クマの角砂糖
ニャンコの初めての一般向け作品です。
いずれ来る我が子のために、こういうのもありです。
僕はクマ。
茶色いクマ。
1人でこの森に住んでいる。
お父さんとお母さんは、『リョウシ』っていう人間に撃たれて死んじゃったんだって。
森の長老の沼亀さんが教えてくれた。
「だけど人間を恨んじゃいけない。リョウシは森の動物を殺すが、ワシらだって森に住む他の動物の命を奪って生きている。オヌシじゃて、魚を食らうだろう?ミツバチの集めたハチミツを取るだろう?それと同じじゃ。彼らだってワシらが憎くて殺すんじゃない。肉を喰らって、毛皮を来て、巡り巡ってオヌシの親は村の人間と一緒に生きておる」
長老がそう言ってくれたから寂しくはないよ。
でも僕が寂しくないのはそれだけじゃないんだ。
だってね、、、
僕は里の村に住んでいるエリカちゃんが大好き。
エリカちゃんも僕のことが好きなんだって。
森の中で迷子になったエリカちゃんを、村が見える森の入り口のところまで、背中に乗せて連れて行ってあげたのが、僕たちの出逢い。
それから僕たちはよく二人で遊んだんだよ。
エリカちゃんは晴れた日はいつも僕と遊びに来てくれた。
木登りをしたり川で遊んだり、木の実取りをしたり、二人で楽しかった。
エリカちゃんの為にハチミツを取ってあげたこともあった。
でもいつからか、エリカちゃんは山に遊びに来てくれる時間が遅くなった。
エリカちゃんに聞いてみたら、今まで通っていた『ショウガッコウ』が『ハイコウ』になって、今までより遠いところにあるショウガッコウに通うことになったから、僕のところに遊びに来れる時間が減ったんだって。
良く分かんないけど、、、
でもいいや。
エリカちゃんが僕と遊んでくれるんだから、ワガママは言っちゃいけないよね。
僕は元気なエリカちゃんと遊ぶことが出来たらそれでいいんだ。
そう言えば同じくらいの頃からかな?
エリカちゃんはあまり木登りや駆けっこをしてくれなくなった。
『オンナノコ』は『オシトヤカ』じゃないとダメなんだって。
良く分かんないけど、、、
でもいいや。
お花を摘んだり、お話をたくさんしてくれるから、僕はそれで楽しいもん。
それから暫くして、エリカちゃんが遊びに来てくれる回数が少なくなってきた。
何日も会えない日が続いて、僕は寂しかった。
今まで通っていた村の『ショウガッコウ』から町の『チュウガッコウ』に変わって、山に来れる時間が減ったんだって。
良く分かんないけど、、、
でもいいや。
チュウガッコウのお話をしてくれる時のエリカちゃんは凄く楽しそうなんだもん。
きっとエリカちゃんの通っているチュウガッコウは、エリカちゃんにとって、とてもいい場所なんだ。
だから僕はワガママは言わないよ、エリカちゃんが来てくれなくなった訳じゃないんだからね。
それに最近エリカちゃんが時々持ってきてくれる水筒の中身、『コウチャ』がとても美味しいんだ。
ちょっと苦いけど、いい香りがするんだ。
一緒に持ってきてくれる瓶詰めの『カクザトウ』も大好き。
エリカちゃんと僕は、いつも瓶から3つ、シュガートングでカクザトウを出してコウチャに入れた。
カクザトウを入れると、とてもフンワリした気分になれるコウチャに変わるんだ。
エリカちゃんもカクザトウ入りが好きなんだって。
僕の好きな蜂蜜みたいに甘くはないけど、僕の好きなエリカちゃんがご馳走してくれるんだもん。
蜂蜜と同じくらい大好きになっちゃった。
それにしてもエリカちゃんのお話に出てくる『ユウスケクン』て何だろう?
しょっちゅうユウスケクンの事を教えてくれる。
一緒に『エイガ』を観に行ったんだって。
チュウガッコウも一緒に帰ってるんだって。
『ブカツ』も一緒のに入ったんだって。
一緒にコウチャを飲みにも行ったんだって。
そっか。
エリカちゃんは、チュウガッコウもユウスケクンも好きなんだ。
それで近頃はあんまり僕と遊べないんだ。
、、、
何でだろ、胸がチクチクする。
チュウガッコウのお話は大丈夫なのに、ユウスケクンのお話の時は胸の奥の方が黒くなる気がする。
僕の大好きなエリカちゃんと、僕の大好きなコウチャを飲むなんて。
エリカちゃんか楽しそうにお話をしてくれるから。
だから、余計に辛くなる。
そっか。
僕はエリカちゃんの一番になりたかったんだ。
エリカちゃんがいつも会いに来てくれるような、笑顔で誰かに僕の事をお話ししてくれるような。
そう思い始めると、僕は我慢出来なくなった。
涙がツツーッと流れて落ちた。
どうしたらいいんだろう。
どうしたらエリカちゃんと一緒に居られんだろう。
そう言えばずっと前にエリカちゃんが僕にお話ししてくれた。
流れ星を見つけて、消える前に三回お願いしたら、願い事が叶うんだ。
お星様が願い事を叶えてくれるんだって。
それから僕毎晩、僕は星空を見上げ続けた。
夜更かしして、お寝坊しても大丈夫なんだ。
エリカちゃんはなかなか遊びに来てくれないから。
知ってるんだ。
『ブカツ』があるんだって。
エリカちゃんが教えてくれた『ニチヨウビ』にしか、僕の所へ来てくれなくなったから。
夜寝る前に木の幹に印を付けて、7つたまる度にしか会いに来てくれなくなってしまったから、、、
僕はお願いを唱える練習を何度もした。
「僕をエリカちゃんの一番にして下さい」。
「僕をエリカちゃんの一番にして下さい」。
「僕をエリカちゃんの一番にして下さい」。
『ドヨウビ』以外は一晩中、流れ星を探した。
「僕をエリカちゃんと一緒に居させて下さい」。
「僕をエリカちゃんと一緒に居させて下さい」。
「僕をエリカちゃんと一緒に居させて下さい」。
お月様が小さくなって、もう一度大きくなった夜に、僕はそいつを見つけた。
「流れ星だ!!」
そう思う間もなく、僕は願い事を唱え始めた。
無我夢中だった。
「エリカちゃんがずっと僕を大好きにして下さい」。
「エリカちゃんがずっと僕を大好きにして下さい」。
「エリカちゃんがずっと僕を大好きにして下さい」。
三回唱え終わったその瞬間、流れ星はピカッと光って消えた。
真っ暗な森が真っ白く見えたほどだった。
何だろう?
僕の体がフワフワッと浮かび始めた。
そして僕の体が少しずつ透明になり、最後にはボワーっと光って、そして消えた。
僕は消えた?
消えたのかもしれない。
だって自分で自分の体が見えないもの。
毛むくじゃらで茶色い僕が見えない。
一体僕はどうしたんだろう?
何だか眠くなってきちゃった。
オヤスミ、ナサ、、イ、、、
気がつくと、1人だった僕は沢山居た。
僕の周りに沢山の僕がいた。
茶色い筈の僕達はみんな、白くて四角かった。
僕達は瓶の中にいた。
僕達がお行儀よく並んでいると、見覚えのあるシュガートングで何人かずつ運び出された。
瓶のてっぺんを見上げると、シュガートングを持っているのはエリカちゃんだった。
嗅いだことのある香り、エリカちゃんの好きなコウチャの香り。
良い香りの熱いコウチャに入ると、僕達は溶けて拡がっていく。
溶け合った三人の僕達はコウチャの中で一人に戻り、そのままエリカちゃんの中へと吸い込まれていった。
そうか。
このまま僕達がみんなエリカちゃんの中に入れば、、、
僕達が全員エリカちゃんの中に入って、一人の僕に戻れば、僕はエリカちゃんと一緒に居られるんだ。
エリカちゃんの大好きなコウチャになって、僕の大好きなエリカちゃんと1つになれる。
エリカちゃんと遊ぶことは出来なくなるけど、もう、寂しくなんかなくなるね。
僕達が全員エリカちゃんの中に入るのはいつかな?
待ち遠しいや。
これが長老の言ってた『巡り巡って一緒に生きている』ってことなんだろうな。
タイトルとラストシーンだけが決まった状態で書き始めました。
発表が遅くなったのは、最後の最後までソフトエッチ路線にするかどうか悩んだためです。
まぁでもこれで良かったんじゃないでしょうか。
出来ればもっとシンプルな内容にしたかったんですが、童話祭りの文字数規定があるので、ダラダラと長くなってしまいました。
いや、それは言い訳ですが、冒頭の長老の長話などお目汚しはご容赦下さい。
童話祭り以外でも、今後こういう子ども向けも書きたいなと思えた作品です。
誰か挿絵を描いてくれませんかね笑