挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
逆ハーレム100(旧) 作者:松宮星

勇者世界

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

3/16

燃える義兄さま   【ジョゼ】

 山ン中の館からさあ旅立つぞとなってから、お師匠様は衝撃の事実をアタシに伝えた。

「黙っていたが、八年前に、おまえの両親は事故で亡くなっている」

 は?

 死んだ?
 パパとベルナ・ママが?

 嘘……

「おまえの義兄(あに)は、以前とは全く違う暮らしをしている。驚くなよ」
 お師匠様は、いつもと同じ無表情。

 知ってたのに、両親のことを今までアタシに内緒にしてたってわけ、だ。
 ちょっと、ムカっときた。

 けど、教えてくれなかったのは、アタシの為だ。
 お師匠様なりの優しさってヤツ。
 知ったところで、アタシは何にもできなかった。
 一人前の勇者になるまで外の世界に出ちゃ駄目、って事になってたんだもん。葬儀には行けなかったろう。

 家族とは、六つの時に別れたっきり。記憶もけっこうあやふやになってきてる。

 パパは、ちょっぴり太目。よく笑う、おっきな人だった。
 ベルナ・ママは、ジョゼ兄さまのお母さん。う〜んと小さい時にお母さんを亡くしちゃったアタシを、かわいがってくれたっけ。パワフルな明るい人で、アタシに護身術を教えてくれた。

 そして、ジョゼ兄さま……
 兄さまは、とっても、優しかった。
 いっぱい抱っこしてくれたし、どんな遊びにもつきあってくれた。大嫌いなニンジンをこっそり食べてくれた……
 アタシは兄さまが大好きで、『おおきくなったら、ジョゼにいさまの、およめさんになるの〜』が口癖だった。

 パパが羽振りのいい商人だったんで、アタシと兄さまは、おっきなおうちで、お嬢様とお坊ちゃまとして育てられた。
 でも、兄さまと外遊びばっかして、泥んこになってたなあ。
 あの頃は、お隣のクロードと、三人でよく遊んだのよね。クロード、元気かなあ。

 お師匠様がアタシこそ今世の勇者だと見出した時……
 パパもベルナ・ママも兄さまも泣いた。
 勇者は使命の時を迎えるまで、世俗と交わらず、山の中で暮らさなきゃいけない。そこから出ちゃいけない、外の世界の誰とも会っちゃいけない。そうお師匠様が言ったからだ。
 兄さまは泣きながらアタシを抱きしめて、『かならず、おまえを助けてやる』って、何度も何度も背中を撫でてくれたっけ……

「おまえの義兄は変わり果てた姿となった」
 お師匠様が抑揚のない声で言う。

「その姿を見たら驚くと思う。しかし、この十年、おまえの事を慕い、己を鍛えていたのだ。その実力もなかなかだ、できれば、萌えてやってくれ」

 どんな姿になっていても、兄さまは兄さまよ。
 アタシ、驚かない!
 ジョゼ兄さまを愛せる自信がある!


 て、思ってたんだけど……
 さすがに、これはびっくり。


 移動魔法で渡った先は、何というか度肝をぬく場所だった。
 そこに居たのは、背がやたらと高い、ド派手な格好をした男。
 その人はアタシを見るなり、顔をくしゃっと歪めた。

 ジョゼ兄さま……?
 何となく面影はある……
 だけど、頭が金髪のカールのくるんくるんよ? 兄さま、黒髪だったのに。

 それに、その服装……
 昔の兄さまと結びもつかないんですけど。

「会えて嬉しいぞ、ジャンヌ……大きく……そして、美しくなったな!」

 そう言って、その人は、ひしっとアタシを抱きしめてきた。小柄なアタシは、腕の中にすっぽりとおさまってしまった。

 えっと……

 やっぱ、この人がジョゼ兄さま……?

 でも! でも! でも! 

 金髪のくるんくるんの頭で、ビラビラのレースのシャツを着て、イケメンだけどちょっと濃いお顔にはうっすらとお化粧までしてるのよ!

 外遊びが大好きで、アタシと一緒に殴りっこしたり、投げっこしたり、虫取りしてた兄さまは何処へ……

 それに、ここは何処?
 やけに豪華なんですけど。
 調度品もお部屋も床もシャンデリアもピカピカのキラキラ、それでいて下品になっていないトータルコーディネート。相当なお金持ちの家。

 あ。

 そうか……
 そうなのか……

 兄さま……

 パパとママが亡くなった後、転落人生を辿ったのね……

 兄さま、美少年だったものね…… 
 売れるものは何でも売ったのね……

 女勇者がつづった『勇者の書』に、その手の話、たまに載ってる。

 アタシがお師匠様に守られて暮らしている間、兄さまは……

 パトロンを求める生活を……

 アタシからも、ヒシッと兄さまに抱きついた。

「会いたかったわ、兄さま!」

 弾力のある体。
 レースの服の下に隠されてるけど、けっこうムキムキ。これじゃあ、もう客層は薄そう。ああ、でも、女相手ならモテモテか。

「ジャンヌ……俺の命はおまえに捧げる……勇者として旅立つおまえの、剣となり盾となりたい。俺を受け入れてくれるか?」

 胸がキュンとした。

 零落しても、心は変わらないのね……

 どんな姿になろうとも……
 ジョゼ兄さまは、兄さまよ……
 ちっちゃなアタシを守ってくれた、やさしいお兄さん……
 アタシの大切な家族だわ……

「もちろんよ、兄さま!」
「おお、ジャンヌ!」
 兄さまが更にぎゅっとアタシを抱き締める。


「愛しているぞ、俺のジャンヌ!」

 ん?

 もちろんよ! たった二人の兄妹だもの!
 愛しているわ!


 胸が更にキュンキュンした。


 リンゴ〜ン、と鐘が鳴った。
 アタシの中の欠けていたものが、ほんのちょびっとだけど満たされたような……
 そんな感覚がした。

《あと九十九〜 おっけぇ?》
 と、アタシの内側から声がした。あれ? 神様?


 あ?
 あれ?
 これで、枠確定?
 兄妹愛でも『伴侶入り』しちゃうの?
 う〜〜〜〜ん。

 ま、いいか、兄さまが仲間になったんだし。


「たった今、ジョゼフ様は今世の勇者の最初の仲間となられました」
 お師匠様が、誰かと話している。
 それで、この部屋にアタシ達以外の人がいるって、ようやくアタシは気がついた。
 お師匠様が対面しているのは、上品そうなおばあさんと、金の縦ロールのふわふわドレスの美人さん。二人とも豪華なドレス姿だ。貴族……?

「百日ほど、そのお身体を預からせていただきます」
「異存はありません。勇者様への協力は、臣民の義務です。ご自由になさいませ」

「ジョゼフ」
 おばあさんが、しゃきっと背筋をのばし、威厳あふれる声で言う。
 兄さまがアタシをそっと離し、おばあさんに対し向き直る。

「責務を果たし、当家の家名に恥じない武勲をあげてくるのですよ」
「お言葉のままに、おばあ様」
 兄さまが恭しく、おばあさんに頭を下げる。
 おばあ様……?
 祖母?
 え? あの人、兄さまのパトロンじゃないの?

 おばあさんはゴミでも見るかのような冷たい視線で、アタシをチラリと見た。
「それから、あちらの勇者様は、あなたの義妹(いもうと)ですからね。それ以上でもそれ以下でもありませんよ」

 へ?

「おばあ様、その話はジャンヌが勇者としての使命を果たしてから、改めて……」

「勇者様が魔王を討伐した後の、おまえの運命は決まっています。シャルロット様とお式を挙げるのです」

 部屋の隅に佇んでいた貴族的なヘアスタイルの美人さんが、兄さまに、にっこり微笑む。
 金髪・碧眼で、すっごくかわいい。お人形さんみたい。
「ジョゼフ様、お戻りをお待ちしておりますわ」

 私の視線に気づいたのか、美人さんが私にも優美に笑いかけてくる。
「ジョゼフ様の婚約者、シャルロットです。ポワエルデュー侯爵家三女です」

 お貴族さまが兄さまの婚約者……?
 わけわかんないけど、義妹として礼儀にのっとって頭を下げた。

「はじめまして。ジョゼフ兄さまの義理の妹ジャンヌです。勇者です」

「よく存じておりますわ」
 そう言って微笑んだ顔は、色っぽくって、ひたすら可愛らしかった。女のアタシが、ついついみとれてしまうほどに。

「ジョゼフ兄さまの婚約者が、こんなに綺麗でお優しそうな方だったなんて……」
 しかも、貴族。
「いたらない義妹ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 私の挨拶に対し、美人さんは鷹揚に頷いて見せた。お貴族さまらしい所作が、いちいち優雅だ。


「賢者様、都での仲間探しの間は当家にご滞在なさいませ。勇者様と仲間となられた方のお部屋も、用意させます。勇者様に協力するのは臣民の義務ですので、ご遠慮なく……。ご自宅と思い、おくつろぎください」
 おばあさんがそう言って退出し、美人さんもその後について出て行った。

 二人の靴音が遠ざかったのを確認してから、ジョゼ兄さまは頭を持ち上げた。

 て……
 金髪のくりんくりんの頭……というか髪の毛、カツラだったのね。

 兄さまは、昔と同じ黒髪だった。癖のある髪は肩をすぎるくらいの長さで、首の後ろで一つに束ねている。

「いずれにしろ……百日は自由だ……」

 カツラをテーブルに置くと、兄さまは大きく伸びをした。
 それから、両足を大きく開いて立ち、腰をぐっと落とし……
 左右の拳を連続して突き出し、それから肘うち、裏拳ときて、ぐるりと回転して真後ろに蹴りを入れた。
 格闘の演武だ。

 兄さまは笑っている。
 すっごく楽しそう。
 体を動かすのが大好きだったものね。

 綺麗な拳と蹴り……

 昔と一緒……

 ううん、昔より、ずっとずっと技に切れがある。

 ベルナ・ママみたい。

「もう伯爵家の言いなりにはならん! 俺はジャンヌと共に生きる!」

 伯爵家って……?

 アタシはお師匠様の袖をひっぱった。
 わけがわかんない。
 説明して!

 お師匠様は、いつもと同じ淡々とした口調で事実のみを教えてくれた。

「ジョゼフ殿の父上はオランジュ伯爵家のご子息だったのだ」

 ほお。
 そうなのか。
 兄さまの本当のお父さんが誰かなんて、アタシは知らなかった。
 小さかったし。

「女格闘家ベルナと駆け落ちをしたが、周囲に連れ戻され、失意のまま肺炎で亡くなられた。ジョゼフ殿は跡取りとして、この家に引き取られたのだ」

「あの頃は、俺もガキだったからな……伯爵家の圧力に逆らう(すべ)がなかったんだ。格闘の修行の継続を条件に、伯爵家に入るしかなかった」
 そう言って兄さまは、左足で下段・中段・上段と連続して蹴りを放ち、宙に上げたままピタッと足を止めた。

「だが、俺の忍耐の日々も、もうすぐ終わりだ。ジャンヌ……おまえが見事、魔王を討伐すれば国王陛下より褒美を賜れるだろう。俺達の未来も開けるのだ」

 そうなのか……
 兄さまがそう言うのなら、そうなのだろう。

「わかったわ、兄さま! 見事、魔王を倒して、国王陛下からご褒美をいただきましょう! 兄さまのご希望通りのご褒美をもらう事にします!」

「おおおお、ジャンヌ!」

 兄さまが駆けよって来て、又、アタシを力強く抱きしめた。
「嬉しいぞ、俺のジャンヌ! 愛している……」

 アタシも、兄さまの背をぎゅっと抱き締めた。
「アタシもよ、兄さま! 愛しているわ!」


 アタシ達義理の兄妹は、そのまましばらく抱き合った。

 アタシ達の横でお師匠様が、何故か特大の溜息をついていた。
 何でだろ?

 ま、いっか。

 兄さま、再会できて嬉しいわ。
 これから兄妹で力を合わせて、がんばりましょーね♪





 そんなわけで、ジョゼ兄さまが、仲間に!

 魔王が目覚めるのは百日後! きっと、なんとかなる!


* * * * *


『勇者の書 101――ジャンヌ』 覚え書き

●男性プロフィール(№001)

名前 ジョゼフ(愛称 ジョゼ)
所属世界   勇者世界
種族     人間
職業     格闘家
特徴     アタシの義理のお兄さん。
       格闘は、亡くなったベルナ・ママに習った。
       オランジュ伯爵家の跡取り。
       婚約者は侯爵家令嬢のシャルロットさん。
       魔王を倒して国王陛下から
       ご褒美を貰いたいみたい。
戦闘方法   格闘
年齢     十八
容姿     黒髪の癖っ毛 ダークブラウンの瞳。
       背の高いイケメン。でも、顔が濃いんで、
       レースびらびら服は似合ってるかビミョー。
       着やせしてるけど、わりとムキムキ
口癖    『俺のジャンヌ』
好きなもの  アタシ
嫌いなもの  アタシをイジめる奴  
勇者に一言 『ジャンヌ、愛している……』
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ