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異世界転移女子~ハルカ、無双します!~ 作者:神崎 創

第一章 メスティア軍の決起・アルセス解放戦 編

19/41

19) ボスキャラとローアングルにご用心

 ようやく上階へと続く大きな階段へと辿り着いた四人。
 時々思い出したようにドボス兵が姿を見せては斬りかかってきたものの、それらには都度ウォリスとリディアが応対した。ウォリスにしてみれば、これ以上ハルカに城を壊させてはならないというつもりらしい。
 途中、先に脱出した四人の若い娘達以外にも、労役を強いられていた人々を発見した。
 多くは若い女性だったが、老若の男性もいる。城の普請を修繕するために働かされていた者のほか、武器や甲冑の製作を手掛ける職人達も捕らえられていた。市中での自由を許せば反乱用の武具を作って蓄えかねないということで、連れて来られたのだとその一人が語った。城内ではもっぱら、ドボス兵の武具をあつらえさせられていたという。
 それらの人々を解放しつつ、一階部分はほぼ制圧。
 城内での激闘を予想していたハルカはちょっと拍子抜けしたが、リディアは事もなげに

「ここは、そもそも辺境の地だからな。魔族側も、多くの兵士を送り込む必要は考えなかったのだろう。ダムにせよバルゼンにせよ、自分達の剛力に絶対の自信をもっているような奴等だ。姫様が仰ったと思うが、魔族の多くは人間よりも体つきが細くて弱い。ダムとバルゼンさえいなければ、我々としてはもう少し早く行動を起こせたかも知れんのだが」

 そう説明した。
 が、すぐに表情を厳しく引き締め

「この先に待ち構えている将軍ダムだけは気を付けなければならない。バルゼンも豪勇で怪力だったが、奴に勝るとも劣らない剛力の持ち主だ。ダムの前では、アルセス軍の勇敢な戦士たちでさえ、子供のようにあしらわれて討たれてしまったのだからな」
「ああ。だからハルカよ」

 ウォリスは相槌を打っておいて、真っ直ぐにハルカを見た。

「女の子に向かってこう言うのも情けねェ話だが、ダムとの戦いはお前に力に頼るところが大きいと思う。俺やリディア、姫様の剣技をもってしても、奴の怪力だけはどうしようもねェ」

 彼が言わんとしていることはよくわかる。
 確かにウォリスもリディアも卓抜した剣の使い手である。が、怪力をもって振り下ろされてくる巨大な鋼材のような大剣に対しては、彼等の長剣は防御の用をなさない。豆腐でも切るようにして剣ごとぶった切られてしまうのは目に見えている。
 そこへいくと、ハルカ。
 相手の動きを見切る力を具えているうえに、相手の怪力と互角かそれ以上の力を出すことができる。
 彼女の肩にポン、とリディアは手をかけ

「もちろん、ハルカに任せっぱなしにする気などさらさらない。隙を窺って、そこを衝いてやる。相手一人にこちらは四人がかりになるが、ダムはアルゼ王を裏切った男だ。良心の呵責など必要あるまい」

 決戦にそなえて最後の激励、といった雰囲気だが、ハルカはといえば

(もしかしてあたし今、ウォリスさんとリディアさんにすっごく頼られてるー!? なんか照れ臭いっつーか、カイカン? モチ上がるわぁ!)

 ――と、一人悦に入っていた。つまり、緊張感ゼロ。
 大剣を握り締めてから、ふん、と水平に構え

「まっかせてください! ダムとはあたしが戦いますから、リディアさん達はお城の中を探索していてください――」

 言い捨てざま、階段を駆け上っていこうとすると

「待て、ハルカ!」

 急に、ウォリスが大声で制止した。

「一人で先に上るんじゃねェ! 忘れたのか? お前、下……」

 先頭をきって数段上りかけていたハルカは瞬時に凍り付いた。
 またしても、すっかり忘れていた。

 ――そういや今、穿いてなかったんだよね、あたし……。

 片手でスカートの裾を引っ張りつつ、顔を赤くしてすごすごと降段。
 が、ローアングルNGなのはアリスもリディアも同じである。
 リディアにいたっては股間の前を長く垂らした甲冑で隠しているものの、後ろはTバッグ同然の状態で、締まりの良いヒップの大部分がすっかり見えている。つまり構造上、股下は細い紐状のパーツ一本しか通っていない。ハルカのようにスッポンポンではないにせよ、ほぼノーパン状態。
 ウォリスの一言を聞いた彼女は、ハッとした顔になって

「あ、あの、ウォリス殿? 先ほどから私達の前を歩いていたのは、もしかして、その……」

 王城はやや高い位置に経っているため、ずっと緩やかな階段が続いていた。

「ああ、それもある。何せメスティアの淑女達ときたら、軽装で飛び跳ねるモンだからこっちとしては、な。剣士たる者の嗜みとして気を付けとかなきゃならないってワケさ」

 気まずそうに人差し指でぽりぽりと頬を掻いている。
 平地での戦いばかり続いていたため、リディアもアリスも迂闊にも気にしていなかったらしい。
 いささかも気の抜けない戦況だったこともあり、やむを得ないといえばそうなるのだが――。

「す、すまない……」

 あらためて、二階へと進撃。
 先頭はウォリス。後に続いて階段を上る女子三名、赤い顔をして項垂れている。

「あの、リディアさん? リディアさんってすごく色っぽいカッコですけど、その、やっぱり……」

 ふと思った疑問をひそひそ声で尋ねたハルカに、リディアもまたぐっと顔を近づけてきて

「ハルカ、何を言っている? 私だってこう見えても女だ。下から覗かれたら恥ずかしいに決まっているだろ! 私がこういう甲冑を身に着けているのは、また別の話だ。見られてもいいとか思っているわけではないからな!」

 声を忍ばせつつも強弁した。
 加えて

「……私が戦いの間もこうやって肌を晒しているのは、それなりに意味があってのことだ。ダムを倒してこの城を奪い返してから教えてやる」

 恥ずかしそうにぷいと前を向いた。
 へえ、と内心で驚いているハルカ。
 気候が温暖なことや戦闘時の動きやすさを考慮してのデザインだとばかり思っていたのである。それにしてはやたらと大胆だな、という気はしていたが。

「――おい、気を付けろよ! 二階にも、うようよいやがるぜ、ドボス兵の奴等!」

 注意を促すウォリスの声で現実に引き戻された。
 階段を上りきると踊り場のように広くなっており、ドボス兵が密集して待ち構えていた。
 これまた、重装兵ばかりである。

「ハルカ、済まないが――」

 ウォリスが振り返って頼むよりも早く、ハルカは飛び出していた。
 一足飛びに間合いを詰め切るその間にはもう、大剣を右後ろへ振りかぶっている。
 城を破壊してしまうとか何とか、思慮などはない。
 刹那、大剣が一閃。
 いかにも重そうな重装兵達が次々と、いとも簡単に跳ね飛ばされていく。
 ある者は壁に叩きつけられ、またある者は真っ逆さまに階下へ落下していく。
 ハルカの一振りで、ドボス兵の防衛線はあっけなく崩された。
 が、彼女の斬撃は止まらない。
 左へと振り抜いた大剣を、今度は右へと薙ぎ払う。
 またしてもドボス兵が宙を舞った。
 あまりにも鮮やかな早業。ウォリスらが手を出す暇すら与えなかった。
 廊下ががら空きになると、そのど真ん中を駆け抜け、右手に見える大広間へ。
 そうして――躊躇いなく一歩踏み込んだ、その時。
 目の前に何か大きなものが塞がっていることに、ハルカは気付いた。
 次の瞬間。

「――!」

 ほとんど反射的、というしかない。
 咄嗟に頭の上まで持ち上げた大剣に、鈍い衝撃。
 頭上から言い知れない殺意のような気配が降ってくるのを感じたのだ。

(――っぶねー……!)

 さすがに、ドキドキと鼓動が激しい。

「……おぅ? この俺の一撃を受け止められる奴がいたのか?」

 斜め上から野太い声が落ちてきた。
 ふっと見上げれば、血のように赤く、天井まで届きそうな大きな塊が目に入った。
 否、人。大男である。
 将軍ダム。ドボス国の実質的な独裁者である。
 やたらと映える赤いそれはごつごつとした武骨な甲冑であり、全身をくまなく覆っている。
 頭部だけは防具で包んでいない。
 ハルカが思わず「オオカミ男!?」と勘違いしそうになってしまったくらい、野性的というよりも野蛮な面つきである。
 茶色の髪が無造作に伸ばされたまま振り乱れ、鬢の毛が頬までつながっている。肌は灰黒色、あたかも肉食獣を彷彿とさせる鋭い目鼻立ちと下卑た口元。品あるいは知性といったものがまるで感じられない。年齢の判別に苦慮するほどに相好は醜悪そのものである。
 そして、巨岩のような手に握られている得物。
 辛うじて剣の形を模してあるが、平たい鉄の塊もとい建設現場にある鉄骨と表現したほうが合っている。長さは刃の部分だけでハルカの背丈をゆうに超え、幅は彼女がすっぽり隠れられるほどに太い。大剣ならぬ「剛剣」であった。
 まさしく、そのまま地獄の獄卒が勤まりそうな男である。
 こんな男の命を進んで救ってやったというアルゼ王は心が果てしなく寛大であったか、博愛主義者だったに違いない。
 ダムはハルカの姿を目にするなり「へっ」と鼻で笑い飛ばし

「何だ、小娘か。俺の打ち下ろしを食らって粉みじんにぶっ潰れなかったとは、運が良かったなァ」

 げひひ、と下品な笑い声を上げた。
 対峙しているハルカ、巨木でも仰ぐようにして下から見上げつつ

(うわ、でか! 何食ったらあんな図体になるの?)

 まず心に思ったのは恐怖でも何でもなく、なぜダムがこうも大きいのか、ということだった。
 魔族というのはそのほとんどが人間より体格が華奢でひ弱だったと聞いていたが、突然変異もいたものだろうか。それにしては大きすぎる。
 それはまあいい。
 背水の陣というべき覚悟を決めてアルセア村を出発して三日あまり。
 ようやくこの時がきた。
 アルセスの国と島を牛耳るガルザッグの手先、魔族の男ダムとの対決。
 ここに至るまでの間に経験した幾度かの戦いを通し、この世界への転移と同時に具わった不可思議な身体能力にも馴染んできており、まだある程度ながらも自分の思い通りに活かせるようになった。ダムとの体格差は歴然だが、今の自分なら対等かそれ以上に戦えるという自信が漲っている。
 大剣を握り締め、真っ向からダムと睨み合っているハルカ。
 そこへ、遅れてアリス、リディア、ウォリスが到着。
 彼等の姿を認めたダムは、ほう、と片眉を上げ

「そこにいるのは確か、メスティアの生き残りの姫だな? 潰されたメスティアを奪い返す手始めに、この俺を倒そうってのか? なんとまあ、健気な王女――」
「勘違いすんな、オッサン。あんたの相手は」

 ハルカは、まだ何か言いかけているダムを遮り、左手の親指でびしっと自分を指した。

「このあたしだっつーの。王女様にあんたみたいなフケツ野郎なんか触らせねーっての」

 挑発するように大剣をつきつけた。
 が、ダムはハルカの挑戦など意にも介していないらしく

「威勢がいいな、小娘。だが、その剣でどうやって俺と戦おうってんだ?」

 蛮族のような凶悪な相好に、野卑な笑みを浮かべた。

「……?」

 言われるがまま手にした大剣の先へと目線を走らせた。
 柄から切っ先へと伸びた刀身の真ん中あたり、糸のように一筋、黒い線が入っている。
 と、思う間もなく、その線から向こう側がすっと見えなくなった。
 ゴーン、と金属音。
 ――折れた。
 ダムの不意打ちの一撃を受け止めたときに、ヒビが入ってしまっていたらしい。
 分厚い鉄の剣を叩き折るとは、噂に違わぬ怪力ゆえになせる業であろう。

「ハルカ! いったん退け! その剣じゃ戦えねェ!」
「ハルカ様、ウォリス様の仰る通りです! いかにハルカ様といえども、素手では……!」

 ウォリスやアリスがしきりに促してくる。
 確かに、あの巨大な剛剣と素手でわたりあうというのは無理があるかも知れない。
 が。

「……」

 大剣の折れた部位をしげしげと眺めているハルカ。
 あらら、という顔をしている。
 手持ちの武器を壊されたのはキツいアクシデントであるにせよ、回れ右して逃げるほどのことでもないような気がする。せっかく、敵の首領をここまで追い詰めたのだ。ほぼ駆逐に成功したのであろうか、新たにやってくるドボス兵はいない。

(この剣、だいぶアンティークだったもんねー。つか、あっちの剣のほうがでっかいし頑丈だから、こっちのが折れて当たり前じゃん)

 だったら――と、ハルカは柄だけになった大剣をぽいと放り投げ、ダムのほうを向いた。

「ねぇ、オッサン」
「何だ、小娘!」

 ふふん、と鼻で笑ったハルカ。
 思いっきりドヤ顔をして

「それ、あたしにくんない? あたしの剣、折れちゃったから新しいのが欲しいんだけど」

 一瞬、ダムの頭上に「?」が点滅した。
 しかしすぐに、これでもかとばかりに眉間にしわを寄せた。こめかみのあたりにくっきりと筋が浮いている。
 いかにも舐めきったハルカの言い草に、腹を立てたらしい。

「あァ!? 小娘だと思って大人しくしてやってりゃ、図に乗るなよ! 俺ァ、気が短いんだぜ!」

 言うか言い終わらぬうちに、いきなり剛剣が唸りを上げて落ちてきた。

「こんな風になァ!」

 鉄塊が床を打ち、その部分が大きく抉れていた。
 粉砕された石の破片が周囲に飛び散る。
 その凄まじい力を目の当たりにしたアリスらはヒヤリとしたが――そこにハルカはいない。

「……オッサン、バカじゃないの? 動きがバレバレだっつーの」
「……何ッ!? 避けただとォ!?」

 いつの間にか、ダムの正面を避けて彼の右前に立っている。
 攻撃をあっさりかわしつつ、するりと間合いを盗んでしまっていた。
 ダムの動き、それに剛剣の軌道を読み取っていたのだ。
 彼は確かに怪力であろう。
 しかしながら、その腕力を誇るあまり、手にしている剣がやたらと巨大すぎる。一撃の破壊力は脅威だが、それだけに動作が単調で、しかもわかりやすい。ハルカにしてみれば、不意打ちでさえなければ避けるのに造作もないのだ。
 傍らをちらりと一瞥した。
 振り下ろされたままの剛剣。
 そしてちょうど眼前に、伸びきったダムの大木のような右腕がある。
 フッ、と口元に小さく笑みを浮かべたハルカは

「……ていっ!」

 片方のすらりとした美脚を上げたかと思うと、ダムの腕目掛けて力任せに踏みつけた。
 ただの蹴りとはいえ、大槌を振り下ろすに等しい破壊力が込められている。
 だだっ広い王の間に轟く、何とも名状しがたい不快な響き。
 手甲、石造りの床、そしてダムの骨、それぞれが同時に粉砕された音であった。

「――!?」

 一瞬、何が起きたのかわからない顔をしたダム。
 が、すぐに

「あっ、ぐあぁっ! があっ!」

 もう片方の手で踏まれた腕を押さえながら、のたうち始めた。

「いっ、痛ェっ! おっ、俺の腕がァッ!」

 激痛に耐えきれず、喚き、叫び、仰け反り、もんどりうっている。
 それもそのはずであった。
 ハルカに踏まれた肘の関節からやや先、二の腕があり得ない方向に曲がってしまっているのだ。踏みつけられた部位が奇妙な具合にへこんでいた。骨どころか肉まで潰れているであろう。
 苦痛に苛まれて転げまわっているダムを無視して、放り出された剛剣を拾うハルカ。
 ほとんど丸太に近い極太の柄を握り、ゆっくりと持ち上げてみた。
 さっきまで使っていた大剣より長さも幅も倍近くある。やや重みを感じるものの、それでもバットほども重いとは感じない。振り回すのに支障はなさそうである。
 自分が扱うのに問題がないことを確かめると、背丈の倍もあるその剛剣を、ダムのほうへすっと突き出してやった。しかも、片手。
 ほとんど泣き叫びつつ苦しんでいた彼だったが、これには目を大きく見開いて

「おまっ、こっ、小娘! な、なんで、その剣を持てる!? 俺だけしかつか、使えないはず、なのに」
「だからさっき言ったでしょ、オッサン」

 ハルカはへっ、と小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
 なまじっか顔立ちもスタイルもいいだけに、小悪魔風に見えなくもない。

「あたしにちょうだい、って。その腕じゃもう、使えないよね? これ、あたしがもらうね」

 いじめっ子が弱い子供から物を取り上げた光景に似ている。
 ああ、とウォリスは半ば安堵しかけていた。
 ハルカがダムのそれを上回る力を具えているという事実を目の当たりにしたからだ。
 こりゃ、俺達が無理に加勢するまでもないな。
 思うともなしに思った。
 一方でダム、自分より小さな少女に小馬鹿にされ腕を潰され、挙句自慢の剛剣まで取り上げられてしまっては面目も何もあったものではない。

「っざけるなァッ! この、小娘がァ!」

 痛みやら怒りやらで、すっかり我を失っている。
 左の拳を握り締め、ハルカ目掛けて突きを繰り出した。
 その大きさたるや、岩石を叩きつけるにも等しい。並みの人間が食らえば身体中の骨を砕かれてしまうであろう。
 だが、ハルカはその場を動かない。
 にへっと意味ありげに笑った。
 それも束の間、何を思ったか、いきなり剛剣を宙へと放り投げた。小城ながら大広間の天井は高い。剣はその重量を失ったかのように、軽々と舞い上がった。
 と、同時に、その右手をダムのほうへと差し向けた。
 たちまち迫りくる巨拳。
 誰がどう見ても、ハルカが殴り飛ばされてしまうと予想するに違いないシーンである。
 しかしながら――

「かっ、何だとォ!? 小娘が、俺の突きを、片手ひとつで……!」

 全身の力を左の拳一点に集中しているかのような体勢のダム。
 その拳を、ハルカは右腕一本で軽々と受け止めている。
 だけではない。

「……!? あっ、なっ、何だと!? 腕が、動か……ねェッ!」

 ダムの相好に驚愕と、そして恐れの色がありありと見て取れる。
 ハルカは拳を止めたばかりか、鷲掴みにつかんで動きを封じている。
 と、急にその手を引っ込めた。
 次の瞬間である。
 突き出されたダムの左手の上に、ハルカが放り投げた剛剣が降ってきた。
 ただでさえ生半可な重量ではないのだ。剣はくるくると回転することもなく、水平に寝たまま不愛想に落下してきた。ただし、十分に勢いがついている。
 そんなものを片腕だけで受け止めたなら、結果は知れている。
「ぁがーッ!」というダムの断末魔の悲鳴、それに剛剣が石床を叩き砕く音が見事にかぶった。
 ダムは前のめりな姿勢になっていたからたまらない。
 剣の重さに引き摺られるようにして、床に腹這いに倒れ込んでいた。
 左手の上にはもろに、長大な剛剣。
 少なくとも、手と手首の骨がことごとく砕けたであろう。

「っがっ、ぐうぅ……」

 もはや、ダムは起き上がろうともしなかった。
 短く呻き声を発したきり、がくりと首が垂れた。身動き一つしない。
 潰された両腕の激痛によって、気を失ってしまったのかもしれなかった。

「……」

 そんなダムの姿をじっと見下ろしているハルカ、顔色も変えない。
 戦う力を完全に失ってしまっていることを見確かめると、興なさげに目線を反らした。
 そうして、落ちている剛剣に手を伸ばし、ゆっくりと拾い上げた。
 裏表を返したり透かしたり、刀身をじっと観察していたが、つと

「……やっぱ、要らないや」

 そう呟くなり、柄から手を離した。
 だだっ広い王の間にわんわんとこだましていく、床に落ちた剛剣が放つ重々しい金属音。

「これ、なんかくさい。下水のニオイがする」

 棄てた理由はそれだけであった。
+注意+
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