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She is
作:鳩梨



Their ways-6


Their ways-6

「そう。ありがとう」
 ボクはそう言って三人目の部屋を後にする。
「……どれも夜中ですね」
 リンの言葉に頷く。
 二日前、ボクが呪いの事を気にしだしてから翌日のことだ。高等部内ではある噂が囁かれていた。
「二年生以下の子たちが行方不明になる」
 これはこの学園ではまずありえない。
 この学園は“結界により隔てられた異界”と言っても過言ではない。むしろそれこそが真実の姿であるといえるかもしれない。
 外部からも内部からも人をもらさないよう24時間体制で内と外に常駐している警備員。
 山一つを切り取った人里から離れた敷地。そこに作為的としか思えない十字架型になるよう整えられた建造物の配置。
 生徒が外出するにはシスターと寮母の許可を受けねばならず、夏季及び冬季休暇以外の外出は年に二回まで。その外出許可自体がよほどのことが無い限りまず出ないという徹底振り。
 そんなこの学園で生徒が行方不明に――それも九人もなるというのは、はっきり言って異常だ。
 ボクはこの異常をただの偶然と軽んじることができるほど楽天家ではない。この学園がどういう意図により創られたか知っているからこそ。そして、ボクという存在ゆえに。
 しかし、考えた所で何を思いつくわけでもない。
 当然だろう。この学園内でこういうことが起きたのは、ボクが知っている限りではないのだから。
 雛罌粟やカガミの名で何かが起きたということは今までも何度かあったが、それはほとんどがボクにダイレクトに害を与えてくるものだった。ボク以外に害を与えたのはリンの時だけ。それも一度だけだ。まず予測なんてできるわけが無い。
 それでも、この噂が無関係でないということは言い切れる。確証も何も無い。ただの勘だ。けれど、この噂にボクの警鐘は鳴り止まない。
“カガミ”が言うのだ。
 ――アト、スコシ
 と。
「キョウ様……」
「ん……。なに?」
 リンの声に思考に埋没していた自分の注意をサルベージする。
 見るとリンの表情が浮かない。まだ三人しか訪問してないけど、きっと、リンも気付いたのだろう。この噂の被害者の――消えた子たちの示すある事実に。
「これって、もしかして……」
「勘がいいね」
 不安そうな表情のリンにそれだけ言うと、ボクはいつの間に止めていた足を再び動かす。リンもそれに倣う。
 四人目の子の部屋の前についた。ボクがノックをすると、少しの間の後にドアが開いた。
「誰――っ! か、鏡さま!? それに鈴音さままで!? ……えっと、ど、どういうご用件でしょう……?」
 その子も今までの子たちと同じ反応だった。
 最初は酷く憔悴した表情。そしてボクたちを見ると慌てる。なんだかボクたちが悪者のような錯覚を受けるが、しかたない。ボクもリンもこの学園では色々有名らしいから。
 ボクはにこりと微笑んで話し掛ける。
「こんにちは。唯さんの妹だよね」
「は、はい」
 うん。すごい緊張してるね。ボクは姉と妹のギャップに苦笑を零す。
 この子は美術部の皆瀬 唯の妹だ。学園内でのよくわからない制度での妹ではなく、正真正銘血の繋がった。
 姉の唯が大人びた印象でつかみ所のない性格なのに対して、妹の――咲ちゃんは、幼くてどこか子犬のような印象を受ける。
「唯さんがいなくなった時のこと、わかる範囲で良いから教えてくれる?」
 ボクがそう言うと、咲ちゃんは顔を俯けてしまった。
 唯さんと咲ちゃんはかなり仲が良かったと聞いている。きっと、最愛の姉が消えてしまったことがとても悲しいのだろう。
 ボクだって突然リンが消えたりしたら、……考えるだけでも恐ろしい。
 咲ちゃんは泣くのを堪えるように、声を絞り出すように話し出す。見ていて痛ましい。
「わからないんです。一緒に寝ていたのに、起きたらいなくなってて……」
「…………」
 ここもか。
 今まで話を聞いた三人、これで四人全員が同じことを言っていることになる。
 別に、この証言に疑いを持っているわけではない。ただ、思うのだ。
 ――――なんともソレらしいじゃないか。
 と。
 とにかく。これだけで十分。
「わかった。ありがとう。ごめんね」
 そう言って、立ち去ろうとすると咲きちゃんに唐突に呼び止められた。
「何で、鏡さまがこんなことを……?」
 最もな質問だ。ボクは生徒会にも自治会にも所属していない。そのボクがこんなことを訊いて回るのは、不自然でしかないだろう。
「……生徒会長に頼まれたんだ」
 勿論嘘だ。
「今回の行方不明者の中にはボクとリンのお友達が何人かいたからね。いても立ってもいられなくて会長に調査する許可を取りに行ったら、会長からも頼まれたんだ」
 嘘で無い部分もあるが大半が嘘だ。嘘というのは真実を微量に含ませると真実味を帯びる。ボクとリンは唯さんとも多少仲は良かった。ボクとリンが美術部員なのは高等部生徒なら大抵知っている。当然この子は自分の姉が美術部員であることは知っているのだから、こう言えば人を疑うということを滅多にしない温室育ちのお嬢様のことだ。ほぼ確実に信じる。
「そうだったんですか」
 ほらね。
 騙していることに多少罪悪感が無いでもないが、仕方がない。情報も少なく、ただ事が起きるのを徒に待つわけにはいかないのだ。これくらいは許容されてしかるべきだろう。
 それに、あの会長のことだ。きっと確認を取られても口裏を合わせてくれる。気に食わないが。
 ボクは元気の無い子犬と化している咲ちゃんに優しく言ってあげる。
「だから安心して。きっとすぐにでも見つけてみせるから」
 その台詞に、咲ちゃんは力なく、それでも微笑んでお願いしますと、頭を下げた。
 姉と同じで礼儀はしっかりしている。
 ボクとリンは今度こそ立ち去った。

「キョウ様。やっぱり全員、美術部員なんですか?」
 ずっと黙っていたリンがいきなりそう口を開いた。
 ちょうど、六人目の話を聞き終えて次の子の部屋に向かう所だ。
 五人目、六人目も今までと同じだった。
 ――夜寝るまでは一緒で、起きたらいなくなっていた。
 まったく、ホントに出来すぎてると思う。
 ここまで律儀に行動が一貫されていると、何かがありますよと言ってるのと一緒じゃないか。
「そうだよ。今日までに噂に上がった九人全員が、美術部員」
「やっぱり」
 そう。この噂の行方不明者は全員が美術部員だ。このことはリンも気付いていただろう。それでも今あえて訊くのは、自分の知り合いたちが突然行方不明になったことを心配して、不安になっているからだろう。しかも、四日前にボクたちが美術部に顔を出した時に居た部員を筆頭にしているのだし。
 考えるのは二つのこと。美術部員を狙っているのならボクとリンも行方不明になるのだろうか。それとも、ボクとリンが居る美術部の子達を狙っているのか……。
 今の段階ではわからないが、四日前に参加していた子たちがまず行方不明になっているのに、今の段階では部長は行方不明にならずちゃんと居る。これだけだと部長が怪しくなるけど……。
 だが、行方不明者は今の所「二年生以下」のみだ。その選定から三年生という理由で行方不明にならずにいるというのなら、部長が健在なのは別段問題ではなくなる。
 わからないことだらけだな。
 中途半端に情報を手にしてしまったから余計に。
 まぁ、とりあえず後三人。九人分の情報が手に入れば何か掴めるかもしれない。、もしかしたら、かぎまわってるボクとリンに直に何らかのアクションを起こしてくるかもしれない。可能性は薄いが、無いわけじゃない。
 そして、この時期に八雲が三日続けて休学しているのも気になる。
 さっさと姿を現してくれないものか……。
 
 












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