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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク

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2-11

「本当に素敵ですわ……」

 ため息まじりにヴィラマインがつぶやき、リーケ皇女がうなずく。
 見回せば、二人の王子はやはりだめかという表情をしていた。好みの筋肉を連れて来いなんていうお題をだされた時点で、こちらが断りたいということを察してはいたんだろう。
 が、即座にディナン公子が反論してきた。

「……こちらが選んだ者達より、勝っているようには思えないんだが」

 喧嘩を売られると、恥ずかしいという気持ちから、戦闘モードに頭が切り替わる。すっと冷静な私が表に出てきて、すらすらと言葉が飛び出した。

「ヒントはお出ししましたよ。この教科書に載っている像。これが理想だとヴィラマインは教えたはず。そしてディナン公子、貴方もそれを踏まえてこの方を選んだのでしょう?」

 と言って、私はヴィラマインの目が釘付けになりそうだったバスケットボール男子を指さす。

「……そうだが」
「ならおわかりでしょう? 異世界人だからこそ、ヴィラマイン王女は騎士よりはやや筋肉量が多い方が好みなのです。だから普通の騎士では物足りない。だけど筋肉が多ければいいというわけでもないのですよ。だからヴィラマイン王女は、他にも筋肉量が多い男性の体育の先生がいるにもかかわらず、女性の按司(あんじ)先生が一番の好みなのです」

 そうヴィラマインの好みは厳しい。
 私はそれを、昨日嫌というほど叩きこまれた……もう思い出したくない。ヴィラマインは大好きだが、あの趣味だけはやはり共有するのは難しかった。私は君が、幸せそうに笑っているのを眺めているだけで十分だよ。

「さらにヒントに出した像を見ていただければわかる通り、ヴィラマインの好みだと、筋肉がただ多ければいいというわけではないのです。全身のバランスが取れていること。それが何より重要……だそうですよ」

 この基準のせいで、ディナン公子が連れてきた以外の筋肉男子は、ヴィラマインの好みから外れてくれていた。肩や腕なんかはとてもいいけれど、そこと比べると足が物足りなかったり、胸板が足りなかったり、お腹の割れ方が足りなかったりしたのだ。

「ディナン公子が選んだ方はかなりいい線だったとは思いますが、やや細すぎましたね」
「ヴィラマイン王女、いかがですか?」

 私の演説終了を待って、リーケ皇女が問いかける。
 ヴィラマインは待っていたとばかりに思いの丈を口にした。

「なにもかも沙桐さんの言う通りです! バランスは大事ですわ! この方々はっ、この足が素晴らしくてもう素敵! ああああ、触りたいぃぃぃ」

 美少女が苦悶しながら頭を抱えて、男の足に触りたいと絶叫する図に、その場にいた人々のほとんどがドン引きしていた。
 例外は、筋肉を見せつけるために日々努力している治田君のお友達二人だ。むしろ「いやぁそんなに褒めてもらっちゃって」と照れている。

 エドもしれっとした顔をしていた。
 どうして君は平気なんだ……。君はアンドリューの嫁候補に考えている相手が、他人の筋肉に陶然としてても問題ないのかね?
 不思議不思議と思いながら、私は役目が終わったと目を舞台からそらした。
 しかし納得していない人がいた。ディナン公子だ。

「わ……私が選んだ者と、その者、アンドリュー殿下の騎士を借りたのだろう? その騎士とどう違うのかがわからないのだがな!」

 ディナン公子の指摘に、確かにそう違わないかもと思う。一見すると、エドは均整はとれていても筋肉量がやや寂しく見えがちだ。
 これどうするの? と彼を推薦したヴィラマインに視線を向けると、彼女はエドに依頼した。

「エド様、その……お隣の方みたいなポーズをとっていただいても?」
「承知いたしました」

 ぐっと筋肉に力を入れると見た目よりもかなり筋肉が盛り上がる。……間違いない、按司先生系だ。

「エドは普通の騎士よりも力があるからね。他の騎士よりも筋肉量は多いんだ」
「竜を斬るにはどうしても力が必要です。ルーヴェステインの騎士はそのための訓練も欠かしません」

 丁寧にアンドリューが解説し、エドが補足すると、さすがのディナン公子もがっくりとうつむいた。……あきらめてくれたのだろう。

「では今回、ヴィラマイン王女の目にかなう方を誰も推薦できなかったということですわね」

 リーケ皇女の仕切りに、ヴィラマインがほっとしながら用意していた言葉を口にした。

「そういうことで、私には今すぐ誰かを選ぶのが難しいのです。婚姻の件についてはやはり、国へ一度問い合わせをお願いいたします」

 これで無事、ヴィラマインの問題を先送りできたのだった。


 王子や公子達が肩を落としながら立ち去り、「こんなことだと思ったんだ」と言う彼らが選んだ筋肉自慢達に参加賞として用意した缶ジュースを渡して見送った後、私は深く息をついた。
 そこに協力者二名を見送ったヴィラマインが戻ってくると、リーケ皇女がふと疑問に思ったかのようにたずねた。

「でもヴィラマイン様は、本当に筋肉以外に好みの基準ってないの?」
「いやリーケ様、いくらヴィラマインでも内面無視で相手を選んだりしないんじゃないかな?」

 今回だって、ただ筋肉量で結婚相手を決めたいなら、ストレートに公子達に筋トレをさせて、一番筋肉がついた相手を選ぶとでもいえば良かったことだ。それをしなかったのは、ヴィラマインが性格などの面で彼らが好みじゃなかったからだろう。
 するとヴィラマインが苦笑いした。

「私でも多少は、性格なども気にしますわ。……そう、ずっと昔、とても寡黙な方に助けられて。そういう方は気になることがあります」
「寡黙……」

 物静かな人が好きなのかな。そう思った私だけど、ヴィラマインがリーケ皇女に受け答えした後でちらりと見たのがエドだと気付いて。

「…………」

 まさか。と思った。
 いやないない。だってヴィラマインはエドを怖がっていたはずで。
 だけどと思ってしまったのは、ヴィラマインがエドの筋肉を把握していたこととか、今回の婿撃退作戦の協力者にエドを選んだことが少し引っかかっていたせいだろうか。
 いや、でも好きだったら、もっと違う反応をするような気も……。

 と思いながら、隣室で着替えて出てきたエドに目を向ける。
 やっぱり服を着てくれているとほっとする。
 そんな私とはうらはらに、エドはなんだかしょんぼりした雰囲気だった。

「エド様、今日はご協力頂きありがとうございます」

 ヴィラマインが珍しく真正面から御礼を言っているというのに、エドは浮かない顔のまま。

「殿下のご指示でしたので、それはお気になさらず。しかし師匠のお気にめさなかったようで……精進し、もう一度師匠にお目にかけたいと思います」

 もう一度、お目にかける? って私に見せる気!?

「うわわわわ! だめ、そんな! 充分、充分だから!」
「二度と目にしたくないほど醜悪でしたか。先ほども私の方はあまり見ないようにされていたのはやはり……」

 ちょっとエド、まさか私が恥ずかしくて直視できなかったことを、そう曲解したの?

「ちちちちがっ! あの、充分綺麗だと思うから、ええとほら、ヴィラマインも誉めてたし」
「しかし今も近づくと逃げるのは、嫌がっておられるからでは?」

 確かに私に向かって一歩近づかれた瞬間、思わず一歩引いちゃったけど。

「嫌ってわけじゃないの! ほんとよ信じて! ええと、ほら!」

 指先でちょいとエドの肩をつついてみせた。

「ね、別に嫌で近づきたくないわけじゃないのよ?」
「なんだか蛇に触れと言われた人みたいな反応ね」
「沙桐さん、それはさすがにエドさんが可哀想ですわ」

 リーケ皇女やヴィラマインにまでダメ出しされた。

「えええ! どうしたらいいの!? 恥ずかしくて直視できないくらいなのに、触ったら私気絶するかもしれない!」
「恥ずかしいなどと、師匠は深窓のご令嬢みたいなことを仰るのですね」

 不思議そうに言うエド。
 しかも今、小声で「奇怪な」とかいわなかった? 私が乙女らしいことを言ったら奇怪なわけ? ひどい!

「せめて嫌がっていないってわかるよう、握手でもしてみせたら?」
「う、うん」

 触るのが嫌と思っているわけじゃない。だから素直に手を差し出したエドと手をつないだ。
 なんだか変な感じがするんだけど。

「じゃ、エドは沙桐さんに慣れてもらうためにも、手を繋いだまま校舎の外まで歩いたらいいと思うの」

 リーケ皇女がにやっとしながら言えば、ヴィラマインも微笑んでうなずく。
 え、ヴィラマインってエドが気になってるわけじゃないの?

「や、ちょっとそんなことしなくていいってば!」

 私はエドが力を入れていなかったのを良いことに、急いで手を離して逃げた。
 そんな私を、アンドリューとヴィラマインが苦笑いしながら見ていたことなど気づかずに。

 二人がひっそりと言葉を交わしていたことも気づかなかった。

「……君は何も言わないままでいいんだね」
 アンドリューの問いに、ヴィラマインはうなずいた。
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