「俺達の住むこの世界はいつだって命懸けだ。気の休まるところなんてありはしない。
例えば俺達が、暖かい日差しを浴びて気持ちよく日向ぼっこをしていたら、あの黒い軍団が音もなく近寄ってくる。
気付いた時にはもう遅いんだ。あいつらの恐ろしいところは、集団での本領発揮。一匹二匹程度なら軽くひねりつぶしてやるが、それが何十匹にもなったら厄介だ。
俺の自慢の巨大な角も、飛び立つための羽だって、奴らにかかりゃ無意味と化す。あっという間に中から喰い尽されてオダブツだぜ。
現に俺は、そうして奴らの餌食になった仲間を数多く目撃した事がある。ズタボロの体で巣に運ばれる様と言ったら、あまりの凄惨さに吐き気を催したほどだ。
他にも、両手にカマを持った緑色の奴とか、俺と同じ光沢のある体をした大アゴの奴だとか、天敵になりうる奴は山ほどいる。
中でも一番恐ろしいのは、あの小麦色の肌をしたとんでもなくでかい生命体。下劣な奇声を上げながら、荒い息で近寄ってくるその様と言ったらまさに……怪物。
捕まったら最後、せまっくるしい籠の中へぶち込まれる羽目となる。
最初は俺達の事がよほど気になるのか、汚い手を籠の中へ入れてきたり、ジッと見つめてきたりと鬱陶しい事この上ないんだが、次第に俺達に飽きてくると、今度は全然世話をしようとしやがらねえ。
掃除もしないもんだから、だんだんと籠の中は排出物やゴミ屑で汚れてくる。俺は不衛生なのがなによりも嫌いなんでね、たまらず天井を突き破って逃げてきちまったよ。
ああ、あの事を思い出すと、今でも身の毛がよだつ。この自慢の大角がなければ、危うく俺は周りの環境に耐えられなくなって、パニックになるところだったぜ。
思えば、この大角に俺は何度助けられたことか。どんな強い奴だって、この角で一突きやれば、そのあまりの威力に息の根も止まるんだ。緑色の奴や、大アゴ野郎どもとやりあった時でも、この角の活躍のお陰でここまで生き残って来た。
まさに弱肉強食の世界。ま、あんたも気をつけるこったな。
……え? 俺の名前か? ふふふ……よくぞ聞いてくれた。この俺こそ、幾百の死線を乗り越えてきた、百戦錬磨の黒騎士と謳われる種の中の王、カブ――」
パクリ、ムシャムシャ、ゴクン。
「ふー、美味かった。おい、お前さん、言ってなかったっけ。この世界は命懸けだとかなんとか。忘れてたんじゃないのかい、ヘヘッ」
巨大な牛ガエルはそう呟くと、満足そうに沼へ向かって跳んで行った。
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