第36話:子供のころ
これは、私が自分の気持ちを知ったばかりの頃の話。
「詩遠、遊びに行こう!」
満面の笑みで手を差し出すのは、どこかのんびりした雰囲気を漂わせた男の子。
私には彼の顔が輝いているように見えた。
「う、うん……」
まともに顔を見れなくって、横を向いたままおずおずと差し出した私の手を彼は優しく握り締めてくれた。
繋がった手から伝わってくる彼の体温が私の胸の鼓動を早めていく。
きっと、彼は知らない。
私が彼に特別な想いを抱いていることを。
そのせいで彼との距離を掴みかねていることを。
「ね、ねえ、どこに行くの?」
彼はいつもの遊び場には向かわずに、山の方へ向かっていった。
「いいからいいから♪」
私が少し不安になっているのを知ってか知らずか、彼は気楽にそう答える。
私はそれ以上聞き出そうとして彼に嫌がられるのが怖くて、黙って手を引かれるままに彼についていった。
私はとても臆病になっていた。
子供しか通れないような獣道を10分は歩いただろうか、急に視界が開けた。
「ほら、着いたよ!」
「わぁ……」
そこは小さな丘になっていて、自分たちの町が一望できた。
太陽の光が反射して、町中がきらきら輝いてるみたいだった。
まるで空に吸い込まれるような光景がそこにはあった。
「きれい……」
私は思わずその光景に見とれてしまった。
「元気出た?」
「え?」
どういうことだろうと、私は彼の方を向いた。
「最近詩遠の元気がなかったから、さ。
詩遠のおばさんたちはほうっておいていいって言ったけど、
やっぱり詩遠にできるだけ早く元気になって欲しかったんだ。」
元気が出たなら良かった、と本当に嬉しそうに笑う彼。
……気が付くと、私は涙をこぼしていた。
「ど、どうしたの! 僕何か間違えちゃった!?」
慌てる彼に違うよ、と首を振る。
悲しかったわけでない。
嬉しかった涙ではない。
ただ、私の中がいっぱいになってしまっただけ。
私の中の『好き』が、彼の想いによって涙として溢れ出している。
ただひとついえることは。
私は、このときすごく幸せだった。
二人が小学生の頃のお話です。
たまに二人の昔の話も挟んでいきたいなと思っています。
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