豊永志功
9.豊永志功
萩城占拠以来、攘夷派の処刑、町民の捕縛処刑、そして奇兵改めこと村々の殲滅作戦、この男の行状は冷徹極まりない。常に酷薄な判断をもってして今日まで順調に(彼にとっては)出世の階段を上がってきていた。この男の思考回路は昆虫に似ている。捕食するかされるか、それのみである。危険となれば逃げ、食えるとなれば徹底的に喰らう。故に決断が早い。証拠が見つかりっこないとなれば一村を殲滅せしめることにいかほどの躊躇も無い。証人を残さぬために、幼い子供まで殺させる。そのことをなんとも思わない。勿論自分の手は汚さない。また、権力に対しては犬のような鼻を利かせ、常に大老の意を酌み先読みし取り入ることに掛けては誰にも負けない。と言うより心ある者ならば誰も真似したくないだろう。同僚に対しても、利用できる者には下手に出て、そうでない者には威張り散らす。勿論部下に対しても厳しい。人間とは思っていない。
その男が憤慨していた。二度・三度と鼻を明かされている。たった二人の男にだ。物事が自分の思うとおりに為らぬ、それは彼にとって非常なストレスである。斑の狗とは一体何者なのか?なぜ彼の出世の邪魔をするのか?疑問は続く、きりが無い。英雄気取りで覆面などしおって、・・・一人は奇兵であると分かる。はっきりしている。牙を使う。しかもかなりの使い手だ。しかし・・・、彼は冷静に考える。
ならば、奇兵と共に戦えばよい。そうではないか?何故、好んで二人組みで三十人からいる敵に戦いを挑む。
そもそも何故覆面で顔を隠す必要がある。英雄を気取りたいからか?否。否、否。
違う。そうじゃあない。
我らの見知った顔なのだ!そうだ。違いない。奴らはきっと幕府軍の中にいるのだ。故に顔を隠す!一人は奇兵くずれで、一人は幕軍の何者かだ!故に斑を名乗るのだ。
豊永志功は即座に部下を呼んで狗が現れた日に登城していない者を調べるよう命じた。
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