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旧作 作者:hayashi

シーズン4 第4章「空っぽな自己満足」

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捜索

 クジョウ首相の元秘書や民主平和党元幹事長が、自分の孫を助けるためにシベリカ人の子どもを食い物にした可能性があることがテレビで生放送されて、シベリカ人たちの反発が広まり――その一部が暴徒化し、あちこちで暴動が起きるようになった。

 が、それは前もって想定されていたので、軍が速やかに鎮圧した。
 その後、軍はシベリカ人街を取り囲み、検問を設け、シベリカ人たちを監視することになった。反発するシベリカ人もたくさんいたが問答無用で軍は抑え込んだ。治安部隊も総出で街の警備に当たっていた。
 今のところ、戒厳令を敷かずに済み、国政選挙はそのまま行われる予定だ。

 軍が大活躍をするなど、ちょっと前のトウア社会では考えられなかった。無用の長物とされていたはずの軍の存在感はぐんぐん増している。そんな軍に負けられないと、治安部隊も張り合う。

 そんな折、特命チームはルッカー局長より任務を授かった。
 あれから――例の少女は見つかっていない。どこかに潜伏しているとしたら、場所は『シベリカ人街』しか考えられない。ひょっとしたら病院を逃げ出した少年も一緒の可能性もある。そこで、例の少女と少年の顔を知り、実際に闘ったことがあるジャン、セイヤ、リサに「『シベリカ人街』を捜査せよ」との命令が下った。

 ちなみに『軍からの出向組』=ゴンザレ、アザーレ、フィオ、グレドは――国会襲撃事件では例の少女と少年を含む工作員らと戦ったが、戦闘最中に遠目で見ただけなので顔を知っているというほどではなく――彼ら4人は選挙が終わるまで街の警備を務めることになった。

 ジャンとセイヤとリサにとって、あの時、少女を取り逃がしたことは痛恨の極みであり、今度こそ自らの手で逮捕したかった。それに少女を野放しにしたままでは、ダイやヤハー氏の孫がまた襲われるかもしれない。彼らのためにも早期の犯人逮捕が望まれた。

 ルッカーは、ジャンらが例の少女にやられて取り逃がしたという連絡を受けた時、警察捜査隊とパトロール隊には『強盗事件が発生した』ということにして、各地区につながる道路やトンネルに検問を敷かせ、数日間、解除させなかった。
 あれからずっと少女は中央地区から出られなかったはずだ。つまり、少女が頼れる場所は中央地区『シベリカ人街』しかないと踏んでいた。

 もちろん、事件後、真っ先に中央地区『シベリカ人街』へつながる道も封鎖し、検問を設けた。が、シベリカ人によるデモや暴動が起き、治安部隊はそっちの対応に追われてしまい、その隙に少女が『シベリカ人街』に入り込んだ可能性が高かった。

 中央地区の『シベリカ人街』は広く、今現在90万人のシベリカ人らが住んでおり、街というより都市といってもいいくらいの規模だ。そのうえ『シベリカ人街』は迷路のように入り組んでいる。
 おまけにシベリカ人らは捜査に非協力的で、例の少女や少年を見つけることは容易ではなかった。
 現在も警察捜査隊が『シベリカ人街』を捜査しているが、これといって目ぼしい成果は得られていない。

 ということで今――ジャン、セイヤ、リサの3人は中央地区『シベリカ人街』に来ていた。
 セイヤはまだ刺された傷が完治しておらず、休むように言われていたが、拒否し、任務についてきてしまった。

 中央地区『シベリカ人街』は曲がりくねった路地が多く、同じような建物が並んでいるので迷いやすい。石造りの建物が多く、くすんだ緑がかった灰色をしている。明るい白壁の家々が並ぶトウアの旧市街とは、また趣が異なっていた。

 聞き込み捜査がうまくいかない警察捜査隊のほうは、片っぱしから『シベリカ人街』内にある建物の強制捜査に乗り出していた。

 もちろん、強制捜査するのに裁判所の令状が必要だ。通常では何かしらの証拠がなければ令状は下りないが、裁判所のほうが審査を甘くし、令状を乱発していた。警察捜査隊の言いなりといっていいくらいだ。司法も「早く捕まえろ」という世論に押されてしまったのかもしれない。

 法治国家としてこれは問題だ、と思うセイヤだったが、こういった警察捜査隊の強制捜査のおかげで、捜査すべき範囲が徐々に絞れてきている。背に腹は代えられなかった。
 ただ、シベリカ人の警察捜査隊への反感は募る一方だった。

 そこでセイヤは私服での捜査を提案し、ルッカーから許可を取った。制服姿だと最初から警戒され、シベリカ人らに身構えられてしまう。私服姿であれば、まずパッと見ではトウア人かシベリカ人かも分からず、相手の警戒心もいくらか和らぐだろう。
 ちなみにトウア人とシベリカ人は同じ人種であり、外見上の区別はつきにくい。言語についても、トウアに長いこと住んでいるシベリカ人は普通にトウア語を話す。

 そんな私服姿のジャンたちに割り振られたのは『シベリカ人街』の北側の一角で、そこは主に商店と食堂で占められている。路の両脇に建ち並ぶ3階建ての家々が日陰を作り、路行く人々を夏の直射日光から守ってくれた。

「セイヤ、お前もう大丈夫なのか? まだ休んでいたほうがいいんじゃないか。足手まといになるのはゴメンだぜ」
 石畳の狭い路地を歩きながら、ド派手なプリント柄のTシャツを着たジャンは後ろにいるセイヤを振り返った。セイヤのほうは相変わらず無難な格好で、Yシャツとスラックスでまとめていた。

「走るのは控えてよね」
 涼しげなブラウスとパンツ姿のリサも心配そうにセイヤに釘を刺す。

 それを聞いてジャンは呆れた声を出した。
「おいおい、やっぱ家へ帰れよ」

「大丈夫です。オレは体ではなく頭を働かせますから」
 セイヤは、ジャンの『帰れコール』を受け流す。

「フン、そこまで言うなら、さっそくその頭に働いてもらうか。お前なら、どこから手を付ける?」
 ジャンは片眉を上げた。

 待ってましたとばかりにセイヤは答える。
「一般シベリカ人は治安部隊には非協力的だけど、かといって、例の少女や少年を喜んでかくまうとも思えません。他人をかくまうって、けっこう大変ですから。もちろん仲間の工作員関係者かバックにつき、少女らを助けているんだろうけど、自分たちのアジトにはかくまえません。例の少女と少年は、警察捜査隊が躍起になって探しています。そんな彼らと一緒にいるのは危険です。工作員らも彼らとは距離を置きたいはずです」

 狭い路地を抜け、広い通りに出た。シベリカ特産品の香辛料や食品を売る店が並ぶ。
 セイヤは続けた。
「シベリカ本国から見れば、警察に目をつけられた少女と少年は工作員として利用価値がありません。シベリカ国は今は国内問題で手一杯ですから、資金的にも余裕がないはずです。利用価値がなくなった彼らをかくまうための無駄金は出さないでしょう。彼らは自力でなんとかするしかないと考えられます」

「なるほど。で?」
 ジャンが相槌を打ち、先を促す。

「もしオレがかくまう立場ならボランティアではできません。ただ飯は食わせられない。それなりに仕事をしてもらいたい。だとしても人目につかない仕事になるでしょう。食堂なら厨房で皿洗いとか、商店や会社なら倉庫で在庫整理とか清掃とか……集団ではなく、一人でできる作業、そして素人でも簡単にできる仕事です」

 ここでセイヤはひとまず区切り、顎に手をやり、考えを整理しながら口を開く。

「大きな会社は人の出入りもけっこうあるので、リスクが高い。大きな会社の線は可能性として低いと思います。会社といっても個人的な零細企業でしょう。
 それに、あいつらを生活させ寝泊りさせるには……家の中で一緒に生活するというのはかなり負担です。一方、納屋、倉庫のスペースを少し空け、貸すくらいなら、負担は少ない……よって商店か食堂か工場、小規模な会社の倉庫で暮らしていると考えられます。通勤で外に出歩くことも避けたいでしょうからね」

「つまり、単純作業の仕事を必要とする商店・食堂・工場・会社。その敷地内に倉庫や納屋がありそうなところをチェックしていけばいいってことだな」
 ジャンは頷きながら、確認するようにセイヤを見やった。

 それを受け、セイヤもジャンに頷き返す。
「地下室を倉庫にしているところもあるから、そういったところも見逃さないようにしてください」

「よし、今日はこの条件に当てはまりそうなところをチェックしていこう。で、捜査令状を取ってから、本格的に動くぜ」
 やるべきことは決まった。


 それから数日後――
 ジャンとセイヤ、リサがチェックしたところの捜査令状が下り、彼らは強制捜査に乗り出した。ちなみに、これは当然、制服姿で行った。

 その間には、選挙も無事に終わっていた。
『シベリカ人街』での強制捜査は、ゴンザレ、アザーレ、フィオ、グルドも参加した。警察捜査隊の手も借りた。
 パトロール隊も総出で『シベリカ人街』の見回りを強化していた。
 強制捜査は一部のシベリカ人たちから反発され、軽い妨害を受けたものの、粛々と進んだ。

「でもさ、犯人はもう、強制捜査が終わった区域に移って、そこでかくまわれてたりしてね」
 割り振られた捜査先に向かいながら、リサは隣を歩いているセイヤにつぶやいた。今回はジャンは警察捜査隊のほかの隊員と行動を共にし、二人一組で動いていた。

「もち、その可能性が全くないわけじゃない。ただ……強制捜査はいい牽制になったかもしれない。トウアの治安局がいかに本気かが感じられただろう。治安局に目をつけられてまで、かくまおうという人は少ないんじゃないか。そう簡単に協力者が見つかるとは思えない。それに強制捜査が終わった区域にある空き家や空き倉庫、宿屋については、今も警察捜査隊の監視下にあるしな」
 セイヤは前方を向いたまま応える。

 選挙が終わった今、中央地区管轄の警察捜査隊とパトロール隊もこの『シベリカ人街』内の捜査、犯人=あの少女の逮捕に全力を注いでいた。

   ・・・・・・・・・・・・

 警察捜査隊による強制捜査が『シベリカ人街』のあちこちで始まるようになり――
 キリルとサラはすでに強制捜査が終わった区域へ移動しようと試みたものの、彼らをかくまおうという者がなかなかおらず、まだ動くことができないでいた。

 強制捜査を受けた者は、彼らと関わり合いになるのを避けた。トウア人のことが嫌いでも、ここはトウア国であり、ここで暮らす以上は治安局に目をつけられるようなことをしたくはないというのが一般シベリカ人の考えだ。工作員があちこちで協力者を探してはいたが、良い返事はもらえていないようだった。

 そう、セイヤの言うように、強制捜査は一般シベリカ人に圧力を与える効果もあったのだ。『犯人を必ず見つけ出す。かくまっていたら、ただでは済まない』というメッセージを暗黙のうちに伝えていた。

 警察捜査隊は血眼になってキリルとサラを探している。だから工作員らも自分たちのアジトでキリルとサラを世話するわけにはいかなかった。万が一、警察捜査隊に見つかったら、ほかの工作員らにも害が及ぶ。アジトも使えなくなり、多くの工作員が路頭に迷うことになる。

 今現在、本国シベリカからは『工作活動休止命令』が出されており、送金も打ち切られていた。工作員らは自力で生活するしかなく、自分のことで手いっぱいで、いつまでもキリルとサラのことにエネルギーをかけられなかった。そして彼らに深く関われば、自分たちも捕まるかもしれないのだ。手を引くしかなかった。

 それに――治安局に目をつけられているキリルとサラは、もう工作員として終わっていた――

 そしてついに、キリルとサラが潜伏している区域の強制捜査が始まる。

 ――パトロール隊もそこいらをうろついているようだ……逃げ切れるだろうか……キリルは逡巡した。こうなる前にもっと早く手を打つべきだったが、自分たちを受け入れてくれる協力者がこれほど見つからないとは思わなかった。

 そこへ、キリルとサラが隠れている倉庫の扉をノックする者がいた。
「ここも危ない。とりあえず逃げてくれ」
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