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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第一部 ガーランド転生騒動

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 昼休みも終わり近く。
 北庭は、人影がほとんどなかった。
 なにせ日当たりが悪い場所なので、時々静けさを好んで来る人以外には利用されることが少ない場所だ。

 ……まぁ、ここに来てることを見られてしまうと「暗い奴」という評判が立つので、それを嫌がって来ないというのが真相だが。
 いくら友愛やら個性を認めようと言ったところで、明るく社交的な人間こそ最上と思われる社会であることは、変えようがないのだろう。
 けれど今はそれが有り難い。話を聞かれる心配が少ないのだ。

 昼休みも終わりに近づき、ここの常連客である生徒も立ち去ってしまったし、万が一誰かに目撃されたところで、無駄に熱血っぽいエドがいる以上、四人が暗い奴だと後ろ指を指される心配などない。

 なんかここのところ、エドがとても活躍してくれてる気がする。
 エドといえば、私はとても驚いたことがあったのだ。

「師匠、言いつけ通りに実行しました!」

 誉めてくれという表情で追いついてきた彼に、私は先にそのことを尋ねてしまった。

「確かに丁重だったけど、エドでもあんな風にエスコートできるんだね……。いつも威圧的っていうか、雑な扱いしてる所しか見たことなかったから、驚いたわ」
「王族方と接する騎士ならば、当然の礼儀作法として仕込まれましたので。ご令嬢方への対応はわきまえております」
「そ……それならどうして同級生の女の子とかに、あんなに優しくない対応してるの!?」

 私は心底そう思った。
 そこの席を譲れと威圧してきたのも記憶に新しい。あれは間違っても女の子への対応ではないだろうに。
 しかもそれが出来るのであれば、ヴィラマイン達のエドに対する、ひいてはアンドリューに対する評価もかなり良くなっただろう。
 しかしエドは「訳が分からない」といった表情で返してきた。

「なぜです? クラスメイトというものは同僚と同じように考えれば良いと思っておりました。今のは師匠が指示なさったので、特別に女性として対応しましたが」
「……え!?」

 私は絶句した。
 同僚って……ようは男扱い? まぁ、ある意味平等を貫いていて、微妙に間違っていないところが面倒だ。
 だって女子はやはり性質が男とは違うのだよ。繊細なことを気にする生き物だからこそ、優しく扱わなければそりゃ反発されるだろうに。

 どうしてこうなった、とアンドリューに視線を送る。
 私同様に、走って少し息を弾ませていたアンドリューは、困ったように苦笑いする。

「留学するにあたって、エドも平等に関して講義は受けたんだ。けど騎士団は身分差がきつい所だから、それに長年浸かってたエドには、どうにも身分差がないとか、そういうことが理解できないらしくて。……あと帰った後に、エドが対応を切り替えられる器用な質かどうかってこともあって。教えた者が、そう説明したようなんだ」
「……ああ」

 なんか色々と察した。
 やっぱりエドは、母国でもいろいろ諦められていたんだろう。なのにこの男に主の結婚問題なんて繊細な事柄について命じたのは、一体どこのどいつなのか。
 しかし今はエドのことに手を尽くしている場合ではない。

「大丈夫でしたか?」

 エドの一歩後ろで戸惑いがちにしていた、笹原さんに話しかける。

「あの、ありがとう……」
「いえ、私も先日助けて頂いたので、恩返しみたいなものなので気にしないで下さい」

 恐縮する様子の笹原さんにそう言うと、彼女は私の顔を見て「ああ」と思い出してくれた。

「先日キース君に絡まれていた人だったのね。でもあの時と違って、私を庇ってくれるために何人も巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」

 笹原さんはぺこぺこと頭を下げる。腰が低くて奥ゆかしい方だ。

「笹原さんて言うんですね。本当は御礼を言いに行きたかったんですけど、名前がわからなくて。あ、私は小幡沙桐っていいます」
笹原(ささはら)柚希(ゆずき)です」

 ……ん?
 聞き覚えのある名前に私は首をかしげそうになる。しかしその名前をフルで言われているのを聞いた記憶が無い。では見たのか……。

「あ!」

 思い出した。あの手帳に書いてあった名前じゃないか!

 笹原(ささはら)柚希(ゆずき)――またの名をフェリシア・クレイトン。
 黒歴史の同志だ!

 そうするとキースのことがとても苦手なのではないか? それを思い出した私は、自分を助けてくれた時の彼女の震える声を思い出して、申し訳なくなった。あの時も心底怯えていたのに助けてくれたに違いない。

「数日前は本当に助かったけど、キース君とはあまり接触したくないはずなのに、大丈夫だった?」
「え?」

 問い返され、一拍間を置いた後で私は思い出す。しまった、これじゃ手帳の中身見たってことバレちゃうー!

「……なんで、どうして知ってるの!?」
「え、えっと、その」

 追及され、人生始まって以来と言えるほどに、私は激しく焦った。これはマズイ。早く何か、適当な言い訳を考えるんだ私!

「あの、ちょっと人からキース君のこと苦手だって話を聞いて」
「まだ私、誰にもキース君のこと苦手だって言ったことなかったんだけど……?」

 ぐ……。言い訳その1は失敗した。
 あげく、次を準備しようとしたが、そこでエドがやらかした。

「まさか師匠、先日拾っていた手帳の件ですか?」
「ふぁっ!?」

 ばらされた瞬間、私は奇声を発してその場に飛び上がってしまう。もうそれで、笹原さんも気づいてしまったらしい。

「み……みたの!?」

 笹原さんは頬を強ばらせながらも『嘘って言って』という表情で私を見る。
 しかしここまできたら、もう言い逃れができない。私は重々しくうなずき、犯行を認めた。

「いやぁあああああっ!!」

 奇声を上げて笹原さんは逃げ出した。
 アンドリューもエドも目を丸くしてそれを見送る。
 私は更に怯えた。このままでは、笹原さんに誤解されたままになってしまう。それはマズイ。

「あの、待って! ワケを、ワケを聞いてぇぇぇ!」

 必死で追いかけたが、さすが黒歴史を暴かれた人の足は早かった。激走と言っていい走りだ。
 しかし恥ずかしさで正気を失っているのか、庭の中をぐるぐると移動してくれたおかげで、なんとか彼女の手首をつかむことに成功した。
 そのまま引き留めようとしたのだが、

「うわっ」

 足のふんばりが利かずにつんのめり、転びかけた私を笹原さんがとっさに引き止めようとし、もつれるように地面に倒れた。

「いった……」
「大丈夫?」

 心配してくれる笹原さんの方が私の下敷きになってしまっている。

「わ、ごめんなさい! 痛くない!?」
「痛くはないけど……」

 急いで引っ張り起こした笹原さんは、背中の土を払う私を複雑そうな表情で見ていた。
 転ぶというアクシデントで恥ずかしさによる暴走は止まったものの、秘密を見られたことをどうしたらいいのか分からないのだろう。
 訳を説明しようとした私だったが、その前に駆け寄ってきたエドが言った。

「師匠! ……やっぱりそうだと思っていました。師匠は女性が好……ごふっ」

 しまった、エドの言葉を止めさせようと、つい繰り出してしまった拳がエドの腹にヒットしてしまった。
 それにしても殴った手が痛いというのはどういうことか。そのお腹、実は鉄の板でも仕込んでるんじゃないよね?
 一方のエドは痛がる様子もなく、すぐに続けて言おうとした。

「そんなにも特殊な性癖をお持ちでも、私は師匠として尊ぐぉっ……」

 どうやらこれぐらいで異世界の騎士というものは痛がらないらしい。実に頑丈だ。おかげで安心して言える。

「それ以上言ったら、容赦しない。あと師匠呼びの許可取り消し」
「いや沙桐さん、既に容赦してないような気が……」

 アンドリューが若干引いたような表情でつぶやくが、無視する。むしろ今の失礼な発言は、主の君が封じておいてほしかった。

 それよりも、状況についていけてそうにない笹原さんへの対応が先だ。
 まずは鉄みたいに固い腹筋を持つエドともども、二人には離れていてもらう。
 なにせこれからするのは、内密な話なのだ。
 でもエドが、十メートル離れた木の陰から、何かを知りたそうな顔をしながらこちらをのぞいている。……何を期待しているんだ君は。

「と……とにかく! 安心して笹原さん。わ、わたしも黒歴史の持ち主だったんだから」

 同志だから安心して! そう主張したというのに、笹原さんはわけがわからないと首をかしげる。

「え、黒歴史?」

 彼女の様子に、私は「黒歴史」という多少オタな言葉を知らないのだろうかと思った。
 それから、私は勘違いしていたのではないか、と思い至る。病にむしばまれた彼女にとっては現実だったのではないだろうか。では彼女にとって、あれは黒歴史などという言葉で表せるものではなかったのだ。

「じゃ、真性!?」
「真性? あの、何を言って……」

 私が口を滑らせた単語に戸惑う笹原さん。私はここまで来たらお詫びがてら話すしかないと心に決め、深呼吸して彼女に向き合う。

「あの、まずはごめんなさい。あなたの手帳が落ちていて、雨が降ってきたから一晩だけ預かったの」
「あ、あ……」

 絶望で一杯になる笹原さんの顔。けれど私は明かさねばならない。

「それというのも、私もかつては同じような妄想を抱いたことがあって。だから他人事とは思えない上、多分笹原さんにとっては大切な物だと思ったから、雨に濡らしたり誰かに拾われてしまうのが忍びなくて」

 決して決して、中を見て笑ったわけではないのだという私に、うわ言のように笹原さんが繰り返す。

「ももも、妄想?」
「だって、元貴族令嬢っていう妄想……」
「うひょああああっ! 止めてわかったわ言わないで! お願い!」

 呆然としていたのが嘘のように、叫びながら止めてきた笹原さんは、耳元でこそっとささやく。
 本当のことを話すから。

 その言葉を聞いた瞬間の私は、
 ああ、やっぱり現実と区別がついてなかったんだな、と思ったのだった。
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