聖女の国
遊森謡子さまの企画、武器っちょ企画参加作品。
この度、カムバックだそうです。
武器っちょ企画とは……タグに武器っちょ企画といれること、短編であること、ジャンルはファンタジーであること、マニアックな武器もしくはマニアックな武器の使い方。
―――非武装国家、アルテアラ。大陸の全土を覆うように広がる、巨大国家。そして、実質の周辺の国家の中心的な盟主国である。
普通なら、武装した国が中心的な存在となるであろう。しかしながら、その背景には、特殊な事情がある。
―――まず、この大陸は魔に狙われている。
魔に対抗するべく、立ち上がったのが聖女、そして勇者。
「はいよー、花はいらんかいねぇー」
アルテアラ国、南部ストラテルト地方、第2都市リンガ。別名花の都、その温帯な気候から冬には寒さから逃れる貴族のために賑わう都市。春真っ盛りの今は、花の売り子達が街のあちらこちらで見られる。彼女たちは皆、近くにある花の生産農家で結成された花協会に所属する。ゆえに、ひとりひとり決まった売る場所――縄張りがある。リンガの春は、天候のみならず、生産者達の懐も暖かくなる季節でもあったのだ。
「はい、パンジーの花寄せだね、どの色合いが好みだい?」
と、今日もおそろいのお仕着せの彼女たちの営業の腕が鳴り響く。パンジーの花寄せは、パンジーだけで作った手のひらサイズの小さな花束のことで、可愛らしい模様をすき込んだ紙とレースのリボンで整えた大変可愛らしい見た目のリンガの名物のひとつである。
「おや……あらあら」
小さな、小さな可愛らしく整えた荷車から売り物の花を客に渡そうとして……売り子のアンはため息をついた。
「しょうがないねぇ?」 何が起きたかよくわかっていない客に自分の後ろへ下がるように告げながら、アンは上空を見上げた。
―――そこには、街の上空に現れた幾数かの鳥形のモンスター。小さいが、くちばしの先はドリルのように尖り、回転して襲いかかってくるし、一差しであちらへ逝ってしまう猛毒をもつ。そんな毒々しい蛍光ピンクの体毛をしたカラスのモンスター、ちなみに目はこれまた毒々しい派手な真っ黄色、くちばしはどぎつい原色の赤。大変目にも毒々しくかつ痛々しいモンスターである。
しかし周辺の人々は、一部を除いて冷静に建物の中へ避難していく。その足取りはたいへん慣れていた……さもいつも通りだといわんばかりに。残る一部は、他国からやってきた観光客。このアルテアラ国の民ではない彼らは、血の気のない青白い顔で、びくびくとしながら周辺を見回していた。その表情は、モンスターへの恐怖より、周辺の人々の態度が信じられないという強い戸惑いに彩られていた。
「さあさあ、巻き込まれたくなければ下がってなぁね!」
ほらほらと、アンは周囲の観光客たちを近くの建物へ追いやる。建物内からも、避難した人がちらほらと、ぼさっとする観光客たちを建物内へ引きずり込んでいた。これも、天晴れなほどに大変手慣れた手つきであった。
「よしよーし」
売り子アンは、軽く肩を回しながら、荷台の中へ片方の手を突っ込み、掻き回して目的物を取り出した。――取り出されたのは、少し長めの竹製の水筒が2本、だった。水筒の蓋をきゅぽんっと高い音をたてて抜き、アンは上空へ首をやり、軽く両足を肩幅に開いて、腰を落とした。
「さーぁ、いつまで飛び回ってんだい!」
ピンクのカラスのモンスター、カラピンはあぁ見えて実は知性が高い上に、数匹で一人を狙うことを好む好戦的な性格である。だからこそ、対象を一人に絞るまで誰も襲われなかったのだ。そして、好戦的な態度をとられれば一目散にその対象をロックオン、襲いかかる!!
「あははははははははっっ!!」
――売り子のアン、別名を狂喜のアン。
アンは狂ったように高笑いしながら、水筒を上空へ向けて構え、
「きゃははははっっ!!」
と、実に楽しそうに笑い始めた。建物内の観光客たちは、この光景にドン引きであり、他の人々はあぁまたいつものが始まったとばかりに首ををふり、ぽんぽんと観光客の肩を叩いた。諦めな、と。
そして、水筒からはあり得ない、凄まじい勢いで水がほとばしり、モンスターを一撃で仕留めていた。水で撃ち落とされたモンスターたちは、例外なく地面に落ちるまでに空中で文字通り霧散し、消滅した。
その光景を信じられないとばかりに首を横にふる観光客Aに、近くにいたリンガ住民が声をかけた。
「あんちゃん、どこの国から来なすった?」
いかにも俺ぁ職人だぜ!という風体のハチマキおじさんが聞けば、観光客Aは大陸最西端の魔法国家の名前をあげた。
「ほう、団体旅行でこちらに?あそこは魔族やモンスターの影響がほぼない安全な国だからなぁ。こっちにわざわざ旅行なんて、すごく危機感なくねぇかあ?」と、心底心配だといった顔でおじさんは大丈夫かよと呟いた。
「ここは、魔王のお膝元、魔大陸が真南にあるんだ。それを知らんだのか。魔大陸が近いから、影響バンバン受けてんのを」
頷く観光客Aに、おじさんが呆れ疲れたようにぐったりとした。
―――翌年、その国にこの国の親善隊が訪れ、国防を建て直すべく東奔西走したのはまた別のはなし。
―――非武装国家、アルテアラ。大陸の全土を覆うように広がる、巨大国家。そして、聖女を擁する国。聖女は何名かおり、皆が皆浄化の力をその身にひめる。大陸の東西南北の要所要所の河川の水源地に彼女らは派遣され、
「あーいい湯だこと」
と、今日も湯地場と化した水源地にて湯あみをしている。
―――普通なら、武装した国が中心的な存在となる。しかしその背景には、特殊な事情がある。
それは、大国アルテアラが聖女を擁することが一番に大きい。
聖女は、水ないし湯にその身を浸すことで、その水ないし湯を聖水とすることができる。もちろん、聖水は魔を退ける。聖女が身をを浸した水源地の聖水と化した水は、たくさんの河川となり、大陸中へ伝播していく。地下へ染み渡り、作物が地下より吸い上げる。河川にすむ魚たちが聖水の中で生きる。河川の水は海へと流れ蒸発し、雨となり各地を覆う……このサイクルがここしばらく繰り返されて、徐々に大地が聖水に侵され――否、聖水を受け入れることで浄化の力を持ち始め、また退魔や耐魔の性質をもつようになった。この植物や魚を食す人もしかり。とくに、大陸全体を覆うアルテアラの民はとくに強い。なぜなら、領土が広いと国民がたくさんいるから。逆に、魔大陸の影響の少ない国々はそのことをあまり知らないが。
この考えを広めたのは、五十年前に他界より訪れたひとりの男。聖女の聖水を巡らせ、時間をかけ環境を整える。
―――そして。
武器をもつものは、武器をもつがゆえに恐れの心をもつと説き、銃刀法を制定した……これがアルテアラが非武装大国へと生まれ変わった瞬間である。
―――魔に対抗していたこの時代、人々が武器を手に持たず魔と戦い、勝利をおさめていた。あるものは聖女印の水筒(聖女が開発し、無償配布した制限なしに水を呼び続けるジェット式。魔に対し向けた時だけ武器と化し、それ以外はただの水筒)で戦ったり、軒先のホースから聖水をぶっぱなしたり、バケツリレーよろしく聖水をぶっかけたり。
その当時の勇者―初の女勇者エルルカ―もハエ叩きに姿を変えた聖剣を手に単身で戦い、魔王に余裕で勝ったという。
後の世の歴史学者は語る。
―――銃刀法で幕を開けたアルテアラ時代は、どこへいってもハエ叩きで笑いを誘う笑劇の女勇者エルルカ・シドリーと、狂喜のアンを始め歴戦の勝者ではなく笑者の強者どもが活躍した時代だと。
この時代は、武器がなくとも笑いをもって戦えるのだと人が知り、また武器を持たないことで殺人などの悲劇がぱたりとやんだ、別名武器屋絶滅時代という。
―――自然に聖水を浸すことにより、自然の聖水結界を作ったこの時代。後にこれが永久的なサイクルとなり、灼熱砂漠地帯の魔大陸まで聖水の雨が降り、やがてすべての魔が住めなくなり、絶滅したのはあとの時代のはなし。
少し、背景を。
エルルカの生きた時代のはなし、です。あんな時代でした。エルルカをはずかしくさせた武器のすべての原因、銃刀法をもたらしたのは日本人の法律家。そして、聖水は強し。あんな聖水の使い方したら、なんか違うとつっこみ入りそうですが、つっこまないでくださいね。
感想おまちしてます〜。
てか聖女の国じゃなくて聖水武器の国?