦部隊に援護され、機動部隊が持つ盾に守られながら、バックパックからプラスチック爆弾と起爆装置を取り出し、要所要所に仕掛けていった。

「完了しました」
「よし、退去」

 特戦部隊と機動部隊の面々も工場の外に出た。

 隊員らの退避を確認すると『メガネ』は起爆していった。
 大音量と共に工場が揺れ、あちこちが崩れ落ち、窓ガラスも割れ落ち、瓦礫の破片が飛んだ。

 機動部隊はもちろんのこと、特戦部隊の面々もただただ驚いていた。自分たち特戦部隊は今まで一部の市民から「殺人部隊」と呼ばれていたが、自分たちなどカワイイものである……正真正銘の「殺人部隊」は自分達の目の前にいる特命チームだ……と。

 工場は半壊していた。瓦礫の下からもぞもぞと動くのを見ると『ゴリラその1』は容赦なく銃弾を浴びせた。瓦礫の動きが止まり、その下から血が流れ出る。
「時間との勝負だ。危険を背負って確保する暇はねえんだ」

 銃を構えつつ『ゴリラその1』は半壊した工場を見回った。
『メガネ』も大盾団を率いながら、さらに爆弾を仕掛け、隊員らを退避させ、半壊していた工場を爆破していった。

 工場の制圧は15分程度で終わった。

「確保したって、どうせ工作員らはしゃべらないし、自白剤の使用はだいぶ先になる。確保しての事件解明より、スピードを選んだってことだ。ぬるいことやっていたら、こっちの犠牲は増えるばかりだ」
 特戦部隊や機動部隊の隊員らに聞かせるかのように『ゴリラその1』はひとりごちた。

 隊員らは何の反応も見せず、口をつぐんでいた。しかし思い返せば……先日の『金属加工センターの倉庫たてこもり事件』での仲間の犠牲はあまりに大きかった。もしもあの時、この特命チームが現場を指揮し、犯人確保ではなく『殲滅』という手段を選んでいたら、仲間は死なずに済んだかもしれない、重傷を負わなくて済んだかもしれない……

 いつの間にか特戦部隊の隊員らは、『ゴリラその1』と『メガネ』に敬礼していた。彼らの頭の中にはズタズタに血まみれになって死んだ仲間の姿が思い起こされていた。
 それに釣られたのか機動部隊も特戦部隊に倣った。

 それから――『ゴリラその1』が率いる1班は即座に倉庫へ向かい、2班と3班に合流した。
 そして工場を制圧した同じやり方で倉庫を攻略していった。手榴弾と爆弾を容赦なく使用し、動く者がいれば射殺した。

 セイヤとリサと特戦部隊は、『ゴリラその1』『ゴリラその2』『メガネ』『クール』を援護しながら、彼らの容赦ないやり方をただただ黙って見ていた。大型防御盾を持った機動部隊も同様だった。

 リサはあの少女のことを思い出していた。おそらく彼女は、ここで死ぬことになるだろう。けど、彼女は子どもを銃撃し、特戦部隊の元同僚に重傷を負わせ、殺害した……今、その報いを受けているのだ……と倉庫が爆破されていく様子を無表情に眺めていた。
 兄をはじめ……目の前で人が殺され、血にまみれた悲惨な死体を何度も見てきたリサの心は、敵の死に何の感情も抱くことはなかった。

 その後、隊員らは半壊した倉庫内を見回った。敵が潜んでいないか、確認していった。5人の死体があったが、それ以外、人の姿は見当たらなかった。

 警戒しながら歩きまわっているうちに、地面に足元に取っ手のついた大きな蓋のようなものがあることに気づいた。蓋を開けると、人ひとりが通れるくらいの下り階段があった。中はかなり暗く、奥へ行くほど闇が深くなっていく。

「もしかして地下通路? 外に通じている?」
「敵はここを通って外へ逃げた?」

 暗視ゴーグルをつけ、銃を構えながら、『ゴリラその1』が階段を下り、その後を『ゴリラその2』『メガネ』『クール』が続き、真っ暗な通路を進んでいった。
 セイヤとリサはこのことをファン隊長に知らせ、特戦部隊と機動部隊と一緒に、半壊した倉庫で待機した。

「じゃあ、あの少女もまだ生きている?……」
 リサの銃を握る手に力が入る。ならば、自分があの少女を仕留めたい……そう思った。

 一方、セイヤはずっと考え続けていた。この倉庫はすでに公安に目をつけられ、近く強制捜査されることは想定済みだったのだろう。敵はこれを利用し、陽動に使った。敵の本命は別にある。

「……どこを狙う……オレがシベリカの立場なら……」
 セイヤはハッとして顔を上げた。
「そうか、もうここしかない。何でもっと早く気づかなかったんだ……」

 地下通路は裏手の一般シベリカ人のある家の中とつながっていた。
『加工食品工場』で立てこもり事件が発生し、1班が工場に突入する際、その近辺の家々に住んでいるシベリカ人を警察捜査隊が避難させていた。当然、倉庫と地下通路とつながっていた家のシベリカ人らも一緒だ。
 その家には、父親母親とその子どもを名乗る少年少女たち7名がいたらしい。
 が、警察捜査隊は工場近辺の家々に住む者たちを軽く事情聴取して、その時は「規制線の中には入らないように」と注意した後、解放してしまったという。

 すぐにその7名を探したが、もちろん家にも戻っておらず、行方不明であった。

 マスコミは大騒ぎだった。
 パトロール隊や警察捜査隊が規制線を張り、マスコミの連中ややじうまを押し止めるのにもエネルギーを使わなければならなかった。隊員たちはもう一杯一杯だった。
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