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逆ハーレム100(旧) 作者:松宮星

勇者世界

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凄腕盗賊のお値段  【リュカ】

「あなた方は、騙されているんです」
 馬車の中で、今日もテオは絶好調だった。

「あの男は言葉巧みにお客の不安をあおり、自分に依存させ、宝石を売りさばく悪徳霊能者です。宝石商とつるんでいるのでしょう」
 テオは、ドロ様は詐欺師なのだと言い張っている。

「もう一度言います、あの占い師の言いなりに仲間を増やすのは反対です。あの男にとって都合がいい、無能者を紹介されかねません」
「アレッサンドロさんはそんな人じゃない!」クロードが強い口調で否定する。
「第一、勇者が敗北したらこの世は終わる。自分の為にも、最善の人物を紹介してくれるはずだ」

「あの男が有能と思い込んでいるだけかもしれません。仲間にする人間の技量は、精確に見極めなくては。魔王に『百万ダメージ』以上を与えられる人間のみを仲間に加えるのです。無能者は要りません」
「う」
 そこで、クロードは、黙りこむ。
 今のは……クロードにはきついわよね。今日もアタシは目隠ししてるから何も見えないけど、鼻の頭を赤くしてうつむいているんだろうな。

「わかったわよ、テオドールさん」
 アタシは強い口調で言った。
「仲間候補には、みんなが先に会って。みんなが反対するような人なら、アタシは対面しないようにする」
「それが無難ですね」と、テオ。

「でも、どんな細心の注意を払っていても、事故ってのもある」
「事故?」
「ポロッと目隠し外れちゃうとかで、アタシがうっかり萌える事、あるかもしれない」
「事故は未然に防ぐべきです」
「うん。でも、萌えちゃったら、もう取り返しはつかない。どうしたって、その人、仲間入りでしょ? そうなったら仲間の技量がどうのと責めないで、仲間として受け入れて欲しいんだけど」
「そうですね。相手の技量不足を責めるより、多少なりとも活用する方法を考える方が建設的ですね……了解しました」と、テオ。

「サンキュウ……」
 アタシの右耳の側で、聞き取れるか聞き取れないかの小さな囁き声がする。
 クロードったら。鼻の頭は真っ赤なんだろうな。


 馬車が止まった。
 ドロ様の占いの館の前に到着したみたい。

 ジョゼ兄さまがアタシの手を取る。目隠しをしたアタシを、外へと連れて行ってくれる。

 昨日、来た時は夜だったけど、今は昼前だ。
 ざわざわと街の音がする。
 物売りの叫び声。女性達の会話。荷馬車の音。
 そんな音がどんどん小さくなってゆく。表通りから横道に入ったようだ。占いの館は狭い通りにあるっぽい。

 しばらく歩くと、アタシの体にドンと軽い衝撃が走る。

「ごめんよ〜」
 子供の声?
 子供がぶつかってきたのかな?

「あ! 痛たたたたッ! 何しやがる!」

 ん?

 アタシのすぐそばで、ジタバタと地面を蹴る音がする。

「離せ! 離しやがれ!」
 子供が叫んでいる。

「だめだ。返しなさい」
 アランの声だ。

「返すぅ? 何をさ?」
「とぼけても、駄目だ。盗ったろう?」

「ぎゃああああ、やめろ! 返す! 返すから、やめて!」

「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! もう許して、痛いよぉ〜」

 一体、何がどうなってるの?
 アタシは、ちょっとだけ目隠しをズラした。

 蛮族戦士スタイルのアランが、十二才ぐらいの子供を左腕だけで背後から締めつけていた。
 汚れたシャツとズボンの、痩せた子供だ。半泣きになっている。

「にーちゃん、出すから、手をゆるめて」
「少しだけだぞ」

 子供がシャツの胸元から、珊瑚(コーラル)のペンダントと金袋を取り出した。
 どっかで見たような……
 あ。
 アタシのだわ。

「ちぇっ、おマヌケな貴族がいると思ったのに……素っ裸の奴隷のにーちゃんが護衛だなんて、サギくせえ」
「裸ではない」
 アランが頬を赤く染める。
「災厄除けスタイルなのだ」
「バカ言ってんじゃねえよッ! 貴族に変なカッコーさせられて! あんた、バカだろ!」
「バカ? 初対面の年長者に失礼だぞ」

 アランにギューと締められて、子供がぎゃ〜〜と悲鳴をあげる。

「スリですね!」
 メガネの奥から、蔑みの目でテオが子供を見下す。
「警備兵につきだしましょう」

 子供の顔色が変わる。

「いいわよ、別に」
 子供の服は汚れているし、髪の毛はボサボサ。目ばっかり大きくって、痩せてるし。
「アランのおかげで何も盗られなかったし。離してあげましょうよ」

「犯罪者を見逃すんですか?」と、テオがおっかない顔でアタシを睨む。
「いいでしょ。犯罪は未然に防がれたんだから」
「防がれてません! 窃盗は行われました! 盗難品を奪い返しただけです!」
「だけど、実際、被害にはあってないでしょ?」
「ここで何の咎めもなく放つのは、単なる偽善です。この子供は、あなたの甘さを嘲笑いながら、別所で犯罪を犯すに決まっています」
「決めつけるのはよくないわよ。反省して、もう二度としないかもしれないじゃない」
 テオは一瞬、喉をつまらせ、それから声を張り上げた。
「馬鹿ですか、あなたは!」
 馬鹿……って……
「ねえ、テオドールさん。アタシは良いって言ってるのよ」
「ささいな悪の芽でも見逃せば、巨大な悪を生み出します。いいですか、犯罪者というものは再犯を繰り返しやすく」

「あ〜 も〜 うるさい!」
 アタシは声を荒げた。

「盗られたアタシが良いって言ってるの! 横から、ごちゃごちゃ、うるさすぎよ、あんた!」
 テオが目を丸めてアタシを見つめる。アタシが切れたんで、びっくりしたみたいだ。

「アタシはいいとこのお嬢さまだったし、お師匠様に引き取られてからだって大事にされてきたわ! あんただって貴族でしょ! その日の暮らしに困った事なんか、一度もない! そんなアタシ達が、この子の将来を奪っていいわけないわよ!」

 テオが茫然とアタシを見つめ、それからうつむいた。

 ジョゼ兄さまは、よく言ったって感じで頷いてくれた。
 クロードはアタシににこやかな笑顔を向けていた。けど、アタシの視線に気づくと鼻の頭を染めてそっぽを向いた。『た、たまには格好いい事、言うなって、ちょ、ちょっと感心しただけだからな』とか、もごもご言ってた。
 お師匠様は、いつも通りの無表情。

「アタシの物、取り返してくれてありがとう、アラン」
「いいえ、役目を果たしたまでです」
 蛮族戦士が照れたように笑う。

「その子、離してやってくれる?」
「わかりました。おい、おまえ、二度と、この方に害をなすなよ」
 アランが含めるようにそう言ってから、子供から太い腕を離す。

 子供は、アタシやアラン、テオへと視線を動かし、それからアタシに視線を戻した。
「ま……礼は言っとくよ。サンキュウ、おねーちゃん」
 アタシはかぶりを振った。お礼を言われるようなことは、何にもこの子にしてあげてないし。

 子供は、ライトブラウンのショートヘアーで、痩せて汚れてはいるけれどもかわいらしい顔をしていた。大きなヘーゼルの瞳は、小鹿のようだ。
 女の子みたいにかわいい顔が、ニッと笑う。
「あんた、ガキすぎて、お色気のかけらもないけど……気立てはいいよね……おまけしてやらあ」

 おまけ?

 何をする気なのか問う暇すらなかった。

 子供は風のように走り、すれちがいざまにアタシの頬に軽く唇を合わせていったのだ……


 胸がキュンキュンした。


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと九十三〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 それからが、たいへんだった。
 駆け抜けてゆく子供に、ジョゼ兄さまが殴りかかり、クロードが杖を向けた。
 しかし、子供は二人を楽々とかわした。
 で、笑いながらジャンプしようとしたんだけど……見事に転んだ。
 足に杖を投げつけられ、バランスを崩しだのだ。
 クロードの手から杖を奪い、投げたのはアラン。
 子供は、またしても、アランに逃亡を阻止されたのだ。

 んでもって、アランが再び子供を羽交い絞めにする。

 兄さまは子供をぶん殴りたそうだったけど、それはアタシが止めた。
 ジョゼ兄さまが本気で殴ったら、その子、死んじゃうし。
「ジャンヌはその子供に萌えた。それはもう仲間だ、手は出すな」
 と、お師匠様も兄さまを制してくれた。


 再び目隠しをしたアタシは、ジョゼ兄さまに手をひかれ、占いの館のドロ様のお部屋に連れて行かれた。みんなも、スリの子供も一緒だ。

「ようこそ、占い師アレッサンドロの館へ、勇者さま、賢者さま、お仲間のみなさま。何だ、リュカ、おまえも一緒なのか?」

 リュカ?

 ここにはアタシ達しか居ないんで、目隠しは取っていい事になった。

 テーブルのとこに、ドロ様が座っている。
 スリの子供が、顔を布でゴシゴシと拭いていた。
 子供の背後にはアラン。逃がさない為かな?

「なるほど……強い大きな星に惹かれちまったわけか。フフッ、お嬢ちゃんに魅せられた星……一つは、おまえだったのか」

「ドロ様、この子と知りあいなんですか?」
 と、アタシが尋ねると……
「ドロ様ぁ?」と、ゲラゲラとスリの子供は笑い、
「お嬢ちゃん……アレッサンドロなら、愛称はアレとかアレックスじゃねえか?」
 ドロ様はやめてくれと、ドロ様がちょっぴり苦々しい笑みを浮かべる。
 う〜ん、確かに、そうなんだけど、アレックスって顔じゃないのよねえ。ドロ様のが、しっくりくる。

「このガキの親父と、ちょいとした知り合いでね……顧客の一人でもある」
 しつこく笑い続ける子供を、ヘッドロックしながらドロ様が言う。

「ったく、わけわかんねえ」
 ドロ様の腕から逃れた子供が、テーブルに布と化粧落としの瓶を置く。ドロ様に借りたモノのようだ。
 あれ? やつれた感じがなくなった。
 細いことは細い。けど、肌は日焼けしてるし、顔はイキイキしてる。健康そうだ。

「この女についていかなきゃいけない気がする。本気で逃げようって気になんねえ。どーいう事?」
 子供の質問に、ドロ様がフッと男くさい笑みを浮かべて答える。
「運命の星に出会ったのさ。その巨大な星を守り、共に戦うのが、おまえさんの宿命……」
「うさんくさいお告げはいらねえ。真実だけ教えてくれ」

「リュカ、ようするに、おまえは、勇者さまの仲間になったんだよ。魔王戦が終わるまで、おまえは勇者のしもべとして働く運命となったのさ」

 リュカと呼ばれた少年が、眉をしかめ、アタシをジロリと睨む。

「あんたが勇者なわけ?」
「ええ、勇者ジャンヌよ」

「オレを何日、拘束する気?」
「魔王戦は九十五日後よ。その日に、一緒に戦ってもらうわ」

「九十五日後ね……今日も含めると九十六日もオレを拘束するわけだ」
 リュカがニッと笑う。何というか……ふてぶてしい表情。

「オレ、一流なんだ。高いぜ?」
「へ?」

「そうだな……日当は一万にまけてやる。その代り食事と宿代はあんた持ち。仕事の分け前は、七三でどう?」

「七三?」

「お宝の分配だよ。あんた七でオレ様が三。冒険途中で宝箱との出会いもあるだろ?」

 リュカが胸元に手をあてた。

「大盗賊ギデオンの跡取りを抱えるんだぜ? それ相応のモノ、払ってもらわなきゃな」

 大盗賊ギデオンの跡取り……?

「そいつが優秀なのは本当だよ」
 フフッとドロ様が笑う。

「ギデオンに仕込まれたから、錠前破りはお手のものだし、スリの腕もなかなか。ダガーで戦っても強いぜ。軽業師みたいに身軽だから、お貴族様の御屋敷にも難なく忍びこめる。若いけど、超一流の盗賊だ」

「完全に犯罪者じゃないですか!」と、叫んだのはテオだった。
「警備兵につきだすべきだったんです!」

 リュカは、そんなテオをフンと鼻で笑った。
「もう遅いよ。オレ達仲間だろ、メガネのお坊ちゃん。お貴族さまなんだっけ? オレが牢屋に入ったら、勇者様が困るぜ。九十五日後に戦力が減っちゃうもん」

 テオが唇を噛みしめて黙る。
 黙る代わりにアタシを睨む。
『見た目に騙されて、犯罪者を仲間にして! 本当にあなたは馬鹿ですね!』と、その目は主張していた。
 しょうがないじゃない、萌えちゃったんだから……

「盗賊は、仲間にいれば心強いジョブだ」
 と、お師匠様。
「その素早さを生かして情報を集めてもらってもよいし、勇者や仲間達の装備を探す旅に出てもらってもいい。盗賊がいれば我々の旅は楽になるだろう」

「お。わかってんじゃん、おにーちゃん」
 リュカは明るく笑って、お師匠様の背中をバンバン叩いた。

 う。

 さすがに……
 周囲の空気が凍る。

 賢者様にその態度は……

 アタシはごくりと唾を飲み込んだ。

 お師匠様はいつもと同じ無表情で、リュカを見つめる。

「だが、おまえやアレッサンドロが言うほど、優秀なのか疑問ではある。おまえはアランに捕まったしな」

「捕まったのは、生まれて初めてだよ!」
 リュカが声を荒げ、背後を指さす。そこにはアランがいる。

「この露出狂、バカだけど、ハンパなくすごいよ! 刹那のスリ技を見切って、神速のオレ様を二度も捕まえたんだから!」

「露出狂ではない!」
 アランにぎゅっとされ、リュカは悲鳴をあげた。
 マッチョなアランに背後から強く抱きしめられる、小柄なリュカ。
 これって何か……
 ちょびっと危ない感じ……
 アラン、ほぼ裸だし。
 ドキドキしちゃう。

「わかった! 取り消す、露出狂じゃない! 厄除けスタイルなんだよな!」
「わかれば、よろしい」
 アランが手を離し、リュカが転げるように腕から逃げ出す。

 つかまれてた体をさすりながら、リュカが不審そうにアランを見る。

「その厄除けスタイルって……もしかして、すすめたの、そこのモジャ髪男か?」

「アレッサンドロ殿の勧めだ」
 アランが右手を握りしめる。
「おかげで、運気が上昇し、勇者仲間となれた。アレッサンドロ殿の言う通りにしてよかった」

「な、わけねーだろ!」
「そんなわけないでしょ!」
 二つの声がハモる。

「あんた、この占い男にだまされてるんだよ!」
「あなた、この占い師に騙されているんです!」

 ほぼ同時に叫んだ二人は、顔を見合わせ、フンと反対方向を向いた、
 仲が悪いわねえ、リュカとテオ。
 気は合ってるけど。





 そんなわけで、アタシはリュカを雇わなきゃいけなくなった。
 報酬は魔王討伐後って言ったら、『駄目。あんた、魔王戦で死ぬかもしれない。とりはぐれるのはヤだから、その前にちょうだい』って言われた。
 かわいくなーい!
 おばあ様に頼むってジョゼ兄さまが言ってくれたけど、断った。兄さまのおばあさんに払ってもらうのは、筋違いだと思う。

 で、これから、リュカも連れて、ドロ様の案内で仲間候補の二人に会いに行く。


 魔王が目覚めるのは、九十五日後。
 今日の分も含めた日当分が九十六万ゴールドかぁ……
 どーしよう。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャンヌ』 覚え書き

●男性プロフィール(№007)

名前 リュカ
所属世界   勇者世界
種族     人間
職業     盗賊
特徴     明るくて生意気。
       スリも錠前破りも泥棒も一流みたい。
       今まで捕まった事はなかったのに、
       アランに二度も捕まった。
       アタシのほっぺにチュしやがった。
戦闘方法   ダガー
年齢     十四
容姿     ライトブラウンのショートヘアー
       ヘーゼルの瞳(緑がかった茶色・淡褐色)
       小柄で細いけど、日焼けしてて健康そう。
口癖    『バカだろ!』
      『あんた、だまされてるんだよ!』
好きなもの  お金
嫌いなもの  警備兵
勇者に一言 『オレ、一流なんだ。高いぜ』
+注意+
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