獲物
4.獲物
豊永志功は地団駄踏んで悔しがった。彼の捜索でも、既に鮎沢伊予乃介とその家来の名が浮かんでいた。逗留している茶店も調べ上げていた。後は踏み込むばかりだったのだ。米軍にでかい油揚げをさらわれた気分だ。腹の虫が収まらぬので引渡しの期日まで、拷問にかけ本名を吐かすこととした。既に茅野幸吉と名乗る若者の正体は割れた。拷問でも吐かなかったが、佐幕派の水戸藩士を江戸から呼び、首検分を行ったのだ。その男が見知っていたのは茅野幸吉一人のみだったが、本名葦辺平九朗。安島帯刀の遠縁にあたる。水戸藩要人の護衛を担当する家柄だ。例えば藩主跡取りなど。とたんに幕府内からも慎重論が出た。この男がその身分なら首魁である鮎沢伊予乃介は押して知るべし、である。下手をすれば水戸藩を討幕派に廻しかねぬ、と言う。しかし彼は、ならば水戸藩を反逆の咎でお家没収とすることも出来よう、と反論した。故に奴は名乗れぬ。水戸藩も動けぬ。奴が名乗らぬ以上士分ではない罪人としてその身柄は取り扱う。期日には米軍に引き渡す。彼はほくそえんだ。これで奴は名誉ある切腹など望めぬ。
それに自分の手柄となる獲物はもう一匹いる。狗の片割れだ。鮎沢と名乗る男には常に側を離れぬ家来が一人いた。その男は今回捕えられた中にはいない。名を小一郎という。こやつこそ狗の片割れに違いない。居場所も明らかである。しかも今なら手負いである。鮎沢の背に真新しい刀傷がない以上、あの時斬られたのは片割れの方である。
全てが彼にとって好都合だった。
大老の死さえも・・・。お陰で全権が一時的に彼に預けられた。彼はそれを磐石のものとするつもりだ。全てが彼の思い通りに運び始めていた。
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