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異世界転移女子~ハルカ、無双します!~ 作者:神崎 創

第一章 メスティア軍の決起・アルセス解放戦 編

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16) 比べちゃいけないんだってば

 呼びかけられ、大剣を握る手をハッと停めた。
 そちらの方を見やった彼女は、思わず息を呑んでいた。
 兵営から出てきたドボス兵が三人ばかり立っており、そのうちの二人に引き摺られるようしているランリィの姿を認めたからだ。
 衣服を剥ぎ取られて全裸にされ、後ろ手で手枷をはめられている。首には棘のついた首輪。そこに繋がる鎖を、ドボス兵の一人が握っていた。
 よくよく見れば全身アザだらけではないか。彼女の白い肌の至るところに青あざが浮いたり赤く腫れ上がったりしている。艶々だった長い髪も、すっかりぼさぼさに乱れてしまっていた。
 ハルカは悟った。
 アルセスの街に潜入したランリィはドボス兵に捕らえられ、今まで凄惨な拷問を受けていたのだ、と。
 しかも、あろうことか辱めのため全裸のまま引き摺られてきた。
 あまりにも痛々しい彼女の姿を目にした途端、ハルカの思考は瞬時に吹っ飛んでいた。

 ――ランリィ! あんな酷いことをされて……!

 ほとんど反射的に地を蹴って飛び出しかけたその時。
 ランリィの傍にいるドボス兵が動いた。

「おっと、動くな! 動けばこの小娘の首が飛ぶぞ?」

 喉元に鋭利な刃を突き付けている。僅かでも動かせば、華奢なランリィの首胴は別になるであろう。
 寸でのところで前に出るのを踏みとどまったハルカ。
 彼女の躊躇を見たランリィ、精一杯の抵抗で前のめりになりながら

「ハルカ、私なんかに構うな! 私のことはいいから、早くアルセスからドボス兵を――がっ!」

 声を限りと叫びかけた途端、ドボス兵に顔を強打された。
 横倒しに倒れかけたが、首輪を強く引っ張られて引き戻された。首が締まり、呼吸が止まったであろう。

「がはっ、げほっ!」

 苦しそうに喘いでいるランリィ。
 これ見よがしに痛めつけられる彼女を、ハルカは気絶するような思いで見つめている。
 やがて、鼓動を沈めるようにふうっと一つ、大きく息を吐くと

「……で? 私にどうしろっていうのよ?」
「武器を捨てろ。両手を上げてゆっくりとこちらへ来い。少しでも妙な真似をすれば、この娘は死ぬ」

 ランリィの喉元で、刃がカチリと鳴らされた。
 ハルカを脅している。

「……くどいわよ。一度言えばわかるっての」

 不貞腐れたように吐き捨て、握っていた大剣を放り出した。
 両腕を上げ、ゆっくりとドボス兵の方へ歩み寄って行く。

「物わかりがいいな。――おい」

 促されたドボス兵が三人ばかり駆け寄ってきて、ハルカを取り囲んだ。
 二人がかりで両腕をとらえて背中へ回し、一人が彼女の身体に太い縄をかける。

「あんたたち、SM好きなの? ――ってか、SMが何だか知らないか」
「黙ってろ、小娘が」

 念入りに縛り上げられていくハルカを目にしたランリィは、

「やめろ、やめてくれ! 殺すなら私を殺せばいい! ハルカ、私なんかを庇うな! 私の命なんかのためにドボス軍に投降するな! 私が死ねば済む話だろ! 私のためにハルカ、投降なんてしないでくれ!」

 あふれる涙を振り飛ばし、必死の形相で訴えている。
 徐々に身体の自由を奪われつつも、ハルカは彼女にゆったりと微笑みかけ

「……ねぇ、ランリィ。ひとつだけ、言っておくね?」

 すうっと大きく、息を吸い込んだ。
 乳房を挟む様にしてかかっている縄が邪魔をして、肺に十分な膨張を許さない。
 それでもハルカ、眦を決して真っ直ぐランリィに向かい

「あなたの命も私の命も同じなんだからね! 命にどっちが重いとか軽いとか、そういうのってないから! 自分が死ねば済むとかそういうこと、二度と私の前で言わないで!」

 一喝した。
 形相に、凄まじい怒りが漲っている。
 自分の存在を塵程度に思っている、ランリィへの叱責であった。
 あまりにも強烈な気迫に、傍のドボス兵ですら一瞬たじろいだほどである。

「ハルカ……」

 目を大きく見開いたランリィ、がくりと膝をついて項垂れた。
 そのまま、肩が激しく震え始めた。
 嗚咽している。
 ハルカは躊躇いなく言い切った。
 自分の命もランリィの命も、変わりなく大事なのだ、と。
 未だかつて、自分のことをこんなにも大事に思ってくれた者など、誰一人としていなかった。そのことを思うと、ランリィは身の内が震えるような思いがして、涙が込み上げてきてどうすることもできない。

「さあ、歩け!」

 ハルカを縛り終えたドボス兵が促してきた。
 両脇を固められ、ゆっくりと歩みを進めていくハルカ。
 そうして、なおも泣きじゃくっているランリィの傍を通り過ぎかけたときである。
 ハルカの目線がちらと彼女に向けられた。
 と、次の瞬間。
 前へと踏み出す足を、つと停めたかと思うと

「――へっくしょいぃ!」

 派手に一発、くしゃみを落とした。
 ほぼ同時に、通りの両側に建っていた石造りの建物、その外壁が轟音と共に砕け、もうもうと埃を舞い上げた。
 音に驚き、涙に濡れた顔を上げたランリィ。
 彼女の視界に飛び込んできたのは――両腕を左右一杯に伸ばしているハルカの姿であった。
 両脇にいた筈のドボス兵はいない。
 何がなんだか飲み込めず、呆然としてハルカを見つめていると

「あっれー? くしゃみしたら縄が千切れちゃったみたい。この縄、腐ってたんじゃないかしら?」

 ランリィに向かってニッと不敵な笑みを見せてきた。
 そこでハッと気が付いた。
 ハルカは自分を助けるべく、わざと捕らえられたフリをしていたのだ、と。
 そのようにして傍まで近づいたところでくしゃみを装って縄をぶち切り、左右にいたドボス兵を突き飛ばして石壁に叩きこんでしまった。
 若い乙女らしからぬ、やたらと豪快なくしゃみではあったが。

「こっ、この――」

 ランリィの鎖を握っていたドボス兵が慌ててハルカを取り押さえようとしたが、遅かった。
 その場でくるりと一回転したハルカ。
 美脚の片方が水平に上がっている。

「ぐはっ――」

 たださえ剛力だというのに、勢いを乗せた回し蹴りを食らってはひとたまりもない。
 はるか彼方まで蹴り飛ばされたドボス兵は背中で建物の石壁を粉砕したのち、頭上から崩落してきた石塊に埋まってそれきりとなった。
 無論、ハルカにとって今の一撃は特別な意味が込められている。

 ――ランリィをさんざん痛めつけて、タダじゃ済まないんだからね?

 あとは造作もない。
 邪魔者をことごとくぶちのめし終えると、ハルカはランリィの首輪それに手足の枷を外してやった。
 ランリィは自力で立ち上がろうとするが、足に力が入らないらしい。一昼夜にわたり拷問されて弱り切っている。石畳の上に尻餅をついてしまった。
 その傍にゆっくりと屈みこんだハルカ、まじまじとランリィを見つめた。
 彼女の頬は腫れ上がり、額やこめかみの皮膚が弾けて血が滲んでいた。口の端には乾いた血がこびりついている。まだいたいけな少女だというのに、顔ですら容赦なく殴られたのであろう。

「苦しかったでしょ、痛かったでしょ、ランリィ。ごめんね、私のためにこんな目に遭わせてしまって……」

 済まなそうに詫びた。
 すると、ランリィはじっとハルカの顔を見つめていたが

「いや、そんなことはない。これは私が自分で引き受けて、自分でしくじったからだ。ハルカは何も悪くない。だから、謝ったりしないでくれ。――それよりも」

 その目から、またも大粒の涙がこぼれ出した。

「……嬉しかった。本当に、嬉しかったんだ! ハルカが、こんな、しょうもない私を、自分も危ないっていうのに、本気で助けようって、してくれて……」

 あとはもう、声にならない。言葉を、涙が吹き消した。
 にっこりと笑って見せたハルカの瞳も、真っ赤になっている。

「ランリィ。本当に、良かった……!」

 両腕を伸ばすと、その傷だらけの身体をそっと抱き締めてやった。
 声を忍ばせてしゃくりあげていたランリィだったが、ハルカの大きな胸に顔を埋めた途端、

「うわあぁ――」

 ついに我慢できなくなったのか、大声を放って泣きだしたのだった。
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