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旧作 作者:hayashi

シーズン2 第3章「拉致」

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セイヤの読み(続き)

前回のお話。
ルイが拉致されたが、それはわざと敵の罠にはまったのだった。
セイヤは「シベリカは、ルイを『殺された被害者』にするよりも『犯罪を行った加害者』にさせるほうを選ぶ」と判断していた。
 セイヤの読みは説得力があり、ジャンもこの点については納得したようだった。
「このルイ・アイーダ拉致事件もシベリカ絡みだとお前は思っているんだな」
「はい」
 セイヤは自信を持って頷く。

 が、それでもジャンはこの作戦にはまだ疑問を持っていた。
「雇った見張りが拉致を見逃したり、仕事を放棄する可能性は考えなかったのか? 危ない賭けだとも言えるぞ」

 このことについてはリサが答えた。
「ルイから定期的に、家を出てから帰宅するまでの間、今現在の場所とこれからの予定を知らせるメールが1時間毎にこちらに送られてくる手筈になってました。拉致されるとすればセキュリティが厳重に施されたルイの自宅ではなく、出先である可能性が高かったからです。
 そして前にメールが送られてから1時間以上経過した今も連絡がきません。ルイに何か起きた証拠です。
 連絡がない場合、何かが起きたと思ってくれ、とルイからも言われてましたし、そもそもルイの発信機が、予め聞いていた予定とは違う場所に向かってましたから、その時点で私たちはルイが拉致され、どこかに連れ去られようとしていると判断できます」

 これに補足するかのようにセイヤが続ける。
「それに雇った見張りは1人だけじゃありません。全く接点のない別々なところから2人雇いました。
 この見張り2人にも、遠くからルイを追えるように受信機を持たせてます。なので2人とも拉致を見逃したり、仕事を放棄する可能性は低いと考えました。
 万一そうなったとしても、オレらもルイの発信機を頼りに追えますし……
 正式に治安部隊を動かせなかった時は、ファン隊長に取り計らってもらい、オレら単独ですぐに救出に動くつもりでした。
 敵を泳がせての組織的犯罪を立証するのが難しくなりますが、ルイを救うのが最優先ですから、この場合は仕方ありません」

「手は打ってあったというわけか……」
 ジャンはようやく納得がいったのか深く頷き、改めてセイヤとリサを交互に見やり、さらにため息まじりにこう言ってきた。
「それにしても、あのルイ・アイーダとお前らがお友だちだったとはな」

 セイヤとリサは顔を見合わせて、ちょっと頬を緩めた後、この作戦に至るまでの過程をリサが説明した。
「ルイはとても警戒してました。マハート氏の件を治安局に通報した自分はシベリカ工作員らに厄介な存在だと思われ、本格的に狙われるかもしれないと私たちに相談してきたんです」

 当初、この『敵の罠にわざとはまる作戦』にリサもセイヤも反対したが、ルイは聞く耳を持たなかった。「このまま何もしなかったら、ずっとシベリカ工作員の影に怯えながら暮らすことになる」というルイの気持ちも理解できた。
 そこでセイヤが綿密に作戦を立て、備えたのだ。

「マハート暗殺計画の情報を治安局に持ち込んだのも、ルイ・アイーダってわけか。でも情報者のことは機密扱いになるはずだけどな。情報が漏れると思っていたのか」
 ジャンは誰に言うでもなく、つぶやいた。

「ファン隊長からサギーにね。だって、セイヤと私の情報も、ファン隊長からサギーに漏れていた可能性が高いっていうし……あ、『サギー』は、私たちの元担任かつファン隊長の愛人の名前です」
 リサが苦笑まじりに応える。

「……そのサギーっていう愛人が、シベリカとつながっているのか?」
「ええ、その疑いがあると、ルイは言ってました」
 リサも、ルイから『サギーがシベリカ工作員である可能性が高い』という話を聞いた時は驚いた。

 シベリカ人とトウア人は人種的には同じであり、混血もわりといるので、外見からの見分けはつきにくい。
 シベリカ国は多民族国家であり、シベリカ族が多数を占めるものの、その他の民族もけっこういる。トウア国もあちこちの外国から大量の移民を受け入れているために混血が意外と多い。
 そしてサギーはトウアに帰化した時、おそらく名前を変えたのだろう……シベリカ風の名前ではないし、もちろんトウア語が母国語のように堪能であり、一見してシベリカ人とは分からない。

「ちなみにファン隊長は、サギーがシベリカ工作員とは知らずにつきあっていたようですね」
 セイヤが付け足した。

「なら、どうしてファン隊長に、そのサギーっていう愛人はシベリカ工作員の可能性が高いことを話さなかった?」
 ジャンは少し怪訝な顔をして眉を上げた。

「サギーがシベリカ工作員であることは、あくまで憶測です。確固たる証拠はありません。
 ま、こちらがつかんでいる情報を全て明かす必要もないでしょ。今回は『隊長が不倫をしていた』というだけで充分な取引材料になりえました。
 それに隊長を追いつめるのは得策じゃありません。もしシベリカ工作員を疑われる女のハニートラップにひっかかってしまったことが明るみになれば、今後の出世は望めないということで、隊長が自棄を起こす可能性もあります。
 最悪、オレたちが『ルイ救出作戦』を行っていることをサギーに知らせてしまい、オレたちを始末するように動くかもしれません」
 セイヤはあらゆる想定をし、リスクを減らすようにしていた。

 けど、さすがにジャンはそのセイヤの考えについていけないようだった。
「隊長って、そこまで悪かなあ。オレは、仲間や上司をそういう風に思いたくないけどな」

「警戒するに越したことはありません」
 何の感情も込めずセイヤはきっぱり応えた。

「ほら、セイヤの『慎重さ』は筋金入りですから」
 リサがジャンに耳打ちしながらフォローする。

 ルイは連れ去られた後、最終的には第2トウア港へ向かっているようだった。セイヤは、ルイの発信機がしばらくの間、港を示していた時点で、船に乗せられることは確実だと思い、ファン隊長を介し、海上保安隊を動かしてもらった。

 そして、ルイの発信機が第2トウア港を示した後、雇った見張り2人を別々に港へ向かわせ、工作員らに感づかれないように遠くからそれぞれ監視を続けてもらっている。
 その見張りから、第2トウア港では倉庫から貨物類やコンテナが運び出された以外、特に動きがなかったと連絡が入ってきた時点で――ルイは車に乗せられたまま倉庫の中に連れ込まれ――倉庫内で貨物として箱の類に閉じ込められ、そのまま運び出されて船に乗せられたと推測できた。

 今現在、警察捜査隊に第2トウア港の倉庫を捜索させているが、ルイはいないとのことだった。

 セイヤがそう説明すると、ジャンは口笛を吹き、脱帽するように感嘆のため息をつく。
「……抜かりなく対処しているんだな」

 そして今――海上保安隊の船は『ルイがいると思われる高速船』を目視で捉えられるほど接近していた。

「ルイは、あの高速船の中にいるはずです。もちろん、船に乗る予定なんてルイから聞いてません。拉致された後、あの船の貨物室に閉じ込められている可能性が高いです」
「あの船はシベリカ行きか……とはいっても、次の船着場は元ジハーナ国領土だけどな。セイヤの推察通り、犯人はルイをシベリカへ連れて行くつもりだったようだな」

 シベリカは、海洋国家だったジハーナ国の領土の大半を手に入れてから海洋進出するようになり、海洋関連事業にも力を入れていた。
 船は、元ジハーナ領だったシベリカ国とトウア国とを頻繁に行き来するようになっていた。

 そのシベリカ行きの高速船に対し、ジャンらと行動を共にしている海上保安隊は停船命令を出した。いかに高速船と言えど、2基の高速ディーゼルエンジンとウォータージェット推進装置が搭載され、かつ攻撃能力がある海上保安隊の巡視艇が相手では、命令に従うしかなかった。
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