Interval〜Rent〜
さすがですわ。
わたくしは内心、拍手と共に賞賛の言葉を贈りたい気持ちで一杯だった。
舞台は徐々にその力を失わせていく枢機卿付きのカテドラル。
対極に位置する不浄、魔を浄化、覆滅する白鬼との戦闘。
血を使わせることが目的だった前戯。
三色の宝石人形との戦闘。
そうして、結局わたくしの切り札である二体のマリオネッタまで使わせた。
想定の範囲内の出来事とは言え、ここまで期待通りだと惚れ惚れする。ホントに。
本来のわたくしの計画では、鏡さんと宝石人形を。鈴音さんと八雲さん及び可愛いお人形たちを当てる気でいた。
けれど、やってきたのは鏡さんだけ。いっしょに行動をすると思っていただけにこの各個撃破のチャンスは喜ばしいことだった。戦力を割かずにその全てを一人ずつに向けられるのだから。
まぁ、結局は八雲さんはやられてしまいましたけど。
八雲さんがあそこまで早くに退場するとは思わなかった。
鏡さんが負けるわけは無いのだから、八雲さんが敗れるのは問題ない。けれど、早すぎた。もう少し、やってくれると思いましたのに。とんだ期待はずれですわ。まぁ、ある程度は弱らすことが出来たみたいですから、赦して差し上げますけれども。
そう、弱らせること事態には六割方成功した。それでも、鏡さんは奮戦していた。
宝石人形達の武器はどれも銀製。それも芯にはダイヤモンドを使い、表面には抗魔処理を施し、さらには聖別まで行った特別製。
宝石人形達はそれぞれ、赤はルビーを、青はサファイアを、緑はエメラルドを元に作成している。
宝石は既存の鉱物の中で最も魔力の通りがいい。それも純度が高ければ高いほどに。
宝石人形は現在のわたくしの、エストリエとしての全力を注いだ最高の作品。
おかげで、追加で魔術を行使することはほぼ不可能になってしまったが、それだけの価値も成果もあった。現に、生命の象徴である血を生命力と異能の因としているわたくしたちの中で、あえて鮮血を名に頂き、姫の称号まで持っている鏡さんにわたくしの人形達は勝っていた。
たとえそれが、幾つもの要素の重なりによる結果に後押しされているものだとしても、わたくしが現状において鏡さんを圧倒している事実は変わらない。
侯爵であるわたくしが、五家しか存在しない公爵の中でも最凶の呼び声高い雛罌粟の姫を、圧倒している事実。
この事実は誰がなんと言おうとも不動で確かなもの。
けれど、その事実を持ってしても鏡さんの心は屈していない。一計を案じ、わたくしに切り札を使わせた。
たしかに、この切り札を切りたかったというわたくし自身の欲が無かったといえばウソになる。それでも、切るに至らせたのが鏡さんであることに変わりは無い。
流石と言える。
そして、当然とも。
こんな所で、この程度で終わるなんて言うのはわたくしが赦さない。
持てる力の全てでわたくしにぶつかり、その全てをわたくしが完膚なきまでに砕かないと。
そうでないと意味がない。生半可なものは要らないのですわ。
そう、正直なことを言えば鈴音さんなどどうでもいい。お父様も他の方々も、蟲の蔵たる鈴音さんを重要視していましたけれど、わたくしにはそんなものはどうでもいい。わたくしが欲しいのは鏡さんだけ。
だから、鏡さんには全力を出してもらわないといけない。
今の鏡さんは普段の鏡さんとはどうも様子が違う。
普段の冷静さも鋭さも聡明さもない。
ただ思いつきで行動する子供と大差がない。
わたくしは、そんな中途半端な鏡さんに用はない。
鏡さんは今、膝をつき肩で息をしながらわたくしを睨んできている。切れ長の蒼い瞳がわたくしを見ている。
たまらないですわ。
ゾクリ、と背筋が震える。
知らず、頬が熱くなる。
眩暈すら襲ってくる。
軽い陶酔感さえ覚える。
鏡さんの意思の全てがわたくしに向いている。
胸が熱い。
ああ、けれど。まだダメなんですわ。
いくら状況が不利であろうとも、噂に名高い鮮血姫の力。その半分も出していないことは明白。現に、鏡さんは四花弁を使っていない。鮮血の操作など、二次的なものでしかないことは、わたくしはよおく知ってますのよ。
本気にならないのか、なれないのか。何れにしろ今のままではダメなのですわ。
本気に、なってもらいませんと……。
そのためにも二つ目の、即席のカードを切る必要がありますわね。
かわいいかわいいお人形さんたちが到着するまで、鏡さんを休憩させてさし上げましょう。
笑みが零れる。
わたくしの圧倒的優位は変わらない。この舞台での今宵の歌劇、最高の歌姫はルビルム、サフィニア、エスメラルダの三人。それを裏から指揮する奏者はわたくし。そうして、そのわたくしを守護する至高の騎士はオブディとディムドゥの二人。
今宵一晩限りの最高の歌劇。
出席予定者にはすべからく来ていただきませんと。欠席は認められないのですから。
存分にお楽しみあそばせ。
なにせ、まだまだ始まったばかりなのですから。
嗚呼。けれど、メインアクトまでは、あと僅か……。
幕が閉じたとき、貴女はどのような表情をわたくしに見せてくれるのかしら。
今から、とても楽しみですわ。
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