挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
アラベスクに問え! 作者:一瀬詞貴

二、歪んだ銀の章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

10/26

テスト×テスト×テスト(3)

 寮に戻ると、ロビーは食堂が開くのを待つ生徒で溢れていた。
 彼らの話題はもちろん今日の筆記試験で、あちこちで試験の答え合わせが行われていた。
 アルバートは寮の図書室から数冊の本を借りると、足早に割り振られた部屋に戻った。
 寮の部屋は台所や風呂無しの、質素な一部屋だ。入ると左右に設置された少し大きめの二段ベッドに、共同で使う洗面台が一つ、人数分の垢染みた辞書が設置されていた。
 同室の生徒は、運悪く――いな、申請順に部屋が割り振られるのだから当り前なのだが――三人が三人とも同郷らしかった。気まずそうにする彼らに、アルバートもわざわざその中に入ろうとは思わなかったから、自分から距離を取った。
 同室の三人はまだ戻っていなかった。
 アルバートは布団に本を置くと、ヘッドドレスを叩きつけた。
 ベッドに転がり、音を立てて仕切りカーテンを閉める。
 苛立たしさに任せるまま、乱暴に屈辱的な制服を脱ぎ捨て、平服を身にまとい、いつもの靴に履き替えると、配られた食券を手に食堂へ向かった。
 もちろん、筆記試験はボロボロだった。
 今まで独学でやってきたのだ。
 植物の名前も、精霊の名前も、父や周りから聞いたもの以外は勝手に名付けてやってきた。正答であるわけがない。
 受験生にはすでに幾つかグループができていた。
 その中でも一際大きなものの中心にはミシェルがいた。
 染め士エリート家系の彼は筆記も日頃から勉強していたのだと前置きしてから、悠々と不安げにする受験生らと答え合わせをしてやっていた。
 いやでも耳に入ってくるミシェルの声……分かってはいたが、その単語のどれもが、アルバートには聞き覚えのないものだった。
「合格できりゃ、それで良いんだ。どんなに点数が悪くたって……」
 アルバートは、スープに主食を突っ込むと胃に流し込むようにして食事を済ませた。
 骨付き肉を口にくわえると、フォークとナイフを手にぎょっとする周りの生徒を無視して、さっさと食器を片付け部屋に戻る。同室の三人はまだ優雅に食事をしていた。
 全体共同使用のシャワー室が混む前に汗を流したアルバートは、さっさと歯磨きを済ませると自分のベットに潜り込んだ。
 何とか平常心を保とうと努める。
 まだ始まったばかりだ。ここで諦めては、取れるものも取れなくなってしまう。
 じっと、ベッド上段の底の木目を睨め付けた。
 気を緩めると、母と叔父の姿が過ぎる……
「次で取り返す! それだけに集中しろ俺!!」
 気合いを入れ直したアルバートは、筆記試験終了の折に配布された封筒から、翌日から始まる第二の試験内容が記された紙片を取り出した。
 次は、指定された色を採ってくる、染色の実践だった。
「課題は(チェリー)緑泥(グリーン・アース)と…………狂った貴婦人(ルナティック・レディ)? って、何だ?」
 桜と緑泥は、単に聖域から採れば良い。
 そこにいるだろう木の精霊(ドライアド)も土の精霊(ノーム)も、比較的人に友好的な精霊だった。
 あとは、彼らがいる聖域で、桜と緑色の土を探すだけだ。
 が……〈狂った貴婦人〉と言う単語は、聞いた事もなかった。アルバートは首を捻った
「色の名前か? それとも、精霊の名前か? 検討もつかないな」
 採色には二種類の方法がある。
 一つは、精霊の住まう聖域にある、色の源となる植物や土を採る方法。
 もう一つは、精霊自身の持つ色を貰う方法だ。
 精霊にもいろいろと種類があり、――虫系、幽霊系、怪物系、獣系等々――その種類によっても対処方法が違う。貴婦人と言うくらいだから幽霊系なのかもしれない。手っ取り早く、部屋に取り付けられていた辞書をベッドの中で開くも、名前は載っていなかった。
 まだ発見されて間もないか、研究の進んでいない精霊なのだろう。
 もしかしたら、通称なのかもしれない。
「とりあえず〈桜〉と〈緑泥〉は取れる。期限は三日もあるんだ。初日でこの二色採って、ンで、残りの二日で三つ目を解きゃいい。余裕じゃん」
 分からない、では済まない。
 筆記で取れなかった分を、ここで取り返さねばならないのだ。
 アルバートは課題の用紙を折りたたむと、それを、配布された〈精霊の糸〉と共にリュックにしまった。
 大丈夫だ、と自分に強く言い聞かせながら、図書室から借りてきた論文集をペラペラとめくる。
 食事から帰ってきた同室の生徒らが、地図を広げて聖域の場所のチェックし始める気配に、アルバートは誇らしげに鼻を鳴らした。
 カルト・ハダシュトに着いた初日には、すでに精霊の住む聖域の場所は調べあげていた。
 同室の生徒の寝息が聞こえてきても、アルバートは〈狂った貴婦人〉の手がかりを探して本に目を走らせていた。
 開いた頁に頬を乗せて眠ったのは、空も白んだ頃だった。
お読みくださり、ありがとうございます!
次回更新は、2月20日(金曜日)7時です!!
linenovel.gif


お読みくださり、本当にありがとうございます!
感想や評価などいただけるととても励みになります。
よろしくお願いします!

web拍手 by FC2

cont_access.php?citi_cont_id=754033327&s

小説家になろう 勝手にランキング


素材お借りしました→  ふわふわ。り  はこ
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ