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旧作 作者:hayashi

シーズン3 第4章「殲滅」

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狙撃手―少女再び

 初冬に入ったある日、特命チームはルッカー治安局長から任務を命じられた。
 ――公安よりトウア市内『シベリカ人街』の一角にある『シベリカ加工食品工場敷地内倉庫』に銃器などの武器や兵器が隠されているとの情報が入り、捜査令状が下りたので、警察捜査隊および特戦部隊と共にその倉庫を捜査せよ、と。

 この『シベリカ加工食品工場敷地内にある倉庫』の捜査は、とりあえず警察捜査隊が中心となって行う。シベリカ人がおとなしく倉庫を捜索させてくれれば、特戦部隊と特命チームは警察捜査隊の援護、補佐という立ち位置になる。
 だが、もしシベリカ人たちが抵抗し強硬手段に出た場合は、特戦部隊と特命チームが先頭に立って対処することになる。

 任務決行日――どんよりと曇り、空が重く感じられる早朝。
 ファン隊長率いる特戦部隊の車を追いながら、特命チーム7名は『シベリカ人街』の中にある『シベリカ食品加工工場倉庫』に向かった。その後を警察捜査隊と機動隊が続く。

 特命チームが乗る輸送車の中では、リーダーとして『ゴリラその1』が注意事項を述べていた。
『ゴリラその2』は適当に頷き、『クール』は目をつぶり、相変わらず『オレに話しかけるなオーラ』を放ち続け、『メガネ』はまたまたリサをじ~っと観察するように見つめている。

 向かいに座っている『メガネ』があまりにも見つめ続けるので、リサは思い切って訊いてみた。
「私に何か用ですか?」

 すると『メガネ』は慌ててリサから目をそらし、モジモジし始める。

「ああ、こいつ、『ヒロイン・リサ』のファンなんだってよ。戦う女が好きなんだそうだ。趣味で『ヒロイン・リサ』をモデルにした妄想漫画を描いているらしいぜ」
 隣に座っていた『ゴリラその2』ががなり立てて、『メガネ』の趣味を説明した。

「……」
 リサは固まってしまった。『メガネ』はなかなか濃ゆい趣味をお持ちのようだ。

 セイヤとしてもこれは由々しき大問題だった。リサが『メガネ』の趣味にされている? リサの妄想漫画を描いている? ということは漫画の中でリサにあんなことやこんなことをさせているのでは? もしもリサにあんなことやこんなことをさせていた場合、抗議をしなくては……
 が、それにはまず漫画を見せてもらわなければならない。その場合『メガネ』と形だけでも仲良くなるしかないのか……でも、どうやって仲良くなればいいんだ?

「うお~、リサの漫画だって、見たいぜ。見せてくれよ」
 ジャンが簡単にセイヤが望んでいることを言ってのけた。こういう時、先輩の性格がうらやましくなるセイヤである。

 そのジャンの言葉に『メガネ』の顔も輝いていた。自分の趣味に興味をもってくれる人がいることは、やっぱり嬉しい。
「はい……この任務が終わったら、ぜひ」
「そうそう、漫画ではリサを巨乳にしてやってくれ」
「……では、徐々に大きく成長させていきます。いきなり大きくなるのは変ですから」
 さっそく読者の要望に応える『メガネ』に、「うお~っ、楽しみにしているぜっ」とジャンのテンションも高くなった。

「な、何を言ってるんですか~」 
 セイヤはジャンと『メガネ』を交互ににらむ。やっぱりこれは由々しき問題だ。

 だが『メガネ』はセイヤをチラッと見た後にこう言った。
「あの~……ダンナさんにも見てもらって、何か指摘があれば伺いたいのですが」

「え? はい、じゃあ……ぜひ」
 なんと『メガネ』のほうから漫画を見てくれとお願いしてくるとは……願ったりかなったりである。

「ヒロイン・リサのダンナさんだなんて、うらやましいです」
 そう言うと『メガネ』は遠慮深気に微笑んだ。

「いや、まあ~」と照れながら……もしや『メガネ』って結構いいヤツでは……と調子よく思ってしまうセイヤであった。

 こうしてジャンとセイヤと『メガネ』は確実に距離が縮まったようである。『ゴリラその2』も以前ほどはこちらに敵対心オーラを発さなくなった。

「ま、任務中は運命共同体だもんね……」
 やれやれとばかりにリサは新たなメンバーたちを眺めた。

「おい……お前ら、緊張感足りねえぞ」
 リーダーの『ゴリラその1』が喝を入れる。

 そうこうしているうちに捜査対象となった『シベリカ加工食品工場』に着いた。 

「微罪をでっちあげて捜査令状をとるなんて、もしこれが世間に知れて、昔だったら大騒ぎしたでしょうね」
「けど今の世間さまは、疑わしければ捜査してほしい、になっちまったな」
「時代は変わったな……」
 ジャンとセイヤとリサがブツブツと話しているところに、『ゴリラその1』が怒鳴る。
「くっちゃべってないで、行くぞ」

 特命チームは、警察捜査隊およびファン隊長率いる特戦部隊の後ろに続き、『シベリカ加工食品工場』の敷地内へ入った。
 敷地は広く、学校の体育館ほどの大きさの事務所を兼ねた工場と倉庫があった。稼働前なのか、工場は静かだった。倉庫の並びにはトラックが3台止まっている。

 警察捜査隊は工場の責任者を呼び出した。

 やがて、工場長だという人物が何人かの工員らしき者を引き連れてやってきた。
「何の容疑で捜査するんですか」
 工場長は捜査を拒否し、抵抗する構えを見せていた。
 違法物を取り締まる捜査班の班長が説明をする。
「ですから、麻薬が持ち運ばれているという情報があったんですよ。ほら、捜査令状もあります」
「事件のでっちあげです。麻薬が持ち運ばれたという証拠を見せてください」
「裁判所が判断して令状が発行されたんです。強制捜査を開始します」
「横暴だ」

 工場長の周りにもシベリカ人らが集まってきて、口々に抗議の声をあげた。
「トウアの警察が我々を弾圧にきた」「シベリカ人差別だ」「事件をでっちあげて、我々を逮捕するつもりだ」「人権侵害だ」「自白剤を打たれて、廃人にさせられるぞ」「シベリカ人への迫害が始まった」「治安部隊を追い出せ」「シベリカ人街から出て行け」

 そのうち「出て行け、出て行け」の大合唱が始まり、警察捜査隊の隊員らが工場の倉庫へ向かおうとすると、力ずくで抵抗した。

「トウア人を入れるな」
「オレたちの聖域を守れ」

 その様子を見ていた『ゴリラその1』は「オレらの出番になるかもな」とつぶやいていた。
 シベリカ人らの抵抗は凄まじく、鉄パイプやバットや木材を持ってきて、隊員らを牽制した。

「公務執行妨害で逮捕する」
 警察捜査隊が叫んだが、抵抗するシベリカ人たちの数が圧倒的に多く、一時退却となった。治安部隊を敷地外に追い出すと、シベリカ人らは門を閉め、鉄パイプやバットといった武器を持った武装した集団が門の前に立ちふさがった。

「ここまでやるとは……クロだな……それも工場関係者以外の人間がかなりいそうだ」
 ジャンが苦虫をつぶした顔になった。

 あの倉庫に大量の武器があり、万が一、シベリカ人がそれを使って抵抗するようなことになれば長丁場になる。
 現場の指揮権は、警察捜査隊から特戦部隊に移った。特戦部隊ファン隊長は、苛烈な銃撃戦になる可能性も捨てきれないとし、大型防弾盾を操る機動部隊の出動を要請した。

 工場敷地は高い塀に囲まれ、その上に有刺鉄線が張り巡らせてあった。
 まずはこの塀を爆破し、3つの班に分かれた機動隊と特戦部隊と特命チームはそれぞれ3方向から敷地内に突入し、倉庫を目指すことになった。
 機動部隊は大型防弾盾を持ち、特戦部隊と特命チームを防御しながら進む。特戦部隊と特命チームは攻撃を担当する。

 最終判断はファン隊長が行うことになるが、現場では軍の特殊訓練を受けている特命チームのリーダーである『ゴリラその1』が指揮を任された。
 ファン隊長が『ゴリラその1』に挨拶し、ジャンとセイヤとリサをチラっと見て、かすかに頷いた。

 ちなみに特命チームはこのように分かれた。
 1班は『ゴリラその1』と『メガネ』
 2班は『ゴリラその2』と『クール』
 3班はジャン、セイヤ、リサ

 まもなく機動隊が到着し、その後、各部隊の班長を集められ、作戦内容の詳細が伝えられた。
 工場敷地内と倉庫内の見取り図を示しながら『ゴリラその1』が指示する。
「機動部隊および特戦部隊と共に倉庫を目指す。塀を爆破したと同時に催涙弾を使用するそうだ。マスク装着しろよ。
 それでもなお相手の抵抗が激しかった場合、相手が銃を持っていなくても、銃の使用許可が出ている。足や肩を銃撃し、動きを止めろ。
 こちらの身に危険があると判断したら、射殺だ。
 また相手が銃撃してきた時、機動部隊の大型防弾盾に隠れろ。決して機動隊より前に出るな、分かったな」 

「相手が銃撃してこない場合も、銃が使用できるなんて、ほんと変わったよな~」
 ジャンが感慨深そうにひとりごちた後、顔を曇らせ、こう続けた。
「ま、この前の事件で特戦部隊の犠牲があまりに大きかったからな……」

 その言葉を聞いたリサは、犠牲となった血まみれの特戦部隊の元同僚の姿が思い浮かんだ。葬儀の時、遺された奥さんはまだ現実を受け止めることができずにいる様子で、その憔悴しきった姿を見るのが辛かった。

「やっと世間は、治安部隊隊員の人権にも気を使ってくれるようになったということですね」
 皮肉をつぶやきながらセイヤも装備を整え、配置につく。

 ――突入命令が下った。
 塀を爆破し、そこから催涙弾を投げ、3方向から大型防弾盾を持った機動部隊を先頭に工場敷地内に入った。
 特命チームは特戦部隊を援護しながら、倉庫を目指す。
 催涙弾で苦しみ、地に臥せっているシベリカ人たちを、後から様子見しながら入ってきた警察捜査隊が手錠をかけ、確保していった。

 機動部隊・特戦部隊・特命チームの混合1班が工場前を通ろうとした時、ガスマスクをした一団が工場の影からいきなり現われ、サブマシンガンで襲い掛かってきた。
 が、すでに『ゴリラその1』は、塀を爆破して突入した時、あれだけいたはずのシベリカ人が少ないことに気づいており、どこかで本格的に仕掛けてくることを予想していた。
 大型防弾盾を持った機動部隊が、シベリカ人らのサブマシンガンの銃撃を防ぐ。

「ガスマスクまでつけているとはな……催涙弾は無効か。こっちも本格的に銃撃せざるを得なくなったか」
『ゴリラその1』が大型防弾盾の間からガスマスクの一団のひとりひとりを正確に撃ち抜いていく。

 その様子を見た一団はすぐに引き、工場内に逃げ込み、シャッターを閉めた。

「ち、工場から片付けないとならなくなったか」
『ゴリラその1』は、2班と3班に連絡を入れた。
「工場内へサブマシンガンを持った6名が立てこもった。2班と3班は倉庫への突入は待て」

 1班と同様に機動部隊に大型防弾盾で防御させ、特戦部隊と特命チームが攻撃に徹するやり方で倉庫に向かっていた2班と3班は立ち止まる。

「2班は工場へ、1班の援護をしろ。3班は倉庫前で待機。倉庫周辺で動きがあったら報告しろ」
 リーダーの『ゴリラその1』から指示が下り、2班が工場へ向かう。
 ジャン、セイヤ、リサがいる3班は、機動部隊による大盾防御体制を崩さずに、特戦部隊と共に倉庫の前に陣取った。

「あそこのトラックも要注意だな」
 セイヤは、倉庫脇にあるトラック3台にも注意するようジャンらに意見した。

 その言葉が終わらないうちに、突然、その中の1台のトラックの運転席に人影が現われた。今まで身を伏せていたのだろう。
 エンジンがかかり、トラックがこちらへ向かってきた。

 トラックに襲われたらひとたまりもない。大盾防御体制が崩れた。そこを狙われ、もう2台あるトラックの物陰から狙撃される。
 機動部隊と特戦部隊の隊員らが撃たれ、機動部隊隊員らの手から大型防弾盾が離れ、地面に倒れた。
 盾がなくなり、隊員らにさらなる銃弾が襲い掛かる。

 が、その時すでに前方から迫ってくるトラックに、銃を構えたジャンが立ちふさがる。

 セイヤは地面に倒れていた大型防弾盾を拾い、リサの前に立つ。
 トラック運転席にはジャンの放った銃弾が何発も浴びせられた。フロントガラスが飛び散り、運転席から人影が見えなくなった。トラックはそのままあさっての方向に走り、塀に激突する。

 運転手を撃った後、すぐにジャンもセイヤの持つ大型防弾盾の陰に隠れたが、その前に右腕を撃たれてしまった。

「あっちにも腕のいい狙撃手がいるようだな」
 しかめ面しながらも苦笑いをするジャンだったが、任務を続行できそうになかった。

 が、また2台目のトラックがこちらに向かってきた。
 大型防弾盾の陰から、今度はリサが運転手を狙う。

 楽勝――リサは一瞬、微笑む。と同時に銃弾が放たれた。

 運転席のフロントガラスに穴が開き、右肩をえぐられた運転手がイスにもたれかかる。
 2台目のトラックもそのまま塀に激突した。

 しかしその間にも、大盾防御が完全に崩れた3班の隊員らは、もう一台のトラックの陰に潜んでいた狙撃手に次々撃たれていく。
 防弾ベストに命を守られたものの、腕を撃たれたり、肋骨を折られたりして失神している者もいた。3班の戦力はあっと言う間に削られた。

 大型防弾盾を立てて低く身を伏せたセイヤは、ファン隊長と『ゴリラその1』に連絡を入れ、応援要請する。

 リサは大型防弾盾の影から、銃を構え、もう一台残ったトラックの物陰にいる狙撃手を伺っていた。狙撃手の影が移動する。倉庫の向こう側にある裏口に向かったようだ。

 ――リサは盾から身を出し、狙った。
 が、狙撃手も振り向き、リサに銃口を向けていた。

 リサはすぐに盾の影に身を伏せた。と同時に銃声がした。

「盾から出るな」
 セイヤが怒鳴る。

「……あの少女だ……」
 リサは銃を抱え込み腰を下ろしたまま、呆然とした様子でつぶやいた。そう――狙撃手は、おもちゃ売り場で子どもを無差別に銃撃し、特戦部隊の元同僚を手榴弾で殺した『あの少女』だった。
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