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旧作 作者:hayashi

シーズン4 第4章「空っぽな自己満足」

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サラとキリルVSリサとセイヤ

 セイヤとリサが次の捜査先に向かっている時、「そこの二人、止まりなさい」という声が聞こえた。一瞬、自分たちのことかと声がするほうを向いた。すると向いた先の狭い路地から走ってくる二人組の男女の姿が見えた。あの少年と少女だった。パトロール隊員が警笛を鳴らす。

 リサは即座に少年と少女の方へ向かう。
 セイヤも追いかけようとしたが、ちょっと走ったら、あの少女に刺された横腹が痛み出し、リサにぐんぐん引き離されてしまった。

「リサ、待て……」
 セイヤはリサの背中に声をかけたが、リサはそのまま走って行ってしまった。

 少年と少女は、近づいてくるリサに気づき、すぐ横にあった路地を曲がっていった。リサもそのあとに続く。
 その路地は住宅地で、数人のシベリカ人が「何ごとか?」と窓から顔を出していた。

 リサの頭の中にはこの区域の地図が入っていた。細かい路地も全て頭に叩きこんである。私服姿での捜査の時、ここの区域を散々歩き回っていた。

 彼らが入っていった狭い路は、両脇は高い壁に囲まれている。その壁の向こうは3階建てアパートだ。
 路にはこの少年と少女以外、人はいなかった。曲がりくねった路が多い中、ここはわりとまっすぐで、その間は横路もなく、人がひょっこり現れることもない。

 ――チャンスはここしかない――

 リサは立ち止まり、銃を構え、警告なし威嚇射撃なしで、発砲した。

 乾いた銃声と共に少年がつんのめって転倒する。
 リサの放った銃弾は少年の右太ももに命中していた。

 一瞬、少女が立ち止まる。
「立ち止まるな、行け」
 少年が少女に怒鳴る。
 が、リサはその瞬間を逃さなかった。即座に少女を狙撃する。
 銃弾は少女の左足にめり込んだ。少女はよろけたが倒れなかった。

 次にリサは少女の右足を撃った。
 ついに少女も地面に転がった。

 リサは銃を構えたまま、少女のほうへ走り寄っていく。

 ――この少女には何度も煮え湯を飲まされている――
 ――今度こそ確実に捕まえないと、ダイ君がまた狙われるかもしれない――
 ――たくさんの人を殺害してきた少女……これ以上、殺させはしない――

 迷いはまったくなかった。
 狙いを定め、引き金を引く。

 ――この類まれな身体能力を奪う――

 少女の右手を、そして左手を撃つ。銃弾を撃ち込むたびに少女の体がピクっピクっと動く。が、少女は息遣いは荒くなるものの、声は出さなかった。
 骨と血と肉が飛び散る。数発の銃弾は少女の両手を粉砕した。

 その時、倒れていた少年が上着のポケットに右手をすべり込ませていた。
 ナイフが投げられる。リサは避けるが、刃先が頬をかする。

 リサは即座に少年の右腕を撃つ。
 少年の右手は力なく地面に落ちた。
 これ以上、反撃させないよう、左腕も撃つ。少年の自由は奪われた。
 それでもリサは警戒を解かず、少年と少女から目を離さず、銃を向けたまま無線連絡を入れる。

 ――とうとう、少女と少年、犯人2人を捉えた――

 そこに脂汗をかきながらセイヤがやってきた。横腹に手をやっている。
「無茶……するなよ」
「そっちこそ、大丈夫?」
 セイヤに視線をよこすこともなく、リサは少年と少女に目をやり続けた。

「ああ、それより……撃ったのか……」
 地面に流れ出ている血に、セイヤは眉をひそめた。少女の両手はグチャグチャだ。

「ええ……救急車を手配するよう連絡入れた。もうすぐ警察捜査隊も来る」
 リサの声が冷たく響く。白い頬からひと筋、血がにじんでいた。

 少女と少年共に意識はあるようで、リサを見返した後、そのまま目を閉じた。相当な激痛があるはずだが、彼らは呻くこともなく、歯を食いしばり、荒く息をしていた。

 その時、セイヤは何を思ったか、少女のもとに近寄った。
 リサは銃口を少女に向ける。セイヤに何かしようとしたら、即座に撃つつもりだ。

 セイヤは膝をつき、少女に話しかける。
「心臓移植をした子どもを殺したのもお前だろう? なぜだ? 復讐か? でも、それは周囲の大人たちが悪いのであって、移植された子どもには罪はない。一番悪いのはそういった組織を野放しにしているシベリカ国だ。お前は復讐する相手を間違っている」
 そう、どうしても分からなかったことを少女=サラに訊いてみたかった。そして糺したかった。

 サラは閉じていた目を開き、セイヤを見据えた。
「……復讐ではない。解放だ」
 意外にもサラは、セイヤを無視せずに答えた。
 そのことにキリルは驚き、思わずサラのほうへ顔を向けた。

「解放?」
 セイヤはさらに訊く。

「……心臓を取られた子たちは死んだ。なのに心臓はほかの人間の中で生きている。死んだのにこの世に縛り付けられている……いつまでも天国に行けない。だから心臓を解放した。……でも、あと二人……解放できなかった」
 サラは嘆くように言葉を吐いた。お守りを握りしめたかったけど、右手も左手も動かすことができなかった。激しい痛みが襲っていたが、妹や一緒にいた子どもたちを見殺しにした自分への罰だと思えば、いくらでも耐えることができる。

「そうか……お前はそう考えていたのか」
 隣で地に伏せていたキリルは思わずそう口に出してしまった。そして少し呻く。キリルにも激痛が走っていた。

 セイヤは言葉が出ず、サラをただ見つめた。
 そんなセイヤに代わってリサが口を開く。
「だからといって、なんの罪もない子どもを殺すなんて間違っている。その前にも、中央百貨店で小さな子どもを銃撃したよね。なぜ、そんなことができるの? かわいそうだという感情はあなたにないの?」

 ただ、そう言いつつもリサは――果たして自分は、少女を問い詰める資格があるんだろうか?――とも思っていた。
 自分も血で汚れた手をしている。任務とはいえ、相手は犯罪者とはいえ……こうして、何人も傷つけ、そして、国会襲撃テロ事件では、おそらく数人の工作員の命を奪っている。兄を殺した犯人にも過剰攻撃を加えた。でも「かわいそう」とは思っていない。この少女と少年に対しても憐みは感じてない――少女への問いは、自分への問いでもあった。

「かわいそう?」
 激痛に顔をしかめながらも、サラは逆に問いかけた。
「この世にさよならして……天国に行けることの……どこが……かわいそうなんだ?」

「……」
 リサは呆然とした。この少女たちの倫理観や価値観、考え方が自分たちとまるで違う。善悪の捉え方も違うのか。

「お前たちは、大切な人が死んでも悲しくないのか? 天国に行けるからそれでいい。殺されてもかまわないと思うのか?」
 今度はセイヤが詰問する。

「大切な人?」
 激痛の中にいるサラはなおも怪訝な顔をしていた。

 セイヤは問い続けた。
「……心臓を取り出されて殺されたシベリカの子どもたちのために、こんなことをしでかしたんだとしたら、お前にとってその子たちは『大切な人』だったんじゃないのか?」
「……大切な人……」
「その子たちが殺されて、お前は悲しい、嫌だ、寂しい、と思ったんじゃないのか?」
「……」
 あの時、自分はどう思ったのか――いや、思い出したくなかった。何も感じずにいたい。感じるのは激痛だけでいい。サラは自分を守るように目を閉じた。

 それを見たキリルがつぶやく。
「身の回りに大切な人がいて……そういう感情が持てるヤツらは……幸せだよな」
 そう言って、セイヤとリサをにらみつける。なぜか嫉妬心が芽生えた。

「不幸な者は、他者に何をしてもいいとでも思っているのか?」
 セイヤは冷たく見返す。

「別に……オレの場合は……上から命令されて任務を……遂行しただけだ。百貨店や国会での銃撃は……任務だ。あんたたちも任務で人を殺すことあるだろ……それと同じだ」
 痛みのため、言葉が途切れがちになるものの、乾いた声でキリルは答えた。

「シベリカ国のためにやったということか? シベリカはそこまでして仕えるべき国なのか? 子どもの臓器売買を行う組織を野放しにしているような国だぞ。お前たちがやるべきことは他国への工作ではなく、シベリカ国を変えることじゃないのか?」
 セイヤの問いかけにキリルは一瞬、言葉を詰まらせた。サラも再び目を開ける。

「国を……変える……」
 キリルがつぶやく。そんな発想をしたことなかった。命じられるままに動く生き方しかしてこなかったから。

「お前ら、今まで相当、人の命を奪ってきたんだろうな。それは決して許せない。けど、お前らはシベリカ国に利用されただけだということも分かる。それに……お前が言ったように、たしかにオレも任務で人の命を奪っている……」

 ――何かを守るために、ほかを犠牲にした――そのことではオレもお前らの同類かもしれない――

 セイヤはキリルとサラから流れ出ている血を見つめた。そしてリサに視線を移す。いつかリサが「一緒に罪人になろう」と言った言葉を思い出す。今の自分たちは、帰ってから血がしたたる肉を平気で食べられる。そういう人間になった。今更善人ぶろうとは思わない。

「オレには大切な家族や仲間がいる。任務じゃなくても、大切な者を守るためなら手を血に染めるだろう。だからこそ、そのことに罪悪感が持てるかもしれない……。ただ、命を奪われ傷つけられた側にしてみれば、相手が罪悪感を持とうが持つまいが関係ないだろうけどな……罪悪感も、所詮は自己満足かもな……」

 最後は独り言のようにつぶやいたセイヤの言葉が、リサの心を刺した。
 ――罪悪感も所詮、自己満足――

 その時、キリルとサラを病院に送るための救急車と警察捜査隊がやってきた。狭い路地だったが、なんとか救急車が入ってこれたようだ。

 キリルとサラを警察捜査隊に引き渡す際、セイヤはこんな言葉を投げかけた。
「ひょっとしたらお前らに罪悪感がないのではなく……罪悪感を持ちたくないがために、単に感情を押し殺しているだけなのかもしれないな。その感情の蓋が開いた時、せいぜい苦しむがいい。あるいは感情の蓋が開かないまま、人生を終えるのか……むしろ、そっちのほうが不幸かもしれないな」

 そして最後に冷たくこう言い放った。
「ところで天国があるって信じているのか? 死んだら消滅するだけだぞ。天国はお前みたいな人間を操るために作られた夢物語だ。お前は何も解放していない。幼稚な思い込みで、罪のない子どもを殺しただけだ」

 そのセイヤの言葉を聞いたサラは何の感情も示さなかった。その見開いた瞳は――空洞だった。

 警察捜査隊の監視の下で、救急車に運び込まれるキリルとサラを、シベリカ人たちは遠巻きにしながら、ただただ見つめていた。
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