幼なじみは魔法使い!?(48/55)PDFで表示縦書き表示RDF


幼なじみは魔法使い!?
作:須賀 隆太郎



VOL.47:怪しい男


 ――少し時間は戻って、まだ太陽が照りつけているころ、ちひろたちが遊んでいる海辺を一望できる崖の上の建物から、男が一人、双眼鏡を使ってその様子をうかがっていた。
「じい、いるかい?」
 おもむろに双眼鏡を置いて窓辺から少し離れ、誰もいない部屋の入り口に呼びかけると、
「お呼びですか、ひかる坊ちゃま」
 先ほどまでは誰もいなかったはずの部屋に、執事風の老人が姿を見せた。
「済まないんだけど、眼下(した)の海岸で遊んでる双子の女の子たちのことを調べてくれないかな」
 輝と呼ばれた男は老人にそう頼んだ。
「海岸で遊ぶ女性たち、ですか。……失礼します。ふむ、かしこまりました、輝坊ちゃま」
 じいと呼ばれた執事風の老人は窓辺に寄って双眼鏡を使い、目標物(ターゲット)を確認すると、一礼して部屋を出ていった。


「夕飯できたよー」
 ちひろとみちるがおたまでフライパンを叩いて知らせる。それを聞いて、あちこちに散らばっていたみんなが集まってきた。
「おっ、カレーか。どうりでいい匂いだと思った」
 昼間の心のキズは癒えたのか、峻佑がいち早く食堂に駆けつけた。
 その後、続々と食堂に集まり、賑やかな夕食が始まった。
「うわ、このカレーうんめえ! おかわりっ!」
 耕太郎もすっかり元気になって、ものすごい速さでカレーを食べていた。
「おいしいって言ってもらえてよかったわ。でも、そんなに焦って食べなくてもまだおかわりはいっぱいあるよ。そんなに焦って食べて、喉に詰まらせても知らないわよ?」
 耕太郎におかわりを盛ってやりつつ、笑いながらたしなめたちひろだったが、
「いやホントおいしいですよ! これならあと2〜3杯は……うぐっ、み、みず……」
 言ってるそばから耕太郎はご飯を喉に詰まらせて苦しみ始めた。
「もう、だから言ったのにー! はい、お水! しっかりして、沢田くん!」
 ちひろは慌ててコップに水を汲んでくると、耕太郎に手渡して飲ませた。
「ぷはあっ! あぶねえ、美味いもの食いながら死ぬところだった……」
 なんとか耕太郎は水を飲み干して生還すると、冗談混じりの言葉でおどけてみせた。しかし、本気で心配していたみんなにそんな冗談は通じるはずもなく、全員ただ無言で耕太郎を睨みつけた。
「……ゴメンナサイ。もう少し落ち着きます」
 何度殴り飛ばされてもピンピンしていた耕太郎だが、さすがにこの無言の圧力はこたえたらしい。素直に謝ってしゅんとしていた。


「坊ちゃま、入りますぞ」
 その頃、崖の上の建物では、先ほどの老人が輝の部屋をノックして入っていくところだった。
「早いね、もうわかったのかい?」
 輝は嬉しそうに老人にたずねた。
「はい、彼らは東京の高校生とその姉夫婦、さらに友人たちのようですね。何か気になるところでもございましたか?」
 老人はいったいどこでどのようにして調べたのか、調査結果を淡々と伝え、最後に聞き返した。
「あの中に、同志がいるみたいなんだよ。誰がそうなのか、もしかしたら全員そうなのか、まだわからないけど、ぜひとも仲間に加えたいね」
 輝はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべると、老人に話した。
「なるほど、そうでしたか。では、明日もう一度調べてみましょう。どうやら彼らはまだここに滞在するよう――」
 老人もまたフッと薄い笑みを浮かべながら言った。と、
「いや、明日はボク自身が行こう。近くまで行けば誰がチカラを持ってるのか感じ取れると思うしね。まあ、ボクの見立てでは、あの双子の姉妹がそうなんじゃないかと思ってるけど」
 輝はじいの言葉を遮って自ら動く意思を見せた。
「大丈夫ですか、坊ちゃま。必要なことはこのじいに言って下されば全てこなしますぞ」
 じいは輝を心配して、そうたずねた。
「大丈夫さ。彼らの中にいる“チカラを持つ者”がどんなものかまだわからないけど、ボクもまた“魔法使い”なんだから。じいが心配することは何もないよ」
 輝は自らが“魔法使い”だから、という理由で大丈夫だと言った。
「……そうでしたな。じいが出過ぎたマネをいたしました。では、私はこれで」
 じいは軽く頭を下げると、部屋を出ていった。
「フフフ……同志を見つけるのは初めてだから胸が高鳴るよ。ああ、明日が楽しみだ」
 後には、輝の独り言が不気味に響くのだった。

 翌日。昨日とは打って変わってどんよりとした曇り空。しかし、雨は降ってないので、ちひろ、みちる、峻佑、耕太郎、そして一条の5人だけが海辺に出ていった。雲雀が出てこなかったのは、昨日はしゃぎすぎて全身筋肉痛を起こしてしまい動けないかららしい。また、さとみたち夫婦やシエルの面々は、“そんなに焦って遊ばなくても、まだ時間はあるんだし”との理由で室内に留まっていた。

「風が出てきたな……」
 さすがに曇り空の下、海に入るのは躊躇ためらわれたので、5人でビーチボールをして遊んでいたのだが、段々風が出てきて、ボールが流されるようになってきた。
「そうだね……そろそろ戻る?」
 ちひろがボールをキャッチして峻佑たちに聞いてみた。と、そのとき。
「ちょっと待った。あれは……?」
 峻佑が海を見つめて、波間を指差して聞いた。
「大変、あの人溺れてる! 助けなきゃ!」
 ちひろがボールを投げ捨てて海に飛び込む。それを見てみちると峻佑も後を追い、一条と耕太郎は別荘へ知らせに行った。
 3人とも、泳ぎは下手ではない。すぐに溺れてる人のところへたどり着き、峻佑が支えた。だが、さすがに泳ぎが上手い峻佑でも、人を抱きかかえていると泳ぎにくいため、帰りはちひろとみちるが密かに魔法で腕力や脚力を強化して、峻佑と青年を引っぱり出した。と、そのとき。背後から大波が4人を襲った。
「みちる!」
「うん! 行くよ、しっかり捕まっててね!」
 波が4人を押しつぶしかけたその瞬間、間一髪テレポートで脱出し、波打ち際に倒れ込んだ。
「みんな、大丈夫!?」
 ちょうどそこに一条と彼が呼んできたさとみたちがやってきた。
「うん、あたしたちは大丈夫。けど、この人は溺れて気を失ってるみたい。ちゃんと心臓は動いてるし、水もそんなに飲んでないはずだからたぶん問題はないと思うけど……」
 ちひろは峻佑が抱えている青年の心配はなさそうだ、と話した、そのとき。
「坊ちゃま!」
 海辺の道路から一気に坂を駆け下りて、執事風の老人が一行のところに向かってきた。
「この人の保護者ですか?」
 さとみが老人にたずねると、
「はい。あ、すみません。申し遅れました。私、そちらの(ひかる)坊ちゃまの執事を務めさせていただいてる、北海(きたうみ) 道雄(みちお)と申します。先ほどから坊ちゃまの姿が見えなくて探していたところだったのです。助けていただいたみたいで、なんとお礼を申し上げてよいやら……」
 執事風の老人は、自らを北海、青年を輝と紹介し、助けてくれたことに礼を繰り返した。
「いえ、海に飛び込んで輝くんを助けたのはこっちの3人です。それに、お礼なんかよりも、早く輝くんを休ませてあげたほうがよろしいのでは?」
 さとみは恐縮しきりだったが、ハッとしたように、北海に輝を休ませるように言った。それを受けて、輝を抱えていた峻佑が北海に輝を受け渡す。
「では、後日改めてお礼に伺わせていただきます」
 北海は輝を抱きかかえて車に戻ると、急いで走り去り、峻佑たちもそのまま別荘に戻っていった。


「輝坊ちゃま、もういいですぞ」
 海辺から離れ、移動中の車内で北海が呼びかけると、何事もなかったように青年が目を覚ました。
「ふう、溺れたふりするのも楽じゃないな」
 青年――輝は笑いながら言った。
「お疲れさまでした。それで、誰が“チカラを持つ者”なのかわかりましたか?」
 北海は輝をねぎらい、そのついでに聞いてみた。
「ああ、偶然にも最後に大波が押し寄せてくれたおかげでわかったよ。やっぱり、あの双子の姉妹がそうだった。さて、じい。彼らの通う高校に編入する手続きを取ってくれないか?」
 輝は嬉しそうにそう話した。
「かしこまりました、輝坊ちゃま」
 北海は頷き、車は彼らの屋敷に到着した。
「フフ、ちひろにみちる、か……ボクに服従させてあげるよ。フッフッフ……」
 屋敷に入りながら輝は不気味な独り言をしゃべり、
『ハックション! あれ、風邪でも引いたかしら……?』
 噂されてるとは知らず、ちひろとみちる、2人同時にクシャミをするのだった。


終始謎の行動と発言ばかりだったこの輝という男、何者なのか。
峻佑たちはまだ知らない、この男が後々自分たちに大きく関わってくることを――
こんな思わせぶりなことを書いておきながら、次回は夏休み終了間際の、いつものドタバタ劇。
――姉妹の想いが、はちきれたとき、市原家は戦場と化す。
次回、VOL.48:想いの暴走(仮)  7/30 0時更新予定です。






ネット小説ランキング>現代コミカル部門>「幼なじみは魔法使い!?」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう