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赤い糸

作者:神橋つむぎ&無夢
こんにちは、無夢(むゆ)です!
神橋つむぎ先生との共同作です。
形式的には私が投稿していますが、小説自体はハーフハーフです。

私としてはなんだかとても足を引っ張ってしまった気しかしないのですが……大丈夫なことを祈ります……
by無夢

初めましての方は初めまして。思わぬご縁で出来上がったこのお話。最後までご一読頂けたら幸いです。
by神橋つむぎ

感想お待ちしています!
『金の切れ目が縁の切れ目』という言葉がある。
意味が分からない人は是非調べてもらいたいのだが、世の中にこの言葉の意味を身をもって知った、なんて人はそうそういないのではないだろうか。

 この言葉は、調べた人はわかると思うが元々は遊女とお客の状況からきているらしい。
金がなくなり店に来なくなればそれで終わり、すなわち縁の切れ目だ。

そして僕の場合もそうだ。
幼いころ事故で両親を亡くした僕は、近くに親戚が住んでいなかったこともあり、かなり遠くのお宅に引き取られた。
その家はうちから見てかなり遠縁であり、向こうからしてみれば見ず知らずに等しい子が来たわけで、ただただ迷惑だったことだろう。

 流れ者は嫌われる。
結局その家からも一年ほどで財政面を理由に次の家へと移された。
そんなことがあと十二.三回は繰り返された。

 長くて一年。
短ければ二ヶ月。
そんな、周りの人間から言わせれば『かわいそう』な生活をしていた。

いつもその『目』で見られる。
人を疑う、訝しむ目。
そんな視線は一つの刃となって僕を斬りつける。

 前から後ろから右から左から上から下から、全身を蝕んでいく。
そうなると人は無意識にわかってしまう。敏感になってしまう。
人が人に向ける、『悪意』に。

 そんな『かわいそう』な生活はまさに『金の切れ目は縁の切れ目』そのものだった。



ここ、中里北高校には一ヶ月前に転校して来た。
高校一年生の五月なんて時期に転校してくれば当然周囲の人間関係は出来上がっていて、入り込む余地はなかった。

 元々友達なんか作るつもりじゃなかったが、作るつもりでもあんまり関係なかったな、なんて思ったりしたが、そんなことには慣れっこだ。
今更どうこうする話じゃあない。

 むしろ好都合だ。
恋人はおろか、友達なんかいらない。
必要ない。
だって友達なんて

 ーー傷つくだけなんだからーー



放課後。
今日も一日疲れたな、なんて考えながら荷物を整えていると突然

 「ねぇ、君! 転校生君!」
 「……なに」

 黒い髪を後ろでポニーテールにしていて、眼鏡をかけている女子に呼びかけられた。

 誰だ?
 まず思ったのはそれだった。
んんー、名前が出てこない……
誤魔化しつつ話を進めるか……いや。
今までの経験から早くそういったことは聞いといた方がいいな。

 「転校生君、君は」
 「あのさ」
 「ん? 何かな?」
 「名前、なに」
 「あちゃー。覚えられてなかったかー! 転校生君、クラスメイトを忘れちゃあダメでしょうよ!」
 「……転校生君っての。やめてくれ」

お前だってクラスメイトの名前覚えてねぇじゃん、なんて思いながらも会話を進める。

 「僕の名前は谷川(たにがわ)喬太郎(きょうたろう)。君は?」
 「オッケーオッケー。谷川君ね。覚えたよ覚えた。バッチリ記憶した」
 「……で、名前は?」

おっほん、とわざとらしく咳をして彼女は続ける。

 「私の名前は水谷(みずたに)水谷箒(みずたにほうき)だよ。箒って呼んでよ」
 「えっと……水谷さんか」
 「箒でいいって。転校生君」

どっこいどっこいな気もするが……
しかし、ほうき……?
どんな字を書くんだ?
法規? 蜂起?
まさか放棄なんてことはないだろうけど。
 するとそんな僕のわからない、という顔を見て水谷さんは言った。

 「箒星(ほうきぼし)の箒だよ」
 「ああ……なるほ……ど??」

むしろわからないです。
結局彼女の名前の字を知るのはその数日後、日直で彼女の名前が黒板に書いてあった時なのだけど、これはまた別の話。

 「で、水谷さん。僕に何の用かな? 僕は今見たい家の腹痛が忙しいんだ」
 「いくら帰りたくても理由は重ねればいいって問題じゃないよね?! なに、見たい腹痛って?! 四つも重ねないで!?」

見てみたいわよ、と笑う彼女。
案外彼女はツッコミ役なのかもしれない。

 「さて、要件を言うよ。そのために君を呼んだのだった」
 「さっきも言ったが僕は早く帰りたいんだ。さっさと要件を済ましてくれ」
 「おっと、失礼失礼。了解了解」
 「……で、なに?」
 「ふふん」

彼女は満面の笑みで聞いてきた。

 「谷川君、君は運命の赤い糸を信じる?」



赤い糸。
よく人と人とは赤い糸で繋がっている、なんて言うあれだ。
運命の人、ってのと合わせて『運命の赤い糸』みたいな風にも呼ばれている。

正直僕はこの手の話は信じない。
といっても運命に否定的なわけじゃない。
運命とか奇跡としか言いようのないことがこの世にあるのは何となくわかる。

 だけど信じない。

 人間の縁なんて、(つむ)ぐのは大変なくせに簡単に切れる。
絆なんて簡単に崩れる。
金の切れ目が縁の切れ目。
人の縁なんて、運命なんて金で切れてしまう程度のものだ。

 僕は運命を信じない。
 運命がないことを知っている。
 身をもって、知ったのだから。



帰り道、なぜか彼女は僕についてきた。
……いや。なぜか、なんてウソだ。
なぜ彼女がついて来ているかなんて猿でもわかる。
さっきの話を続けたいのだろう。

 「水谷さん。さっきも言ったけど僕はその(たぐい)は信じられないんだ。だからもしその手の話を続けたいのなら無駄だと思うよ?」
 「ん? そうかな? そうなのかな?」
 「……なに? 占いでもしたいわけ?」

女子がこの手の話を振っている場合は占いとかをしたいのだろうなぁ、と思いつつ会話を進める。
……まぁ、実際に話を振られたことがあるわけじゃないけど。

 「うん? 占いって?」
 「……占いだよ。やったことくらいあるだろ?」
 「うん、まあ。……って、違う違う、違うよ?」
 「……占いじゃないならなんだよ」

てっきり「手相見せて」だの、「何座?」だの聞かれるのかと思っていたが違うのか?
僕の女子についての理解はここら辺が限界なので諦めて彼女に理由(わけ)を尋ねる。

 「じゃあなんだ。なんでついてくるんだ?」
 「あれー? 帰る方向が同じなんだからさ、一緒に帰ろうよ。いいじゃない」
 「嘘だな。君はこっちじゃないだろ」
 「あれ、バレてた?」

谷川君はなんでも知ってるなーと彼女は呟く。
いや、そんなことはない。

 帰る方向だってテキトーに言ったら当たったというだけの話だ。
夕日に照らされてオレンジ色に輝く彼女の横顔はふざけてるようでふざけていない、そんな不思議な雰囲気を纏っていた。

 「ま、このまま何も言わなかったらかなり変な女になっちゃうか」
 「十二分に変な女だけどな」
 「赤い糸、ってさっき私は言ったけど正確にそうなのかはわからないんだ」

やっと何か語り出したと思ったらまたその話か。いや知ってたけど。

 「わからない? なんの話だ?」
 「私ね、赤い糸が見えるんだ」
 「……は?」
 「もちろん全員の赤い糸が見えるわけじゃないんだけどね。運命っていうのは産まれながらのものだと思ってる人もいるけど、実際は日々の生活の中での言動の積み重ねなんだよ」
 「……よくわからないけど……バタフライ効果みたいなものか?」

バタフライ効果。
たった一匹の蝶の羽ばたきが巡り巡って遠く離れた土地で竜巻となる、という理論。
日本的に言えば風が吹けば桶屋が儲かるみたいなことだ。

 が、彼女はううん、と唸った。
どうやら違ったらしい。


 「まぁ正確には違うけど……そうだね。その話でいくなら日々の言動が蝶の羽ばたきで、運命が竜巻。そんな感じになるのかな?」
 「僕に聞かれても」
 「君には」

一旦言葉を飲んで言い直す水谷さん。

 「谷川君には赤い糸がある」
 「……あるわけないだろ」
 「なんで?」
 「運命の話云々を信じるかどうかは別としてもだ、僕にそんなものがあるとは思えない」
 「私には見えるの」
 「証拠は?」
 「……証拠はない……けど」
 「話にならないな。水谷さん。その手の話は女子の方が喜ぶんじゃないかな?少なくとも僕はその手の話は興味ないんだ。ごめんね」
 「あ、待って!」

何か言いたげな彼女を置いて歩き出す。

 「……」
 「君は! このままの生活を続けていいわけない! でしょ?!」
 「いいわけないだろ」
 「なら!」
 「……なんにも知らないだろ。僕のこと」
 「……!」

 全く。
『このままでいいか?』だって?
なんで出会ったばかりの人にそんなことを言われなきゃならない。

 いいわけないだろ。
 なんだか夕日がとてもウザったく感じた。



 「帰りましたー」

マンションの八階の一番右、八◯八号室の玄関を開け、僕は努めて礼儀正しく言った。
 表札に『ハセガワ』と書いてあるこの家は僕が『ワガヤ』と呼ばなくてはいけない場所だ。

 「あら、喬太郎君、おかえりなさい」
 「ただいま、宮子(みやこ)さん」

台所から顔をのぞかせたのは僕が『オカアサン』と呼ぶべき人。
ハセガワミヤコさん。

 「もうすぐごはんだからね。手を洗って待ってて」
 「はい」

今の『ワガヤ』にある会話なんてこんなもんだ。
僕はこういった時間に『オヤ』と話すということを知らない。
無言の食卓。
学校での出来事を聞かれるでもなく、ただ淡々と食べる。

 昔は黙るくらいなら怒ってくれた方が楽だとも考えたが、今となっては諦めている。
テーブルの向かいに座ったミヤコさんからひしひしと気を感じてしまう。

 「いつまでいるのかしら?」
 「そろそろ辛いんだけど」
 「そもそも遠藤さんが悪いのよ。面倒臭いからって遠縁の私たちに押し付けて」
 「なにか話す気はないのかしら?」
 「暗い子ね。もう最悪」

ミヤコさんが本当にこんなことを考えているかはわからない。
わからないがそう言った気を感じてしまう。
ちなみに『オトウサン』は帰りがてっぺんを過ぎた頃なのでごはんを一緒には食べない。
ので、感じる悪意は一人分で済む。

 「谷川君、君は運命の赤い糸を信じる?」

満面の笑みで語る水谷さんの顔が脳裏をかすめる。
 運命なんて。
赤い糸なんて。
 信じられるわけ、ないだろ。
 だって僕の赤い糸は、運命なんてものは。

見つかってないのだから。
 あるはずがない事を知っているんだから。



 なんとなく昔のことを思い出していた。
流れ者の生活が嫌で、そんな環境が嫌で、そんな自分が嫌で。
毎日が地獄だった。

 だけど世の中は広い。
ある一軒のおたく(たしか木村さんといった)がそれまでの家とは違い、僕を温かく受け入れてくれたのだ。

 ただただうれしかった。
家の環境が生活に与える影響は大きい。
家が楽しい分、学校でも楽しくやれた。
親友と呼べる人もできた。
毎日が幸せだった。
無知というのは楽だ。
そんな楽しい生活は、破滅への序章に過ぎなかったのに、僕はそれに気づいていなっかたのだ。

 何がきっかけだったのだろう。
ある時を境に僕はいじめられ始めた。

 「所詮は流れ者」

 そう気づいた時にはすでにすべてを失った後だった。
家族も、親友も、環境も。
おそらくこの時からだろう、僕が人を信じなくなったのは。

 朦朧とした意識の中で、背を向けて去っていくかつての親友の姿が見えた気がした。


布団の上で本を読んでいたつもりだったのだが、いつのまにか寝てしまっていたらしい。
部屋の電気は付いてるし、ロクに布団だってかけなかったようで僕は布団の端で(ちぢ)こまって寝ていた。

 「……また、昔のこと……」

どうも水谷さんの声が頭から離れず、夢にまで影響してしまったらしい。
最悪の目覚めだったが同時に少し振り切れた自分がいた。

 「おはようございます」
 「ああ、喬太郎君。おはよう」

リビングへ行き、いつも通り挨拶をする。

 「一晩中貴方の部屋の電気が付いてたから眩しかったんだけど? しっかりしてくれないかしら?」

なーんて、言っているかもわからない悪意を感じながら着替え、顔を洗う。

 『君は! このままの生活を続けていいわけない! そうでしょ?!』

水谷さんの声が頭をよぎる。
今なら言える。
今度は正しい意味で、ちゃんと。

 「いいわけないだろ」

鏡に映った見飽きた自分の顔に向かって精一杯の返答をする。
運命の赤い糸の話、そして水谷さんの話に乗ってみよう。
彼女を信じてみよう。
なぜだかすんなりとその事実(こと)を受け入れられた。



 「おはよう。水谷さん」
 「……ああ、 谷川君、おはよう!」

朝学校に着き、自分の席に荷物を置いた僕は、読書に(いそ)しんでいた水谷さんに話しかけた。
今までなら絶対にありえない僕の奇行、『自分からクラスメイトに話しかける』に何人かのクラスメイトが好奇の目でこちらを見る。

 「昨日の話なんだけど」
 「ああ、その話……」

申し訳なさそうに顔をそらす水谷さん。
何かを言おうとして口をつむぐ彼女。
だがすぐに何か決意したのか読んでいた本に(しおり)を挟み、こちらに向き直る。

 「昨日はごめんね。突然あんな変な話……わ、私はね」
 「信じるよ、その話」
 「……え?」

何が何だかわからない、という目で僕の顔を見つめてくる水谷さん。
その呆気にとられた顔は「普通の女の子」といった感じだった。
なんだ、こんな顔もするんだ。

 「赤い糸だとか運命だとかはさ、あるのかもしれないし、ないのかもしれない。けどさ、わかんないなんて嫌だな」
 「谷川君……」
 「君は昨日言った。『このままでいいの?』ってさ。最初は『何にも知らないくせに、って思った」
 「……ごめん。わ、私はそんなつもりじゃ」

今にも消え入りそうな声で答えて口をつむぐ彼女。
少し時間を開けた方がいいかな? とも思ったがこのままだと水谷さんが傷つくだけだと思い直して言葉を続ける。

 「でもさ、君が言ったことを一晩中考えたんだ。それで思った」
 「え……?」
 「君は、水谷さんは僕に疑問を投げかけただけなんだ。決して『いいわけないんだからどうしろ』とかは言わなかった」
 「そ……そんなことで?」
 「ああ」

おかしいよ、君。
水谷さんはそう言ってようやく少し笑った。

そう。僕はおかしい。
君にそんなことを言われたと気付いただけで心が温かくなってしまうのはきっと、それ程までに愛情に飢えているのだ。

 「まぁでも」
 「ん?」
 「ありがとう、信じてくれて」
 「あ、うん」

これから一体何をさせられるのか、流石にこの段階では察することができなかった僕を果たして誰が責められようか?
会話を終えてSHRの開始を告げるチャイムが鳴った。



水谷さんと話をして席に戻ると前の席の男子が話しかけてきた。
名前は確か……真田くんだったかな?

 「おい、谷川。お前どんな魔法を使ったんだよ? 俺にも教えてくれよ」
 「え? 魔法?」
 「お前、水谷さんに告られたんだろ? すげぇな。隅に置けないやつだな」

クラスメイトから猛烈な誤解を受けていた。ささやかにショックだ。



放課後、校庭から聞こえてくる野球部の掛け声を聞きながら僕は水谷さんと教室に残って詳しく話を聞いていた。

 「谷川君の赤い糸は、とある人と繋がってるの」
 「へえ……あ、ちなみにさ、赤い糸ってどんな風に見えてるの?」
 「なんていうか……君の小指から赤い糸が垂れていて……教室の外に伸びてる……」
 「じゃあ水谷さんから見たらさ、教室は赤い糸が多くて赤い糸まみれで、絡まって見えたりしないの?」

いまいち実感のわかない話なので割と根本的なところから聞いていかなくてはならなかったが、中々興味深い話でもあった。

 「んー……見えるっていうか、感じるんだよね。証明できないけど」
 「そんなもん……か。で?」
 「ん?」
 「僕と繋がってるのって誰なの?」

信じられないが運命は自分にもあるのだとしたら、相手が誰なのか非常に気になるところだ。
まさか『私でした~(笑)』なんてことはないだろうけど……誰だろう?

 「隣のクラスの委員長、竹内(たけうち)郁子(あやこ)さんだよ」

全然知らない人だった。



彼女曰く、人の縁とは水谷さんをもってしてもわからないものらしい。
人間の一挙一動が反映され、運命は動く。
けれどそれはどこでどう繋がるか、無数に可能性があるので理由なんてものを追求してはいけないらしい。

 運命は運命。
無理矢理に理由をつけるのならバタフライ効果やらナンチャラの法則やらナンタラの定理が働いているからなんだそうだ。

 いろいろ説明されたが最終的に、僕はこのままいけば将来竹内さんと結ばれる運命にある、ということだけはわかった。
そんなことを言われてもな……信じろというのは中々厳しいものがあるな。

 こう考えてしまうから、彼女は今朝発言を撤回しようとしたのだな。
今ならその理由がわかった。



 「なので君には」
 「君には?」

理屈を無理矢理説明しきると水谷さんは『話をもどすよ』と前ぶりを入れ、話を続ける。

 「彼女と、(あや)ちゃんとくっついてもらうよ」
 「……は?」

さっきの理屈からすると僕と彼女は放っておいても将来繋がる運命なのではないのか?
今この時間軸においてくっつく必要があるのか?

 「はぁ、わけがわからないって顔だね」
 「そりゃあ……ね」
 「そうだね、少し話を飛ばしすぎた。もう少し詳しく話すよ」
 「頼むよ」
 「まず、転校生君。質問だ」
 「転校生君はやめてよ。僕は谷川だ」

なんだって呼び名まで戻すんだ。
さっきまで散々『谷川君』で話をしてきたっていうのに。

 「いいんだよ、転校生君で」
 「?」
 「質問だよ。転校生君は私が赤い糸ついてる人全員にこんなことを聞いてると思うのかな?」
 「ん? ……いや、そんなことはないだろ」

朝話をした時、前の席の真田くんが勘違いしていたのを見ても明らかだ。
もし水谷さんが話をいろんな人にしていたのなら、あんな勘違いはしないだろう。

 「そう。これは君が転校してくる前の話だから君をわざわざ『転校生君』と呼んだんだ。悪かったね」
 「ああ。そういうことか」

……とすると何故なんだろう?
なぜ水谷さんは僕に『赤い糸』の話をふったんだろう?
『転校生君』であり、水谷さんからしてみれば赤の他人、良く言ってもただの(いち)転校生に過ぎないこの僕に。

 「谷川君は……その……控えめに言ってクラスに馴染めてないでしょ?」
 「控えめに言うなや……まぁ、そうだな」

馴染めない、というよりかは『馴染まないようにしてる』なんだが。
そんな違いを気にも留めない風に、水谷さんは続ける。

 「クラスの人気者は放っておいても幸せになるよ」
 「まるで僕が孤立してるみたいじゃないか」
 「その通りじゃない」
 「その通りじゃない!」

サラリと酷いこと言うよな……水谷さん……

 「でも君は放っておいたらこのまま灰色の青春時代を送ることになる。だから君には竹内さんと恋人とは言わない。いや、言うけれども。仲良くして欲しいんだよ」
 「……なるほどな」
 「転校してきた時の挨拶の感じからして、谷川君は転校に慣れてるよね?」
 「まぁ……家の都合で」

鋭いな。
しかし……聞いてみれば割と当たり前の理由だった。
が、当たり前だからこそ納得できる。

 「あ、ちなみにさ、水谷さん」
 「ん? なに?」
 「水谷さんは自分の赤い糸は見えないの?」
 「……見えないよ。多分まだ運命が決まってないんだろうね」
 「ふーん。そうなのか」

人の悪意に鋭い僕も大変だが、他人の運命や宿命が見えてしまう彼女も彼女なりに大変だったのだろう。
いつのまにか野球部の掛け声は聞こえなくなり、あたりはもうどっぷり暗くなってしまっていた。



その日は一応連絡取れるように、と、水谷さんとEメールアドレスを交換して終了となった。

 家に帰るや否や、ケータイがメールの着信を知らせた。
僕には両親がいないのでスマホなんて贅沢はできない。だから三、四年前の型の古いガラケーが今のところの僕の愛機だ。

【from水谷ホウキ】
18:45
件名:やっほー
《やっほー( ´ ▽ ` )ノ
もう家、着いたかな?
明日以降の計画を話し合いたいんだけど、今ダイジョーブ??》

彼女が提案してきたのは(よう)は『くっつけ作戦』だった。
正直な感想を言えば阿保らしい。
だけど阿保らしいからこそ期待できる気がしてしまった。
僕は椅子に座って返信を打つ。

【from谷川喬太郎】
18:50
Re:やっほー
《いま家に着いた。
いいよ。ちなみに具体的にはどうする気なの?》

自分でメールを打つとわかるが彼女はやはり女の子だ。
なんというか華やかな文な気がしてしまった。
この差……なんだろう?
考えていると直ぐに水谷さんから返事があった。

【from水谷ホウキ】
18:52
Re:Re:やっほー
《ayakoZayako@***.com
はい。これ↑が竹内さんのメアドだよん?( ´ ▽ ` )ノ
勇気を出してメールを送るのだ(^o^)/》

なるほど。
まずはメールで仲良くして、ということか。

 ならば善は急げだ。
水谷さんに返信をしたら竹内さんとやらにメールを送ってみよう。

【from谷川喬太郎】
18:53
Re:Re:Re:やっほー
《なるほど。了解。》

【from谷川喬太郎】
18:55
to:ayakoZayako@***.com
件名:こんにちは
《こんにちは。隣のクラスに先月転校してきた谷川喬太郎と申します。
クラスメイトの水谷さんからメールアドレスをもらいました。少しでもお話できたら嬉しいです。》

 「こんなんでどうかな」

我ながらなかなか勇気のいることではあったが、無事に送信。
 と、水谷さんから返事があった。

【from水谷ホウキ】
18:58
Re:Re:Re:Re:やっほー
《送った?送ったならこっちにも転送してください(^o^)/》

えーと……転送ってどうやるんだ?
慣れない機能に四苦八苦しながらも転送。

 と、直ぐに来る返事。
早すぎるだろう!?

【from水谷ホウキ】
19:00
件名:あちゃー…
《君に任せたのが間違いだったかな…{(-_-)}まさかあんな風に送るなんてね…
なんだいあれ?合コンの挨拶かい!?引かれてないといいね…》

【from谷川喬太郎】
19:02
Re:あちゃー…
《いやいやいや。流石に考え過ぎだよ。大丈夫。きっと大丈夫。》

【from水谷ホウキ】
19:03
Re:Re:あちゃー…
《私だったら引くなぁ…》

なんだと!?
そんなにまずいメール、送ったか?!

 「これは……中々ショックだな……」
 「喬太郎君、ご飯よー」
 「あ、はい。いま行きます!」

仕方ない。少し頭を冷やそう。
ケータイを机の上に投げ、リビングへと向かう。

 結局、この日はこれで終わってしまった。



朝起きてケータイを確認するとメールが二件来ていた。
送り主は確認するまでもない。
水谷さんと竹内さんからに決まってる。
見たくないなぁ……

 しかし無視するわけにいかないので覚悟を決めてメールを開く。
まずは水谷さんから。

【from水谷ホウキ】
23:40
件名:おーい?
《寝ちゃったのかー?
さっきはすまんね。言いすぎた。
竹内さんにこっちからテキトーに事情話したから。もちろん赤い糸の話はしてないケド。
ま、作戦は考え直さないとなっ( ^ω^ )
じゃ、また学校で。
チャオ(((o(*゜▽゜*)o))) 》

んんー……
これは彼女なりにフォローを入れてくれたの……かな?

 しかし事情ね……
どんな風に説明したんだろうか。
気になって大して覚悟も決めずに次のメールを開いてしまった。

【from竹内郁子】
23:50
Re:こんにちは
《こんばんは。
正直急にメールが来たのでびっくりしました。話は聞いています。
五月いう変な時期に転校してきて友達が全くおらず、惨め極まる学校生活を送っているので友達になってやってくれ、と、箒ちゃんから伺っています。大変でしたね》

 「み、水谷さん……ッ!?」

なんちゅう悪質な言い訳をするんだ水谷さん……ッ!
だが、そんな気持ちも次の文で晴れてしまった。

《事情はわかりました。私なんかでよければ、仲良くしていきましょう。
では、おやすみなさい(-_-)zzz Have a nice dream! 》

なんだかとっても暖かくなるメールだった。
こんな感じなら、まぁなんとかなるんじゃないか。
赤い糸もあるんじゃないか。

 朝ごはんを食べ、学校へと向かう道すがら、僕は自分自身の境遇なんかすっかり忘れてそんなことを考えてしまっていた。

【from谷川喬太郎】
7:26
Re:Re:こんにちは
《おはよう。
ありがとう!すごい嬉しい!
あ、でも別にそこまで惨めじゃないよ!?》

【from竹内郁子】
7:50
Re:Re:Re:こんにちは
《あれ?箒ちゃんからはそう聞きましたが…冗談でしたか(*^_^*)
そうそう、箒ちゃんからメールが来たんですけど、今日の昼、三人でお弁当食べませんか?》

【from谷川喬太郎】
7:53
Re:Re:Re:Re:こんにちは
《おおお!いいですね、是非!
では学校で》

全く僕も単純だ。
単純で愚かで何も学習しない。
運命なんて、赤い糸なんて

 あるはずがないと知っていたのに。

 ***

 【from水谷箒】
 23:30
 件名:こんばんはー
 《郁ちゃん起きてるー?
 さっき私のクラスの谷川君から唐突にメール来たと思うんだけど、実は彼、五月という変な時期に転校してきたおかげで友達がひとりもいない惨め極まりない学校生活を送っている超絶可哀想な男子なんだよね。
 私としてはそういうの、ほっとけないからさー、よかったら彼と友達になってくれないかな?(^人^)
 こういうので真っ先に郁ちゃんの顔が浮かんじゃって》

 【from竹内郁子】
 23:35
 件名:Re:こんばんはー
 《そうだったのね……。
 突然何なのかと思っちゃった。
 そういう事ならわかったわ。
 協力します(^^)d》

 「……ふう」

 これで大丈夫かな。
 私は息を漏らした。
 まさか谷川君、あんな風に送るとは思わなかったわ。
 フォローをしておいた事を伝えるために彼にもメールを送る。
 それにしてもEメールなんて久し振りに使う。
 スマホに変えたらチャットでしかメッセージのやり取りはしなくなったし。

 「さて」

 これが彼の運命への第一歩、という訳だ。
 これから徐々に谷川君に赤い糸を手繰り寄せてもらわないといけない。
 そうやって、彼は幸せへと向かっていく。

 「とりあえず、きっかけは作った……なら次は、さっさと会わせた方がいいかな」

 一緒にお弁当でも食べるのが手っ取り早いか。
 そう考えてまた郁ちゃんにメールをしようとするが手を止めた。

 「……もう遅いし、明日の朝でいいか」

 *

 初めて赤い糸が見えたのは、ーーとりあえず見えるという表現にしておくーー小学生の時。
 クラスメイトの男子の右手の小指から、床を伝ってどこかへと伸びていた。
 びっくりした私はその子に確認したが、そんな物は見えないと言われて変人扱いされるだけだった。
 他の子にも聞いてみたが、やはりその糸は私以外の誰にも見えないらしかった。

 夏休みのある日その事をおばあちゃんに話してみた。
 すると、母さんでさえ信じてくれなかった話をおばあちゃんだけは信じてくれた。
 何でも、おばあちゃんも昔赤い糸が見えたらしい。
 運命云々の話はその時におばあちゃんに教えてもらった。
 おばあちゃんの言葉が本当だったのかどうか、なんてどうでもいい。
 私にしか見えないんだから、私が信じたい様に信じてみたいと思ったからだ。

 *

 翌朝、目を覚ましたらすぐに郁ちゃんにメールを送った。
 支度をしている間に返信が届いていて、オーケーという事だった。
 ついでに谷川君に伝えてもらう事にする。
 なるべくコミュニケーションをとらせた方がいいだろう。

 *

 昼休みが始まるとすぐに弁当箱をバッグから取り出し、谷川君に声をかけた。

 「やっ、いよいよ初陣だね」
 「初陣て……戦じゃないんだから」
 「いーや、戦だよ! 運命に立ち向かうための!」
 「……水谷さんって漫画とかアニメ好きなの……?」
 「ん? ほどほどにね。何事も初めが肝心っていうし、いいスタートを切る様に頑張りましょーっ! おーっ!」

 ひとり張り切った声を出して彼と一緒に隣の教室に郁ちゃんを迎えに行く。

 「やあ郁ちゃん」
 「あ、箒ちゃん。その人が……」
 「ほら、自己紹介よ、自己紹介」

 とん、と彼の背中を軽く押す。
 谷川君は俯きながら少し恥ずかしそうに口を開いた。

 「あ、ど、どうも。き、昨日は突然メールを送ってごめんね。谷川喬太郎です。よろしく」
 「ああ、ほんと、いきなりだったからびっくりしちゃいました。竹内郁子です。よろしくお願いします」

 彼女は丁寧に会釈をして返す。
 ほんと、この娘はいつ見てもおしとやかで、私なんかとは全然違うタイプだなぁと自分でもわかる。
 男子はこういう娘をあっさり好きになるんじゃないだろうか。
 私は改めて向かい合うふたりを視界に収めた。

 「……さっ、お互いの挨拶も済んだ事だし、早速お昼を食べましょう!」

 くるりと後ろを向き、我に続けと背中で合図を出して廊下に出る。

 「えっ、ここで食べるんじゃないの?」

 *

 「さあ、食べよう。いただきまーす」
 「いただきます」
 「……いただきます」
 「どうしたの谷川君? 具合悪い?」
 「いや、そうじゃなくて……」

 私達三人はピロティーにレジャーシートを広げて弁当箱を開けていた。
 ちなみにこのレジャーシートは私が持参した物である。

 「……ちょっと恥ずかしくない……?」
 「そう?」
 「私は、ちょっと楽しいけどな。遠足みたいで」

 郁ちゃんがタコさんウインナーを摘まみながら言った。
 ていうかおかず可愛いな。
 タコさんウインナーて。

 「もしかして郁ちゃん、それ自分で作ってる?」
 「え? うん。たまにね。今日のは自作だよ」

 女子力たけー……私は毎日母さんに作ってもらっているというのに。

 「あ、忘れてた」

 箸を一旦置き、ペットボトルに持ち代える。

 「ほらほらふたりも」
 「? 何?」
 「飲み物持てばいいの?」

 促されて谷川君はさっき自販機で買ったリンゴジュースを、郁ちゃんは麦茶を注いだ水筒のコップをそれぞれ掲げる。

 「私達三人の初めてのお昼を祝して、乾杯!」
 「乾杯」
 「か、乾杯……」

 約一名乗り気じゃないのがいるけど、気にしない事にした。

 会話の内容はごくごくありふれた物だった。
 初めての会話という事もあり、谷川君と郁ちゃんはお互い探り探り。
 出身中学はどこだとか、どこから転校してきたのだとか、趣味は何なのだとか、そういうのだ。
 あとは最近話題になっているドラマの話とか、大ヒットしている映画の話。
 昼休みの終わりが近付いたので、片付けて校舎に戻る最中に、郁ちゃんが言った。

 「谷川君ってもっと大人しい人だと思ってたけど、話してみたら意外と面白い人だね」
 「だっ! だからそこまで惨めじゃないって……!」
 「きっとクラスに溶け込めるよ」
 「……そ、そうかな……」

 うん。
 それは私もそう思う。
 君が思っているほど、それは難しい事じゃないんだよ、谷川君。
 きっと君は、過去に何かあって人から距離をとっているんだろうけどさ。

 ……私はね、君だからこんな事をしてるんだよ、谷川君。
 ……。
 満更でも無さそうな彼の顔を見て、私は浅く息を吐いた。
 それは、ほっとしたからなのか、それともーー。

 *

 「それでは、次の作戦を発表します」

 放課後。
 谷川君を教室に残した私は意気揚々と言葉を発した。

 「次の作戦、それは……読書よ!」
 「……読書?」

 彼は首を傾げる。
 何じゃそりゃと言いたげな表情だ。

 「突然ですが問題です。郁ちゃんの趣味は何でしょう」
 「……読書……だったね」

 人差し指を額に当てて思い出す仕草をしながら彼は答える。
 お昼にそういう話をしていたのだ。

 「そう! 趣味が共通していると自然と親しみを持つものよ。同じアイドルが好きな人はファン同士で仲良くなる。だから谷川君も読書家になりましょう」
 「ええ……本、そんなに読まないんだけど」
 「……とまあ、これは少し言い過ぎだけど、郁ちゃんがお昼に言ってた、今読んでる本のタイトル覚えてる? とりあえずそれを読んで。そしたらその話題で盛り上がれるでしょ?」
 「……まあ頑張ってみるよ」
 「一週間で読んでね!」

 *

 そして一週間が経った三度目の三人でのランチ。
 谷川君はさりげなく本の話題を出した。

 「そういえば、この間竹内さんが言ってた小説、面白そうだから買っちゃったよ」
 「え、ほんと? どうだった?」
 「最後の最後で引っくり返る展開だったからびっくりしたよ。読み返してみたら途中に色々と伏線が張られてて凄いなぁって思った」
 「だよね。最初辺りに出てきたあの眼鏡がまさかあんな事になるなんてね」
 「そうそう。特にさあ、ヒロインの女の子が……」

 うんうん。
 私をよそにふたりで盛り上がってるぞ。
 これはいい感触だ。
 ……。
 あのー、私もいるんですけどねー……。

 「あれが面白かったのなら、同じ作者が書いた別の小説があるんだけど、きっとそれも面白いと思うよ」
 「えっ、ほんと? ……じゃあ買ってみようかな」
 「貸そうか?」
 「えっ、いいの?」
 「うん。あんまり有名な作者じゃないから、読んでる人少なくて。こんなに盛り上がったの初めて」

 ほんと、へらへらしてるよ、谷川君。
 ……それだけ心を許してきたという事か。

 「……おほんっ!」

 私はわざとらしく咳払いをした。

 「あのー……私もここにいますけど?」

 *

 くっつけ作戦を始めて一ヶ月が経った。
 週に二、三回三人でお弁当を食べ続けたおかげか、谷川君と郁ちゃんは確実に打ち解けていた。

 「そろそろ次の作戦を実行する時ね」
 「次の作戦……」
 「そう。学生の本領発揮よ」
 「……どういう事?」
 「今度あるじゃない。学生の恒例行事が」
 「恒例行事?」
 「テストよ、テ、ス、ト。期末試験」
 「……ああ、そういやもうそんな時期だっけ……で、それがどう関係してくるの?」
 「谷川君、郁ちゃんに勉強を教えよう。特に数学」
 「……は? 何で?!」
 「自分が出来ない事をさらっとやってのけると、女子は男子をちょっとだけカッコよく思うのよ。郁ちゃんの苦手教科は数学。これはもう私の調査済み。だから一緒にテスト勉強して、郁ちゃんがわからない問題を君が華麗に解いてあげたら『きゃあっ、谷川君素敵』ってなる事間違い無しよ」
 「……ほんとかよ……」
 「うん! 絶対そう! 多分ね! きっとよ!」
 「どんどん弱まってるじゃん……最終的に願望だよ」

 正直、自分でもちょっと勢いで言ってるのはわかる。

 「でも僕もそんなに数学得意じゃないんだけど……どっちかっていうと文系だし」
 「大丈夫。そこは私がフォローするから」

 *

 その日、学校が終わると彼を連れて直ぐにファミレスへとやって来た。

 「こう見えても私は数学が得意なのだよ、谷川君」

 えへん、と胸を張る。

 「……うん、そう見えるよ。眼鏡かけてて何か頭よさそうだし」
 「あら、そう?」

 ちょっと嬉しい。
 ……って、いけないいけない。

 「まずは私が谷川君がわからない所を教えてあげる。それから万全の体制で郁ちゃんに教えればいいわ」
 「竹内さんに数学を教えるために水谷さんに数学を教えてもらうのか……」
 「そ! これは下準備よ」

 店員にドリンクバーを注文し、ジュースを持ってくると私達は教科書とノートを広げて数学の勉強を始めた。

 「あの、水谷さん、ここわかんないんだけど」
 「ああ、それ? それはね……」
 「……んー、何か値がおかしくなるな……」
 「そこは……」

 やれやれ、と彼の隣に移動して解き方を教えていたその時、聞き慣れた声が私達の名前を呼んだ。

 「あ、箒ちゃんに谷川君」
 「げ! ……や、やあ郁ちゃん……」

 何と、郁ちゃんに遭遇してしまったのである。
 私達と同じく、学校帰りにクラスの友達と来ている様だった。

 「ふたりで勉強してるの?」
 「え? え、ええ、まあ……」
 「仲いいね」
 「!? や、そ、それほどでも……」

 いけない。
 何かが違う……。

 「……箒ちゃん、顔赤いよ?」
 「えっ!? こ、ここエアコン効いてなくて! やー、暑いなあ暑い暑い」

 ぱたばたと襟元を引っ張る。

 「え? さっきエアコン効きすぎって言ってなかった?」

 谷川君がツッコむ。
 余計な事を!
 ぎゅう、と彼の太ももを摘まむ。

 「あいたっ」
 「実は谷川君に勉強教えてもらっててね」
 「いやそれは逆じゃ……あいたっ」
 「ほんと、谷川君は数学得意だよねー」
 「……そ、ソウソウ。得意なんだよ数学」

 よし、話を合わせてくれた。

 「へえ、そうだったんだ……あれ? でもこないだあんまり得意じゃないって……」
 「!」

 そういえば、お弁当の時にそんな話してた気も……。

 「き、記憶違いじゃない?」
 「そうだったっけ……いいなあ、私数学苦手なんだよね」
 「じゃ、じゃあ郁ちゃんも谷川君に教えてもらいなよ!」

 お、何だかんだでいい流れになったぞ。

 「いいの?」
 「い、今は私が教えてもらってるからまた今度ね。ね、谷川君」
 「え!? あ、ああ、うん……この間の本のお礼に」
 「ありがとうー! 今日はクラスの友達と来てるからまた今度ね」
 「うん、またねー」

 手を振ると郁ちゃんは私達とは離れた席に着いた。

 「ふー……これで約束は出来たわ。あとは谷川君がしっかりと数学の解き方を覚えればオッケーね」
 「で、熱でもあるの?」
 「な、何でもない何でもない」
 「?」

 少し彼から距離を置く。

 「……それで、どう? 郁ちゃんは」
 「どうって?」
 「可愛いとかそういうの」
 「ああ……まあ、普通に可愛い……かな。色々と気にかけてくれるし」
 「でしょ? 君の運命の相手なのよ」

 そう、運命の相手は郁ちゃんなのだ。

 「……別に疑ってる訳じゃないけど、いまいち実感が湧かないのは確かなんだよな……」
 「大丈夫。君の赤い糸はきちんと郁ちゃんと結ばれてる。私には見えてるから……」

 シャーペンを持つ彼の右手の小指から細い糸が1本、つうと垂れているのがわかる。
 その先はしっかりと……。
 ……。

 「さ、それより続きよ続き」

 糸を目で辿るのをやめて、私は彼に向き直った。

 *

 私は谷川君の事が好きだ。
 多分。
 転校してきた彼を初めて見た時、私はかつての自分に近い物を彼に感じた。

 周りに馴染めずに他人から距離をとっていた彼は、だけどどこかで誰かとの繋がりを求めている様にも私には見えた。

 それは、あの時の、赤い糸の話を誰にも信じてもらえず、クラスから白い目で見られていた幼い私。

 みんなとの縁が切れるのが怖くて、繋がりを必死に保とうとした時の私。
 そんな昔の自分と重なる彼を、私はどうにも放っておけなかった。
 だけど、彼の赤い糸が繋がっているのは私ではない。
 それでもいいのだ。
 赤い糸が繋がる先は、幸せな運命。
 おばあちゃんはそう言っていた。
 なら、彼にはその幸福を掴み取って欲しい。
 それが淡い恋心を抱きながらも私が出した結論だ。
 そうして人と繋がっている事の喜びを彼には知って欲しい。
 好きな人には幸せになってもらいたいのだ。
 だから、私は何が何でも彼と郁ちゃんをくっつけなければ。

 *

 週末。
今度は郁ちゃんを加えた三人で、この間のファミレスで勉強会を開いた。
本当は谷川君と郁ちゃんのふたりきりの空間を作りたかったのだが、谷川君がわからなかった時に助け船を出すために私も参加する事にした。

 「あの……谷川君、これわからないんだけど……」
 「え……どれどれ?」

 谷川君は隣の郁ちゃんへと顔を近付ける。
 私はそれを向かい側からひとり眺める。
 そしてちらりと問題を覗き見た。
 ……谷川君、それこの間ばっちり教えた奴よ。

 「ええとね、これは……」

 少し言葉を詰まらせた後、解説を始めた。
 ……うんうん、いいじゃん、出来てる出来てる。

 「あ~なるほど! そっか、そうするのか~……さすが谷川君」
 「い、いやぁそれほどでも……」
 「よっ、谷川、かっこいいぞー」

 茶化しつつフォローする。

 「ほんと、凄いなあ谷川君。頭いいね」

 好印象を残して勉強会は幕を閉じた。
 よし、次のステップだ。

 *

 【from水谷箒】
 21:10
 件名:テストお疲れー
 《よっ!
 試験疲れたねえ・・・(;´Д`)
 期末試験が終われば次はもう夏休み!
 試しに勝負をかけてみよう!》

 【from谷川喬太郎】
 21:17
 件名:Re:テストお疲れー
 《突然びっくりしたよ。
 勝負って何?》

 【from水谷箒】
 21:23
 件名:Re:Re:テストお疲れー
 《今月末にお祭りがあるでしょ?
 あれに郁ちゃんを誘いましょー。
 ふたりで出かけるのだ\(^o^)/
 あわよくばコクって……って思うけど、さすがに早いかな?
 いけそうならいってよし!》

 【from谷川喬太郎】
 21:28
 件名:Re:Re:Re:テストお疲れー
 《ちょっと待って!
 さすがに告白はまだちょっと……。
 祭りに誘うぐらいならやれそうだけど》

 【from水谷箒】
 21:30
 件名:Re:Re:Re:Re:テストお疲れー
 《よし、では早速誘うのだ( ≧∀≦)ノ
 結果連絡( `・ω・´)ノ ヨロシクー》

 *

 【from谷川喬太郎】
 22:17
 件名:結果
 《オッケー貰えたよ……》

 【from水谷箒】
 22:35
 件名:Re:結果
 《おお!
 よかったよかった!
 しっかりエスコートするんだぞ☆》

 【from谷川喬太郎】
 22:37 件名:Re:Re:結果
 《水谷さん含めて三人で行く事になりましたが……》

 【from水谷ホウキ】
 22:39
 件名:Re:Re:Re:結果
 《何ですとー!?
 どーしてそーなった!?》

 【from谷川喬太郎】
 22:41
 件名:Re:Re:Re:Re:結果
 《流れで……》

 「……ばか」

 私はスマホに言いつけた。

 *

 そして1学期が終わって夏休みに入り、お祭りの前日。
 私はメールを谷川君と郁ちゃんに送った。

 【from水谷箒】
 19:47
 件名:ごめん(。-人-。)
 《悪いのだけど、明日のお祭りには行けなくなっちゃった( ̄▽ ̄;)
 ちょっと用事が入って(汗)
 ふたりで楽しんでおいで~》

 ちょうど入力を終えた時に母さんから呼ばれたので送信ボタンをタップし、すぐに通知を消してリビングに向かった。

 用事があるなんてもちろん嘘だ。
 私なんかが一緒に行ったってただの邪魔者になるだけだし。
 頑張ってね、谷川君。

 *

 お祭り当日。
 特にする事も無く、知らず知らずの内にリビングのソファーで眠りに落ちていた私は母さんに突然起こされた。

 「……んー? 何、どうしたの……?」

 窓の外を見るともう薄暗くなっていた。
 夜らしい。

 「今日お祭りでしょ? お母さんたこ焼き食べたいから買ってきてよ」
 「ええ~……めんどくさい……」
 「どうせ行く相手もいないからぐうたらしてたんでしょ? お小遣いあげるからさ」

 行く相手がいない訳ではないのだけれど……。
 しかし、断っても押されてどうせ行く展開になるんだろうしなあ。
 用事があると嘘をついた手前、あまり足を運びたくないのだが。

 「……はいはいわかりました」

 母さんからお金を受け取り部屋着のままサンダルを履いて家から出た。

 「……今頃谷川君と郁ちゃん、楽しんでるかなあ……」

 ふたりが並んで歩く姿を想像する。
 ちょっとだけ胸が痛んだ。

 「……あ」

 ポケットに手を入れてある事に気付く。
 携帯を家に忘れてしまった。

 「……まあいいか」

 すぐに帰るつもりだし。
 あまり長居して万が一鉢合わせになったら面倒だ。
 適当に誤魔化せばいいか。

 *

 お祭りは商店街一帯で開かれている。
 近くの通りには露店が立ち並び、今だけこの辺りは歩行者天国になっていた。
 たこ焼きの屋台だけでもひとつの通りにいくつも見られる。
 どれがいいかなあ、なんて見繕っていると。

 「あれ、箒ちゃん?」

 ああ、こういう事ってあっさりあるのか。
 郁ちゃんとばったり出会ってしまった。

 「あ、や~、郁ちゃん……」

 ……。
 谷川君の姿が見えない。
 トイレにでも行っているのだろうか。

 「ごめんね、急に……」

 突然彼女は謝った。

 「……何が?」
 「え? 今日の事だよ。急にいとこが来ちゃったから……」
 「いとこ?」
 「うん。あそこ」

 フライドポテトの店に並ぶ列を彼女は指差す。
 その中に、小学生くらいの男の子の姿が見えた。
 あれが郁ちゃんのいとこという事だろうか。
 いや待て……何だ。
 何の話をしているのだ……?
 続けて郁ちゃんは言った。

 「ところで、谷川君は?」
 「……えっ……?」

 何かがおかしい。
 その時、私達の前に現れた。
 彼が。

 「あっ……谷川君」
 「……信じてたよ……」

 寂しそうな目で蚊の鳴く様な声をはなって、彼は突然どこかへと走り出す。

 「待って……待って谷川君!」

 すぐに追いかける。
 何がどうなっているのだ。
 訳がわからない。
 人混みを掻き分けながら進み、人気(ひとけ)が無くなった河川敷でようやく谷川君に追い付いた私はその肩に手をかけた。

 「待ってってば!」
 「離せよ!」

 彼は弾く様に私の手を振りほどく。

 「いったっ!」
 「楽しかったかい?」
 「なっ……何を言ってるの……!?」
 「とぼけるなよ。僕を騙してたんだろ」
 「騙すって……何の話よ?」
 「適当に嘘ついたりして、ふたりで楽しんでたじゃないか!」
 「……お祭りの事? 郁ちゃんと会ったのは偶然で……」
 「……僕は君を待ってたんだ……信じた人に裏切られた気持ち、君にはわからないだろ!」
 「落ち着いて! 話を整理して……」
 「どうせ赤い糸とかいうのも無いんだろ!」
 「……えっ……?」
 「漫画や小説じゃあるまいし、初めっから嘘臭いと思ってたんだよ。君はずーっと僕に嘘をついてたんだ」
 「……違う」
 「竹内さんと一緒に僕を信用させて、裏ではいつ突き放そうかと話し合ってたんだろ」
 「違う。そんな事無い。私は本当に君の事を想って……」
 「信じた僕が馬鹿だったよ……やっぱり、君なんかと関わらなきゃよかった」

 ……っ!

 「……人の気持ちも知らないで……!」

 思わず声が出ていた。
 ぎゅっ、と自然と力強く拳を握る。
 それから、何かに繋ぎ止めていた糸がぷつりと切れた様に私の思いは高ぶっていった。

 「人の気持ちも知らないで! 自分ばっかり理解されないみたいな言い方しないで! 君だって私の気持ち、ちっとも理解してないくせに! 谷川君なんか嫌いだよ! 大っ嫌い!」

 一息でそう言うと、すぐに彼の前から立ち去った。

 足取りがおぼつかない……暗いせいもあるが、視界が滲んでいるのもあるだろう。
 走りながら体が熱くなっていくにつれ、頭はどんどん冷めていく。
 物事を考えられる様になってから真っ先にこう思った。

 ああ、谷川君に嫌われてしまった。

 *

 たこ焼きを買う事も忘れ家に着いた私は自分の部屋にこもり、気持ちが落ち着いたらリビングに放置していた携帯を取りに行った。
 通知がいくつか来ている。
 郁ちゃんからのメールと、谷川君からの何度かの着信……いずれも私が寝ている間に来ていた。

 これで全てがわかった。
 まず、私の昨日送ったドタキャンメールはふたりに送信されていなかった。
 通信状況とかの都合でたまたま失敗したのだろう。
 私は昨日の送信直後、それを確認する事無く通知を消していた。
 ふたりから返信が来なかったのだが、そういう事だったのだ……。

 そして、郁ちゃんからのメール。
 いとこの世話をする事になり、一緒に祭りに行かなければいけなくなったので、私達とは行けなくなった、という内容だった。
 つまり、郁ちゃんは私と谷川君がふたりでお祭りに行くものだと、谷川君は私がお祭りに来るものだと思っていたのだ。
 だから、時間になっても約束の場所に来ない私に彼は何度も電話をした。
 マナーモードになっていたし、寝ていた私はそれに気付かなかったのである。
 彼はたまたま会った私と郁ちゃんを見て、自分が裏切られたのだと思ったのだろう。

 「……」

 どうしようか、これから……。
 結論を出せず、私達は夏休みの間、一度も連絡を取らなかった。

 *

 心が晴れないまま2学期が始まった。
 あれから毎日あの(よる)の事を考えていた。
 言い過ぎてしまった。
 そう思いつつもなかなかメールが出来なかった私は、教室に谷川君の姿を見付けると意を決して彼に話しかけた。

 「谷川君」
 「! ……ああ、水谷さん」
 「……その、この間はごめん……」
 「え……ああ、うん……」

 表情をあまり変えずに彼は答えた。

 「……ごめん、ちょっと考え事したくて」
 「え? ……ああそう、ごめん」

 素っ気無い言葉に私は負い目もあって、ついすぐに引いてしまった。
 ……私らしくないのはわかっている。
 自分の席に戻ると改めて彼の事を考えた。
 先ほどの谷川君の対応、どこか冷たく感じた。
 ……戻ってしまったのだろうか、私が話しかける前の彼に……。
 ……。
 ええい、一度決めた事だ。
 とにかく、くっつけ作戦を続けよう。
 まずは彼と何とかゆっくり話して、仲直りをしなければ。
 また放課後彼について行って、あの時みたいに話が出来れば……。

 なんて思っていると、予想外にも下校時刻に彼の方から声をかけてきたのだった。

 *

 「……」
 「……」

 お互い無言で道を歩いていた。
 何か話さないと、と感じていても、いざ口を開く事が出来ない。
 んもう、どうした箒! お前らしくないぞ!

 「「あのさ……! あっ……!」」

 やっと喋れたと思ったら谷川君と同時だったらしく、私達は申し合わせたかのように口をつぐんだ。
 そして。

 「「……ぷふっ!」」

 またも一緒に吹き出した。

 「ごめん、谷川君。この間は言い過ぎちゃった。確かに私は君の気持ちをわかってなかったよ。ごめん」

 朝よりは至って冷静に話が出来ている。
 さっきのハモりで緊張感は無くなった気がしていた。
 それから私はお祭りの前日にメールが送られていなかった事を話した。
 なぜあの場所にいたのかという経緯も。

 「……そういう事だったのか」

 黙って聞いていた谷川君は納得したのか頷きながら言った。

 「……信じてくれるの?」
 「……うん。信じるよ」

 あの後しばらくして、彼は郁ちゃんにメールを送ったらしい。
 そして、私とはたまたま会ったという事を聞いたそうだ。

 「僕は結局、また裏切られた……ほんとにそう思ったよ。けど、時間が経ったらほんとにそうだったのかな、っていう気持ちが出てきたんだ。心のどこかでやっぱり水谷さんを信じようとしてた」
 「……なかなか嬉しい事を言ってくれるじゃないか。いやー、仲良くなったもんだ、私達も」

 私は遠慮気味だった今日一日これまでの態度をころりと変えて、いつも通りを振る舞った。
 嬉しいのはほんとだ。

 「僕の方こそ君に酷い事を言っちゃったよ。ほんとにごめん」

 彼は謝ってくる。

 「いいのいいの。友情にすれ違いはよくある事だよ。五分五分って事にしましょ」
 「それじゃあ、許してくれる?」
 「もちろん」
 「……ありがとう」
 「どーいたしまして」
 「……あのさ、僕、告白しようと思うんだ」
 「!?」

 突然の予告にただただ驚く。
 まさか仲直りの直後にこんな展開になるとは思わなかった。

 「……そっ、そっかー! 何? もしかして夏休み、ちょくちょく郁ちゃんと連絡取ってたとかー?」

 ばんばんと彼の背中を叩く。

 「え……うん、まあ、ね」
 「だいじょぶだいじょぶ! きっと上手くいくって!」
 「そうかなあ……」
 「そうそう!」

 意外と早くここまで来たな、といった感じだ。
 まあ、私が悶々と悩んでいる間にふたりは密にメールをして、親睦を深めていたそうだし。
 もしかしたら今度こそふたりでどこかに出かけていたのかもしれない。
 ……嬉しい反面、やはり少し……少しだけ、ほんのちょっぴりだけ切なくなったりしますなあ。

 
 「……じゃあ、するよ」
 「うん。いやあ、私の知らない所でここまで進展してたとは、びっくりだよ」
 「僕は水谷さんが好きだ」
 「うんうん。郁ちゃんが……って、え」

 今何てった?
 ……ああ、郁ちゃんが好きだって私に告げたんだよね。
 ……何か、なーんか聞き間違えた気がするぞ。

 「……何て?」
 「初めてだったんだ。誰かと縁を切ろうとしたのに、切りたくなかったのは」
 「……何の話をしているのかな?」
 「僕は、せっかく出来た君との縁を切りたくなかった。何でだろう、って考えたら、多分、それは君だったからなんだと思う。水谷さんだから僕はそう思ったんだ」
 「……ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない」
 「君は僕の事を多分、僕以上に考えてくれてる。そう思ったら、ああ、僕は君が好きなんだなあって」

 ……。
 『僕は君が好きなんだ』?
 君というのは……。

 私か?

 顔が引きつるのを感じる。

 「……郁ちゃんと連絡取り合ってたのでは……?」
 「うん。水谷さんの事が好きなんだって、相談してた」

 ……あれー?
 今、はっきり聞こえたぞ?
 「水谷さんの事が好きなんだ」って、はっきり聞こえたぞー……。
 ……………………………………………………………………………………。

 はっ!!!!!!!!!!??????????

 ぼっ、と顔が火を噴いた。
 突然過ぎて何が何だか……。
 め、目眩がしてきた……。

 「……は、はは、は……わ、私の知らない所で、い、いつの間にか私がくっつけられようとしてたのか……」

 ぐるぐると目を回しながらははは、と全く笑っていない声で私は笑った。

 「……谷川君、君の赤い糸は郁ちゃんと繋がってるんだよ? 君が郁ちゃんと結ばれれば、幸せになれる。それなのに私を選ぶの?」
 「運命は変わるかもしれないって水谷さんは言った」
 「……」

 確かに。

 「……」

 な、何なのだ。
 何なのだこの展開は。

 「……っ!」

 い、いけない。
 いけないったらいけない。

 「~~~~っ!!」

 は、恥ずかし過ぎて言葉が出てこない……!

 「……た、谷川君」
 「……何?」
 「き、君は多分、今まで誰かとの繋がりをつ、作ろうとしてこなかったんだろうと思うけど」
 「……うん、そうだね」
 「そ、それはつまり、だ、誰にも関心を持とうとしなかった、という事だよ」
 「……」
 「ほ、ほらこれでわかったでしょう? 君が知らない所で君の事を思っている人がいるんだよ。も、もし家族と上手くいっていないのなら、きっとその原因は君にもある。案外君のすぐそばまで、糸は伸びてきているのかもしれないし」
 「……」

 無意識に人差し指を立ててくるくる動かしながら私は喋り続けた。

 「だ、だから、ひ、人に自分の気持ちをわかって欲しいのなら、ま、まずは君が人の気持ちをだね……」
 「……わかったけど、水谷さん、今適当に話をはぐらかしてない?」
 「ううぇっ!?」

 バ、バレたか……。
 ふ、不覚。
 不覚にも、今私は彼の前で恥じらっている……。
 だ、だって好きな人から告白されたんだもの!
 そりゃー気が気じゃ無くなるさ!

 これ以上赤面を見られまいと下を向き、自分の手を確認した。
 私の小指には赤い糸は見えない。
 谷川君の赤い糸は、まだ郁ちゃんと繋がっている。
 ……。
 けど。

 向き合う時が来たのかもしれない。
 運命という、赤い糸という物に濁してなおざりにしてきた私の恋心と、向き合う時が。
 ……ならば、潔く運命に立ち向かってやろうじゃないか。

 いつの日か彼の小指にあるあの細い糸を、絡まってでも私のこの小指に結び付けるその日まで。
 ほつれない様に、しっかりと。

 ……私は顔を上げた。



いやぁ…後半の告白シーンとか素晴らしかったですねぇ…驚きました…!
神橋さんには本当にこの2.3ヶ月お世話になりました。
本当にありがとうございました( ̄^ ̄)ゞ
読んでくださったみなさんも本当にありがとうございます。
この作品を読んで、何かを感じていただけたら幸いです。
ではまた何かの機会にお会いしましょう。
ありがとうございました!
by無夢


初めての共作だったのですが、あれこれと悩みつつも楽しくつむがせて頂きました。貴重な機会を下さった無夢さんに、また最後まで読んで下さった方に、ありがとうございました。
by神橋つむぎ

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