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異世界転移女子~ハルカ、無双します!~ 作者:神崎 創

第二章 目指すはバルデシア大陸・先行の旅路 編

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30) 見ちゃったり、見られちゃったり

 俯瞰する限り、ポームの街は「コ」の字を描いているように見える。
 西側に向かって港の口が開いており、そこから船が出入りするのであろう。おあつらえに湾の形を成しているから、最初に上陸したアルムという商人の男がここを港に選んだ理由が十分わかるというものである。良港といっていい。
 敵の襲来にも十分備えうる地形であるはずだが、なぜ魔族の上陸を許してしまったのか。

「リディア様が仰った、オルロスという者の名を覚えておいででしょうか? ガルザッグに寝返った男ですが、ダムと密かに通じたあと、ロバルド島から魔族の兵を隠した船を動かしてきて、何食わぬ顔でこの港へ着けたのです。不意を衝かれたポームの街は、瞬く間に魔族によって乗っ取られました。要は、策略だったのです」

 ランリィが簡潔に説明してくれた。
 しかしこのオルロス、結果としてアルセス島のことはどうでもよくなったらしい。
 ダムが興したドボス軍によってアルセス島征服が完了するや、自分はさっさとロバルド島に引き上げてしまったのである。ばかりか、交易船さえ寄越さなくなってしまったため、アルセス島はほとんど孤立も同然となった。ダムにもう少し知恵があればポームの船乗りらに船を出させたのであろうが、蛮獣のような彼はアルセスを手中にしただけで満足したのか、何もしようとはしなかった。
 オルロスとしては、飾り石が採れなくなったアルセスには何の魅力も感じなかったのかも知れなかった。
 あるいは、ダムが黙っているのをいいことに、アルセス占拠を自分の手柄として魔王ディノに報告したということも考えられなくはない。どのみち、オルロスは非常に狡猾で、よほど食えない人物であるといっていい。
 そこでふと、ハルカは考えるのである。

(魔族に加担した人間を捕まえたら、そのあとはどうするのかしら……? みんな、絶対に許さない、処刑だって言うよね。魔族に死を与えるのだって嫌なのに、人間なんてなおさらだわ……)

 この先、そういうケースに遭遇するに違いない。我が身可愛さのあまり、同族を裏切って魔族と手を組んだ人間も少なからずいるであろう。それらの裏切り者に対して人々は復讐に燃え、殺そうとするのは火を見るよりも明らかであった。相手が同じ人間だからといって容赦するとは思われない。それが人としての心情だといってしまえばそれまでなのだが。
 ダムの処分でさえあれだけ揉めに揉めたのだ。今後もああいうシーンに立ち会わねばならないかと考えると、憂鬱な気がせぬでもない。
 それはともかく、今はポームの街からドボスの残党を駆逐しなければならない。
 二人はポームの北東、すぐ直下に街を一望できる位置まで進出してきている。位置関係をコの字で表現すれば、一画目と二画目の交点、右上の角の部分にあたる。
 雑木林に身をひそめ、木陰からじっと街の様子を窺っているランリィ。
 ハルカも眺めてみた。相変わらず闇に閉ざされていて仔細まではわからないものの、人里であるからなのか、おぼろげながら通りや建物の配置などは見えなくもない。街とはいえ、アルセスの規模と比較すれば村みたいなもので、アルセアに毛が生えた程度の数の人家しかない。港も、どちらかといえば小さな船着き場という形容がぴったりである。ただ、船着き場を擁する交易の拠点であることから、付近の建物一棟一棟はそれなりの大きさを有している。船から陸揚げされた物品を保管したり、反対に船で運びだす品を一時的に置いておくためであろう。
 状態を把握したランリィが、いちいち指しながら説明を加えてくれた。
 南側にやや大きめな扉があり、そこがアルセスに通じる門。傍の建物はドボスの連中の兵営と思われた。街の人々が抜け出さないように監視すべく、入り口付近を固めているに違いない。つまり、残党の多くはその付近に集中しているとみていい。
 次に反対側、もっとも手前側に点在している建物の幾つかを指しつつランリィは

「以前と変わっていなければ、それらが積み荷倉でして、船乗りの人達もそこにいると思います。見張りのドボス兵が立っていますが、数は二人程度です。人々が勝手に出歩かないように建物の入り口を見張っているのでしょう」

 ふむ、と頷いたハルカ。

「確か、エミーさんが言うには、大きな建物のところで『お宝を手にした』って伝えるって話だったよね? でも、みんな大きな建物じゃない。いったい、どれのことかしら?」
「そうですね。恐らく、船乗り達を仕切っている船乗り頭に伝えるように、という意味ではないかと思うのですが、これではどこにいるのか見当がつきにくいですね……」

 苦笑している。
 何かいい思案がないものかと考えていたハルカだったが、ランリィの身なりを目にしてふと思った。
 彼女は健康的に色っぽい衣装を身に着けているが、エミーもまた大胆に妖艶な格好をしていた。
 あれだけセクシーな船乗りならば、皆が彼女の存在を知らないということはないのではないか。むしろ、船乗り達の間で人気者だった可能性が高い。男社会というのはそういうもので、紅一点は得てして大切にされるのである。彼女自身「あたい、こう見えても野郎どもから言い寄られてキリがなくてねぇ」得意げに言っていた。
 つまり――

「ランリィ、こうしよう。全部の積み荷倉に入って行って『エミーさんがお宝を手にしました』って、言って回ればいいのよ。きっと、エミーさんの名前を聞いたら船乗りの人達が反応するはずよ」
「ああ、なるほどです! エミーさんほどの方なら、みんな知っているに違いありません」

 ランリィも賛同してくれた。
 ただし、これは秘密裏にやらねばならない。
 ドボスの残党が気付いて騒ぎ出すと、面倒なことになってしまう。できるだけ多くの人々に反撃の機会が訪れたことを先に報せつつ、ドボス兵が動き出す前にこちらから仕掛ける、というかたちにもっていきたい。

「行くわよ、ランリィ。まずは船乗りさん達のところへ、夜這いよ!」

 勢いづけるように言って、ハルカは立ち上がった。
 夜這いはちょっと、とランリィは思ったが、この際表現はどうでもよい。
 ちょうど、真下に積み荷倉が並んでいる。
 真っ直ぐに飛び降りればドボスの見張りに気付かれずにそれらの裏手に降りられるが、ほどほどの高さがある。常人がためらわずに飛ぶには無理がある。
 さてどうやって下りたものか、と思っていると、いきなりハルカに抱きかかえられた。

「えっ? あ、あのっ、ハルカ様、何を……?」
「しっかりつかまっててね! これくらいの高さなら、いけると思うから!」

 ぴょん。
 言うが早いか、プールにでも飛び込むようにして、あっさり飛び降りた。
 ランリィは一瞬ひやりとしたが、ハルカにはどうということもないらしく、しっかりと体勢を維持したまま落下し、そのまま着地した。驚いたことに、物音一つ立てない。あらためて、ハルカの人間離れした能力に舌を巻いたランリィであった。

「さて、と。窓はないかしらね、窓は……」

 独り言を口にしながら先に歩き始めたハルカ。
 次の瞬間。
 彼女と、何気なくその背を目にしたランリィがぎょっとしたのと、ほとんど同時であったろう。

「……!? あ、ら……?」
「ハ、ハルカ、様……! あの、あの……!」

 一歩踏み出したところで、ハルカは棒立ちになった。
 目前の暗がりに、一組の若い男女がいる。
 壁にもたれかかるようにして密着しあっており、両者とも上半身が肌蹴ていて半裸同然の姿。とどのつまり――睦みあっていた。
 そして、そのハルカの衣装。
 飛び降りた際に木の枝にでも引っ掛けたのか、裾の後ろが縦に裂け――彼女の形のいい尻がしっかりと露わになっている。外套を着用すれば隠れるであろうが、飛び降りるために外したままだから、当然尻も晒されっぱなしというわけである。
 密か事を見られた男女、それに各々見てはいけないものを見てしまったハルカとランリィ。
 四人が四人、その場で固まったまま動かない。
 ――少しばかり、沈黙が流れ。
 真っ先に慌てだしたのは、人目を忍んで睦み合っていた男女のほうであった。

「あ、あの、これは、その、違うんです! ど、どうか、お見逃しを……!」
「違います! この人は悪くありません! 罰するなら、この私を罰してください! 私はどうなろうと構いませんから、どうか、マチスだけは!」

 必死に命乞いを始めた男女。
 事態が飲み込めずに呆然としているハルカの背後では、ランリィが慌てている。

「あ、あのっ、ハルカ様! お、お尻のあたりが、その……! すぐに私が繕いますので、少しばかりご辛抱を!」
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