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旧作 作者:hayashi

シーズン2 エピローグ

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共鳴―サギー

 ルイが一般シベリカ少年に刺された事件……もちろん、この私もほんの少し関与していたわ。
 でも、私には公安が張り付いていた。なので一番目をかけていた工作員に任せることにしたの。

 そう、『彼女』は若いけれど、優秀な特Aクラスの工作員。
 あのトウア中央駅爆破事件で爆破物を仕掛けたのも『彼女』よ。まさか年端もいかない少女が爆弾を仕掛けたとは誰も想像しないでしょ。またマハートの件では、暗殺をしくじった5人を始末した。

 そんな『彼女』は仲間と共に、例の少年を上手く操り、ルイを襲わせることに成功した。
 ただ、ルイを刺したのは素人……命までは奪えなかった。それが残念でならない。
 できればルイは始末しておきたかった。だから私の中ではこの工作は失敗なの……

 けれど『彼女』を実行犯にするわけにはいかなかった。警察捜査隊に捕まったり、公安に目をつけられるようなリスクは犯したくない。
『彼女』はとっておきの存在……もっと大きな仕事に使うべきと私は判断した。

 トウア社会の『反シベリカ』の空気はもう変えられない。ならば逆にそれを利用することにし、私たちはトウア人とシベリカ人を反目させる工作に舵を切っている。

 それにしても――
 地下鉄中央駅爆破事件では子どもを含めた11人が死亡したとのことだけど……世間は子どもが亡くなったことについて、特にショックだったようね。
 もちろん『自分の子どもの死』を悲しむのなら分かる。けど『赤の他人である子どもの死』になぜあれほど大騒ぎするのか分からない。『子どもの死』がそんなに気になるのかしら?

 医療施設が整えられてない私の故郷では、子どもの死など当たり前。たくさんの子どもの死を目にする。
 子どもだけではない。炭鉱では、百人単位の死者が出ることがある。

 死と隣り合わせとまでは言わないけれど、シベリカでは『人の死』はそこいらにころがっている。
 それでもシベリカは人口が膨れ上がり、人口増加に歯止めがかからない。

 ――人間という種はたくましい。どんなに死んでも、それをはるかに上回る数の人間が生き残り、増えていくのだから――

 もちろん、自分にとって大切な人の死は身が引き裂かれるほど悲しい。
 私も『あの人』が死んだと知った時は本当に辛かった。

 シベリカの貧しい地方では『人の死』を目にするのは日常的だけど……自分には関係のない人々の死に不感だからこそ、大切な人の死だけは悼み、その人を忘れないようにしている。

 その大切な人が誰かによって殺された場合、どのような犠牲を払ってでも必ず報復をする。大陸系の人間はそういう人種なの。敵になめられたら終わりだから。

 私にとっては、報復すべき相手はトウア国だった。
 トウア国をつぶすためなら何でもする。

 ええ、トウア人個人を恨むのはお門違いだということは分かっているわ。
 でも、たいした努力もしてないくせに裕福な社会の中でヌクヌク暮らしながら善人ぶっている様を見せ付けられると何だか虫唾が走る。

 そう、『あの人』は身を粉にしてがんばり続け、劣悪な環境の中で低賃金で働き、病気になり……トウア社会に散々利用された挙句、見捨てられたの。
『あの人』は裕福なトウア社会にいながら、治療を受けられず死んだ。誰も助けてくれなかった。
 なのにトウア人は、自分たちは人権意識に篤い成熟された上等な人間だと思い込んでいる。だからこそ、私は許せない。

 そんなトウアでは今、シベリカ人への嫌がらせや差別が横行している。トウア人の化けの皮がはがれてきた。
 同じ海洋民族と言えど、トウア人はジハーナ人ほど『善』ではなかったってことね。……『お人よし』でもなかった、とも言えるけど。

 いえ、ジハーナ人は、怒りや憎しみを感じる間もなく自滅してくれたから、トウア人のように化けの皮が剥がれなかっただけのことかもしれない。

 昨日も、貧民街に住むトウア人の若者が徒党を組んで、憂さを晴らすためかシベリカ人を見つけては恐喝し、暴行をしていたというニュースが話題になっていた。
 まるでシベリカ人を攻撃する権利があるかのように、トウアの一部の若者が暴走している。

 数日前には、その手の若者らがシベリカ人街に殴り込みをかけてきて、若者同士の派手なケンカがあり、シベリカ人、トウア人、双方共に負傷者が出た。 

 トウア人は、『不戦を貫いたジハーナ人』よりは好戦的な人が多いようね。ジハーナ人ほど『平和主義者』でも『善人』でもなかったってことかしら(笑)
 その証拠にトウアは軍隊を持っている。ジハーナは持たなかったのに。

 それでも……今まで私たちがトウア社会に施した絶対平和教育や世論操作は無駄にはならなかったはず。トウア軍や治安部隊の予算を削らせたことには寄与したと思っているわ。

 もちろん本当は、軍と治安部隊をもっと弱体化させたかったけど、そこは予定が狂ってしまった。それだけは悔やまれる。私の負けよ。

 ただ、トウアがこれから、軍や治安部隊を強化しようと予算を増額し、人員を増やし、装備を整え、その増やした人員を訓練し教育し使えるようになるまで、どんなに急いでも3年以上はかかるはず。

 ――この空白の時間に、勝負をかけたい――

 今では、多くの一般シベリカ人たちもトウア人を嫌悪し始めた。これからトウアの各都市にいるシベリカ人たちをまとめていかなくては。
 すでにこの地区では、一般シベリカ人の少年にルイを襲うように仕向けた仲間たちが、シベリカ人の若者を中心に『反トウアグループ』を構成している。

 シベリカ人とトウア人は同じ人種。混血も多いけど、根は同じ人種なの。
 シベリカとトウアは昔はひとつだったかもしれない。シベリカ人もトウア人も祖先は同じ……この考えが徐々にシベリカ人の間に広がりつつある。
 そう、つまり――トウアは、もともとシベリカのもの。
 今もシベリカのほうが大国なのだから、トウアこそシベリカに吸収されるべき。トウア人が大きな顔をしているけど、本来、大きな顔ができるのはシベリカ人のほうであり、トウア人はシベリカ人に従うべきなのよ。

 シベリカ人が集まっている『シベリカ人街』だけでも、トウアから独立すべき。ここにいるシベリカ人がトウア人に権利を制限され、差別されるいわれはない。

 ――シベリカ人よ、立ち上がれ。共に戦おう――

 今、トウア各地に住む一般シベリカ人たちを鼓舞し、一致団結させる工作が密かに行われている。
 トウアの公安は人員不足で、たくさんいるシベリカ人の監視は難しい。特に地方地区にいるシベリカ人たちへの監視体制はまだ整っていないはず。

 シベリカ人による戦いの準備が着々と進んでいるわ。私が指揮をしなくても、下の者が私の意を汲み、動いてくれている。
 セイヤとルイは、どこまで私たちの作戦を読めるかしら(笑)

 ああ、そうそう、ルイと言えば……最近、面白い事件が起きたわ。
 ルイはすっかり時の人となり、今では『ルイ・アイーダ様ファンクラブ』みたいなのができたようで……ルイ・アイーダを批判する者は、その連中から嫌がらせを受けるようになった。
 中には過激なファンもいて、「ルイをいじめるな」と、あのアサト・サハー氏も『ルイ・アイーダ親衛隊』から暴行を受けたわ。
 トウア社会はどんどん暴力化している(笑)

 そのルイ・アイーダはさらに調子にのっていて、アリア国でのシベリカ人によるアリア人差別について言及し始めた。
 でもアリア国は敗戦しシベリカ国の属国となったのだから、シベリカ人がアリア国で大きな顔をするのは当然のことよ。シベリカへの賠償もまだ済んでいない。敗戦したアリア人はシベリカ人に従い、戦犯国家の市民として反省し続けるべきで、差別されてもモンクは言えないはず。奴隷にならなかっただけ、ありがたいと思ってほしいわ。
 それを人権侵害だとルイ・アイーダは声高に叫んでいる。

 ルイ・アイーダの太鼓持ちのようなライターも気に食わないわね。アントン・ダラーと言ったかしら。
 たしか彼は、セイヤの子どもの頃に起こした暴行事件を記事にしたライターだったはず。どちらかというとセイヤたちを嫌い、あの連中とは一線を引いていると思っていたけど、今ではちゃっかり組んでいるようね。

 シベリカ工作員が彼に近づいて様子を探ってみたらしいけど、彼はルイを裏切る気はないようで、本当にルイ・アイーダたちの仲間になってしまったみたい……残念だわ。

 ちなみに特戦部隊のヒロインだったリサは、世間に完全に忘れ去られたようね。いえ、リサたちは今はもう特戦部隊ではなく、新設されたチームに配属されたようで、ファン隊長とは違う部署になったのだっけ……

 そのファン隊長は私から離れて行った。おそらくルイが、私とファン隊長のことを嗅ぎ付け、セイヤとリサに教えたのね……
 ま、いいわ、ファン隊長は今まで充分利用できた。どっちみち用済みよ。

 とにかく……シベリカ国もそれなりの犠牲を払って、アリア国と戦争をしたのだから、アリア国の富を手放すはずがない。
 ルイ・アイーダがどんなに国際世論に訴えても無駄よ。

 そんなルイ・アイーダと敵対しているアサト・サハー氏……笑っちゃうわね。
 サハー氏は、今はシベリカ系企業の支援を受けているけど、もともと「トウアの富は貧しい人たちにも平等に分けるべき」という考えの持ち主で、貧しいシベリカ人を弱者だと思っているので、シベリカ人に好意的だった。
 だからシベリカが彼に近づき、支援するようになった。そういう経緯がある。

 一部の市民団体やサハー氏のような考えを持つ『偏ったお人よし』も、わりとトウア人の中にいるようね。
 なぜか彼らは、シベリカ人を絶対弱者、トウア人を絶対強者に見立て、トウア人は弱者に施すべき、トウア人は弱者に譲るべき、と考えている。

 偏った善人って怖いわね。自分達は上等な人間であり、弱者を救う正義の強者と勘違いしている。不遜ね。
 そして、彼らのような連中のほうが、実はシベリカを下に見ている。シベリカがトウアを飲み込むなど想像すらしていない。自分たちのほうがシベリカより上だと思い込んでいる。
 そう、ルイではなく、サハー氏のほうが立派な差別主義者よ。そんなことにも気づかないトウア人も意外と多い。

 これからシベリカ人によって、多少トウア人が犠牲になろうとも、サハー氏はシベリカ系企業から支援を受けている手前、シベリカを擁護する立場を崩せない。彼はこれからもシベリカの味方であり続ける……結局、彼も自分が一番かわいいのよ。何とか自分を正当化し、シベリカの支援を受け続けるでしょうね。
 上手く善人を演じつつ、世論を味方につけられるかどうか、これが彼の課題ね。

 いえ、彼自身は『善人を演じている自覚』はないかもしれないわね。本当に自分は『善なる存在』だと思っている。だからこそタチが悪い(笑)
 正義を装いながら、実は自分の利益を優先してしまう……人間は皆、そんなもんよ。本当の正義など存在しない。
 そして人間は、自分が優位に立ちたがり、他者を差別したがる生き物なの。それが現実。

 もしかしたら、ルイやセイヤはそれが分かっているかもしれない。
 そして、リサも分かってきたようね。ルイが襲われ、血に染まった手を私に向けた時、彼女、いい眼をしていたわ。

 私はアサト・サハー氏のような連中は嫌いだけど、ルイやセイヤやリサのことは嫌いではないのよ。
 彼らには何か共鳴する部分を感じるの。

 ……ルイ、セイヤ、リサ……彼らは敵だけど、もし立場が違えば……共感し合える仲間になれたかもしれない。

 ああ、これから、おもしろくなってくるわね。
 ルイの拉致監禁に関わったあの船舶会社は結局つぶれたけれど、その前に大いに仕事をしてくれたわ。シベリカから相当数の機関銃や小銃、手榴弾などの武器、弾薬を運んでくれた。
 そう、トウアからの独立へ向けて、シベリカ人を蜂起させるの。そして、そのバックにはシベリカ軍がつく。その時、トウア国はどう動くかしら。

 今現在、トウアの人口は約3500万人。そのうち外国人は約300万人弱。その中でもシベリカ人は約240万人。
 このシベリカ人240万人の1割でもトウアからの独立運動に蜂起して、内乱状態に持ち込めれば、トウアは治安悪化どころか、めちゃくちゃになる。

 内紛に乗じて、私たち工作員はトウア政府の機能を無効化させる。
 国家機能を失ったトウアは内紛を収拾することができない。

 そんな中、トウアに住む一般シベリカ人が内紛による被害に遭い、シベリカ本国からは『自国民を守る』という名目を掲げてシベリカ軍がトウア国に侵攻する。
 トウア軍はどこまで持ちこたえられるかしら。

 トウア国はシベリカ国の支配下に置かれ、国家として消滅する……その姿を見てみたい。
 その時、憎しみで黒く塗りつぶされた私の心は真っ白になるだろう。
 ……さあ、ここからが本当の戦いよ。
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