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旧作 作者:hayashi

シーズン3 第1章「憎しみの連鎖」

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機密作戦

 豊穣の海に囲まれたトウア国は5つの島からなる。
 島は『地区』と呼び、首都トウア市は中央地区、それを取り囲むように南地区、北地区、西地区、東地区が点在する。

 人口分布は、中央地区に約1200万人、東地区550万人、西地区は500万人、南地区450万、北地区に300万人――総人口約3500万人。
 ――ただ、人口減少による労働力不足を海外からの移民や出稼ぎ労働者で補っており、300万人弱の外国人がトウア国に在住している。その中でもシベリカ人は約240万人と抜きん出ていた。

 一方、シベリカ国は、トウア国の海の向こうにある大陸の5分の一を占める広大な国土を持つ大国であり、こちらは膨れ上がる人口増加に喘いでいた。貧しい地方出身のシベリカ人の多くは仕事を求め、トウア国など外国に出稼ぎに行き、異国の地で移民として定住していた。

 トウア国において、そんなシベリカ人たちが多く集まっている地域は、やはり首都のある中央地区であり、約90万人いる。ほか西地区に60万、南地区、東地区、北地区にそれぞれ30万人だ。
 こうした各地区にいるシベリカ人らはひとつの場所に集まり、コミュニティ『シベリカ人街』を形成していた。

 とは言っても、その『シベリカ人街』の中にも多くのトウア人も住んでいるし、『シベリカ人街』から離れたところに住んでいるシベリカ人も多く存在する。

 だが最近、シベリカ人に対し、一部トウア人による嫌がらせや暴行事件が増加し、トウア人とシベリカ人の間には憎悪が生まれ、日増しに膨れ上がっていた。おかげで、あちこちで事件が頻発し、治安部隊は大忙しだった。

 このトウア国内の治安を守る『治安部隊』はそれぞれの地区に置かれており、その管轄内で起きた事件に対処している。
 それら治安部隊をまとめているのが、中央地区トウア市にある治安局であり、その治安局のトップでもあるホッシュ・ルッカーは国の治安悪化に危機感を抱いていた。

 そんなルッカー治安局長は、セイヤ・シジョウから日々の任務の報告書と共に提出された『治安と国防に関するレポート』を読んでいた。
「あの若造が私と同じことを考えていたとはな……」
 局長室でそうひとりごちながら笑みを浮かべた。

 今現在、ルッカーは軍のトップらと親交を深めつつ、軍の最高指揮権を持つクジョウ首相を説得した上で、防衛庁長官と共に『ある作戦』を進めていた。作戦は超法規措置として国家機密扱いとなっている。

 当初、この作戦を進めるに当たってクジョウ首相は慎重だった。万が一、この作戦が世間に漏れたら、世間の激しい批判に晒され、現政権は倒れるのでは、と及び腰だった。
 そんなクジョウ首相にルッカーは「もし漏れたとしても、多くの国民は納得し、我々がやったことを評価するはずです。必ずそのように持っていきます」と説得し、ようやく作戦を実行に移すこととなった。

「そういえば……クジョウ首相もセイヤ・シジョウもジハーナ人の子孫か」
 ルッカーは、セイヤ・シジョウのレポートを机に置いた。

 ジハーナ人といっても、今現在『ジハーナ』という国はない。トウアに住むジハーナ人は全員、トウア国に帰化しており、トウア国民として暮らしている。よって公務員にもなれるし、政治家にも、そして首相にもなれる。

 かつてジハーナ国は、軍を持たず不戦の誓いを立てた究極の平和国家と謳われていた。だが、絶対平和を求めるあまりに、軍を持つことをも否定した高すぎる理想は、国家主権をおざなりにすることとなってしまい、結局、領土のほとんどを大国シベリカに併合され、ジハーナ国は理想と共に消滅した。

 それでも今もなお、ジハーナ的考えは平和主義者から熱烈な支持を得ており、ジハーナ人は尊敬されていた。
 トウア国現首相ワギ・クジョウは、45歳という若さと品の良さそうな外見も人気の理由のひとつだろうが、出自がジハーナ人ということで平和主義者からもてはやされ、トウア世論調査でも高い支持率を誇っていた。

 当初、ルッカーは「ジハーナという平和ボケ民族の子孫がわが国のトップか。困ったものだな」と苦々しく見ていたが、意外にもクジョウ首相は現実主義者であり、国防について真剣に考える首相だった。自分の国が理想と共に消滅したからこそだろう。

 クジョウ首相はルッカーの言葉にも真剣に耳を傾けてくれた。しかし『究極の平和民族ジハーナの子孫』という看板も大事にしたい首相は、『平和』から逸脱するような行為には慎重であった。それが超法規的措置となれば、なおさらだった。

 民主主義のトウア国において、政治家は国民の選挙で選ばれる。そのトウア国民は平和と人権を大切に思っている。よって、そういった民意を無視できないという首相の気持ちは分かるが、何の手を打たず、国が滅んでしまっては元もこうもない。それに今、多くのトウア国民が危機意識に目覚めている。

 ルッカーの顔から笑みが消えた。
 ……あと、もう一押しだ……「殺されても殺すな」「やられても、やり返すな」「富は皆に分け与え、平等にせよ」「富を差し出し、戦いを回避せよ」は理想であるが、本当にそれを貫ける『聖人』は果たしてトウア国民の中に何人いるだろうか。誰もが自分の身はかわいい。
 実際、トウア世論は理想論から脱しつつある……そして『聖人的な生き方』を強制することも『人権侵害』になるのだ。

「……冷徹な超現実主義者なら務まるだろう……セイヤ・シジョウ……私の片腕となってもらうか」

 例の作戦を進めるために、ルッカー治安局長はセイヤを呼んだ。
 この作戦は、セイヤと同じチームのジャンとリサにも知らせてはいけない機密事項でもあった。
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