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旧作 作者:hayashi

シーズン3 第1章「憎しみの連鎖」

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暮れていく穏やかな時

前回は、晩御飯は「カレーにする」ということで、セイヤとリサが買い物に行くというお話でした。その頃、別の場所では・・・というところからが、今回のお話のスタートです。

なお前回、アップしたほうがよかったかも・・・というイラスト挿絵を今回アップしておきます。
ただ、ちょっと季節が違う(夏の服装)のは・・・この話のために描いたのではなく、以前、なんとなく描いてしまったイメージイラストだから、です。
挿絵(By みてみん)
 時を同じくして、トウア市立中央動物園と公園周辺ではデモが行われていた。
「シベリカ人を監視しろ」「シベリカ人の犯罪を厳しく取り締まれ」「移民を規制しろ」「治安部隊を強化し、外国人犯罪を取り締まれ」「自白剤使用賛成」「犯罪者の人権よりも、善良な一般市民を守れ」などと主張する『トウア愛国市民団体』だ。

 一部の識者からは「シベリカ人への差別だ。シベリカ人への憎悪を煽っている。こういった危険な市民団体のデモを許すべきではない」という声もあがっているが、『言論、表現の自由、デモや集会の自由』がトウア国憲法で定められているため、よっぽどのことがない限り、こういったデモを規制するのは難しかった。

『愛国市民団体』の輪は全国に広がり、デモの人数が増大し、ニュースでも彼らのことが取り上げられるようになった。アサト・サハー氏もこの愛国市民団体を名指しで批判し続けていた。この件に関してはルイ・アイーダと意見が一致していた。

 ただ「トウア人と一般シベリカ人のお互いの憎悪を煽ることこそ、シベリカの思う壺。愛国市民団体は、結局はシベリカのために動いているようなもの」とあくまでもシベリカへの警戒感を表すルイと、「こんな差別主義の団体はあってはならない」と善悪で論じるサハーとでは、やはりお互い相容れることはなかった。
 また、ルイは『工作員の疑いがある被疑者への自白剤使用』については賛成の立場でもあり、サハーと対立していた。


 ――茜色の空が彼方に消え行く頃――
 その日のニュースワイドショーでは、ルイ・アイーダとトウア国立大学で社会学を専門とするアンモン教授の対談が放送されていた。

 老紳士という風情のアンモン教授は、元シベリカ人でトウアに帰化しており、シベリカの国内問題について忌憚なく語る識者として最近注目を浴び、テレビにも頻繁に出演していた。ルイとは相性がいいようだ。

 そのルイは「一般のシベリカ人とトウア人は反目しあってはいけない。それこそアリア国の二の舞になる」「この状況が続けばますます治安は悪化し、経済も停滞し、海外からの投資も逃げる傾向にあり、国力が下がっていく。これこそがシベリカ国の狙いである」とトウア社会に警告していた。

 アンモン教授もシベリカ中央政府の拡大路線を批判しつつ、「一般シベリカ人の多くは、トウア人と仲良くし、このトウアの地で暮らし続けたいと願っている」と語っていた。

「今、トウアに住むシベリカ人の若者の間で、『シベリカ人街』の独立を訴えるグループがいます。最終的に、彼らはシベリカ国による併合を望んでいるようですが、ではシベリカ政府による統治を本当に望むのかと問いたいですね。シベリカ人であることに誇りを持つことはいいのです。ですが、今のシベリカ政府による統治がどのようなものなのか、知る必要があります」

 さらにアンモン教授の言葉は続く。

「我々の世代はシベリカがどういう国かを知ってます。ですが若者はトウア国で生まれ育ち、シベリカ国の実態をあまり知りません。シベリカ人であることに誇りを持ちたいがために、シベリカ国を理想化してしまう傾向があるようです。今、そんな若者を取り込み『反トウアグループ』を組織化している動きがあります。注意が必要です」

 そして、教授は頭を下げながら、このように締めくくった。

「シベリカ人全員が『反トウア』ではありません。ごく一部なのです。『愛国市民団体』の方々もそのへんを分かっていただけたらと思います。シベリカ人と仲良くしてくれたら嬉しいです。どうかお願いします」

   ・・・

 野菜たっぷり少々辛めのカレーとポテトサラダを頬張りながら、セイヤとリサはこのアンモン教授とルイが出演している番組を見ていた。

「一般の市民同士が敵視し合う、きな臭い世の中になっちゃったよね……」
「愛国市民団体っていう集団がニュースで取りざたされるようになったんだな」
「ちょっと昔は日陰者扱いの小さい集団だったのにね。今、存在感を増しているみたい」
「ただ、サハー氏みたいにこの愛国市民団体を批判するだけじゃ、ますます彼らは結束し、ヒートアップするよな。その点、アンモン教授は『大人』だよな。ああやって頭を下げてお願いされれば、愛国市民団体の連中も冷静になれるかもしれない」
「シベリカ人の『反トウアグループ』も何だか怖いね……」
「ルイの言うとおり、トウア人とシベリカ人がお互い嫌悪し合い、それを煽り立てることこそシベリカ工作員やシベリカ国の思う壺になるよな……」

 二人は思い思いを口にしながら、アンモン教授のような良識ある一般シベリカ人が、このトウアの剣呑とした空気を少しでも変えてくれることを祈った。
 テレビ画面の中で、ルイもアンモン教授の発言に深く頷いていた。

 開けた窓から涼しい風が流れ込み、カレーを食べて火照ってきたセイヤとリサを気持ち良く撫でていった。

 ……やっぱり、カレーが一番だ。ポテトサラダとよく合うし……
 リサのちょっと辛めのカレーを堪能し、満腹感を得たセイヤは大きく伸びをした。明日から仕事だ。いや、その前に食器を片づけて、皿洗いだ……

 夜の帳が落ち、穏やかな休日が暮れていった。
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