挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
逆ハーレム100(旧) 作者:松宮星

勇者世界

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

5/16

神の寵愛は内なる世界【マルタン】

 クロードは落ち込んでいた。
 今朝、宿泊先のオランジュ伯爵家に、シャルル様から贈り物が届いたからだ。

 魔術師の黒のローブに、杖頭に拳ぐらいありそうなデッカいダイヤがくっついた魔術師の杖。超高級そうな魔術師装備だ。
『勇者と共に戦う友人に敬意を表して』と、カードが添えられていた。

「受け取っておけ。杖はもちろん、ローブも魔法装備だ。魔術師が念をこめて織りあげた魔法絹布だ。杖にもローブにも魔力増幅効果がある。未熟なのだから、装備ぐらい立派にしておけ」
 と、ズバッと言ってお師匠様は、落ち込んだクロードを床にめりこませていた。

『残り九十九日で、おまえを一人前の魔術師にしてやろう』と宣言し、お師匠様はクロードへの特訓を開始している。
 賢者は、勇者の教育係ってジョブ。賢者になった途端、あらゆるジョブの指導者になれる知識が神様より与えられるんだ。魔術師教師としても、お師匠様は一流なわけだ。
 昨日、クロードは、初等部二年課程の教科書全部に目を通しておけと命じられていた。毎日、無茶な課題が課されていくんだろう。

「かっこいいわ、クロード」
 クロードは、黒のローブをまとって立派な杖を持った。
 褒めたげたのに、うるせぇと怒鳴られた。ぶぅ。
「そうだな。格好いいな。どこからどう見ても、一人前の魔術師様に見える」
 フフンと笑ったジョゼ兄さまは、『ファイア』すら使えない男に殴り飛ばされていた。

「今日は聖教会へ行く」
 お師匠様が、アタシを手招きする。
 近付いたら、目隠しをされた。

「これから外出時には必ず、目隠しをつけてもらう。私が良いと言うまで外すなよ」
「なんで、こんな……」
「いつ、どこで、誰に出会うかわからんからな」
 お師匠様が溜息をつく。
「今日は、最初に、私の推薦人物に会ってもらう。その者に萌えられなかったら、仕方がない、修道僧の中から適当に選べ」

 あ、そう。
 クロードの事が教訓になったわけね。
 本命に会う前に役たたずに萌えられてはかなわんと、そういう理由で目隠しなんですね、お師匠様。

 そいや、昨日、お師匠様、女伯爵のおばあさんにお願いしてたのよね。
『我々の接待係を、全て、女性にしていただけますか? 可能でしたら、勇者の可視範囲に男性を接近させないようお願いします』って。

 何か……
 ちょっとおもしろくない。
 クロードはけなげで意地っぱりなとこが、ちょっとかわいいって思えたの。
 見た目だけで、そんな簡単にキュンキュンしたりはしないわよ!
 アタシ、そんな安い女じゃない!

 ジョゼ兄さまとクロードも連れ、お師匠様は移動魔法で聖教会の教会堂へと跳んだ。
 クロードは居残りでお勉強かと思ったんだけど、お師匠様いわく『勇者と行動を共にすることが強化につながる』んだそうで、アタシの冒険にはできるだけついて行くようにとクロードに命じた。
 仲間探しのナンパって、冒険なのかしら?


 修行中の僧侶は、聖教会に籠って暮らしている。俗世を捨てて、神様に祈りを捧げる日々を送っている。
 一人前にならなきゃ、外で布教も奉仕活動もしない。
 外に出て来る僧侶は、たいてい、オジさん、おじいさん。
 街で見かける僧侶に、若い人はいない。

 教会堂に集められた仲間候補は年配の僧侶だけだろう、と思っていた。

 なのに……

 奇跡は起こったのだ。

 目隠しを解いたアタシの前には……
 涼しげなハンサムがいたのだ。

 大きめのフードの、修道僧の白いローブ。
 禁欲的な僧衣に包まれた体は、すらりとしていて長身。
 信仰を貫く決意に満ちた、清廉な美貌って言えばいいのかしら?
 思慮深そうな、青い瞳。
 眉も口も高い鼻も、曇りのない気高さに満ちている……

「マルタンだ」
 深みのある低音な声……


 胸がキュンキュンした。


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと九十七〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 あら、やだ、萌えちゃった……

「良し。マルタンを仲間にできたな」
 お師匠様が、ぐっと拳を握る。
 アタシがスカを掴まなかった事を喜んでいるようだ。顔はいつも通りの無表情だけど。

 マルタン様、外見通り、優秀な方なのね……ス・テ・キ。

 一応、教会堂にいる全員と対面した。
 でも、萌えは訪れなかった。まあ、萌えても、多分、ジョブ被りで仲間には加えられなかったろうけど。

 年配の僧侶達は私達に対し祝福を与え、教会堂を立ち去って行った。

 他の僧侶達が消えてから、アタシは改めてマルタン様にご挨拶をした。
「ジャンヌです。どうぞよろしくおねがいします」

 マルタン様の涼しげな眼差しが、アタシを見る。
 ふぁさーっとフードが外れ、現れる亜麻色の髪。意外なほどの長さ……肩を過ぎてる。聖職者っぽくない長さだけど、マルタン様の美貌にはよく似合っている。

「一つだけ言っておきたい事がある」
 あら、意外とくだけた口調。
「何でしょう?」

 マルタン様は、フッと口元に笑みを浮かべられる。

「俺は聖なる血を受け継ぎし神の使徒だ・・・あまり近づくな、女」

 え?

「不浄な女の存在が、内なる十二の宇宙的秩序を乱すのだ。神罰を恐れるのなら、マッハで三歩下がれ」
 え? え? え?
 なぜ、宇宙?
 なぜ、十二?
 と、とりあえず、下がっておこう……

 静かに口元を歪め、マルタンが口を開く。
「内なる俺の霊魂は安息を得た。良かったな、女。きさま、命びろいをしたぞ」
 んで、ククク・・・と笑う。

 うわぁ……
 何、この人……
 もしかして……邪気眼系なアレな人?
 かなり、キモいんですけど……

 ジョゼ兄さまも、あきれ顔だ。
 クロードは怪訝そうな顔で、マルタンを見つめていた。
「マルタンさんって……もしかして、使徒マルタン、でしょうか?」

 使徒マルタン?
 マルタンがフッと笑い、胸元から取り出したものをくわえる。
 あの……それ、煙草なんでは……?

「俺の聖気(オーラ)が見えるのか? いい眼をしてるな、坊や」
 と、言って、左の指をパチンと鳴らす。それだけで煙草に火が点いた。所作のみで炎の魔法を発動させたんだ、すごい。
 すごいけど……ここ教会堂の中よ。煙草吸っていいの?

「いえ、あの、お名前で……」
 と、クロードは、そんな聖気なんか見えない、オレはあなたの同類じゃありません! と言いたげに、ひきつった顔で懸命に否定する。
「勘違いか・・・失敬」
 マルタンはもったいぶった仕草で煙草の煙をフーッと吐き、
「千年の孤独を癒す親友(とも)に出会えたのかと、又しても勘違いしてしまったようだ。俺ってヤツは・・・」
 んでもって、自嘲の笑みに酔いしれる……

 えっと……
「もしかして、あのヒト、有名人?」
 マルタンがお師匠様に挨拶を始めたんで、クロードに耳打ちした。
「そーだよ、超有名人じゃん、知らねえのかよ?」
「知らないわよ、アタシ、十年間、山にひきこもりだったんだから」
 あ、そっかって顔をしてから、クロードはマルタンから距離をとりながら小声で説明した。

「聖教会の使徒の一人で、悪霊祓いのエキスパート、超一流の聖職者らしい。神聖魔法と回復魔法が得意で、ひとところに留まらず、悪霊祓いの旅を続けているんだそうだ。表舞台に出ないんで、噂が噂を呼んで、神秘の使徒って称えられている」

 表舞台に出ないって……
 そりゃそうでしょ。
 人前でしゃべらせたら、信徒がドン引きよね……。

「聖教会で育てられた純粋培養の使徒……寛大で純真で穢れを知らない聖人、って噂だったんだけどな……」

 噂ってアテになんないのね……
 教会堂でうまそうに煙草吸ってるし……言動に問題ありありよね。

「女」
 くわえ煙草のまま、マルタンがアタシを見る。ふんぞりかえって顎をつきだした、いかにも偉そうな態度で。
「俺は今崇高な使命の真っ最中だ。まず、先んじて、さきに、この聖務を果たさねばならない」

 聖務?

「デュラフォア園で悪霊を祓う聖務なのだ。神の使徒として聖なる力を使うのだ・・・くッ、悪霊退治は血が騒ぐ・・・」

 悪霊退治?

 クロードに尋ねると、デュラフォア園は、そんな遠くないとの事。馬車で二日の距離だそうだ。

「わかりました! どうぞ行って来てください!」
 思わず笑顔で手を振ってしまった。
 このヒトと一緒にいると精神汚染されそーなんだもん。
 どっか行くんなら、行っちゃって。

「悪霊祓いの仕事は慣れている。しかし、きさまがどうしてもと言うのなら、俺の聖務を手伝わせてやらないこともないぞ」
 え〜〜〜〜〜?
 いえいえ、これっぽっちも、手伝いたくありません!
 どーぞ、アタシの事は放っておいて、使徒様!

「マルタン。そういうわけにはいかぬのだ」
 と、お師匠様。
「ジャンヌは、明日・明後日と王城へ行かねばならん。国王陛下が人集めをしてくださるのだ。仲間探しをせねばならない」
 あああああ、助け舟、ありがとうございます、お師匠様!

「御意に、賢者殿・・・」
 マルタンが大袈裟に肩をすくめる。
「ならば、仲間探しの後・・・移動魔法での合流を願えますか、賢者殿?」
「その時、おまえの居る位置に跳ぶ事は可能だ」

 マルタンがアタシに横柄に命じる。
「女。俺は、悪霊祓いに旅立つ。この地での勇者の使命を終えたら、きさま、マッハで俺に合流しろ。悪霊退治助手の栄誉を、きさまにくれてやろう」
 チッ。
 どうあっても手伝わせる気だな、この男。

「きさまらに、神のご加護があらんことを。あばよ・・・」
 とっとと旅立て、キモ男!


 マルタンと別れてから、アタシらはオランジュ伯爵家に戻った。
 まだ午後の陽がさしこむ居間で、くつろぎながら、気になってた事を聞いてみた。

「お師匠様とマルタンは、どういう知りあいなんです?」

「神様仲間だ」

「は?」
 なに、それ?

「今世で神様を降ろせるのは、私とマルタンの二人だけなのだ。神様の紹介で知り合ったのだ」

 託宣もできるのか、マルタン……
 本当に優秀なんだなあ……あれでも。

 ん、てことは……

 あのショタ神様が、マルタンにも憑依するのか。

 無表情でクールビューティなお師匠様も、神様が宿ればショタな男の子になる。
 なら、単なる厨二病にしか見えないマルタンも神様が宿れば、多少はマシに……
 なんないか。
 あの外見であの低音声で、かわいい男ぶるのは、それはそれでイタイ。

「おまえ、何、変な(ツラ)してんだよ、気色悪いな」と、クロード。

 む?

「どうせろくでもないこと考えてたんだろ。ったく、おまえがバカなせいで、キショい僧侶が仲間になっちまうしさ……まったく、先が思いやられるぜ」

 むぅ。

 アタシが悪いわけ?
 アレを仲間にしたがっていたのは、お師匠様なのに!

 ムカつく〜〜〜

 ので、ちょっぴり意地悪を言ってやった。

「クロード、あなた、勉強しなくて、大丈夫?」
 むろん、いかにも心配してます! って、態度と口調を装って言った。
 グッと、喉の奥で声をつまらせ、クロードは
「そうだな……おまえなんかの相手をしてる暇はなかったんだった。部屋に戻る……」
 フラフラ〜と自分用の部屋へと戻って行った。三日で、中等部の教科書を、全部読まねばいけないらしい。九教科あるそうだ。頭にちゃんと入るのかしら。

 ま、でも……
 当分、この手でクロードを黙らせられるわね♪

「ジャンヌ」
 ジョゼ兄さまが、ぎゅっとアタシの左手を握る。

「今日はこの後、互いに予定がなかったな……その……よかったら、この後、俺とつきあってくれないか?」
 つきあう?
 ああ……

「ええ、いいわよ、兄さま」
 アタシが笑いかけると、兄さまは椅子から勢いよく立ち上がった。
「そうか、ならば、さっそく! おまえに似合いそうな、かわいい……」

「楽しみだわ、兄さまと組み手だなんて久しぶり♪」

 アタシに会話を遮られたせいか、兄さまの動きがピタッと止まる。
「組み手……?」
「格闘稽古なんて十年ぶりよねー ずっと、魔法木偶人形しか相手がいなかったから、ジョゼ兄さまの相手がつとまるのか不安だけど」
 アタシは兄さまに対し、拳を構えてみせた。
「ジョゼ兄さまと組み手だなんて、昔に戻ったみたいで、うれしー♪」

 ジョゼ兄さまの口元に、微笑が浮かんだ。
「……わかった。中庭で組み手をしよう」
「手加減してよ」
「もちろんだ。愛するおまえに、怪我などさせん」

 アタシはジョゼ兄さまと中庭に向かった。

 兄さまの動きは、半端なく速かった。
 ベルナ母さんのような一流の格闘家になったんだと、実感した。

 素人に毛が生えた程度のアタシが相手じゃ物足りないだろうに、兄さまはアタシを見てニコニコ笑っていた。

 すっごく楽しかった。





 そんな感じでその日は過ぎた。

 使徒マルタンは、いろんな意味で残念なヒトだった。
 けど、まあ、凄腕の悪霊祓い師みたいだし……
 クロード(ハズレ)の分は、マルタンで帳消しにならないかな?
 なったら、いいなあ。

 魔王が目覚めるのは、九十八日後。がんばろ〜


* * * * *


『勇者の書 101――ジャンヌ』 覚え書き

●男性プロフィール(№003)

名前 マルタン
所属世界   勇者世界
種族     人間
職業     使徒・僧侶
特徴     僧侶のくせに教会堂で煙草を吸うし、
       いろんな意味で残念なヒト。
       顔も体も声も格好良くて、
       凄腕の悪霊祓い師なのに……
       そばに近寄りたくない。
       神様の憑依体になれるのだそうだ。
戦闘方法   僧侶魔法
年齢     二十
容姿     亜麻色の髪、わりとロンゲ。瞳の色は青。
       すらりとしていて長身。
       白の修道僧のローブをまとう。
口癖    『きさまらに、神のご加護があらんことを』
      『マッハで』『ククク・・・』
好きなもの  神様
嫌いなもの  邪悪・女
勇者に一言 『女、きさま、命びろいをしたぞ』
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ