歴史の歯車
2・歴史の歯車
・攘夷決行督促の勅旨、朝廷より下る。
・長州藩、関門海峡を通過する外国商船を砲撃。
・報復として、二隻の外国軍艦が下関を襲撃。前田砲台、壇ノ浦砲台は壊滅。米兵は一時、下関に上陸。
・高杉晋作、奇兵隊を創設。
・『八・一八の政変』、『蛤御門の変』起こる。長州は朝敵の烙印を押され藩士は京都を追われる。
・幕府は長州征討軍を編成、長州征伐に乗り出す。
・四ヶ国連合艦隊、関門に至る。諸外国との和平会談持たれる。会談において、米国は下関西端にある彦島の貸借を希望。長州側は言語道断として譲らず、ならば海峡を行く船舶の安全を護る為強硬な手段に訴えるしかないと米国は主張。
・米国、彦島占拠。下関をその勢力下に治める。彦島要塞と化す。
・奇兵隊、ゲリラ戦にて徹底抗戦。
・幕府の征長遠征軍、長州藩四境を包囲する。
・・・・そして。
3・来し方
「あわわわわ」と言ったかもしれない。「どひょひょひょひょ」かもしれない。奇声を発しながら、小一郎は山中を逃げていた。
今何処にいるのかも、どちらに向かっているのかも定かではない。必死で、這うようにして道なき木立の中を、笹藪の中を逃げていた。ひどい負け戦だった。幕軍の腰抜けどもにいいようにやられてしまった。米国製の大砲のせいだ。敵は倍の数の大砲を持っていた。威力も凄まじかった。ほとんど戦にならなかった。逃げるのが精一杯で、味方と逸れ独りきりで敵の追撃におびえながらひたすら逃げていた。あの調子でいけば既に萩は落城しただろう。そうに違いない。
狼狽している。みっともないほど慌てふためいている。そりゃあ、自分でも承知している。が、今いるここがどこか皆目見当もつかない。ゆえにやたら滅法逃げるほかない。今にも、その竹やぶから、幕兵がとび出て来るかもしれない。
落着け、落着け、自分に言い聞かせる。これからどうする?どうしたらよい?自問自答する。隊から逸れてしまい浮き足立っている。今、襲われたら、いかに腰抜けの幕兵相手でも負ける。冷静になれ、と自分に言い聞かせる。なれるかっ、と自分が答える。萩が陥落したのだ。多分。萩が・・。
ずざぁ、と足が止まる。そうだ・・。萩は陥落した。
立ち止まると、汗が噴出し、喉が激しく空気を求めむせた。立木に寄りかかり、そのままずるずると木の根に腰をおろした。
萩が陥落しても・・。奇兵隊は徹底抗戦する準備がある。萩近郊の三角山や田床山といったところに味方の拠点がある。高杉はこうした事態に備え、彼方此方に隠し砦を築き縦横無尽にトンネルを掘っていた。
だが、どこへ行けば隊に戻れる? まわりは幕軍だらけだ。生きてこの山を降りられるのか?
行く末を案じる時は・・。不意に師匠の言葉が頭に浮かんだ。小一郎は町人だ。奇兵になる前は花火職人だった。その師匠がよく言っていた。
行く末を案じる時は、来し方をよくよく考えてみることだ。まずは今まで起こったことを頭の中でよく整理してみて、初めて今後のよい道が開けるという意だ。
そうだな、という自分と、そんな悠長に考えている暇があるかっ、という自分がいた。かろうじて冷静な自分が勝ち、小一郎は大急ぎで来し方に取りかかった。
まずは、そう、黒船が来た。いや違う。そこまで遡ることはない。落ち着け。ちっとも豪胆にかまえていない。そうだ、高杉公が奇兵隊の創設を打ち上げた。俺に関係あるのはそこからだ。俺はいの一番に入隊した。短銃の腕が良かったので本隊所属となった。自分でも不思議だったが、それまで触ったこともないのに意のままに的を撃ち抜けた。当時隊長だった赤根武人から、特別に二丁の短銃を支給された。
そこまでは、順風満帆だったのだ。長州が徳川の世をまさにひっくり返す勢いだったのだ。ところがじゃ。薩摩と会津が手を組みやがった。
京で政変が起こり、長州は窮地に立たされた。薩摩と会津が、長州を京から追い出したのだ。しかも、泣きっ面に蜂とはこのことだ。外国の連合艦隊が攻めてきた。攘夷決行の砲撃の報復に来たのだ。
米国はなんと軍艦二十隻を派遣した。海峡が軍艦で埋まった。圧倒的な武力の差を背景に、和平会談が持たれた。が、交渉は決裂し、米軍は三日で彦島を占拠した。
奴等の考えは御見通しだ。彦島を上海や香港のようにするつもりなのだ。イギリスに負けじと。
彦島は巨大な軍港を持つ要塞となり、下関は米兵相手の歓楽街のようになった。奇兵隊は、その米兵相手に徹底したゲリラ戦法で挑んだ。
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