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幼馴染みの君が言うには 作者:六つ花 えいこ
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01 「もしかしたら、俺の事」


「お母さんが仕事をしないと、うちは無収入になります。ひいてはあんたの輝かしい高校生活もおじゃんです。お母さんは仕事をします。悠大はまだ小さいから、お兄ちゃん、しっかり頼んだよ」
 辻浦つじうら 陽介ようすけが母にそう言われたのは、何の変哲もない土曜の夜のことであった。仕事から帰ってきた母はルージュも落とさずに、陽介の前に仁王立ちしている。
「俺、部活あんだけど」
「しょうがないでしょ。お母さん、あんた達と屋根のある家で暮らしたいもん」

 陽介の両親は共働きだった。これまで母は、幼い子供がいるからと、会社の厚意で残業を免除されていた。しかしこれからは女手一人。心ばかりの養育費を不貞の末追い出された父から受け取るとはいえ、家計は厳しくなるだろうことぐらい、高校生の陽介にも判断がついた。

「よろしく頼んだよ」
 笑う母に、陽介はにこりと微笑んだ。

 そんなに言うなら、もう仲が冷え切っていた父さんとの間に、まるで繋ぎとめるかのように子供を作らなければよかったのに。そんな身勝手な理由で産んだくせに、親父がいなくなったら、もう用済み? 子はかすがいじゃないのかよ。

 腹に渦巻く鬱憤を、陽介は笑顔で押し込める。「わかった」と告げる声は、いつも通りの声色だった。



【 幼馴染の君が言うには 】



 ――あれ、陽ちゃんだ。

 山中やまなか 実里みのりは通学路で立ち止まった。
 閑静な住宅街にはちらほらと学校帰りの子供の姿が見える。就業のチャイムが鳴ると真っ直ぐ帰路につく実里は、そこで珍しい人物を見つけた。

 ――それに、悠ちゃんもいる。

 陽ちゃんと悠ちゃんとは、実里の住むマンションの同じ階に住む兄弟だ。マンションが分譲されてすぐに入居した山中家と辻浦家は、子供たちの年が同じだったこともあり家族ぐるみで付き合いをしていた。

 しかし高校生ともなればその距離に微妙な開きが出てきてもおかしなことではない。実里は中学に入ったころから、ほとんど陽介と会話することなく生活していた。
 陽介と実里は高校1年生。悠大ゆうだいは保育園の年長さんである。黄色い帽子通園帽をかぶった悠大は、嬉しそうに陽介に話しかけている。
 少し背をかがめて小さな悠大と手を繋いでいる陽介を、実里はこっそりと観察する。彼は中学からやっていたバレー部に、高校でも所属しているはずである。

 陽介は、身振り手振りで一生懸命におしゃべりする悠大を優しく見守っている。その背には、大きな部活バック。
 辻浦家の離婚話なら、実里の耳にも入っていた。陽介と悠大の背を見送りながら、実里はうーんと考え込んだ。




 帰宅後、実里は母に駆け寄った。
「今日さー陽ちゃんが悠ちゃんのお迎えしてたんだよ。部活、休んだのかなぁ」
「あぁ……陽ママねぇ。悠大ちゃんまだ小さいのに自分で手をかけられなくて可哀想よねぇ。しばらくは仕事で帰りが遅くなるんですって」
「しばらくってどのくらいなんだろ」
 実里にとっては、陽介の母が可哀想という気持ちよりも、部活が出来ない陽介への同情が優った。実里はずっと、陽介が楽しそうに部活をしているところを見ていたからだ。

「私、何か手伝えないかなぁ」
「ええ? あんたが?」
 のんびりした母がころころと笑う。
「ママのかわりに夕飯作る日だってあるんだし、ご飯とかさ。いやそこまでは無理でも、悠大ちゃんのお迎えぐらいならできそうじゃない? 保護者じゃないし、園の決まりとかでダメかなぁ」
「あらあら。ちゃんと責任持って出来るのなら、陽ママに聞いてみてあげましょうか」
 したり顔の母に頼むのは大変癪であったが、背に腹は代えられない。実里はお願いします、と両手を合わせた。

 母のメールに速攻で電話が返ってきた後は、とんとん拍子で話が進んだ。「ご迷惑にならないならぜひ、お小遣いも出すから!」と懇願する陽介の母に、実里は慌てた。迎え程度で小遣いまでもらえないと、母と話し合った実里が夕飯の話を打診する。すると電話口で泣いているんじゃないかと思うほど、勢いよく陽介の母にお礼を告げられた。
 小遣いの額が両母親の間で協議される。こうして実里は、おさんどん見習いとなった。




 次の日登校すると、実里は陽介の教室へと向かった。一つ上の階にある陽介の教室に馴染みは無く、実里はどうしようかまごついていた。陽介は実里に気づくことなく窓際で、級友と笑い合っている。また出直そう。そう踵を返した実里の前に、一人の男子生徒がいた。
「あっ、あっくん」
 振り返った男子生徒は、実里を目に留めると小さく微笑んだ。
「どうかした? みぃ」
 あっくんと呼ばれた明利あきとしは陽介と同じバレー部に所属する同級生だ。そして、彼もまた実里たちと同じマンションに住んでいる。残念ながら階は違うが、小さなころから陽介と明利と実里は三人でよく遊んでいた。
 大柄な陽介と違い、小柄で柔らかい印象を持つ明利には実里も話しかけやすい。実里は明利に笑みを返した。

「陽ちゃんに用事があってさぁ……」
「陽? わかった。ちょっと待ってて」
 明利は実里の言いたいことを察すると、教室へと入った。窓際で楽しそうに話している陽介の元まで行くと、明利は声をかけた。大柄な男子に囲まれていた陽介が、ひょいと顔を覗かせる。
「呼んでる」
 明利の言葉に頷くと、陽介が椅子から立ち上がった。陽介の背に、級友から茶化した声が向けられる。
「なんだ辻浦、また告白かー?」
「いいよなー何が違うの? タッパはあんでしょ俺にも」
「顔じゃね」
「顔かぁ」
「あの子、1組の子?」
「じゃかしーわ」
 会話の延長で笑いながら陽介はそう言った。騒ぎ立てる男子に参ってしまった実里は、サッとドアから姿を隠している。
 陽介が教室から出る。興味津々で見つめている男子の気配を感じ、実里はあたふたと口を開いた。

「辻浦君、ちょっといいかな……」
 陽ちゃん、なんて呼んだらまたからかわれると思った実里はそう呼んだ。実里の言葉に、陽介は片眉を上げた後、にこりと微笑む。
「何、山中さん」
 笑顔と呼び名に、実里は陽介から確かな距離を感じる。そういえば、最後に会話をしたのはいつだったか。思い出せないほど昔という事実だけが実里に残った。
 陽介を呼び出した見知らぬ女子が何の用事があるのか、よほど気になるらしい。窓際にいる友人たちが、陽介と実里を興味津々に見つめている。
 家庭の事情もあるため、あまり大っぴらに話さない方がいいだろう。そう考えた実里は、陽介を廊下へと誘い出す。
「ここじゃ……」
「いいよ別に」
 陽介のきっぱりとした口調に逆らえずに実里は口を開いた。
「今日のこと、おばちゃんに聞いてる?」
「聞いてる。悠大迎えに行って、飯作ってくれるんだろ。悪かったね」
 話が通じていたことに幾分かほっとした実里が息を吐いた。

「ううん。よ――辻浦君には、部活頑張ってほしいし」
 照れくさそうな笑みを浮かべた実里を陽介がじっと見つめた。

 陽介は実里のことを、異性として特別意識したことはなかった。物心ついたころから一緒に泥にまみれていたのだ。それも致し方ない話である。
 幼い頃はよく遊んでいたため、他の人間よりかはお互いの環境を知っている。とはいえ、思春期に入ったあたりからほとんど会話もしていない。今の彼女がどんな風に生活しているか、どんな性格に育っているか、部活に忙しかった陽介は一切知らない。

 しかし、いくら幼馴染とは言えこんなことを向こうから提案してくるぐらいだ。実里からは一定以上、もしくは大きな好意を寄せられていることは間違いないだろう。
 陽介は恵まれた体格と、そこそこ整っている顔立ち、そして同年代の中では落ち着いた物腰から、こういう好意を向けられることが少なくない。
 幼い頃から知っている友人ということで、僅かな居心地の悪さは否めないが、部活に復帰するためだ。使えるものはありがたく使わせてもらおうと腹をくくり、陽介は実里に爽やかな笑顔を浮かべた。

「ありがとう、助かるよ。保育園の場所はわかるよな?」
「流石に自分の通ってたところは忘れないよ」
 陽介の笑顔にようやく実里も笑みを返す。今悠大が通っている保育園は、陽介と実里と明利の通っていた園でもあった。
「園長先生にも電話で連絡してくれてるみたいだから、安心して」
「そ。じゃあ、よろしく」
 陽介は制服のポケットから取り出したものを実里に渡した。今朝母に渡されたトドのストラップがついた玄関の鍵である。実里は両手で包むと、大きな覚悟を見せるように、うんと頷いた。




 陽が沈み、体育館の電気が落ちる。一週間ぶりに部活に出られた陽介は、汗をぬぐいながら倉庫から出てきた。
 後片付けをするのは一年の仕事だ。最後まで残って監督をしてくれていた二年の先輩に、一年全員で頭を下げて別れた。
 陽介はまだほのかに明るい道を歩いた。徒歩通学の陽介に、最後まで帰路を共にする部活仲間はいない。陽介はこれからも、この道をこの時間に歩けることを祈りながら、家路を辿った。

「ただいまー」
 無事でいてくれよ。陽介は玄関のドアを開きつつ祈った。もしここで何か惨事が起きていれば、陽介は再び夕方下校組へと逆戻りするからだ。
 長い廊下の先から、笑い声と明るい光が漏れている。
「あ! お兄ちゃんだ!」
 玄関のドアが閉まる音を聞き取ると、笑い声が途切れた。ドンッバタバタバタと、ソファを飛び降りた悠大が走って来る音が聞こえる。

「おかえり!」
「ただいま」
「あのね、あのね」
「うん」
 悠大は陽介によく懐いていた。彼がスポーツバッグを脱ぐのも待たずに纏わりつく。飛び跳ねる悠大の話を聞きながら、陽介はバッグを玄関の棚に押し込んだ。

「おかえりなさい」
「あぁ、いらっしゃい」
 まだいたんだ。陽介はその言葉をかろうじで飲み込んだ。思えばわかりきったことだ。この時間に5歳児を一人にはしないだろう。焦った陽介は、それを表に出さないようににこりと笑った。ただいまと言うのは、気恥ずかしかった。
 一方、「おかえり」に対し「いらっしゃい」と応えられた実里は、どこまで踏み込んでいいものか迷いながら口を開く。

「ご飯作ってるよ、あんまり上手じゃないけど……」
「そ、ありがと」
 陽介の素っ気ない礼に、実里は柔らかく頷いた。今度は間違えなかったようだと、ほっとする。
「僕はね、もう食べたんだよ~」
「私も一緒にいただいちゃった」
 はしゃぐ悠大の頭を、陽介が撫でる。悠大がきゃきゃっと嬉しそうに笑った。

 軽くシャワーを浴びて陽介がダイニングテーブルに着いた。悠大はソファに寝そべって行儀悪くテレビを見ている。
 陽介がシャワーを浴びている間に温めなおしていたのか、実里が湯気が立つどんぶりを持って来た。初めてのご飯は、なるほど。親子丼らしい。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
 両手を合わせる陽介を、やはり硬い表情のまま見守っている。ショップ店員のように立ったまま見つめて来る実里に、陽介は指さして前の席を進めた。
 陽介と対面する席に実里が座る。陽介は箸で大きく掬い取ると、あむっと口に放り込んだ。
 火を通しすぎた肉が、ぱさぱさになっていた。逆に玉ねぎは生っぽくて、シャキシャキとした歯触りの気持ち悪さを感じさせた。卵は固まる前にかきまぜたのだろう。肉と玉ねぎをまとめる役を完全に放棄していた。

 食べれないことは無い。陽介の感想はその一言に尽きた。

 そもそも、母親だって料理が上手かったわけではない。今ほどではないにしろ、やはり忙しかった母の手料理で、手の込んだものなど食べたことがなかった。美味しい物や時間のかかるものは、陽介にとってお店で食べるものだ。
 ただ、こういう役を自分から名乗り出るぐらいだから――と、実里の料理の腕に少しばかり期待してしまっていただけだ。女とは言え高校生に何を期待してるんだか。陽介は肉を咀嚼した。

 部活帰りのすきっ腹は、実里の微妙なご飯でも大喜びで受け入れた。気づけばどんぶりの中は綺麗に無くなっていて、陽介はみみっちく最後の一粒まで箸で取り上げた。お上品などんぶりサイズでは、陽介には物足りなく感じた。

「ごっそさん。明日からもお願いできるんだっけ?」
「うん。おばちゃんの仕事が落ち着くまで、そのつもり」
 そ、よろしく。立ち上がった陽介は自分の食器を台所へ持っていく。腕まくりをしてシンクに立とうとする彼を、実里は慌てて引き留めた。
「悠ちゃん、お兄ちゃん帰ってくるの楽しみにしてたから、行ってあげて」
 いつも食器を洗うのは陽介の仕事だった。それは母がいたころから変わらない。
 シンクを見れば、悠大と実里が使った小さなどんぶりと、自分のどんぶりだけ。調理時に使ったものは既に洗われ、きれいに並べられていた。
 部活で鍛えた体は、部活帰りだからと言ってシンクに立つことを嘆くほどではない。心配は不要だと陽介は蛇口を捻る。
「このぐらい出来るからいいよ」
「私、お小遣いもらってるから」
 だからダメ。と両手でばってんを作る実里に、陽介は何故か少し腹が立つ。

「そ、じゃあよろしく」
 陽介はにこりと笑うと、キュッと蛇口を強く締め、悠大のいるソファへと向かった。

 陽介の完璧な笑顔に実里は少し気落ちした。強引に言い過ぎたのがまずかったのか、それとも自分だけお小遣いをもらってるのに腹を立てたのか。あれ、ムッとしてる時の陽ちゃんの癖だよなぁと、実里はスポンジをにぎにぎして泡を立てた。

 数分もかからず食器を洗い終え、冷蔵庫の中の食材を確認する。陽介母への連絡のためのノートを書き込みながら、明日のご飯をなんにしようか考えた。

 しばらくは陽介の母が冷蔵庫の中身を補充してくれることになっているが、次からは宅配を頼んでいいと言われている。カタログを見て食材や日用品を注文すると、毎週届けてくれる宅配サービスだ。留守中は家の前に置いた発泡スチロールの中に、ドライアイスと共に入れておいてくれる。幼い頃から馴染みのある協同組合は、ネットスーパーよりも実里に安心を与えた。

 子供の手を引きながらスーパーで買い物をするのは、大人でも大変だ。それを幼い頃から知っているとはいえ、他人の子などいくらなんでも無茶である。実里は有り難く陽介の母の提案にのった。

 カタログは先ほど悠大と一緒に見ながら、インターネットで注文している。悠大が食べたいと言っていたミートボール、ハム、鮭の切り身。苦手だという葉物も、どれがいいかなと一緒に選んでみた。悠大はいやそうな顔をしながらも、サラダレタスとキャベツを選んだ。ほうれん草や小松菜という濃い色は苦そうに見えるらしい。

 慣れるまではしばらくどんぶりものや、メインだけにさせてもらおうと実里は冷蔵庫を閉めた。悠大を保育園に迎えに行くのが5時前。それから悠大の歩に合わせてゆっくり帰ると、米を研ぎ風呂を沸かす。恥ずかしがる悠大はお風呂の中までは入れてくれない。ドアを開けたまま実里が中を見ないようにして入浴させた。
 悠ちゃん洗った? 洗った! 肘も上手に洗えたかな? ひじ~? 足の裏は~? あしのうら~?
 そうこうしているとすぐに6時になった。水滴を付けたまま走り回ろうとする悠大をとっつかまえて体を拭き上げる。陽介が帰ってくるのは7時半。実里は予定していたポテトサラダとテリヤキチキンを取りやめて、急遽親子丼へとメニューを変更したのだ。

 実里がキッチンからリビングを覗くと、先ほどまではしゃいでいた悠大が、陽介の膝の上でうとうとし始めていた。
 実里はなるべく音を立てないように近づいていく。リモコンをそっと取ると、音を小さくした。
 それが背中を押したのか、悠大はすぐに瞼を閉じた。すーすーと、大きな寝息も聞こえ始める。5歳の小さな体には、母も兄も……そして父もいない今日一日が、重くのしかかったことだろう。
 明日もがんばろうね。実里は悠大の背を優しく撫でた。
「ベッドに運びたいんだけど」
「あ、ごめん。手伝えることある?」
「ベッドの布団、整えてもらえる? あとたぶん部屋のどっかにアザラシの人形転がってると思うから、それ取って」
「わかった」
 陽介は悠大の体を難なく抱き上げると、寝室へと向かった。悠大と母親の部屋だろう。大きなダブルベッドが、そこにもう一人いたことを感じさせて実里は少し戸惑う。しかし、そんなことを陽介に見せてはいけない。実里は床に転がっていたアザラシを追いかけた。

 整えた布団の上に悠大を寝かすと、陽介は時計を見た。もう9時になっている。
「送るよ」
「そこなのに」
 笑って答えれば、陽介がにこりと笑った。あ、まずいと思った時には、実里は陽介に『よろしくお願いします』と深々と頭を下げていた。




 次の日陽介が帰宅すると、実里はまたいた。懲りずに『おかえり』と言って出迎える。それに対して、陽介はやはり『ただいま』と返せずに、『いらっしゃい』と返した。
 今日のメニューはオムライスだった。悠大にも卵の数を気にせずに食べさせられるように、昔ながらの薄焼き風だ。しかしもちろんのこと、焦げ目もダマもない均等な卵焼きではなかった。
 ところどころ破れたところをケチャップで補正されたオムライスを放り込みながら、陽介は昨日から思っていたことを口に出した。

「ねぇ、作ってもらっておいてなんなんだけど、量少ない」
「え? ほんと? ごめん」
 昨日と同様、陽介の前に座っていた実里は皿を見た。平皿の上の実里にとって山盛りだったオムライスは、数口で半分になっている。実里は陽介の言葉に信憑性を感じて仰け反った。

「大盛りだったのに」
「またまたご冗談を」
 どこの子供用の大盛りだよと笑う陽介に、実里はうーんと首を捻った。
「じゃあ明日は、自分でよそってもらえるようなものにしよう」
「そうして」
 ご馳走さん、と手を合わせた陽介に、実里はおったまげてしまった。




「うそでしょ」
「ほんと」
「うそでしょ……?」
「ほんと」
 翌日、空笑いしながら実里は陽介の盛ったご飯を見た。漫画の様な山型の白飯が入っている器は、どう見ても、どんぶりである。

「これ全部食べるの?」
「おかわりする時もあるよ」
「うそでしょ?」
「ほんと」
 えーまじでー? と何度目になるかわからないやりとりに陽介は溜息の代わりに笑みを浮かべた。

「その内美味い飯作ってね。おかわりするから」
「承知した。頑張るね」
 ムンッと拳を握る実里を陽介は不思議な気持ちで見つめた。昔の気弱な実里なら、こんなことを言えば落ち込んで明利に逃げるか、かけられた期待に萎縮するかだったのに。みぃも成長してんだなぁと、陽介は豚のしょうが焼きを咀嚼した。




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