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旧作 作者:hayashi

シーズン4 第2章「殺害予告」

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少女襲来

 閑静な高級住宅街にあるダイ・マオーの家。夕刻から強くなってきた風は時折、唸り声をあげ、窓を保護する雨戸をうるさいほどにガタガタ鳴らしていた。

 就寝時間となり、ダイは1階の両親の寝室に移動する。
「じゃ、そろそろ交代な」
 ジャンは、仮眠をとっていたセイヤとリサを起こし、ダイの警護をバトンタッチした。

 セイヤとリサは交代で軽食をとり、リサはダイと両親が寝ている部屋の前で待機し、セイヤは家の中の見廻りを始めた。

 戸締りはジャンが重々確認しているはずだが、セイヤも念のため、確認に回った。そして2階の階段口にある曇ガラスの小窓のところで待機した。

 犯人が来るとしたら、ここから入ってくるとセイヤは踏んでいた。ほかの窓は雨戸が閉まっているか、格子がはまっている。この小窓だけが何もない。
 1階の窓の庇を伝えば、2階のこの小窓に手が届く。普通の人間には難しいが、バランス感覚に優れ、自らの体重を持ち上げる腕力があり、身軽で細身の人間なら何とか侵入できる。

 ――そんな人間がいるのか?――セイヤの脳裏には『あの少女』の姿が思い浮かぶ。
 そう――いないわけではないのだ。つまり不可能ではない。セイヤは小窓を見据える。


 それから4時間近くが経った。真夜中になっても、風は弱まることなく吹き荒んでいた。
 廊下と階段には小さな照明が灯されているものの、薄暗かった。集中力が切れそうになり、何度か頭を振るセイヤだったが、程なくして、風が小窓を打つ音と共に、かすかな気配を感じ取り、意識を緊張させた。

 セイヤが見張る小窓の曇ガラスに人影が写る。
 やがて鍵の周りのガラスを切っていくのが見て取れた。

 セイヤは階段の衝立に身を潜めて、息を殺し、犯人が姿を現すのを待った。
 切られたガラスが取り外され、そこから手が伸び、小窓の鍵を開ける。
 それは小さい女の手だった。

 ――犯人を逃がしたくはない。姿を確認し、捕まえなければ――
 セイヤは犯人が入ってくるまで動かず、そのまま身を隠す。
 窓がスルスルと開く。

 ついに、小窓から侵入する犯人の姿を捉えた。
 音を立てずに入ってきた犯人のその様は、曲芸を見させられたと思ったくらい、動きに無駄がなく身軽だった。

 ――『あの少女』だ――
 セイヤの身が一瞬、固まる。

 ――なぜ? これもシベリカによる工作なのか?――いや、考えるのは、あとだ。セイヤは立ち上がり、家の中に音もなく降り立った少女に銃を向けた。もう簡単には逃げられない。このまま逮捕できる。

「両手を頭の後ろにつけ、膝をつけ……え?」
 そう警告を発する前に、少女はセイヤに向かって突進していた。

 セイヤの反応が遅れる。少女の素早い動きについていけなかった。
 ――そうだ、こいつに警告など通じるわけがない……ミスった。

 少女=サラは治安部隊が警護していることも覚悟の上で侵入した。
 が、いつ襲われるかも分からない一人の子どもを警護するのにそんなに人数を割いているはずもない。治安部隊は人手不足だ。どんなに多くても4人。それ以上はつかない、と踏んでいた。4人以下であれば余裕でさばける。

 また、一般人の家の中で治安部隊はそう簡単に発砲しないことも知っていた。しかも発砲の前に警告を出し、そして威嚇射撃という手順を踏む。
 中には発砲を躊躇する甘い隊員もいる。それに少女である自分を本気で撃ちにくる隊員はまずいないだろう。だから、あえて銃は持たなかった。その方が安全だ。そう、トウアの警察は銃を持っていない丸腰の犯人に、いきなり発砲することは絶対にない。それをやったら世間が許さない。それほどトウアの治安部隊は『人権意識』に縛られている。

 そして案の定、目の前にいる男はすぐには撃ってこなかった。勝ったも同然だ。

 サラは即座に接近戦に持ち込んだ。身を低くしたサラから繰り出された掌がセイヤの顎を下から突き上げる。
 顎を狙われたため、脳が揺すられたセイヤは意識が遠くなり、受け身を取る前に床に激しく体を打ちつけてしまった。

 その物音に、ダイとその両親が寝ている部屋の隣で仮眠をとっていたジャンは飛び起きた。部屋を出ると、持ち場から離れ、2階へ行こうとするリサの姿があった。
「離れるな。お前の持ち場はここだ」
 ジャンは怒鳴り声をあげ、リサを引き戻す。そしてドア越しに、ダイと家族に部屋から決して出ないようお願いし、ドアの鍵を開けないよう指示した。

 その時、すでにサラが姿を見せていた。足音も立てず、あっと言う間にジャンの目の前に来ていた。銃を構える暇もなかった。

「こいつ……」
 ジャンの手がサラを捕える前に、サラはセイヤを倒したのと同じやり方で、ジャンの顎を突き、後ろへ飛ばした。セイヤと同じく脳が振られ、ジャンも一瞬失神し、壁に激突する。

 が、ジャンが倒れたと同時に、拳銃を構えるリサの姿が、サラの目に入る。その銃口はサラに向けられていた。

 リサは警告もせず、いきなり発砲した。
 その前にサラは横に移動していた。銃弾は外れた。

 が、そのサラの動きに銃口もついてきており、2発目はサラの右肩に命中する。
 それでもサラは動きを止めなかった。リサに接近し、その時にはもうリサの手から銃を蹴り飛ばしていた。

 銃がないリサは、負傷したとはいえサラの敵ではなかった。再度、繰り出されたサラの蹴りが、リサの胸を襲う。

「うぐっ」
 胸が爆発したかのようだ。リサの呼吸が一時、止まる。受け身がうまくとれないまま、床に転がった。

 と同時に、サラの背後に突進するセイヤがいた。
 しかし、サラはすでにその気配を感じ取っていた。振り向きざま、ホルダーから取り出したナイフを左手で持ち、セイヤの横っ腹を突き刺す。

 だが、サラがナイフを引き抜こうとした時、その手をセイヤが両手で握ってきた。
 とっさに、サラはセイヤの手を払いのける。ナイフはセイヤに刺さったままだ。セイヤは床に両膝を突き、ナイフの柄に手をやったまま、腹をかばうように倒れた。

 サラの動きにはまるで無駄がなく、また、その動きが止まるようなことはなかった。
 次をどうするべきか、どう動くか、考える前に体が動いている。このサラの動きについてこれる者はそうはいない。

 ナイフを手放したサラはそのままターゲットのいる部屋へ向かおうと踵を返した。その部屋の前には、今さっきまで大男と女の二人の隊員が張り付いていた。ターゲットはここにいると言っているようなものだった。サラにとっては探す手間が省けた。

 だが、その部屋の前には意識を取り戻したジャンが仁王立ちし、不敵な笑みを浮かべていた。
「今度は同じ手は通用しないぜ。それにお前、右肩を負傷しているようだな」

 リサも失神から目覚め、頭を振りながら起き上がろうとしていた。

 サラは舌打ちをすると玄関に向かった。たしかに銃弾による右肩の負傷は大きい。まさか女の隊員が、警告も威嚇射撃もなく、いきなり狙って撃ってくるとは思わなかった。これは想定外……誤算だった。これ以上闘えば、捕まるリスクが高くなる。今回は退散だ――サラは即断した。

 玄関へと走るサラのあとをジャンが追いかける。形勢は逆転するかに見えた。

 が、ジャンの手がサラに届いたと思った時、ジャンの視界からサラが消えていた。それと同時にジャンの体がまたしても吹っ飛び、床に転がる。サラの強烈な蹴りがジャンの腹を直撃していた。

「こいつ……後ろに目がついているのかよ」
 ジャンは膝を床につき、腹を抱え、思わず胃の中のものを吐いてしまった。目から涙がにじむ。内臓がせり上がってくるようで、しばらく動けなかった。

 その間にサラは玄関からドアの鍵を開けて外に出てしまった。
 意識を取り戻したリサは、腹を刺されているセイヤに気づき、取り乱した様子で救急車の手配をしていた。犯人の少女のことなど頭から吹っ飛んでいるようだった。

「オレたち3人……あんな少女一人に……やられてしまったのか……」
 ジャンは床で体を丸めたまま、まだ起き上がることができなかった。

   ・・・・・・・・・・ 

 屋敷を飛び出したサラは、身を切り裂くような風の中、女が待機させている車へ向かっていた。
 後ろの席に乗り込んだサラに運転席の女は前を向いたまま声をかけた。

「しくじったの? これでマオーとヤハーの孫の件はあきらめてくれるわね?」
 女はサラの様子から失敗の臭いを感じ取っていた。今までも下見と実行の際、送り迎えをし、協力してきた。サラはいつも無表情で感情を表に出さず、冷静だった。が、今日は息が上がり、その顔にはかすかに失望の色がにじんでいた。

 しかし女の問いに対し、サラは無言だった。あきらめるという選択肢はなさそうだ。

「やっぱり、あなたをこのままにしたら危険かもね」
 女は振り向き、隠し持っていた銃でサラの眉間を狙った。
 ――上からの命令よ、悪く思わないでね――

 吹き荒む風の音が乾いた銃声を飲み込む。
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