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異世界転移女子~ハルカ、無双します!~ 作者:神崎 創

序 章 転移 編

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 5) アルセア防衛戦~今の自分にできること?

 ハルカが押っ取り刀で駆けつけてみれば、今まさに激戦が開始されたところであった。
 場所はアルセア村の入り口付近。押し寄せるドボスの歩兵部隊を、メスティアの精鋭達が必死に切り防いでいる。
 ヘレナいわく、ドボス軍は王女アリスを含めたメスティア王国の生き残りをことごとく討つべく、アルセアの村ごと攻め滅ぼすつもりなのだという。ここは大陸からはるか遠く離れた辺境の島ゆえ、もう後がない。アルセアが陥ちることはそれすなわち、フィルフォード家の断絶そしてメスティア王国の完全な滅亡を意味する。
 これまでも何度か小競り合いが繰り返されているものの、ベックやウォリスらの奮戦で、都度撃退してきたという。

「怯むな! 相手はガルザッグ軍本隊じゃない、手先に成り下がった裏切り者ドボスの寄せ集めだ! ベックを中央に、足並みを揃えろ! ――マーティにニナは後方から援護しろ! 向こうは歩兵しかいない、流れ矢を気にする必要はないぞ!」

 声も枯れんばかりに味方を叱咤し、指示を飛ばし続けているのはリディア。
 その鬼気を帯びた横顔が、赤々とした光に照らされている。
 ちょうど、村の正面を包むようにして広がっている森林が火に包まれ、ごうごうと燃えさかっていた。一人たりとも村から逃がさない、ということなのであろう。火の手は広がっており、辺り一帯はまるで昼のように明るい。
 指揮官は彼女かと思ったが、違っていた。
 よく見れば、王女のアリス自ら剣を取って戦陣に立ち、ドボス兵を斬り伏せているではないか。
 一撃を加えたかと思うと素早く身を翻して敵の斬撃を回避、そこから反転しつつ勢いを駆って斬りつけるなど、動作の一つ一つが無駄なく流暢に連続している。まるで舞のように美しい。彼女が単に守られているだけのか弱い姫でないことを、ハルカは知った。

(うわ! アリスさんが戦ってるじゃん! なんか、サポートとかしたほうがいいのかな……?)

 思ったが、同時に気付いた。
 ――サポートったって、何すりゃいいんだよ。
 加勢しようにも、手に何も持っていない。
 これといって思いつかないまま、突っ立って戦いの様子を眺めていると

「何をしている!? 貴様は下がっていろ! ここは戦場だ!」

 いきなり背後から罵声が飛んできた。
 へっと振り返り見やると、リディアがこちらを睨みつけていた。

「あっ、あのっ! あ、あたしも、何か、その、お手伝いとか、できないかな、とか、思ったり……」

 彼女の迫力に圧倒され、物言いがごにょごにょになっているハルカ。
 が、リディアはハルカの気持ちなどお構いなし、といった感じで

「昼間はヘレナ殿を救ったかも知れないが、私はお前の力など頼りにする気もないし、そもそも信じていない。戦いの邪魔だ、命が惜しいなら下がっていろ!」

 取り付く島もない。
 ムッとしなくはないものの、彼女は単に言葉がきついだけではなく、侵しがたい威厳がある。
 そうだよね、とハルカは頷かざるを得ない。
 一緒になって戦おうにも、武器もなければ戦い方もよくわからないのだ。昼間は無我夢中だったし、相手も数人づつだったからまだいい。しかしこのように乱戦となっては、どこに行って何をすればいいか、判断のしようがなかった。
 いよいよ猛り燃えさかる炎の照明を正面から浴びながら、なすすべもなく立ち尽くしているハルカ。

(あたしだって、何とか役に立てそうなものなんだけどなぁ……)

 生まれて初めて戦いというものを目の当たりにしながらも、不思議と恐怖感はなかった。
 日中、たった一人でヘレナを守って戦い、しかも自分には尋常ならざる力があると知ったせいかもしれない。
 ただし、そのことはアリスをはじめ誰にも自分の口から詳しく語ってはいない。
 隠すつもりはなかったが、ああいうのをどう説明すればいいのかわからなかったからだ。
 メスティア勢は善戦しているものの、次第に押されていっている。戦争のことなどさっぱり知らないが、劣勢になりつつあることだけはハルカにもわかる。
 なにしろ相手のドボス国軍は多勢に無勢、対するメスティア側は十人そこそこしかいない。敗走に敗走を重ねつつも王女を守り抜いてきた一騎当千の戦士ばかりであるとはいえ、数の差は大きすぎる。地の利を得ているからいいものの、このままでは突破されるのも時間の問題であるように思われた。

(これ、ヤバくね? つか、たった十人であんな大人数、防げるわけないじゃん! そもそも無茶だよぉ……)

 近所に住む喧嘩上等のヤンキーにーちゃんだって、ケンカはいつだってタイマンだ。
 その昔、桶狭間では織田さんちの信長君が今川さんちの義元君を少数のチームでやっつけたけど、あれは義元君の不意を衝いたから上手くいったのであって。
 歴史の授業でマーコは言っていた。アメリカ軍は常に大軍と物量で戦争をする、と。
 マーコっていうのは木戸誠という教師のことだが、特に意味はない。

 ――ダメじゃん、メスティア! ヤンキーのタカシ以下だよ!

 ハルカにヤンキー以下判定されたメスティア勢だったが、防戦に努める様はほとんど死にもの狂いである。何としても王女やこの村を守ろうというその思いだけはひしひしと伝わってくる。
 一生懸命なのに、必死なのに上手くいかないっていうのは――悲しいことだ。
 無性に泣きたいような叫び出したいような、そんな気持ちになっているハルカ。
 だが、今の自分に何ができるのか、見当もつかない。
 と、その時であった。
 あっ! という悲鳴にも似た声を、ハルカは素早く聞き取っていた。
 戦場の左端、メスティア側について戦っていた村の若者が地面に押し倒されているのが見える。そこを、数人のドボス兵が長剣を振り上げて取り囲んでいる。押し包んでめった切りにしようというつもりらしい。
 こうなるとハルカ、脳みそよりも先に身体が動く。
 咄嗟に地を蹴っていた。

「――待ちなさいっ!」

 自分のタックルの威力がどれほどのものかは昼間、実証済みである。
 光のような速さで突進してきた彼女に、ドボス兵達は気がつかない。
 というよりも、ハルカの運動能力がずば抜け過ぎている。
 三、四人ばかり密集した辺りへ、彼女の弾丸タックルが炸裂した。

「――!?」

 声を立てる間もなく、はるか向こう側へと弾き飛ばされていったドボス兵達。
 幾度か繰り返しているうちそろそろ要領をつかんできたハルカ、上手くバランスを保ちつつすっくと着地をキメた。ついでに

(男だったら正々堂々やりなさい! この卑怯者!)

 それっぽく台詞もキメてみた。が、それは心の内だけのことである。
 口に出すと厨二くさい。いや、バカみたいではないか。
 とりあえず無理矢理の力技ながら、若者を危機から救い出すことには成功した。
 無事であることを確かめようと振り返り、彼の相好を一目見た瞬間、頭のてっぺんが「ボッ」となってしまった。
 ――イケメン!
 いわゆるアイドル顔で、目鼻立ちがシャープながらもどこか甘い印象を感じさせる。やや幼さを残しているが、それもまたハルカの目には魅力の一部として映った。
 野性的なウォリスも素敵だが、こういう美青年というのも心を惹かれてしまう。

「大丈夫ですか? 余計な真似をして、ごめんなさい。あなたが危ないと思ったので、つい……」

 助けてやったハルカのほうが、恥ずかしそうにしている。
 青年は驚いたような顔で固まっていたが、やがて心地が蘇ってきたのか、ゆるゆると表情を緩めかけた。
 が、すぐにビッとハルカの背後を指し

「あっ、危ないっ! うしろ、うしろですっ!」

 叫んだ。
 ハッと振り返れば、新手のドボス兵達が殺到しつつある。
 数が昼間の比ではないのだ。
 ――ああっウザい! せっかくイケメン君と出会ったのに。
 ハルカは思わずイラッとしたが、それは今はどうでもいい。
 一気に十人以上のドボス兵がこっち目掛けて押し寄せてきているのだ。
 ともかくも、それらを近づけさせてはならないと思った。イケメン少年は相当疲労しているらしく息が上がっており、すぐに立ち上がって戦えそうもない。

(彼を守らなきゃ!)

 咄嗟も咄嗟だった。
 傍に太い棒のようなものがあるのに気付くと、それをむんずとひっつかんだハルカ。力任せに振り回そうとした。
 とりあえず、相手の剣を防ぐための得物にするつもりだったのである。
 が――ハルカがろくに確かめもせず手に取ったそれは、ただの棒などではなかった。
 横殴りに払ったところが、棒の先に長い何かがやたらとつながっている。

「ひゃっ!」

 危険を感じ、慌ててひっこめた若者の後頭部をすれすれに掠めた。
 ハルカが無造作に振り回しているその凶器、なんと丸太を縦横に組み合わせた柵であった。
 彼女に引っ張られた途端、あろうことか地中に打ち込んであった支柱が次々と抜けていき、あたかも巨大な鞭と化して宙を舞ったのである。
 しかも、ほぼ水平。
 根元を握っているハルカには、すぐ目の前の兵士しか見えていない。
 が、一瞬ののち、自分がとんでもないことをしでかしているのに気付くことになる。

「こっちに寄って来るなぁっ! ――って、あ、あれっ!?」

 数珠つなぎの丸太が空を切り、大蛇が腹をのたうたせるがごとく、ドボス兵を片っ端からなぎ倒していく。はね飛ばされたドボス兵が次々とマンガチックに宙を舞った。
 ハルカを中心として半径二十歩あまり、あっという間に無人のスペースが完成。

「わ、わわわ……」

 危うくその殺人的な一撃をもらいそうになった若者、地面に座り込んだまま呆然としている。
 ようやく事態を悟ったハルカは、慌ててつかんでいた丸太を放り投げた。
 ズンと地面に沈み込んだその丸太、一本といえど半端な重量ではなかった。

「あ、あら、ご、ごめんなさい! あたし、無我夢中だったから……あは、あははは」

 笑ってごまかそうとした。が、顔が引きつっているのが自分でもわかる。
 その胸中、もう一人のハルカが号泣していた。

(何やってんのよ、あたし! これじゃそこのイケメン君に怪力女だと思われちゃったわ……)

 ――まずいところを見られてしまった!
 いや、いつかは見られるだろうとは思っていたが、このタイミングはあんまりだ。
 大の男が数人寄ってたかって一本引き抜くのがやっとという柵の支柱を数本まとめて引っこ抜いたうえ、苦もなくぶん回してしまうとは。しかも、細いとはいえ丸太で組まれたそれを。誰から見たって化け物だ。イケメン君にドン引きされてしまっただろうと思った。
 ハルカにとっては不運だったが、この一撃で状況は一変しつつある。
 烈火のごとき勢いで攻め寄せていたドボス軍。
 ところが、ハルカがぶちかましたことで編隊の一角が崩れ、活動が鈍りだした。
 逆に、押されに押されて疲弊しかけていたメスティア側には生気が蘇った。
 自陣の中央に立って敵を食い止める盾となっていた重装歩兵のベックは、長大な槍を一薙ぎしてまとわりつく敵兵を振り払うと

「いいぞォ、ねえちゃん! やるじゃねェか! 俺っちも、負けてらんねェ!」

 片腕を高く掲げてハルカの働きに応じてくれた。
 その近くにあって前後左右に飛び回りながら動きの鈍い彼をサポートするかのように俊敏な戦いぶりを見せていたウォリスも、さっと三人ばかり斬り倒しておいてからつと足を停め

「……やるモンだねェ。さすが、姫様が見込んだだけのことはあるな」

 満足そうに笑みを浮かべると剣の刃を返し、再び敵の真っ只中へ斬り込んでいく。
 と、その勇敢さに思わずたじろいだ数人のドボス兵の胸板にそれぞれ、ほとんど同時に矢が突き立っていた。
 後方から弓士のマーティとニナが連続猛射を加えたのだ。
 この二人はハルカより僅かに歳上といった感じの若者で、昼間に集合を解散したあと挨拶をしてきてくれたから名前がわかっている。どちらもメスティア軍の生き残りとして、ずっとアリスを護衛し続けてきたのだという。マーティは気のいい青年、ニナは長い髪を束ねて横に垂らしたおっとり系美女といった感じである。
 弓部隊を擁していないドボス軍に反撃はできない。
 胸を射抜かれ、次々と倒れていくドボス兵。
 最前線の敵兵を一掃したところで二人はつと手を停め

「素晴らしいご活躍ですよ、ハルカさん! 僕も勇気をいただきました!」
「私達弓士も負けていられませんから! 援護は任せてくださいね!」

 それぞれ口々にハルカを称えた。

(あ、あれ……? あたし、なんか、みんなから褒められちゃってますけど?)

 今一つ事情が呑み込めていないものの、どうやら皆が自分の働きを称賛してくれているらしいと悟ったハルカ。
 わずかに気を良くしていると

「……ちょっとノア! しっかりしなさいよね! 日頃から剣の鍛錬をしっかりやってないからよ」
「ごめんよ、マリス姉ちゃん。自分ではそれなりに強くなれたと思っていたんだけど……」

 そんなやり取りが聞こえてきた。
 例のイケメン少年の傍に駆け寄ってきて、彼を助け起こしてやっている少女の姿がある。
 ぱっちりとした瞳をもった美しい娘であった。長い後ろ髪を三つ編みにして一つにまとめている。どうやら、若者の名前はノアといい、マリスとは姉弟らしい。
 ああ、恋人でなくて良かった。
 と、ハルカは胸中で密かに安堵した。

「今だ、皆! ドボス兵が怯み始めたぞ! この機を逸するな!」

 自らも鮮やかに剣を振るいつつリディアが、大声で檄を飛ばした。
 ベックの長槍が唸りを上げ、ウォリスの長剣が闇を切り裂き、マーティやニナの放つ矢が宙に幾つもの筋を描いていく。
 ほかにも、村の屈強な男達が巧みに連携し合っては次々とドボス兵を叩き伏せている。
 反撃に転じたメスティア勢の猛攻の前に、今度はドボス軍が退き始めた。
 これはもしかすると、いけるかも――。
 ハルカがそう思ったときである。
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