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異世界転移女子~ハルカ、無双します!~ 作者:神崎 創

序 章 転移 編

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 1) 死んだはずが、ここはどこ? なぜハダカ!?

筆者註)
・作中、安易な横文字の使用を避けるため、独自の造語を用いている場合があります。
・この作品は以前投稿した「異世界転生女子~ハルカ、無双します!~」に大幅な加筆修正を行い再投稿したものです。
・本文、サブタイトル等、予告なく修正することがあります。
(どーすんのよ、これ……)

 半円状に取り囲まれている。
 十歩ほどの距離を隔てた先にいるのは、赤い甲冑で全身を包んだいかにもカタそうな方々。その数、約三十名様ほど。
 しかも各々、手に手に長剣や槍といった物騒な得物をお持ちではないか。その鋭利な刃先に穂先、あり得ないことにどれもこちらを向いている。一本といえど「ぐさり」とやられればそれまでである。
 たださえそういう超絶激ヤバな状況だというのに、さらに困ったことがある。
 現在、右腕は水平にして胸にあて、左手は真っ直ぐ股間へ。
 女として大事なところがそろって丸出し、つまり――全裸。
 どうして服を着ていないのか、その理由はまったくわからない。
 正確な事実関係をいえば、ハッと気が付くと田舎道の真ん中で横たわっていて、見知らぬ女性に何度も呼びかけられていた。両側には鬱蒼とした森林が広がっており、そこを切り拓いて作られたかのように道はたった一筋、あちらからこちらへと続いている。
 やけに涼しいなと思い、ふと自分の身体を見やれば素っ裸。これはなんだと驚いていると、今度は武装した一団が猛然と駆け付けてきていきなり包囲された挙句刃物を見せびらかされている、といった具合である。
 大勢で寄ってたかって乱暴される!? とか思ってしまうところだが、どうもそのような様子ではない。どの顔もフルフェイスな兜のせいで表情が見えないものの、先ほどから露わな全身に突き刺さってくる視線は性的好奇心よりも殺気に満ち満ちている。人間の気配がしなかった。
 こういう場合、まずは怖がるべきなのかとりあえず恥ずかしがっておくべきなのか、判断に困る。
 意味不明にハダカだし、囲まれるし、刃物突き付けられるし、一体どうしろっていうのよ――
 とまで思った瞬間、ハッとした。
 それ以上に重大な疑問に突き当たったのだ。

(あたしさっき、火事に巻き込まれて死にかけてたんじゃなかったっけ……?)



 記憶をたどれば、ついほんの少し前だったように思う。
 確か学校から帰宅する途中ではなかったか。
 ――そうだった。
 とにかく真っ直ぐ帰宅しようとしていた。早く家に帰って、冷蔵庫にしまってある「季節限定田舎の牧場プリン」を食べようと思っていた。一個三百円近い、高いプリン。
 その予定を変更させたのは、一本の電話だった。

『――あ、ハルカ? 今、ショコラ・デ・カフェにいるんだけどぉ……ほら、駅前の田中ビルにこの前オープンした店よ。で、パフェ類半額チケットがあるんだけど、期限が今日までなの。一人じゃなんだし、ハルカも一緒にどうかなと思って。あんた、ミックスベリーフルーツショコラ苺パフェ食べたいとか言ってたじゃん?』

 中学時代の友人のミサキ。
 高校は別々になったが、その後も付き合いが続いている。
 ――ミックスベリーフルーツショコラ苺パフェ、ですと?
 聞いた途端、大股で急いでいたハルカの足がぴたりと停まる。
 通常は税抜きで千二百円という、とてもお高いパフェである。前回行ったときにすごくそそられたものの、あまりのお値段に泣く泣く断念せざるを得なかったのだ。それが半額で食べられるという。
 ただし、今日限り。この機会を逃せば、次はいつ食べられるかわかったものではない。
 ハルカの脳内で、これからのスケジュールがガチャリと音を立てて切り替わった。

「……行く! すぐ行く! あと十分でそっち行くから、待ってて!」

 通話を終えてスマホを鞄にしまうや否や、ハルカの美脚がアスファルトを蹴っていた。
 季節限定田舎の牧場プリン、おとといきやがれ。
 待ってて、あたしのパフェちゃん。今日こそ、あなたの元へ参上するわ。
 わき目もふらず、ダッシュで通りを駆け抜けていく。
 駅へと通じる繁華街の道は、放課後タイムで行き交う高校生の数が半端ない。狭い歩道を塞ぐように横並びでもたもたと歩いている。
 いちいちかわすのは面倒くさい。
 そう思ったハルカ、急に左へと折れて古い雑居ビルの間の狭い小路へと飛び込んだ。
 生ごみのような悪臭が酷くて普段はとても通らないのだが、それでもショートカットにはなることを彼女は経験上知っている。経験とは、遅刻しかけた場合を指す。
 年中日陰な場所だから、今朝方降った雨が乾いていない。行く手に、そこそこのサイズの水溜り。
 ええい! と、一瞬の気合と共に大地を蹴り、揺れる水面にハルカのスカート内部が映る。
 右のつま先が水溜りの先すれすれに着地し、上手く飛び越えた――と、思った瞬間。
 その右脚が意に反してずるりと滑った。

(……!?)

 あっと思った時にはもう遅い。
 尻餅をついてしまったハルカ。
 しかも最悪なことに――水溜りの真上にて。
 立ち上がってみれば、ふわりとした素材の制服スカートはまだ良かったが、股間のあたり、もっとも大切な部分に何とも形容し難い、不快な湿った感触がある。汚水がつーっと生脚を伝っていく。
 新たに一つ、予定が追加されてしまった。
 どこかでパンツを調達して穿き替えるという予定が。
 しかしながら、どう考えてもこのまま公衆の面前に出られる訳がない。
 股間から液体を垂れ流して歩いていたら、どこからどう見ても頭のおかしい痴女としか思われないではないか。
 一瞬迷ったが、選択肢は一つしかない。

(しゃーないなぁ……)

 自分の迂闊さを呪いつつ、そっとパンツを下ろした。
 すっかり汚れてしまっているので捨てていきたいところだが、得体の知れない他人に拾われて有効活用、いや悪用されるのは困る。
 小さく折りたたんだパンツを通学鞄の小ポケットに無理矢理捻じ込むと、先を急いだ。
 そのままデパートへと向かって代わりのパンツを調達、女子トイレに駆け込む。現在、装備なし。いわゆるノーパン。一刻も早く穿いておかねばならない。急ぐ気持ちが、個室の扉を勢いよく閉めさせた。
 ところが。
 包みを開けていざ穿こうとすると、商品タグがなかなか取れない。プラスチックのH型をしたあれが意外に強情で、引っ張っても抜けないのであった。
 ハサミか何か持っていなかっただろうかと、鞄の中をごそごそと探し始めたハルカ。
 異変に気付くのが遅れたのはそのせいかも知れない。
 何か焦げ臭いな、と思い始めたその矢先、突如館内にけたたましい非常ベルの音が鳴り響いた。

『お客様へお知らせします! ただいま、六階の業務用室付近から火災が発生いたしました! 速やかに外へ避難していただきますようお願いいたします! なお、エレベーターはお使いにならないでください!』

 マジで!?
 そうと知ったハルカはタグ外しを中断、速攻で逃げることにした。
 トイレ個室のカギを開けるべく、スライド式のそれに手をかけたが――

「……うそ!? 開かない!? 壊れてんの!?」

 カギが歪んでしまっていてスライドしない。入る時に乱暴に閉めたのが祟ったようである。
 咄嗟に体当たりを試みるも、扉はびくともしなかった。それもその筈で、個室の扉は内側に向かって開くように出来ている。
 では乗り越えるしか、と思い上を見上げたものの、ハルカは絶望した。
 個室の仕切りは異様に高く、天井との隙間は僅かしかない。
 こうなった以上、意地でもスライド式のカギを何とかするしかなかった。

「あのっ! 誰か、誰か、来てください! トイレのカギが壊れて開かないんです! 誰か、助けてください! お願いします!」

 叫びながら片手でドアを激しく叩き、かつもう片方の手でカギと格闘。
 そうこうしている間にも、どんどん煙が流れ込んでくる。
 悪いことに、火元はこのフロアだという。それが近いのか、煙の量が異様に多い。

「ちょっと! 誰か、誰かきてよ! お願いだから助けて! このままじゃ、死んじゃうじゃない!」

 ほとんど泣き叫ぶように助けを求めるも、人が駆け付けてきてくれる気配はない。
 トイレの中は煙が充満し、もう目を開けていられない。呼吸が困難なほどである。
 それでも救助を信じて必死に扉を叩き続けていたハルカだったが、急に目の前がかすんだ。
 かと思うと、身体中の力が一気に抜けてしまい、崩れるようにして便器と扉の間に座り込んだ。

(もしかして、一酸化炭素中毒ってやつ……? じゃああたし、助からないじゃん……)

 次第に薄れていく意識。
 ぼんやりとした頭で、ハルカは考えていた。

(このまま、ノーパンで死んだら、みっともないな……。タグ付きでいいから、買ったやつ、穿いときゃ、よかった……)

 意外なことに、それほど苦しいとは感じなかった。
 死というのはこんなに簡単なものなのだろうか。
 意識を失う寸前、ハルカが最後に思ったのはそのことだった。
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