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異世界転移女子~ハルカ、無双します!~ 作者:神崎 創

第一章 メスティア軍の決起・アルセス解放戦 編

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11) 萌えちゃっても仕方がない

(……え!? 女の子なの!? こんな時間にこんなところで何してるのよ!? まさか、魔族とか!?)

 闇が深く、ぐっと傍まで寄ってみないと顔立ちまではわからない。
 いきなり跳ね起きて斬りかかってこられると困るので、念のため首筋に大剣を突き付けておきつつ

「動かないでねぇ? 古くてさっびさびの剣だけど、力を込めれば首だって切れるんだから」

 軽く脅しつつ、上から覗き込むようにして顔を近づけてみた。
 驚いたことに、スラム街を根城にしている子供のように身なりが貧しい。上はぼろぼろにすり切れたシャツ風の服だが、腰回りは大きめの布きれを巻いただけ。太腿から下が露わである。
 髪は伸びるがままにぼさぼさで、辛うじて後ろだけは束ねているらしい。長々とした前髪の下の相好はちまちまと整っていて悪くないものの、今は痛みに耐えきれず苦しげに歪めていた。声の調子もそうだったが、見るからにハルカよりも年下である。
 ――あ、これ、たぶん人間っぽい。
 直感でそう思った。
 確証がないながらも、やや安心していると

「こっ、殺せ! 捕らえられて生き恥を晒すのはまっぴらごめんだ!」

 大剣の下で少女が喚いた。
 どうやら死活を制されたと悟ったようである。
 が、ハルカは不思議そうに

「殺す? あたしがあなたを? つーかさぁ……殺し合いなんてよくないことだと思うけど?」

 この無邪気な物言いは、犬にエサを見せたように効き目があった。
 少女は戸惑ってしまったらしく、言葉を返してこない。
 あるいは、相手が意外にも歳の近い女子だと知ったからかも知れない。

「きっとあなた、あたしを魔族と勘違いしてかかってきたんじゃない? あたしは人間、あなたも人間。だったら、殺し合う必要なんかないじゃん。だから、あたしはあなたに危害を加えたりしないし」
「……」

 少しの間、沈黙していた少女。
 乱れて不規則になっている呼吸の音だけが聞こえる。
 やがて

「……本当なのか? あんた、人間なのか? 魔族じゃないのか?」

 恐る恐るといった調子で尋ねてきた。
 ハルカは突き付けていた大剣を持ち上げると、そのまま肩に担ぎ

「だから、人間だってば。証拠を見せろって言われても困るけど」

 そういや人間である証拠って何だろう? とふと思ったが、それは今はどうでもいい。
 少女はゆっくりと起き上がった。
 ハルカが、自分は人間だと告げたせいか、再び襲い掛かってきそうな様子はない。
 地面に叩きつけられたときのダメージがまだ残っているのか、地べたに尻をついたまま立ち上がれずにいる。
 そうと気付いたハルカは手を差し伸べてやりながら

「あたし、ハルカ。あたしも名乗ったから、あなたも名前を教えて欲しいな。教えてくれる?」

 小さな子供に対してするような訊き方をしてみた。
 そのほんわか気味な雰囲気に誘われてしまったのであろう、少女は

「ラ、ランリィだ」

 名乗ってくれた。
 ついでに手をつかんできた。細く、華奢な手をしている。
 よいしょ、と引き起こしてやりつつ、ハルカは

「ランリィっていうのかぁ。可愛い名前ね」

 率直にそう思ったので、つい口に出してしまった。
 すると、ランリィは急に驚いたように目を大きく見開き

「かっ、可愛いだって!?」

 女の子がよくやるように、両こぶしを握り締めて上下にぶんぶんと振った。

「可愛いとか言うな! 私はそんな女々しくなんかないからな!」

 抗議してきた。
 が、怒った風を装っているくせに、怒気が感じられない。むしろ、可愛らしく見えてしまう。
 そして真っ赤にしているその顔は、怒りのためでなく恥ずかしさのせいらしかった。
 ハルカはあはは、と声を立てて笑い

「ごめんごめん、悪気はないのよ。本当に可愛いと思ったから、そう言ったの。名前だけでなく、ランリィはとっても可愛いと思うよ?」

 世辞でなく、ガチでそう思う。
 学校の制服なんか着せて相奈原の街でも歩かせたなら、すぐに男がナンパしに寄って来るだろう。

「あ? へ? え? わ、私が、可愛い……?」

 立て続けに可愛いを連発されて参ったのか、プシューッと空気が抜けるようにして小さくなってしまったランリィ。俯いてもじもじし始めた。
 あ、このコヤバい。
 萌える。
 懸命に強がっているのに、褒められると全身で狼狽えてしまっているところがとてもキュート。
 そのあどけなさに思わずキュンとなったハルカだったが、とりあえず訊いておかねばならないことがある。

「ねぇ、ランリィ? あなた、アルセスから来たの? つか、こんな真夜中に一人で何しているのよ?」
「ああ、アルセスからきた。見ての通りあちこちを放浪しているから、アルセスに住んでいるわけではないけどな」

 ハルカに気を許すつもりになったのか、ランリィはいきさつを語り始めた。

 ――ここのところ、ドボス軍が兵士を集結させているから、いよいよアルセアの村を攻めることになったのはわかっていた。
 けど、一昨日進撃して行った部隊が立て続けに惨敗して戻ってくるし、あの残虐なバルゼンがいなくなっているのを見て、アルセアに敗走していたメスティア軍で何か異変があったんだなと思った。
 それで気になって、自分の目で確かめたくて、アルセスを抜け出してきたんだ。
 そうしてここまできたら、森の中に人の気配を感じた。
 もしかしたらメスティア軍かアルセアの村人かなとは思ったんだけど、もし魔族の連中だったら大変なことになるから、まずは誰か一人をつかまえて何者なのか確かめてやろうと思ったんだ。

 まだ十歳を幾つか超えただけの少女だというのにずいぶん強気なマネをする、とハルカは思った。
 返り討ちにあったらどうするつもりだったのだろう。
 それはともかく、メスティア軍を探していたのなら、話は早い。

「そうだったんだ。お察しの通り、あたし達はメスティア軍よ。これからアルセスを取り返しに行くの」

 あっさりと明かしたハルカ。
 普通なら簡単に正体を告げるべきでないのはわかっているが、このランリィなら問題ないだろうと判断したのである。
 強いていえば、理由は――萌えるから。
 メスティア軍だと教えたにもかかわらず、これといってランリィは驚いていない様子である。
 むしろ、やっぱりそうか、といった感じで頷き

「いよいよ、メスティア軍は動く気になったのか。ドボスに追われてアルセスから脱出していったときはもう終わりかと思ったんだけど、あの王女様、まだガルザッグと戦う意志は捨てていなかったんだな」
「そうよ。命に代えても倒したいって、そう言っているよ。自分も戦うっていって、ここまで来ているのよ。だから、あたしも協力してるの」
「へぇ。王女が自分から、なぁ……」

 それから少しの間、ランリィは腕組みをしたまま下を向いてじっと考え込んでいた。
 と、にわかに顔を上げて

「よ、よし! ガルザッグの奴らが憎いのは、私だって一緒だ。私もメスティア軍……いや、ハルカになら、協力してもいい」

 どういうわけか、メスティア軍ではなくハルカ個人に対して手を貸すという。
 協力するのがハルカだろうとメスティア軍だろうと、結果としては同じようなものなのだが――性格的に多少、つむじ曲がりなところがあるのかも知れない。ハルカは可笑しくなったが、黙っていた。
 それにしても、と気になることがある。
 ガルザッグが憎い、と言ったのだが、彼女も何か因縁があるのだろうか。
 が、ランリィはそのことは語らず、そそくさとハルカの傍へ寄って来ると、ぐっと声をひそめ

「これから東砦を攻めるんだろ? 東砦の盲点がどこなのか、私は知っているんだ。それをハルカに教えてやる」
「え? マジで……?」
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