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旧作 作者:hayashi

シーズン2 第2章「暗殺」

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任務(続き)

これまでのお話。
ジャン、セイヤ、リサの3人は、シベリカ国の地方議員マハート氏の暗殺を食い止めるべく、任務につく。マハート氏の隣部屋で仮眠をとっていた時、ホテル内で爆破が起き、3人は飛び起きた。
 3人は部屋のドアをうすく開け、外をうかがった。
 そこへ、今まで4階フロアーを警備していたマハート護衛の一人がやってきた。

「上の階で爆発が起きたようです」
「この4階フロアはあんたがずっと見回っていたから、爆破物は仕掛けられていないはずだよな?」
「はい」
 護衛は深く頷いた。

「エレベータは使えないから、西か東の非常階段を使って避難になるな。非常階段に爆破物が仕掛けられている可能性はあると思うか?」
 ジャンはセイヤを見やった。

「マハート氏を仕留めるのに爆弾での殺害は不確実だし、犯人はほかの客にまぎれて逃走したいだろうから、客の避難経路を塞ぐようなことはしない――つまり非常階段には仕掛けてないと思います」
 セイヤはきっぱり言い切った。

 こういう時のセイヤの判断力をジャンは買っていた。
「よし、狙撃させないよう、皆でマハート氏を囲みながら避難だ。西と東、どっちにする?」
 ジャンとセイヤとリサは部屋から出て、マハート護衛と相談した。

 その時、西側非常階段口からホテルの警備員がやってきた。
「詳細はまだ不明ですが、上の階で爆破物が仕掛けられ爆発したようです。すぐに避難してください」

 ほかにも4人、ホテル警備員がやってきた。彼らはマハート氏の部屋をノックしていたが、反応がないので、マスターキーでドアを開けていた。しかし中からチェーンがかけられていたため、警備員たちはドアの隙間から「すぐに部屋から出て避難するように」と声をかけていた。

 ジャンの目の前にいる警備員もお願いするように言った。
「これからマハート氏をお連れし、避難してください」

 だがジャンは拒否した。
「いや、まだ様子見だ。護衛、マハート氏をまだ出すな。おい、そっちの警備員4人、マハート氏を部屋から出そうとしても無駄だぞ。こちらの指示がない限り、部屋から出ることは絶対にない」

 その時、また、どこかで爆発音がした。悲鳴も大きくなった。多くの客らが逃げ惑っているのだろう足音も響いてくる。

「ところで警備員、今まで何していた? ほかの階のフロアを警備してなかったのか?」
 ジャンが苦虫をつぶしたような顔になった。

「申し訳ありません」
 マハート氏の部屋の前にいた4人の警備員も、マハート氏の部屋からは何の反応もないので、こちらにやってきた。

「それにしても……警備員が5人もここに集まってくるなんてな……ほかの客の避難誘導をしなくていいのか?」
 ジャンは苦笑いをしていた。

「そんなことより早く、マハート氏を連れて避難してください」
 警備員らは急かした。

「なるほど警備員に成りすまし、こちらを油断させ、マハート氏が外に出てきたら殺すか?」
 ジャンはそう言いながら、銃を警備員に向けた。

「何をするんです」
 警備員らは慌てた。

 同じくセイヤもリサも銃を構えた。それを見たマハートの護衛も拳銃を取り出した。
 ちなみにトウア国では銃の携帯は一般人には許されていないが、公人の警護ということでマハート氏の護衛には銃携帯特別許可が下りていた。

「お前誰だ? 警備員の制服は着ているようだがな」
 ジャンは眉を片方だけ上げ、不敵の笑みを浮かべた。

 リサは警備員らに銃口を向けながら、あのホテル支配人室でのことを思い起こす。

 ――あの時――

 ジャンがホテル支配人との話を終えようとした時、セイヤが待ったをかけ、支配人にこう要望した。  
「警備員全員の顔写真を見せてください。我々が知らないうちに密かに警備員が襲われ、暗殺者と入れ替わる可能性もあります」

「かしこまりました」
 支配人はすぐに動いてくれた。

「……セイヤって、そういうところによく気が回るよな。つうか、相変わらず細かくて慎重だよな。石橋を叩いて叩いて叩きまくって、ようやく渡るタイプだな」
 半分呆れ顔のジャンは苦笑しながら、セイヤへ顔を向けた。

「あらゆる想定をして備えるのが、セイヤの性分ですから」
 リサも苦笑しつつ、フォローした。

「そういえば、立てこもり事件の時も、リサに発信機を仕掛けた上、さらにもう一組、発信機と受信機の予備まで用意していたくらいだからな」
 そう言うとジャンはリサにこう耳打ちした。
「お前、セイヤみたいな男と一緒に生活していて、よく疲れないな」

「いえ、疲れますよ。慣れましたけど。って、前にも同じこと言いましたよね」
 そう、日常生活において、セイヤはややもすれば疲れる男だけど、こういう事件の時にはセイヤの慎重すぎる性分が危険を回避してくれる、とリサは頼もしく思っていた。


 そして今――
 目の前にいる警備員5人は、ホテル側が提示した全警備員の顔写真と一致している者がいなかった。

 もし仮に警備員の変更があれば、こちらに連絡がくることになっていた。だが、今までそのような連絡はない。しかも5人も変更があれば、必ず連絡があったはずだ。つまり警備員の変更はなかったということだ。
 5人とも暗殺者と入れ替わっている――ジャンもセイヤもリサもそう確信した。

「困りましたね……避難しないと危ないですよ」
 そう言いながら、警備員はいきなりジャンの懐に入ろうとした。

 が、その時にはジャンの躊躇なく放った銃弾が警備員の足を貫いていた。
 警備員はうめき、その場に倒れる。

 ほかの4人の警備員も隠し持っていた銃を取り出そうとしたが、いち早くリサが反応し、早撃ちで3人とも撃ち抜いた。セイヤは1人を撃った。

 警備員らはそれぞれ肩や腕、横腹などに銃弾を受け、銃を取り落とし、床に膝をつく。
 リサとセイヤは床に落ちた銃を蹴り、遠くまで滑らせた。そして警備員らをうつぶせにして床に押し付け、後ろ手に手錠をかけていく。

 いや、この5人は警備員ではなく、警備員を名乗る暗殺者である。迷いもなく発砲できたのは、その確信があったからこそだ。ちょっとでも本物の警備員の可能性があったら、できなかった。警備員全員の顔写真を抜かりなく確認していたからこそ、そして変更があった場合についてもきちんと対処していたからこそ、確信が持てたのだ。

 ジャンは改めてセイヤの能力を評価した。ジャン自身はこの暗殺計画は不確実な情報に基づくということで、あまり重く見ていなかった。だから、どこか油断があった。が、セイヤは違ったのだ。

「セイヤ、お前のおかげだな。そして、リサ、反応早かったな。日頃の訓練の成果だな」
 ジャンはセイヤとリサの肩に順番に手を置いていった。そして付け足すようにボソッとつぶやいた。
「手錠もセイヤの言うとおり、予備を用意しておいてよかったな……まさか5つも必要になるとはな。セイヤってほんと用意周到だよな」

 と、また爆発音がした。非常階段側から客らの悲鳴が聞こえ、騒がしくなる。
「おっと、こうしちゃいられねえ」 
 ジャンは治安局に連絡を入れ、状況を説明し、救助と援護を要請した。

「よし、西の非常階段を使って、急いで避難だ」
 西側の方が若干、避難客の騒ぎを少なく感じた。

 ジャンと護衛は、マハート氏の部屋へ行き、西側の非常階段を使って避難するよう指示を出した。すぐにドアのチェーンが外され、もう一人の護衛とマハート氏と秘書が外に出てきた。
 マハート氏は蒼白だったものの、しっかりした足取りで避難を始めてくれた。

 護衛2人がマハートと秘書の前に位置し、その後ろをジャン、セイヤ、リサが付いた。マハート氏と秘書に、両手で頭を抱え、身を低くしながら移動するようにと指示し、彼らを取り囲むようにして西の非常階段出入り口へ向かう。

 手錠をかけられ倒れている暗殺者5名はその場に残した。
「急ぐぞ。避難が先だ。我々の安全を優先する。治安部隊や消防隊もすぐにやってくる。安全確認の後、この暗殺者5名を確保しに戻ってこよう」

「犯人を置いていっちゃうんだ……」
 リサのつぶやくような問いにジャンが答えた。
「この状況下では仕方ない。ひょっとして、まだ暗殺者がどこかに潜んでいるかもしれん。マハート氏を守ることが最優先だ。まずマハート氏を避難させる」

 すでに非常階段は人でごった返していた。
 子どもが親からはぐれたのか泣いている姿が目に止まった。思わずリサが子どものほうへ行こうとしたが、ジャンに止められた。
「勝手な行動をするな。マハート氏を囲んで安全に避難させることがオレたちの仕事だ」
「そんな…」
「任務を優先しろ」

 その間に、ほかの大人がその子どもに声をかけ、一緒に避難させていた。リサはホッとして任務に戻った。
 セイヤも粛々と任務を続けつつ、あの地下鉄爆破事件の人の形を成さない死体をずっと思い浮かべていた。またこのホテルで同じような犠牲者が出たのかもしれない……
 手段を選ばないシベリカ国とその工作員らの非情で冷徹なやり方に黒い感情が湧き上がってくる。

 ……オレたちは、そういう国を相手にしているんだ……
 ……こちらも非情に、そして冷徹にならなければ、やられる……
+注意+
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