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異世界転移女子~ハルカ、無双します!~ 作者:神崎 創

第二章 目指すはバルデシア大陸・先行の旅路 編

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33) 船待ちの間~一世の一人の神スキル!?

 一夜にしてポームの解放に成功したという報が伝わるや、またしてもアルセス中が歓喜に満ち満ちた。
 王城へと駆け込んだ使者から一報を受け取るなり、アリスは動悸を押さえるようにしてしばらく胸に手を当てていたが

「とうとう、アルセス島全土をドボスの手から取り戻したのですね! ああ、ハルカ様……!」

 床に膝をつき、遠くのハルカに祈りを捧げるようにした。嬉しさのあまり、半泣きになっていた。
 他のメスティアの面々も、一様に喜びを隠さない。

「やりやがったな、ハルカ! あいつはどこまで凄ェんだよ!」
「救国の英雄ですね! ああ、私もハルカ様にお供して、一緒に戦いたい気分です!」

 あまりの皆の喜びぶりに、使者の青年は困ったようにしていたが、

「あの、今一つ、ハルカ様より、言伝がございます! ポームで船の修復を待ち、そのままロバルド島へ向かわれるとの旨、アリス王女様にお伝えするよう言いつかってまいりました!」

 と、言上した。
 ハルカが恋しくなっているアリスはやや悲しそうにしたが、そもそもハルカ達はそういう使命を帯びてアルセスを発っている。致し方のないことであった。
 彼女は使いの者に、何か不足があればすぐに言って寄越すようにと伝言を申し付けた。
 夜になり、急遽のことながら衆議が開かれた。
 ポーム、そしてアルセス島全土奪還という新展開を受け、これからのメスティア軍の方向性を決めようというのである。
 アリスの元に参集してきたのはリディア、ベック、マーティ、ニナ、ジェイ。これら古参の面々のほかに、新顔が二人混じっている。モディという元気な若者と、レアなる穏和そうな少女である。どちらもジェイが目をかけてやっていた狩人の卵であり、メスティア軍の陣容を拡充するために彼が声を掛けて連れてきたのであった。弓や長物の扱いに心得があるモディに対しレアは短剣程度しか使えないが、しかし罠や簡単な道具をこしらえるのが上手く、そのうえ野草や薬に詳しい。尊敬するジェイの誘いを受け、是非にと自ら志願してメスティア軍に加わることになった。
 リディアの意見により、メスティア勢はアルセスの復興にある程度の目処が立ち次第ポームへ移り、ハルカ達に合流すべくアルセス島から進撃することに決まった。
 衆議が済み、各々散会していったあとに残ったアリスとリディア。
 アリスは傍らに付き従っているリディアを振り返り

「忙しくなりますね。アルセス島の政をお任せできる人を決めて、あとのことをお願いしなければ」
「御意。アルセスもポームも辺境の地ではありますが、商いによってそれなりの潤いをみました。これからの新しい世界に必要なのは金と物の理ではなかろうかと愚考しております。亡きアルゼ王はご人徳にあふれた方でしたが、人々の暮らしを豊かにしたかといえばそうも言い切れないように思います」

 仁政は大切だが、それだけでは国ないし民の暮らしを富ませることは難しいという教訓を暗にこめている。
 金と物の理とは一見、利得が絡む生臭いものであるが、しかし一方では現実的な考え方でもある。一国の主の徳に頼った行き方では、人々の心に安らぎを与える反面、人々の暮らしの根本――食や住、業を指す――を確固たるものにするという保証は何もない。
 そしてまた、民の一人一人が国の行く末を案じられる域に至るためには、暮らしがしっかり成り立っていなければならない。今日明日の暮らしも定かでないならば、政への関心が疎かになり、結果としてダムのごとき国土簒奪の野心を持った者がのさばることを許しかねない。
 だが、人々の自立した暮らしを容易にすることで、そういった国に潜む危機に対して敏感になり、野心ある者を自然と受け付けなくなるであろう。徒に功利的であるのは弊害しか生まないが、適度な功利は世の動きに対する感覚を鋭く研ぎ澄ますことに役立つといえる。

「言っていることはわかります。しかし、金や物を上手く動かしていくには、そのことがわかっている者でなければなりません。かつ、国を治めていくには、やはり相応の徳を具えた者を中心に据えなければ人々がついていかないでしょう。そこはリディア、どうしますか?」
「はい。そのためにも、これからは街の人々にも大いに衆議を開いてもらうことが大切だと考えます。衆議による話し合いこそ、戦いに代わる次の世界のあるべき姿ではないでしょうか。自分達の上に立つ者をも、衆議によって決めていくのです。さすれば、より多くの人々が不満を抱くことなく、その人物を受け入れるに違いありません」

 異論ない、という風にゆったりと頷いたアリス。
 衆議によって人を選ぶという習慣が、ないわけではなかった。
 ただ、ごく小さな範囲――例えば村の長を決めるというような――に限ってのことであり、街や国のような大きな単位にあっては、衆議で人選を決められるということはごく稀だった。
 それをこれからはどんどん取り入れようというリディアの見解は、見方によっては凄みがある。
 一国の王をも衆議で決めようという流れすら生み出されかねないからだ。王家の存在の否定にもつながってくるかもしれない。
 が、であればこそ、本当に徳のある者ならば、黙っていても人々が歓迎するであろう。
 特に、アリスの様に慈悲深く聡明な者が、万民に受け入れられぬことはあるまいとリディアは思うのである。

「では、明日からでも、そのことについて有力者達と話し合いを進めていくようにいたします」

 そう伝え、主の前を辞したリディア。
 自室に戻る途中、ハルカが取り戻したポームのある北の方角を眺めながら、ふと思った。

(それにしても、ハルカを見ているとどこをとっても非の打ち所がないように思えてしまう。弱みの一つも持たないのだろうか。まさか、本当に女精エティシアの化身というわけでもあるまい。まったく、不思議な娘だ……)



 ハルカとランリィ、それにウォリスらを乗せた便船がポームの港を発つまでに、十日と少しという日数を要することになってしまった。
 幸いにも船は壊されておらず、すぐにもロバルド島へ渡りたいメスティアの一同だったが、傷みが激しいためとても航海は無理だと船乗り達は説明した。ドボス進軍以来、交易を絶たれたことで風雨に晒されたままだったのが良くなかったらしい。出鼻を挫かれたようなかたちになったが、やむを得ない。
 ライケルほか船乗り達は再び仕事ができるようになったとあって、俄然張り切り

「ハルカのためだ! 一日も早く、船を直すぞ!」

 と言って、アルセスから呼べるだけの職人を呼び寄せ、夜を徹して船の修理に乗り出す始末であった。
 すっかり、ハルカに心酔している。
 たった一人でドボス軍を殲滅したという一事が痛快でもあり、また男ばかりの集団にとってハルカは美しく咲く一輪の花と映るようであった。ただし、好評を得ているのはランリィも同様である。二人があまりにもちやほやされるのでエミーが「なんだい、あんた達! そんなに若い娘が好みかい!」と、言ったりしたが、もちろん冗談のつもりにすぎない。そのあと彼女はハルカとランリィを両腕に抱きしめて

「どう? 羨ましいだろ! この子達を抱きしめられるのはあたいだけなんだからね!」

 得意げに言ったりした。
 船乗り達が羨ましそうな顔をしたのは言うまでもない。
 その二人はすっかり手持ち無沙汰になってしまったが、この暇を活用して少し武器の腕を磨くことにした。
 力の弱いランリィは得物こそ思うさま扱えないが、持って生まれた器用さがある。投げ道具ならよかろう、というゼイドの意見を容れ、投げ刃という小さな武器の練習を始めた。ハルカに言わせれば、忍者が使う飛びくないとか手裏剣、になるのだが、要は投げて突き刺す金属片の総称である。有り様は一緒かもしれない。
 ハルカは当然、大剣。
 が、鍛錬といえどもウォリスやゼイドと直接撃ち合うわけにはいかない。まかり間違えば彼らをふっ飛ばしてしまいかねないからだ。
 ウォリスは考えた末、大剣の特性と活用の仕方を教えることにした。あとは自分で工夫しろ、ということである。そこはハルカも異存ない。

「いいか、ハルカ。大剣ってのはな、そもそもからいえば、斬るだけでなく防ぎも兼ねた武器なんだ」

 と、いう風にしてウォリスは説明を始めた。
 生徒が先生から物を教わるときのように、きちんと直立して耳を傾けているハルカ。鍛錬のため、体育の授業でするときのように長い髪を後ろで一つに束ねている。
 ――一般に、武器というのは、使い手の体格や特徴に合わせるのがもっとも望ましい。
 身体の小さな者が不相応に大きな武器をとっても、上手く使いこなすことは困難であろう。
 反対に、巨軀を持つ者の場合、武器が小さければ手に合わず扱いにくく、しかも十分な間合いをとることができない。武器を振り回した際にできる間隔が少なければ、それだけ敵の接近を許してしまうことになる。
 ただし巨漢の者というのは、剛力を具えていることが多々ある。
 武器を大きくすればそれだけ重くなるため、扱うには十分な腕力と体力が必要になるのだが、それに適しているのは即ち身体の大きい者、という言い方ができる。必ずしも、ということではないにせよ。
 大きな武器には特性がある。
 まず一つに、大きい武器は当然重くなるため、振り回すのが遅くなる。手数は稼げないわけだが、一方で一撃あたりの破壊力は大きくなる。
 もう一つ、大きいほど武器は頑丈になることから、使いようによっては身を守る盾のような役割を果たす。身体の大きい者はその分敵の攻撃を受けやすいゆえ、武器を上手く使って身を守ることが、戦場で生き残るために重要になってくる。

「……ここまではいいか?」
「はーい」

 ハルカの理解を確かめてから、ウォリスは先を続ける。

「いいか? 大きな武器は重いから振り回すのが容易でないし、むやみやたらと振り回せば使い手の体力を削いでいってしまう。だから、できる限り無駄振りを避けること、かつもっとも少ない動きで攻撃できるように、ある程度振りの形を身につけておくといい――」

 とまで喋ってから、はたと気がついた。
 ハルカに限っていえば、武器の重さなどまったく関係ない――。
 つまり彼女は、どんな重量のどんな大きさの武器だろうと軽々と振り回せるため、そのあたりの剣士と手数は変わらないのだ。

「あー……」

 教える内容を失ってしまい、言葉に詰まったウォリス。
 何を言ったものかと、天を仰いでいる。
 しばらく固まっていたが、不意にぽんとハルカの肩を叩き

「……すまん。俺から教えられることは、何もなかった。さっき喋ったことはぜんぶ、忘れてくれ」

 恥ずかしそうにそれだけを言い残し、背を向けて行ってしまった。
 ウォリス先生の剣技指南――あっさり終了。

「……はい?」

 あとに残されたハルカは呆然としている。
 意味がわからない。
 何故、途中で打ち切られなければならないのか。

「ちょっ、なにそれー! ウォリスさん、どーいうことですかぁ!?」

 その後、ウォリスをつかまえてもう一度説明してもらい、ようやく納得がいった。
 要は、ハルカのような剣士は前例――伝承にある創世の英雄譚を除き――がなく、教えるに教えようがないということであった。当然であろう。ハルカの存在自体、奇跡といってもいいのだから。
 教えてくれる相手がいないとなると、どうやって剣技を磨けばいいのか。
 ちょっと悩んだが、もともと自分でいろいろと工夫するのが好きな性格である。
 ウォリスやゼイドの素振りを眺めて参考にしつつ、どうすればより効果的な斬撃が繰り出せるのか、あれこれと思索してみた。
 そうして数日後のこと。
 大剣を手に独り色々と試していたときである。
 時代劇の武士がよくやるように、左腰に引きつけた状態から一気に振り抜くのがしっくりくるように思い、幾度となくそれを繰り返していた。
 と、突然。
 少し離れた位置に立っていた樹木が、どさりと倒れた。

「……あれ?」

 当てた覚えはない。完全に離れているのだ。
 恐らく幹が腐っていてたまたま倒れたのだろうと思い、そのまま素振りを続けていく。そうすると、周囲の木がどんどん倒れていくではないか。
 これはただ事ではない。
 切れた木の切り口をあらためてみると、鋭利な刃ですっぱりやったように断面が綺麗である。力任せに叩き折った、というものとは明らかに異なっている。

「おかしいなぁ……。この剣、何か仕掛けがあるのかしら?」

 もしやと思い、大剣を上から下までくまなく調べてみたものの、特に変わったところはない。
 独り首をひねっていると

「よう、ハルカ! 大剣抱えて、何やってんだ?」

 日課の鍛錬を終えたのか、ウォリスとゼイドが連れ立って戻って来た。
 今しがた起こった出来事を話して聞かせ、ついでに切れて真っ二つになった木のほうも見てもらった。
 すると、ただでさえ目つきの鋭いゼイドが、さらに目を細めて

「……これは、宙裂だろう。言い伝えに聞く、一世で一人ができるかできないかという神秘の剣技だ」
「宙裂、ですか?」

 一筋だけ引いた糸を正確になぞるように、かつ常人離れした速さをもって剣を振り抜くとき、その刃は宙を裂く。裂かれた宙気――現実世界でいう「空気」に近い意味合いらしい――が斬撃の軌道の形をとって素早く宙を走り、触れる物を両断してしまう。
 絶妙、という表現を通り越して神妙の域に到達した使い手だけが可能とされている剣技。ゼイドは「一世に一人」という想像もつかない言い方をしたが、決して大袈裟ではないらしい。
 解説を聞いて、ハルカはああと想像がついた。
 ゲームなどの必殺技でよくある、真空剣とかソニックスラッシュといったようなものではないか。

「いやー、びっくりですねー。本当にそんなことが起きるんだ。あはは」

 笑い飛ばしているハルカ。
 現実世界とは違う世界だから、そういうこともありうるのだろうと思いこんでいる。
 あまりにも軽いコメントに、ゼイドは呆れたような口ぶりで

「お前、これがどういうことかよくわかっていないな? 一世に一人と言っただろう。百万や千万の剣士がいても、そのうちのたった一人ですらこれをできないということだ。お前は、その神業をやってしまったんだぞ」

 普段無口な彼にしてはめずらしく、習慣外の長い言葉を吐いた。望んでも目の当たりにできないものに遭遇できたせいか、彼なりに興奮しているらしい。

「え? 練習すれば誰でもできるものじゃないんですか……?」
「そう言っている。俺とて宙裂が使えるものなら、もっと多くガルザッグ兵を斬っていた」

 ハルカは、はあー、と、目を丸くした。
 何やらすごいことをやってしまったようだとまでは理解したが、何がどうすごいのか、いまいち実感として湧いてこなかった。

「じゃああたし、なんでその宙裂とかいう技、できたんですかねー? ただ剣を振っていただけなんですけど」

 疑問を口にすると、さっきからじっと考え込んでいたウォリスが

「一つ、考えられることがある。その剣だよ」ハルカが手にしている大剣を指し「職人達がお前さんの手に合うようにって、鍛えてくれたものだろ? 手に馴染んで使いやすくなったことによって、今までよりも素早い振り抜きができるようになったってこった。武器と使い手が調和して思わぬ効果を生み出したっていう、一つの例だな」

 この説明は、ハルカの心にしっくりときた。
 武器と使い手の調和。
 すごくいい響きだと思う。
 もう一つ加えるなら――武器を作った職人の心、気持ち。
 職人達は、ハルカに贈りたい一心でこの大剣を鍛えてくれたが、その意思が「手に合う、使いやすい」という効果につながり、結果として予想もしなかった前人未踏の剣技に行きついたといっていい。
 あとは、使い手の姿勢。
 ハルカが剣の腕を上げようと志し、ウォリスに頼るのではなく自分で考えて工夫し、努力を惜しまなかった。そして彼女は自分にもっとも適したスタイルを見つけ出したが、その努力と工夫がなければ宙裂には到達しなかったに違いない。

(ありがと、武具職人のみんな……)

 アルセスにいる職人達にあらためて感謝の念を抱いていると

「……ゼイドよ。ハルカと撃ち合いに付き合わなくてよかったよな」

 芝居か本気か、身震いしたウォリス。

「撃ち合いに付き合っていたら、今頃俺かお前のどっちか、間違いなく真っ二つにされてたよ」
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