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旧作 作者:hayashi

シーズン1 第1章「学生時代」

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サギーVSリサとセイヤ

 挿絵(By みてみん)

 それからまもなく――リサの想像通り、サギー先生とは『進路を考える授業』の時に衝突した。

 サギーは何人かの生徒に希望する進路を訊いてまわり、リサの「治安部隊を希望する」という話にも一応の理解を示した。
「お兄さまの遺志を継ぎたい……よく分かりますよ。がんばってください」

 何かと反抗的なリサについては適当に流しておこう、というのが本当のところだろう。しかしセイヤも治安部隊希望だと知ると、サギーは異を唱えた。
「セイヤ、あなたには合わない気がします。あなたは機械いじりが好きでしたね。手先も器用だというし、技術系のお仕事が合うと思いますよ。なのに、なぜ治安部隊なのですか?」

「公務員になりたいからです。ほかの公務職は競争率高いけど、治安部隊ならよほどのことがない限り入れます。それとも軍隊にしようかな。あそこも競争率低いから」
 セイヤは皮肉を込めて、さらにこう続けた。
「全国の先生方の教育のおかげか、競争率が高い公務職のうち、治安部隊と軍だけは競争率が低いですよね。公務職ならどこでもいいオレにはありがたいです」

 すると、サギーは血相を変えた。
「何を言うのですか。あなたは『不戦の民の誇り』を持っていないのですか?」

「オレは消滅したジハーナ国の民ではなく、生まれた時からトウア国民です」

「トウアも平和主義国家ですよ。軍備は年々縮小され、軍人なんて将来性のない職です」
 そう言うとサギーは演説するかのように、手振り身振りでさらに熱く語り始めた。
「ええ、軍隊などないほうがいいのです。軍の力が強かったから、軍にそそのかされたルイのお祖父さまは間違った判断をされ、戦犯になったのです。そして軍人だったというお父さまも戦死したのです。諸悪の根源は軍なのです」

 サギー先生の話はルイの祖父や戦死した父親のことにまで及んだ。ルイは無言のまま下を向く。

 しかし、これにはリサが黙ってなかった。クラスの皆の前でこんなことを言われ、ルイが傷つかないはずがない。サギーの鈍感さに腹が立った。

「他国から国を守る軍も、治安部隊と同じくらい重要な仕事だと思います」
 リサは席から立ち、訴えるように発言した。

 それを聞いたサギーは、リサをにらみつける。
「あなたは戦争をしたいのですか」

「飛躍しすぎです」
 リサは剣呑な空気をまとわせ、サギーに論戦を挑む。ルイの祖父や父をチクチクと否定し、ルイを傷つけるサギー先生が許せなかった。

「他国が理不尽なことを要求し、攻めてきたら戦うしかないでしょ」
「話し合いで解決するのです。軍は必要ありません」
「キレイ事です」
「セイヤの祖、ジハーナを見なさい。軍を持たなかったがため国がなくなったのだとしても、彼らは新しい国で普通に生活を営んでます」
 サギーは『不戦のジハーナ』を持ち出す。

「あの、ちょっといいですか」
 セイヤが割り込む。
「シべリカに吸収されたジハーナ人は差別されているって話ですよ。それにシベリカの法の下で兵役につかされているし、結局、不戦を貫いた意味がないですよね」

「いえ、戦争をしなかったのですから、それだけでも意味はあります」
 サギーは声を張り上げた。セイヤに痛いところを突かれたようだ。

「先生は民族差別や弾圧を認めるんですか? 戦争よりはマシだから我慢しろと?」
「いえ、もし民族差別が行われているとしたら遺憾なことです。世界から差別がなくなることを祈りましょう。それにはトウア国が世界に先立ち、お手本を示さねばなりません」

 そこで今度はリサが入り、皮肉を吐いた。
「先生のおめでたい考えが世界に通用するといいですけど」
 そう、兄さんも「この頃のトウア社会は理想に偏り、現実を見ようとしない」と言っていたっけ――リサは、サギー先生と同じようなことを言うトウア世論に危惧を抱いていた兄を思い出す。

 しかし、そんなリサの態度が癇に障ったのか、サギーはリサの席へツカツカやってきて――
「平和をバカにする態度は許しません」
 と平手打ちした。その音は妙に響き、教室内はシーンとなる。

 リサも頬に手をやりながら黙り込んでしまった。その手の隙間からリサの頬が赤く染まっているのが見てとれた。けっこう強く叩かれたようだ。

 そこへセイヤのいつになく低い声がした。
「平和主義者が暴力で相手を黙らせるんですか。先生の言動は矛盾してますよ」

 ハッとしたサギーはすぐさま「ごめんなさい」と謝罪し、頭を下げた。しかし「戦争は殺人を良しとする究極の悪であり、軍は悪を行う手先だ」と持論を曲げることはなかった。

「では、話を先に進めましょう。他の人の……」
 サギーは話題を変えようとした。

 だが、セイヤは食い下がる。
「治安部隊も時には犯罪者を殺すこともあり得ますが、それも悪ですか?」

 サギーは諭すようにこう応えた。
「犯罪者であれ、殺せば一生重い罪を背負います。人殺しをし、血に染まった手でご飯を食べることができますか?」
 こう問えば、たいていの人は黙る。しかしセイヤは続けた。
「それでは隊員は正当防衛が許されず、犯罪者に殺されても仕方ないと言うのですね」
「凶悪な犯罪者を出さない社会にすることが大事なのです」

「ある程度自由が担保された社会であれば、凶悪犯罪を行う者は必ず現れます。決してゼロにはできません。それが現実です。その凶悪犯に対し、正当防衛として殺人を犯すことは許されますか?」
 セイヤは同じ質問を繰り返していた。

「いかなる理由があろうと殺人を行った者は幸せになる資格はありません。それだけの罪を背負うのです」
 サギーの言っていることは一見正しいようで、しかし質問には答えていなかった。

「任務の上で殺人を行った軍人や兵士、治安部隊の隊員は幸福を追求する権利がないと? でも、先生のその考えこそ人権侵害になるのでは?」
「時間がありません。この議論は一旦終わりにしましょう。進路の話に戻します」
 サギーは話を打ち切ろうとした。

 だがセイヤはサギーを逃がさない。
「先生、答えてください。人の希望する進路を散々批判しておきながら、都合が悪くなったら逃げるなんて卑怯ですよ」

 ――そこで授業終了のチャイムが鳴った。
 サギーは誰にも視線を合わせることなく、早々に教室を去る。その顔は能面のように何の感情も表れていなかった。

 教室内はどよめいていた。セイヤがサギー先生を攻めて打ち負かした、と。

 ルイも驚いていた。皮肉をつぶやくことはあっても言い合いを避け、無駄な戦いをしないセイヤが、先生に対して明確な反抗的態度をとり、しつこく攻め立てた。

 かつて一度だけ――サギーがここに赴任する前のことになるが――セイヤは派手なケンカをし、その時も反抗的態度をとったことがあった。しかし、それ以降、基本的にはおとなしく従順な良い子を装っていた。

 そこでハッとしたルイはリサを見やる。リサのほうはサギーに殴られた頬に手を当てながらセイヤを見つめていた。

 ルイは視線を再びセイヤに戻す。
 ――セイヤったら、リサを殴ったサギー先生が許せなかった?
 ――そもそもセイヤの「治安部隊に入りたい」という希望も意外すぎる。もしやリサが入ると言うから希望した? 
 ――セイヤはリサのことを……。

 ならば友人として二人の恋の応援をしよう――という気になれない自分に、ルイは愕然とした。
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