木立周の知られざる日常
遊森謡子様企画!春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
「起立。気を付け。礼。」
「「「さようなら」」」
やあっと、学校 終わったよ。まあ、最近は半日だからまだいいんだけど。
――ドサッ、ガチャガチャ…――
「周。帰ろーぜ」
「おう!ちょっと待ってな、柳矢。」
いつものように嵩張る鞄を整理していると、これまたいつものように柳矢から声が掛かった。
柳矢、浜越柳矢は俺のダチで、付き合いは高校入ってからだからやっと一年ってとこだけど、親友と言える仲だ。
勉強はごく普通だけどスポーツ万能、なのに帰宅部な変わり者。
だから一緒に帰れてるんだけどな。
まぁた、そんなに持ってきてんのかよ。と、一応の体裁が整った俺の鞄を覗き込んだ柳矢に、まあな、と返してヘッドフォンを首にかける。
「よっしゃ、オッケー。ありがと柳矢。」
「別にいいけど、いつものことだし。でもお前、そんなに使わねぇだろソレ。」
「まあ…普段は、な。」
というか、俺がコレを使ってんのは稼業やってるときなわけだから見られたら一大事だ。
爺に大目玉食らう。
「ホンット変わってるよな、お前。イマドキMDウォークマン使ってるなんてさ。」
そろそろ、買いかえれば?という、柳矢に曖昧に頷いて外へ出る。
嘘を吐いているようで心苦しいけど裏に巻き込むわけにはいかないからなあ。
勉強も運動も平々凡々な俺こと 木立周はいまどき珍しくMDウォークマンを使っている高校生で、なおかつ、使わないであろう大量のMDを持ち歩いてる変なヤツ。
もちろんこれは表でのハナシ。
本当は――――
柳矢とたわいもない話をしながら商店街を行く。
――ピロピロピロン、ピロピロピロン・・・――
最寄り駅まであと半分ってとこで俺のケータイが鳴った。なんとなく面倒な予感。
「あ、ちょっとごめん。…あー兄貴からメールだ。」
――――――――――
from:兄
sud:(non title)
商店街の裏通りの
本屋で雑記6冊ばかり
買ってきて。
――――――――――
案の定、お仕事の連絡だ。
GPSで居場所は分かってるはずだから「商店街」はここの事だろうし、かなり近いな。
「雑記」は"雑鬼"、「買ってきて」は"狩ってきて"なんだろうが…もうちょっとひねれないのかよ。と、思わないでもない。
「ゴメン。ちょっと、野暮用で学校 戻るから先に帰っちゃってくれ。」
「…おう。じゃあな、周。」
「ああ、またな柳矢。」
柳矢と別れて目的地に向かうと、近隣の寺社がやったのか既に人払いの結界が張ってあった。俺はまだ結界の類が苦手だから、正直にありがたい。いつも引っ込めている霊力を巡らせて準備完了。
結界の中では6つの黒い塊―――雑鬼が犬の死体に群がっていた。
雑鬼とは形を保てないほど弱い鬼で血や生気、負の念を食らって乙鬼、甲鬼に成長する。弱いといっても人型を成し、知能をもつ乙鬼甲鬼に比べれば、で人を殺したりすることもある。
そういう大小の鬼どもを掃除するのが俺ら「木立」の人間の仕事だ。「木立」という名字は本来「鬼断」と書き、他の祓い屋稼業と違い「存在を断ち切って滅する」手法からきているんだとか。
今回の対象は話どおりに雑鬼6匹らしいが、血を得ているからチョット厄介かもしれないな。
俺はそんなことを頭の片隅で考えながら鞄から数枚のMDを取り出した。霊力で底上げされた身体能力で手裏剣のごとく投げればMDは驚くほど易く雑鬼を切り裂き1匹を滅する。他の5匹にも当たりはしたのでこっちに敵意を向けてきた。
2匹はやっておきたかったけど、と思いつつ出したのはワイヤー付きのMDで、引けば戻ってくるコイツはなかなかの優れモンだと思う。1個しかないのが難だけど…
傷の浅かったらしい2匹が飛びかかってきたのをワイヤーで払いその勢いのまま先端のMDで胴を断ち切る。と、その時
――ゾワリ――
前方の気配が急に濃くなる。
目を離したすきに、奴らは共食いをして1匹になっていた。ただし、より大きくより厄介な甲鬼になって。
まっずいなあ。甲鬼なんて相手にしたことないし、MDじゃどうにもなんない気がする。
兄貴に電話…は無理だよな。俺に仕事が来るのは兄貴が他に掛りきりで出れないときがほとんどだし
=人間 食ウ。 食ッテ 強ク ナル。=
なにより相手が待ってくれないようだ。
焦る気持ちに気を取られたのを隙と見て体長2m近くの甲鬼が殴りかかってくる。ワイヤー付きで切り付ければ後ろに下がったが、追撃に投げたMDは牽制にしかならなかった。
再び攻撃してくる甲鬼の腕をかい潜り、今度は直接深く切り付ければ、傷口から血のように黒い靄が吹き出た。
=グガアァアァ=
と不快な叫び声を上げ暴れる甲鬼から一旦離れる。
どうやら、どうにもならないこともなさそうだ。
甲鬼が痛みに悶えてる内にワイヤーで縛って腕を封じる。がしかし、ギチギチと鳴るワイヤーは長くはもたないだろうから一気に攻勢へ。
首や胸を狙い連続してMDを投げながら接近し、走った勢いをそのままに右手に持ったMDを逆袈裟に振りぬいて跳ぶ。
跳びあがった相手の頭上に左手のMDを叩きつけるように投げれば、甲鬼はズシンと倒れ、霧散した。
「はぁぁ…。どうにかなったぁ。」
緊張が途切れてへたり込みそうになった、その時。
――ガタン――
背後で物音がした。
新手かと思い振りかえった先にいたのは……柳矢だった。
「え。ちょっ、なんでいんの!?」
「…あ。え? 周がMD落としたから学校行ったけどいなくて…って、違うだろ!! アレ何なんだよ!?」
「いや…コレはえっとー」
うわあ、ガッツリ視えちゃってるよ。ていうか、結界 張ってあったよな? なんで来れたんだ?
同業者ってことはないよな、驚いてるし。そもそも、同業者だったなら俺が気付いただろうし…
浜越、はまごえ、なぁ…
「なぁ、おい!大丈夫か?」
「…えっ、おう。ダイジョブダイジョブ。 は、早く帰ろうぜ、な?」
訝しがる柳矢を誤魔化し誤魔化ししながら帰した俺が、人払いの結界を張ったのが「破魔声神社」の神主であり、柳矢の祖父だと知ったのは諸々(もろもろ)の処理が終わって日付が変わった頃のことだった。
柳矢は柳矢で件の祖父に相談したところ、きっちり説明を受けてしまい晴れて(?)裏の仲間入りをしたらしい。
なんじゃそら、俺の混乱をどうしてくれるんだ。と兄貴にブチ切れた俺は悪くない。
表じゃ、いまどき珍しくMDウォークマンを使っている変わり者な俺こと 木立周だが、本当は祓い屋稼業と高校生の二足のわらじをイマイチ履きこなせていない可哀相な奴なのだ。