挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界転移女子~ハルカ、無双します!~ 作者:神崎 創

第一章 メスティア軍の決起・アルセス解放戦 編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

13/41

13) 開くのは 心の扉と胸元と

 見事ドボス軍東砦を迅速に攻略したメスティア軍だったが、これは序の口に過ぎない。本番はこれからである。
 できれば、残る西砦とアルセスにいるドボス軍本隊との連絡を遮断しつつ、速やかに西砦を陥としてしまいたい。本隊が異変に気付いて街から進撃してくることになれば、苦戦は免れないからである。本隊が気付かないうちに西砦も奪ってしまい、そこを足がかりに夜陰を衝いてアルセスに侵入、集結前のドボス兵を個別に撃破する――という筋書きが望ましい。
 そのためにも、すぐさま行動を起こす必要がある。
 西砦から東砦への交代なり伝令兵がやってくれば、たちまちメスティア軍の決起が露見してしまう。
 これを防ぎつつ西砦を攻め落とすためには、ひと工夫が要るところであった。

「西砦から東砦に向かう兵を見かけたら、途中で討ち取ってしまいたいところだ。ゆえに、夜まで二、三人ほど中間地点に伏せておきたいのだが――」

 東砦からさらに進むにあたり、そのように考えを述べたリディア。
 この場合、ただ単純に攻めるだけでなく、敵の連絡を絶つということが一つの要諦なのである。
 ウォリスはちょっと考えてから

「ならその役、俺がやるしかあるまい。あとはそうだな……ジェイさんとノアを借りようか。ベックとハルカとマリスには、王女を護衛しつつ先に西砦の傍まで進んでいてもらおう。援護はマーティとニナに任せる。人数は分散されるが、ハルカがいてくれれば心配はないと思う」

 と、言った。
 皆、そこここで頷いて見せたがただ一人、えっ、という顔をしたのはノア。
 その秀麗なイケメン顔を俄かに曇らせ、不安そうにしている。
 少人数の方に加えられてしまったが、自分の腕で切り抜けられるかどうか心配らしい。
 そうと察したウォリス、彼の肩を叩きつつ笑いながら

「お前は俺の後に続いてくれればいい。なぁに、ドボス兵が来たってせいぜい二、三人だろうし、そもそも小競り合いすらあるかどうかわからんよ。万が一の備えだ。そうやって怯えなくてもいい」
「そうよ、ノア。ウォリスさんにジェイさんがついていてくれるんだから、こんなに心強いこともないじゃない。この機会だもの、お二人から少し戦いについて心構えとか知恵とか、習うといいわ」

 マリスも同和してそのように励ました。

「そ、そうだよね。僕も、頑張らなきゃな……」

 二人に言われて少しは勇気づけられたのか、ノアはホッとしたように微笑を浮かべた。甘い顔立ちの美少年だけに、笑うと絵になる。
 彼も大丈夫だと思ったのか、ウォリスはアリスのほうを向き

「……と、いうことですが姫様、いかがですかな?」
「ウォリスさんとリディアが良いというのであれば、そのように」

 軍議は一決した。
 ウォリス、ノア、ジェイを途中に残し、先に進んだ一行。
 相変わらず森の中の行軍である。ジェイはいないが道案内はランリィがしてくれるから心配は要らない。
 西砦の目と鼻の先までくると、彼女は

「ハルカ、ここで待機していてくれ。私が西砦の様子を見てくる。多分、ここも手薄だろうが、アルセスに近いから東砦よりは人数が多いはずだ」

 言い残して、森の奥へと駆けていった。
 有能な少女である。
 いつの間にか偵察役がいてくれるようになってハルカはちょっと嬉しかったが、反面、あまり駈けずり回らせるのも悪いような気がした。
 ランリィが行ってしまうと、リディアは

「よし、あの娘が戻ってくるまで、少し休養をとったほうがいい。全員、散開して各自休んで欲しいが、ドボス兵への警戒だけは怠らないように! 西砦を攻めるのは陽が落ちてからにしたい」

 そう指示を出した。
 やや寝不足気味のハルカには、嬉しい休憩時間である。
 西砦にもっとも近い位置、つまり最前衛のポジションをかって出ると、ひときわ大きな木の下を選んでそこで一息つくことにした。地べたに座ると相変わらず尻が痛いが、だんだんと穿いてないことに慣れてきてしまっている自分に気付いた。

(そういや、さっきもうっかり飛んだり跳ねたりしちゃったんだっけ。ウォリスさんとかベックさんに見られてないかなぁ?)

 下を気にしつつ何気なく俯いてみて、ぎょっとした。
 衣装の首回りがやたらと広がって、いつのまにやら胸元大サービス状態。
 王女の衣装をもらったまではよかったが、生地の素材が柔らかいため、剣を振り回したりして動き回っているうちに伸びてしまったのだろう。体格が王女と近いからほとんどぴったりだったものの、バストサイズだけはハルカが圧勝している。大きすぎる胸に引っ張られてしまったせいかも知れない。

(うわぁ……! もうちょっといったらこれ、リディアさん並みの露出になっちゃうじゃん!)

 彼女は必要な部分にだけ甲冑を当てている状態だから、肌が出ているところは見せすぎなくらいに露出している。いずれ自分もああいうのを着用させられるのかと思うと、ぞっとしなくもない。肌を晒すのは、できれば現状レベルを維持したいところではある。ノーパン状態は近い将来解消させてもらうとして。
 森の中は静まり返っている。
 あちこちから鳥のさえずりが聞こえ、木々の間に漂う朝の空気が新鮮に感じられる。
 空の様子は見えないが、差し込んでくる光が増してきて、少しづつ明るくなってきているのがわかる。
 落ち着いてくると、しきりと眠気が襲ってくる。
 ついに、幹にもたれかかってうとうとし始めたハルカ。

「――ハルカ、ハルカ!」

 何度も呼ぶ声でハッと目を覚ますと、すぐ傍にランリィの姿があった。

「あ、ご、ごめんね、ランリィ。おかえりなさい」
「敵陣地の正面で居眠りするなよ、ハルカ。……と、言いたいところなんだけど」

 ランリィはそこまで言いかけてから、ふわっと優しい表情をした。

「東砦と状況はほとんど変わらない。ドボス兵は十人いるかどうか、だった。奴等、相当弱っていると思っていいかも知れない。この分なら、増援も寄越されないだろう。だから」ちょっと笑って「――居眠りしていても安全なんだ、今のところ」

 言われてみればその通りだと思った。
 敵の砦の真ん前で、悠長に眠りこけている奴がいるだろうか。
 リディアは「休め」とは言ったが、爆睡していていいとは言っていない。

「ああ、ごめん。気を付けるね。あんまり気持ちが良かったものだから……」
「西砦の様子、王女に伝えてこなくていいのか? 私はハルカに協力するけど、王女に協力するとは言ってない」
「あ、そっか」

 それもそうだ。
 わかっていたつもりだったが、眠気で頭がぼけてしまっていた。
 ランリィが調べてきた西砦の状況をアリスに伝えに行き、また元の場所に戻ってきた。
 木の根元にゆっくりと腰を下ろしながら

「次の行動は陽が沈んでからなのよ。だからそれまではここで待機なのよね」
「ふーん。そうか」

 返事をしたランリィ。
 偵察の役割を終えたのでどこかへ行ってしまうのかと思ったが、座り込んで膝を抱えたまま動こうとしなかった。
 他に用があるなら、そちらへ行ってもらっても構わない、という意味のことを言うと

「……言っただろ、ハルカに協力するって。それに私、行くところなんかないし」

 言い方はつっけんどんだが、要は一緒にいてくれるらしい。
 ここでお別れかも、と思っていたハルカは、ちょっとだけ安堵した。
 態度こそ相変わらずのツンだが、ランリィはハルカに好意を抱いているらしく、それからというもの彼女は、自分の生い立ちやこれまでのことを語って聞かせてくれた。
 歳は数えで十五歳。ハルカより二つ年下である。
 なんと、その若さでランリィはかつて――アルセス国王に仕える「諜探兵」だったという。
 つまりは国王直属のスパイ。
 あちこちの他国に潜入しては内情を探り、王に直接報告する役割をもっていたらしい。その身のこなしの良さ、敏捷さ、それに見てきたことを正確に伝えられる能力をかわれたようである。その点、アルセス王なる人物はある意味、男女年齢を問わず人材抜擢主義だったように聞こえる。

「どうりでそういうことに慣れているわけだ。あたしより年下なのにすごいじゃん」

 素直に感心しているハルカ。
 が、ランリィは虚ろな瞳で地面の一点を見据えたまま

「でも、さ」

 少し間をおいてから、ぽつりとこんなことを言った。

「私達諜探兵はその役割上、身分を明かせない。それに、いつ捕まって殺されてもおかしくないから、身分の低い者ばかり選ばれるんだ。私もそう。どこの生まれかもわからないし、親の顔も知らない。街を歩けば、街の人に蔑まれ、笑われるんだ。食事の店に入っても食事を出してもらえないし、ひどいときにはたたき出されることだってある。生まれが卑しいと、死ぬまでそういう扱いをされるんだ」

 つまり、身分の賤しい者であるがゆえに、そういった危険な役割を与えられるらしい。
 ハルカの中で、たった今上昇しつつあったアルセス国王への好意が、音を立てて急速に下落していった。
 自分達のためなら、こんな幼気な少女まで平気で使い捨てにするというのか。
 何となくむかむかと腹が立ってきたが、ぐっとこらえた。
 ランリィは淡々と事実のみを述べているのであって「アルセス国王は酷いヤツだ」などとは一言も口にしていない。
 彼女が洩らした気持ちは、全く別のことだった。

「まあ、利用されたっていえばそうなるけど、私みたいな低い身分の者が国王のすぐ傍に近寄らせてもらえただけ、すごいことだったのかなって思う。それに、報酬として金貨はもちろん、食べ物なんかもずいぶんもらったりしたな。だから、それなりに割り切れていたよ。――その食べ物が、王や側近達の食べ残しだったって聞いた時はちょっと嫌な気分だったけど。それでも、ひもじい思いをするよりはましさ。街の人の口になんか入らないようなものばかりだったしね」

 可笑しそうに笑って見せた。
 が、瞬間的に垣間見せた寂しそうな表情を、ハルカは敏感に感じ取っている。
 どれだけ割り切ったつもりになっていたって、他人から見下され続ける辛さを隠して生きることの悲しみを、完全に忘れることなんてできないと思う。
 必ずいつか心の中によみがえってきて、やるせない思いになるに違いない。

「そっか」

 短く頷いたハルカは、しばらくの間黙っていた。
 やがて、ゆっくりとランリィのほうを見て

「……でもあたし、ぶっちゃけ、そういうのはよくわからない。身分とか区別とか、ない国で育ったから」

 そう言うと、ランリィは目を丸くして驚き

「本当なのか!? そ、そんな国が、あるのか!? もしかして、メスティアがそうなのか!?」
「まだ言ってなかったけどあたし、メスティア人じゃないよ? あたしが生まれ育ったのはもっともっと遠くにあって、もうここからは行けない国よ」

 ハルカの目線が、正面に立つ樹木の梢に注がれている。

 ――違うこと考えたり思ったりしている人はそりゃたくさんいるけどね。でも、基本的に身分というものは国が認めていない。みんな同じ人間だからっていう理由で。
 それは誰かが考えた考え方だから、賛成する人もいれば気に入らない人もいるのよ。でも、その理由、あたしは気に入っている。だって、みんな人間なんだもの。肌とか髪とか目とか言葉とか違ったりするけど、人間という生き物って括りならみんな同じでしょ? 違いなんかないわ。手ェ切れば赤い血が出るし、悲しければ泣く。お腹が空けばごはんを食べる。お母さんのお腹から生まれて、歳をとればしわくちゃんなって死ぬ。誰一人、そうじゃない人なんかいないじゃん。

 同情なんて、インチキでしかない。
 差別されてきたランリィの気持ちをわかってやることなんてできないし、それは同じように差別された者にしかわからないのだ。
 だから、わからないと言った。
 わからないけれども、それとお互いの心の距離とは別のことだと思う。
 ハルカはランリィのことを可愛いと思ったし、愛おしいと思った。
 身分とか差別のことを理解できなくても、ランリィという人間のことを認めている。
 じゃあそのことを彼女にどうやって伝えたらいいのか?
 大して難しいことじゃない。
 そのまま素直に、そうと言えばいいのだ。
 お互いに嫌いでない限り、それで心と心の距離は縮まる。
 ハルカはそう思っている。

「あたしが言いたいのはさ、あたしはランリィの身分とかそういうの、関係ないの。出会ってからあんまり時間経ってないけど、ランリィのことが好きになっちゃったんだよね。うーん、上手く言えないけど……一緒にいると安心できる友達みたいな感じかな」

 ふと隣を見やると――ランリィが目を大きく見開いたまま固まっている。
 やがて、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ始めた。

「い、今までそんなこと、言われたことは一度もなかったから、その、びっくりしたというのか、嬉しくなってしまったっていうのか……」

 両手で涙を拭うものの、あとからあとから込み上げてきて始末に負えないらしい。
 その様子を見たハルカ、胸の奥がキュンと苦しくなった。
 あたかも、自分の妹のような愛しさを感じる。素直じゃなかった妹から急に「お姉ちゃん」と慕われたみたいな、どうにも抑えられない愛情。
 思わず抱き寄せた。
 ランリィは逆らわず、引き寄せられるがまま身体を預けてくる。
 彼女の華奢な身体を両腕で優しく抱きしめ

「何度でも言うね? あたし、ランリィのことが好きになった。この世界にきてはじめてできた友達みたいな、妹みたいな? 上手く言えないけど」
「……うん」

 ちょっと黙ってから、恥ずかしそうに照れくさそうに

「私も、ハルカみたいな人は好きだ」

 それからというもの、ハルカの傍を離れようとはしないランリィ。ハルカのことをよほど気に入ったらしい。
 メスティアの面々も、口に出しては言わないものの、自然と彼女の存在を受け入れているような、そんな雰囲気がある。ハルカに懐いているのだから問題ないだろう、という一方、敵地に潜入して状況を探ってきている働きがある以上、味方と認めてもいいということらしい。朝、昼、夕とヘレナが食事を用意してくれたが、ちゃんとランリィの分もある。これは特に、アリスがそのように指示したようであった。
 リディアだけは相変わらず厳しい目を向けていたが、しかし特に何も言わなかった。
 やがて日没の刻限を迎えた。
 別行動をとっていたウォリス、ジェイ、ノアの合流を待ち、再び攻撃を開始したメスティア軍。
 今度は南北から挟撃である。
 北側からはハルカ、ランリィ、マリスにノア。南側からはウォリス、リディア、アリス。ベックと弓士の三人は機を見て正面の門扉から突入し、ドボス兵を一人たりとも逃さないようにする。
 またしても、ドボス兵はほとんど反撃する間も与えられないまま殲滅された。
 西砦、ごく短時間のうちに制圧を完了。
 要路を塞いでいる門扉はそのまま残してある。アルセスへ攻め入った際、ドボス兵がアルセア村の方角へと散らばっていかないように、あらかじめ封鎖しておくのだ。

「よし、みんな、ご苦労だった! 各人の勇気に感謝する!」

 そのような表現で、リディアが西砦攻略戦の完了を宣した。
 皆、相次ぐ戦勝で士気が高まりつつある。
 ランリィの協力によって東砦に続き西砦も難なく攻略し、ついにドボス軍が占領しているアルセスの街の手前までやってきた。残るアルセスを陥とせば、事実上、アルセス島はメスティアの手に帰す。
 ところが――。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ