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旧作 作者:hayashi

シーズン2 第1章「再会」

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スーパーセクハラ男! ジャン先輩

本文と関係ないサービスイラスト『トウア風のいたずら』
イラストくらい楽しく、サービス、サービスっ
挿絵(By みてみん)
 豊饒の海に囲まれた海洋国トウア――総人口約3500万人。そのうち外国人は約300万人――
 家々の白壁が青空に映える美しい旧市街と近代的な高層ビルが建ち並ぶ新市街が混在する豊かな民主主義国家である。

 トウア国政府は、人口減少による労働力不足を外国人で補う政策をとっており、多くの移民や外国人労働者を受け入れていた。マスコミは「外国人に対する差別をなくそう」「外国人にも国民と同じ権利を」と訴え、多くの国民にもその考えが浸透しつつあった。

   ・・・・・・・・・・・

 冬が徐々に遠ざかろうとしつつも、吹き込む風は冷たく、春と呼ぶにはまだ早い頃――国の機関である治安局中央地区管轄・特殊戦闘部隊にて、2ヶ月の停職処分を解かれたリサ・シジョウは隊長室に呼ばれ、ファン隊長より「これからジャン・クローとセイヤ・シジョウと行動を共にするように」と通達された。

 リサは、すでにこの話をセイヤから聞いていた。
 ちなみにセイヤはリサの夫である。まだ結婚して2ヶ月ちょっと――二人とも、まだ20歳の若夫婦だ。

 そんな二人が所属している特殊戦闘部隊――略して特戦部隊では、基本的に二人一組で任務を行うことになっており、各隊員はそれぞれバディを組んでいた。

 が、特戦部隊初の女性隊員として採用されたリサには、今まで決まったパートナーがいなかった。それがここにきてやっと、ジャン・クローとセイヤ・シジョウの組に加わることになり、任務の際には3人で『チーム』として動くことになったのだ。

 リサはファン隊長に一礼すると部屋から出た。仕事に復帰できたことはやはり嬉しい。

 就業開始5分前になっていた。
 部隊室に戻ったリサは自分の席へ向かう。その隣の席はセイヤ、そのまた隣にはジャンがいた。
 これからリサはジャンに指導を仰ぎながら任務や訓練に励むことになる。
「まず、ジャン先輩に挨拶しなくちゃね」

 4期上のジャン・クローは――制服のシャツのボタンが2つほど外され、たくましすぎる胸から毛も見えており、男性ホルモンが過剰に分泌されているのではないかと思わせる大いなるマッチョ男だ。

 リサはジャンの席に近づいた。モワ~っと周囲の気温が2度上がった気がする。
 そのジャンはイスの深くふんぞり返るようにして座り、いかにもくつろいた様子でセイヤと何やら話をしていた。

「リサって、ずいぶん雰囲気変わったよな~。新妻の色気ムンム~ンだな~。オクテなお前が相手でも色気が出てくるもんなんだな~。つうか、淡々としているお前もリサが相手だと燃えるのか?」
 セクハラまがいなことを言っているジャンの声が聞こえてきた。 
「ま、でも乳が小ぶりなのが残念だよな」
 いや、セクハラまがいではなく、完全なセクハラだ。

「大きけりゃいいってもんじゃないでしょ。要はバランスですから」
 セイヤは控えめながらも擁護した。

 そう、セイヤにしてみれば、乳が小さいくらいでリサを『残念な女』のように言われるのは心外だった。「大きさはともかく、形はいいんだ」と力説したかったが、ジャンに興味を持たれても、それはそれで困る。痛し痒しといったところか。
 ま、とにかく、リサのお椀のような乳はちょうど自分の手に収まるぐらいの大きさだし、言われるほど小さくないし、割と気に入っているのだ……って、オレは一体何を考えているんだっ……いつの間にか両手をお椀を持つような形にしていたセイヤは、ジャンのペースにはまっている己を恥じた。

 そんなセイヤを無視し、ジャンは傍に突っ立っていたリサに声をかけてきた。
「いよ~、リサ、久しぶり。髪、切ったんだな~」

「あ…はい」
 ちゃんと挨拶しようと思っていたのに、先にジャン先輩のほうから別の話題を振られてしまった。とりあえず、ジャンに頭を下げ「今までご迷惑おかけしました。これから、よろしくお願いします」と言って、リサは自分の席についた。

 セイヤはリサを見やりながら、ため息をついた。リサは髪が多少伸びたとはいえ、まだ制服の襟につくかつかないかの長さなので、切りそろえた髪の下と襟の間から白い首筋がチラチラ見え隠れしているのが、妙に色っぽかった。
 もちろん、自分の目の前で色っぽいのは大歓迎だけど、ほかの男の前では色っぽくあってほしくない、という勝手なことを思ってしまう。

 ジャンは、セイヤ越しにリサと話を続けていた。
「ずいぶんとバッサリ短くしたんだな~、もしかして、こいつの好みだとか?」
 そう言って、ジャンは隣にいるセイヤを指さした。

「というか、こういうふうに切られちゃったんです」
 リサもセイヤを指さし、ジャンに顔を向けた。

「え?」
 ジャンの目が見開かれる。

「わ、リサ、それ以上、しゃべるな。何だか面倒なことになりそうだから」
 慌ててセイヤはリサに耳打ちしたが、遅かった。

「切られたって? こいつに切られたのか?」
 ジャンはさらにセイヤを指さしながら、興奮気味にリサに問う。

「はい」とリサは、ジャンに返事をしつつも、セイヤに「面倒になるの?」と訊いてきた。
 セイヤは何度も頷く。しかし、すでにジャンから胸ぐらをグイ~っとつかまれていた。

「オクテのくせに、オクテのくせに、オクテのくせに、オレに隠れてコッソリそういうプレイをしていたのか~」
「や、やめてください。何でそう妙に下品な想像ばかりするんですか」

 いつものようにジャンとセイヤの『じゃれあい』が始まったが、そこへリサが余計なフォローをしてしまった。
「先輩、プレイという言い方は当てはまらない気がします。こっちが疲れるほど真面目な仕事ぶりでした。長い時間ハサミの使いすぎで、右手が腱鞘炎になりかかったくらいですから」

 するとジャンの目の色が変わり、さらにセイヤを締め上げてきた。
「きさま~、あの時の腱鞘炎はプレイのしすぎでなったのか~、許せんっ、淡々としていると見せかけて実は燃えるタイプと見たっ、しかもヘンタイ色を感じるぜ」
 どうやら『腱鞘炎』という言葉がジャンの琴線に触れたようだ。そして勝手に『ヘンタイ的要素』を加えて妄想し、興奮していった。

「オレもプレイに混ぜろ」
「お断りします。というか、そもそもプレイなんてしてませんから。それにオレはヘンタイじゃありませんっ」
「腱鞘炎になるくらい、あんなことやこんなことをやってたんだな~、うらやましすぎるぜ」
「だから、あんなこともこんなことも、やってませんっ」

 そんな二人のやりとりを聞いていたリサが質問してきた。
「あんなことやこんなことって?」

「……」
 ジャンとセイヤは一瞬、押し黙ってしまった。

「お前、新婚のくせに、あんなことやこんなこと、やってないのか?」
 ひっそりとジャンがセイヤに訊いてきた。

「先輩の言う『あんなことやこんなこと』ってオレにも何のことだか……オレはフツ~にやってます。もう一度言っておきますが、ヘンタイ行為はしてません」
 ……アブナイ、アブナイ、オレまで先輩と同類と思われる……と、セイヤはジャンから距離をとり始めた。

 そんなセイヤを逃がすまいと、ジャンは突っ込んできた。
「フツ~って、どういうふうにフツ~なんだ?」

「だから、フツ~はフツ~です」
 セイヤは突き放すように言った。

「こいつ、フツ~なのか?」
 ジャンはセイヤを指さしながら、今度はリサに訊く。

「リサ、答えなくていいぞ」
 すかさずセイヤが割って入る。

 しかし、リサは遠い目をしながら、こんなことを口にした。
「フツ~の定義って何なんでしょうね……」

「一般的、平均的、つまり多くの人がやっていること、と捉えていいんじゃないか」
 セイヤはそう答えてみたものの、定義づけは難しいなと思った。

「定義って何? リサ、何で突然そんな難しいことを言い出す?」
 自分だけ取り残されそうな空気を払拭するかのようにジャンが問うてきた。

「セイヤがよく使う言葉なんですよ。だから、私も染まっちゃって」
 リサは苦笑いしながら頭に手をやった。

「……セイヤって面倒くさそうなヤツだな。一緒に生活していて、よく疲れないな」
 ジャンが気の毒そうにリサを見やる。

「ええ、疲れますよ……慣れましたが」
 リサはため息まじりに応えた。

「何だよ、リサの方こそ散々心配かけて、オレを疲れさせたじゃんか」
 セイヤも言い返す。自分だけ『疲れる男』呼ばわりされるのは納得がいかない。

「こんなとこで夫婦ゲンカはやめようぜ。ええ~と、何でこんな話になったんだっけ?」
 ジャンが話題を戻そうとした。

「オレがフツ~なのかどうなのかっていう微妙な問題から、こういう展開になったんです」
 どうでもいいようなジャンの質問に律儀に答えたセイヤは……ったく朝っぱらから、なんて下らない話をしているんだ、と思いつつも……オレはフツ~だよな、フツ~に決まっている。ましてやヘンタイなどではない。でも、この場合フツ~のほうがいいのか? リサはどう思っているんだ?……と気にもなっていた。

 そんなセイヤの心を知ってか知らずか、リサは「あ、でも私、セイヤしか知らないから、彼が一般的で平均的なのか、つまりフツ~なのかどうか判断できません」と、実にきわどいことをサラッと言ってしまった。その後「あ……」と押し黙り、下を向いた。

 半眼になったジャンはイヤラし~く、セイヤとリサに笑いかける。
「……そうか、セイヤしか知らないのか……お前ら、オクテカップルだったんだな。ここはやはり先輩として指導をしたいところだよな~。どうだ、今後の夫婦生活のためにも、このオレ様の愛のレッスンを受けてみないか? DVDもたくさんあるぜ」
「お断りしますっ」
 セイヤとリサが応えると同時に始業のチャイムが鳴った。

   ・・・・・・・・・・・・

「特戦部隊のヒロイン様」
 職場復帰初日から、リサは治安局の職員たちにこう呼ばれるようになっていた。先の『発電所立てこもり事件』のことで、テレビで『特戦部隊のヒロイン』ともてはやされてしまったからだ。そんなリサに対し、治安局内では冷笑する者や嫉妬する者もいた。「ヒロイン」と呼ぶその言葉には皮肉と嘲笑が織り交じっていた。

「好きで目立っていたわけじゃないのに」
 リサは放っておいてほしかった。
「……『不戦の民』と呼ばれて、学校の平和道徳教育でネタにされていたセイヤの気持ちが分かった気がするよ」
 仕事を終え、セイヤと帰宅途中、リサはこぼす。

「ま、マスコミのほうはもう話題にしていないし、皆もそのうち、気にしなくなるだろう」
 セイヤはそう慰めつつも、リサがおかしな連中に目をつけられないかと心配もしていた。

 あの『発電所立てこもり事件』で、テレビでもリサの写真が出回り、大きく取り上げられてしまった。
 なので「もしかして特戦部隊の……あのリサさんじゃないですか」と見知らぬ人から声をかけられたことも何度かあった。その度に「いえ、人違いです」とリサは逃げた。テレビで話題にされていた頃とは髪型が違っていたことが幸いしたのか、それで切り抜けられた。
 騒がれていた一時期は帽子を目深にかぶり、なるべく人に顔を見られないようにしていた。

 そう、リサは世間ではちょっとした有名人になってしまったのだ。インターネットの世界では『ヒロイン・リサ』のファンクラブができていた。

 それからまもなくして――ついに、セイヤの心配が現実のものとなった。
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