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旧作 作者:hayashi

シーズン1 第4章「借り」

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敵のもくろみ

挿絵(By みてみん)
「そう、分かったわ。……遺される彼の家族には手厚くしてやってちょうだい。そうそう彼の娘には特に……最高レベルの医療を施して上げなさい。彼は捕まったとはいえ、立派に任務を果たしました。……ええ、また連絡しますわ」

 ここは30階建て高層ホテルの最上階にある豪奢なスイートルーム。調度品には繊細な彫刻が施され、天井のシャンデリアの光がその陰影を美しく浮かび上がらせる。

 電話を終えたサギーは大きく胸の開いた真っ赤なドレスを着ていた。波打つような豊かな髪を下ろし、唇には深紅のルージュをひいている。
 艶かしい――この言葉こそ今の彼女にふさわしい。すでに、未成年養護施設付設学校の教員を辞職していた。

 ルイが推察した通り、サギーはシべリカ国の工作員である。帰化してトウア国籍をとっているので、表向きはトウア国民だが、出自はシベリカ人だ。

 ちなみにトウア人とシベリカ人の外見上の相違はあまりなく、人種も同じであり、見た目ではトウア人なのかシベリカ人なのか区別はつきにくい。またサギーはトウア語を完璧に操っており、名前もトウア風に改名した。彼女をシベリカ人だと気づく者は誰もいないだろう。

 今夜は、あるテレビ局のプロデューサーと密会デートの予定だ。
 しかし、サギーがつきあっている男性はそれだけではない。新聞社の主筆や雑誌の編集長、そして――
 実は、治安局特戦部隊のファン隊長とも愛人として交際している。

 ファン隊長はサギーにぞっこんで、今までにもいろんな情報をもたらしてくれていた。もちろんファンはサギーの正体を知らない。

「ファン隊長率いる特戦部隊に、あなたたちが配属されていたとは……本当に奇遇なこと」
 サギーはソファに深く腰掛け、うすく笑う。

 当初、ファン隊長が「そういえば、未成年養護施設出身の新人が2名もうちに入ってきたんだけど、たしか君はそこの付設学校の教員だろう? 君の教え子だったりして」と口にしたことで、サギーにはそれがセイヤとリサだと分かった。
 あの二人がよりによって特戦部隊所属とは――と思わず失笑してしまった。

 それからのサギーは、酒の肴にと新人セイヤとリサの話題をファン隊長から引き出すようにしていた。
「セイヤ、リサ、あなたたちの情報は上司からだだ漏れよ……」

 今回の水力発電所立てこもり事件の顛末もファン隊長から聞いていた。リサが上官の指示を仰がず、勝手に逃走する犯人のバイクに乗り込み、さらにそのあとを、待機を命じた上官の命令に背いてセイヤが追い、犯人を確保したと。

「あのセイヤとリサが活躍したとはね。ま、セイヤは犯人を逮捕したかったというよりもリサを守るために追ったのだろうけど」

 サギーは彼らが学生だった時のことを思い出す。
 ――あの進路相談の授業の時、セイヤは痛いところをどんどん突いてきた。そう、私がリサを殴ったあとのことだった。
 良い方法ではなかったけど、あまりにリサが煩かったので、手っ取り早く黙らせようと殴ってしまった。教室内で自分に楯突く生徒はリサのほかにはいないと高を括っていた。
 だから、あのセイヤがしつこく攻め立ててきたことは予想外だった。今まではせいぜい皮肉を言うくらいだったセイヤが、あれほど反抗的になるとは……。

 ――あの頃から、セイヤはリサのことを想っていたのね――

 その時、サギーはとても懐かしい気分を味わっていた。かつて、サギーにも想い想われた人がいた。

 ――ちょうどセイヤやリサと同じ年頃だった――
 ――でも……その人はもういない――

 サギーの懐かしい思いはすぐに霧散した。もともとセイヤは、サギーの言うことに疑問を持っていたのだろう。

「このトウア国にセイヤみたいな人間が増えては困るわね。さすがに国を失った民の子孫はちょっとは警戒心があるようね」
 サギーの口元が歪む。

 あのテレビの生放送でルイが行った『シべリカ国への警戒を呼びかけるような発言』に対しても、サギーはすでに手を打っていた。ルイが言っていたことは証拠もなく、全て憶測に過ぎないと訴えるように部下の工作員を使ってメディアに働きかけた。

 おかげでルイは、世間から「憶測でシべリカ国を貶めようとし、戦犯アリア国を正当化しようとするルイ・アイーダは戦犯の子孫としての反省がない」という論調で批判されることが多くなった。

 今回の水力発電所立てこもり事件も、シベリカ人労働者を安く使ったトウア国を批判し、豊かなトウア人は貧しいシベリカ人に何かしらの譲歩をするべきだという世論を作り出すために行った。トウア国に住む外国人の人権を訴え、「参政権などトウア国民と同じ権利を与えるべきだ」という考えを世間に広げるために仕掛けた世論工作のひとつだった。

 シベリカ国によるトウア国への内政干渉をスムーズにさせるには、まず外国人をトウア国の政治に介入できるようにすることが一番の近道だからだ。

 今、トウア国には多くのシベリカ人が在住している。これからもシベリカ国からトウア国への移民は増えるだろう。
 彼らが参政権を持てば、シベリカ国のために働いてくれる人物をトウアの政界に簡単に送り込むことができる。

 当初の計画では、戦犯の孫娘であるルイ・アイーダに「弱い立場の外国人にもっと権利を与えるように」とテレビで訴えてもらい、世間の興味をひいた後、事件を起したシベリカ人労働者たちが投降し、憔悴し切った表情でお詫びする姿を報道してもらうつもりだった。
 いかに彼らが貧しい生活をしているかを話題にし、視聴者の同情を誘って穏便にすませようと考えていた。
 外国人の権利向上すなわち『外国人参政権の法改正を望む世論』を作り上げるのが、そもそもの目的だからだ。

 だが、ルイが反旗を翻したので、銃撃戦に持ち込むようにリーダーに指示を出した。

 特戦部隊は防弾ベストを着ており、装備は万全――つまり『強者』だ。それに対し、立場が弱く、不当な扱いを訴えるために事件を起してしまった恵まれない外国人労働者は『弱者』である。
 その弱者である外国人労働者が、強者である特戦部隊の銃撃に合い、傷つき、命を奪われ、世間から同情を集めるはずだった。治安部隊を悪者にし、トウア国政府が治安局への予算を増額させるのを牽制する目的もあった。

 しかし女性隊員であるリサが負傷し、その後、体の抵抗力が弱ったためか肺炎を起こし、病状が楽観視できなくなったことがメディアで伝えられた時から、世論の風向きが完全に変わった。

 逃走した犯人がリサを傷つけたのが原因だということで、世間の同情を集めるはずだった犯人側は『女性を傷つけた悪人』と印象づけられてしまった。

「リサ、セイヤ……今回は私の負けね」
 サギーはソファから立ち上がり、窓辺へ身を寄せる。
「でも、まだまだこれからよ。この借りは必ず返させていただくわ」

 セイヤとリサが治安部隊に所属している限り、犯罪やテロを仕掛ける工作員サギーとの闘いは避けられないだろう。
長くなるので、ここで区切ります。次もサギーの視点よりシベリカ国の狙い、目的、作戦が語られます。
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