蝶になった蜘蛛(8/17)縦書き表示RDF


蝶になった蜘蛛
作:れいこ



その八


 その夜ー。
 蜘蛛は、菜の花の茎に手足をからめ、ぐっすりねむっていました。
 その背後から、抜き足、差し足、忍び足、静かに、息を殺して、二つの影が近づいてきます。
 細い三日月の光が、その影を照らし出しました。
 それは、アゲハ蝶のお兄さんとモンキ蝶。
 モンキ蝶の手には、毒矢が握られています。
 それは、すずめバチがおそってきたとき、たおれたすずめバチから、モンキ蝶がこっそりぬきとっていたものでした。
 「この日のために、とっておいたんだ」
 モンキ蝶が、つぶやきます。
 「いくぞ」
 「ああ」
 モンキ蝶が、蜘蛛めがけて毒矢を投げようとしたときー。
 ガツン!
 石ころが飛んできました。
 「だ、だれだ!」
 驚いて、石ころが飛んで来た方を振り返ります。
 そこには、アゲハ蝶が、お兄さんとモンキ蝶をにらみつけて立っていました。
 「兄さんの様子がおかしいと思って、あとをつけてきたのよ。そしたら・・・、ねむっている蜘蛛さんを殺そうとするなんて・・・。どうして、そんなひどいことをするの!」
 「うるさい!じゃまするな!」
 「そうだ。こいつには恨みがあるんだ。それは、お前も知っているだろう」
 アゲハ蝶のお兄さんとモンキ蝶が、叫びます。
 「どうしたんだ」
 「どうしたの?」
 「いったい何事だ。こんな夜中にー」
 だだならぬ騒ぎに、ねむっていた蝶たちがみんな起き出して、集まってきました。
 蜘蛛も目をさまし、菜の花の茎からおりてきています。
 「みんな、聞いてくれ!」
 モンキ蝶が、叫びました。
 「おれは、父親をこいつに殺されたんだ。父親が黒い森に行ったっきり帰ってこない。おれも、父親のあとを追って黒い森に入ったんだ。すぐにこいつに捕まって、先に入った蝶と一緒に巣にからめられた。でも、まわりを見ても、どこにも、父親はいなかったんだ」
 そこまで言うと、モンキ蝶は声をつまらせ涙ぐみます。
 「おれは・・・、おれは・・・、思い切って、父親のことを蜘蛛に聞いてみた。そしたら、こいつは・・・、’お前のおやじなら、おれの腹の中だ。お望みなら、お前もおれの腹の中に入って、おやじに会ってくるか’そう笑って言ったんだ。笑ってな!」
 モンキ蝶は、吐き捨てるように、言いました。
 「そうよ!黒い森から帰って来た蝶たちの中には、私のおじいさんもお父さんもいなかった。きっと、蜘蛛に殺されてしまってんだわ!」
 誰かが、叫びます。
 蝶たちの顔が、暗くくもります。
 中には、憎しみがこもった瞳で蜘蛛をにらみつけている蝶もいます。
 「みんな、どうしたの。昼間はあんなに楽しく蜘蛛さんと遊んでいたじゃない。それに、蜘蛛さんは、この菜の花畑で一度だって私たちをおそうことなんかしてないわ。そうでしょう。それなのに・・・」
 「バカだなあ、お前は」
 アゲハ蝶のお兄さんが、アゲハ蝶が話しているのをさえぎります。
 「お前はまだ、こいつの魂胆がわからないのか。こいつは、おれたちを油断させておいて、おれたち蝶を皆殺しにする機会をねらっているんだぞ。こちらがやられる前に、こいつを殺すんだ!」
 「そうだ!そうだ!」
 また、誰かが叫びます。
 「そのとおりだ。おれも蜘蛛と仲良くしているけど、それは、仲がいいふりをしているだけなんだ。もし、蜘蛛にさからったら、すぐに喰い殺されてしまうかもしれない。いつも、そんな恐怖感をもっているんだ」
 何匹かの蝶が、強くうなづきました。
 「そうか・・・」
 今まで、黙っていた蜘蛛がポツリと言いました。
 ・・・と・・・。
 蜘蛛は、蝶たちの前に進み出ると、いきなり、両手両足を広げ地面にあお向けになりました。
 「さあ、ボクを、君たちが気がすむようにしてくれ」
 蜘蛛はそう言うと、瞳を閉じます。
 「そうか、じゃあ、お前の望み通りにしてやる」
 モンキ蝶が、毒矢を握る手に、力をこめました。
 「やめて!」
 アゲハ蝶が叫びます。


 

 

 












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう