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異世界お好み焼きチェーン ~大阪のオバチャン、美少女剣士に転生して、お好み焼き布教!~【改題しました】 作者:森田季節

6章 大阪のオバチャン、京女と出会う

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28 ラーメン&餃子

「ラーメンと餃子を作る」
「やっぱり聞いたことない名前ね……」

「チャーハンも作ってもよかったけど、米がないからな」
「それも聞いたことないわ……」

 そのあとも手際よくハルナは調理をし、餃子のほうは下準備が完成した。
「これもオールサックの町で作っとったもんや」

 今度出してきたのは赤黒い色をした豚肉。
「チャーシューや。試食してみるか? ただの豚肉や。ハムやとでも思てくれたらええ」

 薄く切った豚の肉をナタリアに渡す。
 ナタリアはしゃぶるように、小口でチャーシューをかじった。

 すぐに口に味が広がっていくのを感じた!
「しみこんでる味の甘さと、豚のあぶらの溶ける甘さ、二つの甘さが混ざってすごいおいしさになってる! 角っこなんてしゃぶってるだけで、どんどん味が出てくるよ!」

「せやろ。ラーメンのトッピングはチャーシュー、細く切ったネギ、それとこれや」
 その次に出てきたのは茶色くなった卵。

「これ、妙な色だけど、燻製にでもしたの?」
「味付け煮卵や。これも一個、試食してみ」

 中はほんのり半熟で、滋味豊かな味がナタリアの口を覆う。ゆで卵は水分を奪うものだが、これはしっとりとしていて、そんなこともない。

「栄養のかたまりを食べてるみたい。しかも、携帯できるし。この卵、ダンジョンで売り出したらものすごくヒットするわ!」
「たしかに煮卵だけ売るっていうんもアリやな。さて、ネギを切ったらトッピング作りは完了や」

 餃子は少し水を入れてふたをして、強火で蒸し焼きに。

 ラーメンのほうは濃いタレのようなものに、鶏ガラと鶏の肉からとったぎっとりと油の浮いているようなスープを流しこんで、そこに湯がいていた麺を入れた。
 どんより茶色いスープが水面のように揺れている。

「あと、京都のラーメンやとしたら――」
 ネギもどさどさと載せる。京都のラーメンだと緑が濃い九条ネギをたっぷり入れる店もある。
「よっしゃ! 完成や!」

 すぐにカレンのところに持っていく。冷めたら味も一気に落ちてしまう。
「さあ、できたで!」

「まったく、待ちくたびれてましたわ――なっ!」
 カレンの表情に驚愕の色が宿る。
「え、えらい油っぽそうな料理やわあ……」

「さあ、食ってみてや、貴族のお嬢様」
「でも、どう食べるん? フォーク入れたら火傷しそうやわ」
 たしかに箸がない世界だとラーメンは食べづらそうだ。

「じゃあ、小皿に移していったらええわ」
 小さな器に麺とスープを入れると、ちょうど食べやすくなる。すぐに召使いが取りに行かされて、器を持ってきた。

 ただ、庶民の間に広めるにはちょっとごてごてした食べ方だ。食器もたくさん必要になる。商品化まで考えるとハードルが高いかもしれない。
 もっとも、目下の課題はカレンにおいしいと思ってもらえるかどうかだ。

「スープから飲んでみ。びっくりすると思うで」
「こないな、脂が浮いたような茶色いスープ……。色目も悪いわ……。せやけど、食べる前から決めつけるわけにもいかへんか……」

 カレンは大きめのスプーンで口にラーメンスープを運ぶ。
「なっ! なんや、これっ!」
 ずずっ、ずずずっ。

 音を立てないなんてマナーも忘れたみたいに、カレンは勢いよくスープをすすった。
 そこからはカレンは無言でラーメンを口に運んでいく。

 今度は餃子にフォークを突き刺して、一つをまた口に放り込む。
 その様子を見守っているナタリアはまだ不安だった。

 なにせ、どっちも味の濃そうな、しかも脂っこい食べ物だ。これで薄味を好む人間を納得させられるだろうか。
 しかし、カレンの食べ方はまさしく一心不乱という様子なのだ。

 ガツガツと、二日ぶりにダンジョンから地上に戻ってきたような冒険者みたいに、おなかに料理を流しこんでいく。

 カレンの目は明らかに真剣だった。
 貴族だから最低限の優雅さは残っているが、とにかくこの目の前の料理に向き合おうと必死なのだ。

 そうすることこそが、料理への礼儀だとでもいうかのように。
 ナタリアとしては、一言ぐらい感想がほしいと思う。肝心の評価がわからない。

 でも、そんな時間さえカレンにはもったいないのだ。
 そして、ラーメンのスープをごくごくと全部飲んで、無事に完食し、鉢をテーブルに置いた。

「ごちそうさまっ!」
 元気にカレンがそう叫んで、直後に顔を赤らめた。

 そう、この世界に食後に声を出すなんてマナーはないのだ。
 ハルナと目が合うと、カレンの顔はもっと赤くなる。その表情はどこか悔しげだ。

「さあ、味はどないやった?」
 うなだれて、カレンがつぶやく。
「えらいおいしかったわ……わたしの……負けやわ……」

「そういうことみたいやな」
 にんまりとハルナは笑う。お好み焼き以外の新作を仕込んでいたハルナの作戦勝ちだった。

 しかし、その戦いはナタリアには矛盾したものに見えた。
「あの、お嬢様、どうしてこんなにギトギトな料理なのにおいしいと……?」

 王都の貴族が好む薄い味付けと、ハルナの料理は真逆のはずだ。
「ナタリア、あっさり味だけじゃ人間は満足できへんねん」

 聞かれてないハルナが勝手に答えた。
「それに京都はラーメンも餃子もやたら食べる町なんや! しかもラーメンもさっぱり系だけやなく濃厚系が強い! 『天下一品』も『餃子の王将』も京都発祥や!」

『天下一品』とはこってりしたスープのラーメンを提供するラーメンチェーンである。年に一回の『天下一品』の日はラーメンファンが各地の店で行列を作る。

 もちろん、そのほかにもいくつも有名店があって、一乗寺いちじょうじという京都市でも北に位置するエリアなどは激戦区になっている。

『餃子の王将』は餃子を看板メニューにしたチェーン店である。
 京都は餃子の消費金額もかなり高い都市なのだ。浜松とか宇都宮ほどではないが、隠然たる力を持っている。

 もしカレンが生粋の京都人の転生者なら、ラーメンと餃子で黙らせることができる。
 そうハルナは判断したのだ。

「京都はたしかに世界的な観光地や、観光客用の店が腐るほどある。せやけど、京都市内だけでも百万人以上が住んでる。住んでる人間が高そうな京料理を毎日食べてるわけがない! あんなんはたまに食べるからええんや!」

 ハルナが京都を訪れた時、湯豆腐を三千円や四千円で売る店をいくつも見かけた。
 もちろん、そんな店に喜んで入る観光客もいるだろうし、だからそういう商売が成り立つのだろう。

 けれど、こうも思った。
 こんなん、地元の人間が行くわけないわ、と。

「人間、がっつり食いたなる時だって絶対にある! だいたい京都は大学が密集してる学生の街でもある! うじゃうじゃおる大学生が薄味のもんで我慢できるか! 京都に住む庶民用の食べもんがこってりのラーメンと餃子やっ! 実際、歩いたらわかるけどやたらとラーメン屋があるわ!」

 その予想は正しかった。
「それに、京都は昔から鶏肉をたくさん食べる文化なんや。有名店の多くも鶏ガラスープを重要視してる。あと、九条ネギがとれたからなんか、ネギもよう使う。これが京都人の好みの味や!」

「うぅ……スープ飲み干しは体に悪いのに……わかってるのに、体が求めてしもうたわぁ……おいしいわぁ……」
 カレンは涙目になっている。

「ハルナはん! あんたの勝ちやわぁ!」
 カレンが屈した瞬間であった。

「でも、次は負けへんからなぁ!」
「ああ、いつでも勝負受けたるわ」

 その横で聞いていたナタリアは思った。
 いったい何で勝負する気なんだ……?
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