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She is
作:鳩梨



Their ways-14



Their ways-14

「さぁ、かかってきなさいな。『鮮血姫』」
 何処からか姿をあらわした惑乱候は、口元に手を当て泰然とそう言い放つ。アタシはその言葉の通りに踊りかかる。能力だけの脆弱鬼に、アタシが負ける謂れは無い。
 流れ滴る血を数本のナイフへと変じ、投擲する。奴の近辺に人形は一人も居ない。居たとしても、アタシの投げたナイフの方が、速く、疾い。
 ナイフはいずれも狙い違わず惑乱候の心臓と顔以外に飛んでいく。ナイフの飛翔に合わせアタシも血を爪に纏わせて、斬りかかる。
「効きませんわよ?」
 嘲笑しながら言う惑乱候に、アタシは笑いかけてやる。アレに効果が無いだろうことはさっきのでアタシも承知している。だから?それがどうした。投擲のみなんてアタシの流儀じゃない。
 ナイフが突き刺さる。右胸。首。左右の腕。足に脚。
 爪で寸断する。右腕と手を切り、左腕と胴体を別離させる。流れに任せたままで右ひざを斜めに切りつけ、左足を縦に裂く。
 一瞬。まさしく瞬きをするだけの間で惑乱候のきれいな肢体は無残な有様になった。それと同時に、人の身体をしていたそれは先ほどと同様、塵となりその場に空しい山を形成した。突き刺さったナイフが血へと戻る。
「貴女はよくよく、学習能力がありませんのね」
 ふぅ、と溜め息がきこえる。あらぬ方向から。あらゆる方向から。まさしく縦横無尽。壁も床も天井も関係なくいたるところに惑乱候、メルディスが立っていた。
「アンタ、惑乱候の名前捨てたら?」
 アタシは呆れながらそう言い、再び踊りかかる。狙うのはどれでもいい。手近に居るそれを八つ裂く。砂になる。血が滴る。
「あら、なぜですの? わたくしが正式な現在の惑乱候ですのに?」
「ハッ、どう考えたって、その名から外れてるだろ? これはさ」
 そう軽口をたたきながらもアタシは破壊を止めない。
 血を撒き散らしながら縦横無尽に破壊して周るが、さすがに全く数が減っていない気がしてきたので一時中断する。
 ――数もいい感じだしね。
「なぁ、アンタ。メルディス・ヴィスコンティエが正しい名前じゃないだろ?」
「あらあら。どうしてですの?」
 そこかしこにメルディスが居るため、どこを向けばいいのかわからない。とりあえず、一番本物っぽい気がしなくも無い、というアバウトな判断で天井にスカートを押さえて立っている奴のほうを向く。つまり上。
「ヴィスコンティエ候家は“惑乱の力にのみ極端に長けた”一族だ。こんな」
 アタシは周りをぐるりと見渡す。
「――分身の術みたいな力は無いはずだろ?」
 肩をすくめてそう言う。……まだ、時間はかかりそうだな。
「嬉しいですわね。わたくしのことに詳しいだなんて」
 僅かに朱に染めた頬に手を当て嬉しそうにそう言う。はっきり言って、ものすごく不快で不愉快だ。
「別にアンタのことに詳しいわけじゃない。“ヴィスコンティエ候家”に詳しいだけだ」
「同じことですわ。それに、ヴィスコンティエの今の主はこのわたくしですもの。ヴィスコンティエに詳しい、それはつまり、わたくしのことに詳しいということですわ」
 言い切った。
 ああいえばこう言う。なんだって女ってのはこう口が達者なのだろう。アタシも女だが、あんなのとは違うから別にいい。ああ、にしても首がいた――
「ところで、貴女。なぜこっちに視線を固定してますの?」
「スカートが捲れないかな、と思って」
 アタシは正直にそう言った。実はさっきの一番本物っぽいとかどうとかは、どうでも良かったりする。ただ単に、スカートがいつか捲れないかなと期待してるだけだったりする。
 それを聞きぽかん、とした後メルディスは顔を耳まで真っ赤に染め上げ怒鳴りだした。耳まで真っ赤にする女性。これで二人目だ。一人目はリンちゃん。……もしかしたら他にもいたのかもしれないけれど、アタシの――“鏡”の記憶にはこの二人しか居ない。基本的に、アタシも“鏡”もリンちゃん以外は記憶することすらどうでもいい。
 それでも、以前手に入れた情報はそう簡単に消えないし、消せない。まったく、鬱陶しい。
「なっ。あああ、貴女は何を考えてるんですの!?」
「よこしまなこと」
 断言する。
 さて、そろそろかな?
 意識を沈ませ、命令を飛ばす。
 ――さぁ、形を取れ。
 その命令に従い、徐々に形を取る気配が伝わる。
 ――武装しろ。
 取った形の一部が次第に変化していく。
 メルディスはまだ気付いていないらしい、何かを言っているがアタシは気付かれないように、適当に相槌を打つ。あからさまに様子がおかしいと気付かれかねないが、まあ、大丈夫だろう。あの様子だと。
 ――さぁ、動け。
「――聞いてるんですの!? だいたいさっきから鏡さんの姿を――っ!?」
 バガン、と言う音を立てて天井に立ってスカートを抑えていたメルディスが粉砕する。
「ちぇ、それも偽者か」
 アタシは下唇突き出して不満をたれる。別に本物だと思っていたわけではないので構わない。だが、これで――
「壊すのが楽になった!」
 凄烈な笑みを浮かべてそう宣言する。さすがに、カテドラル内にいないなんて事はないだろう。先ほどから壊すたびに増えている気がするが、それだって有限のはずだ。どんな力であれ、無限であるはずが無い。
「どういうことですの、それは……」
 驚愕を顔に貼り付けてそう言う。ホントに、こいつはほとんど驚いてばかりだな。それほど自分の策に自信があったのか。それとも、アタシの事をしらなすぎるのか。あるいはその両方か。
 まぁ、いいさ。
 ――さぁ、端から順に、破壊しろ。
 命令すると同時、アタシ自信も動き出す。これ以上の血の無駄使いは避けるため、血は止めて、素手で殴り、蹴り砕く。
 幾回にも及ぶ破壊でわかったのだが、この偽者たち。材質が液状ポーセリンとセルロイドがほとんどだ。アタシが少し力を込めれば楽に破壊できる。
 なぜここまで本当に生きているかのように見え、振舞えるのか、疑問はあるが、どうせ、後でわかる。無理矢理に吐かせればいいし、わからないならそれでも構わない。
 ――とりあえず、そろそろ飽きた。
「くぅ――」
 全メルディスが後退する。
 アタシはそれで一時破壊を中断する。作り上げた傀儡たちにも停止命令を出す。
「なぜですの?」
「なにが?」
 アタシは微笑んですっとぼける。
「その、傀儡ですわ!?」
「どう? よくできてるでしょ?」
 そう言ってアタシは摸倣した傀儡たちの肩に手を置く。アタシと同じ姿のため、苦ではないが、ちょっと微妙だ。
「アンタは、アタシのことを何も知らないんだな」
 侮蔑と嘲笑を込めてそう吐き捨てる。
「なんですって?」
「アタシの事を知っていれば、こんなことができることくらい、容易に想像つくと思うけど?」
 そう。アタシの事を正しく知っていれば、こんなこと、別段驚くことではない。だいたい血を撒き散らせながら戦うなんて、端から見て非合理的なことをしてる時点で怪しまないこと自体がバカだ。
 アタシの能力は血の操作。それは都合よく手を加えること。他者の体内に侵入し、治癒力を高めるという操作ができるということは、混ぜれば自分の血以外でも操作可能だと想像できてしかるべきだ。
 そう、混ざれば、他の物質でも。操作できる。
 そうはいっても、血以外のモノとなると幾ら混ざっても血の量が少なすぎれば劣悪なゴミができるだけだが。
 そのため、作り上げることが出来たのは、あれだけ血を撒き散らしてもこの二体だけだ。
「さぁ、どうしたメルディス。さっきからまったく攻撃してこないじゃないか。いい加減、つまらないぞ?」
 圧倒的優位を感じたが故の台詞ではない。ただ、本当につまらなくて、飽きてきたのだ。これ以上策が無いのなら、本当に一気に片をつける。
「うっふふふ。そうですわね。そろそろいいでしょう」
 そう言って、メルディスは口元に手を当て上品に笑んだ。そこには先ほどまでの驚愕も狼狽も無い。
 湖面のように静かに、泰然と言う。
「いいですわ。見せて差し上げましょう。わたくし、メルディス・クローチェ・ヴィスコンティエの――エストリエの力を!!」
 エストリエ!?
 ここに来て告げられた目の前の存在の正体に、アタシは歓喜に震えた。あるいは、これは恐怖だったのかもしれないが……。













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