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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク

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2-6

 アンドリューはクラスメイトに声をかけた。
 やや身長高めの男子、治田(チダ)君だ。
 肩幅大きめで、彼自身もそこそこ体格がいい。けれどクラスメイトに声をかけるのが目的ではない。彼に紹介してもらうのだ。

 そ私達は治田君と一緒に、こそこそと一年の教室が並ぶ校舎の三階へ移動した。
 画期的な設備があるのが我が校の特色だけど、そこは高校として他とあまりにかけ離れてはいけないからと、上り下りは階段だ。
 面倒だなと思いながら階段を上へ。そうして件の婚約者候補達がいないことを確認した上で、治田君を教室へ送り込み、私達は更に階段を上って屋上へ。

「うう、階段嫌……」
「何を老婆のようなことを仰っているのですか師匠。そんな軟弱なことでは、魔獣を倒せません」
「倒す必要ないから私! てか異世界人女子に、何を求めてるのよ……」

 騎士並みの戦闘力や身体能力を求められたって、どこからも出てこないよ!?

「…………そういえばそうでした。今まで探しても見つからないなど、まるで師匠に見せていただいたTV番組の忍者のごとき行動をなさることがあったので、つい可能な気がしておりました」

 やや長い沈黙の後、エドはうなずく。そうして想定外の行動に出た。

「では足腰の弱い女性らしい対応をするよう、心がけます」

 言うなり、私は金魚のようにひょいと掬いあげられた。

「ふぁ!?」

 私を抱き上げたエドが、三足飛びくらいで残りの階段を駆け上がり、屋上へ到着すると降ろしてくれる。

「足の悪い老婦人は、抱き上げて道路を渡らせてやるべきだと、物の本で読んだのですが」

 ……一気に老人扱いか。いや発想はエドらしいんだけど、だけどっ。

「ぐぬぬぬ……」

 納得できない物を感じる。

「しかしこれでは、何か遭った時に逃亡するのにも苦労なさるでしょう。師匠はもう少し運動をされた方が宜しいのでは」
「え、やだ」

 運動。それは私に合わない代物だ。
 肉体労働派じゃないのよそもそも。インドアで帰宅部な私は、だから運動系の部なんかにも興味がないっていうのに。

「そもそも逃亡するような状況って何?」
「先日のキースの件なども、足が速ければもう少し逃げようが……」
「ちょっと待った。論外よ論外! エド達みたいな異世界の騎士に勝てるわけないでしょう!」

 常識を超える身体能力を持って、いうなれば戦車か戦闘機かっていう竜なんかと生身で戦うような人達に、ちょっと運動したくらいで勝てるわけがない。いや、一生無理だ。

「自分との差を考えてよ……」
「そうなのですか……」

 エドは至極残念そうだ。そんなに私にも騎士みたいになってほしかったのだろうか。でもそうなったら、君は一体私に何をさせる気だ? 魔獣狩りに行きましょう! とか言われる未来しか見えない。
 とにかくエドのことは置いておいて、屋上で待っているとクラスメイトの治田君がやってきた。一緒にいるのは一年生の、彼の弟だ。

「ご協力ありがとうございます」

 ヴィラマインが深々と頭を下げると、治田君もその弟も顔を赤くしてかしこまってしまう。
 いや気持ちはわかるよ。綺麗な女の子に御礼言われたらそうなっちゃうよね。でも見てる私はちょっと楽しい。ニヤニヤしてしまう。

「それでアンドリュー。彼らを呼んだ訳は?」
「治田君の弟は、別な高校に通ってる中学の同級生に、ボディビルディングクラブに通う友達がいるんだ」

 今回のルールは、別に学外から呼んでも良いことになっている。
 ただ自分の護衛は使えない、そして護衛じゃない者を即呼ぼうにも、異世界からでは連れて来る時間が無い。
 なので、他の婚約者候補達は学校内の人間から探そうとするのだ。

 ちなみに日本国内で探すことを思いつく者もいるだろうが、その人間を婚約者の国内に召し抱える必要がある。そのため、さすがの異世界貴族様達も、多少なりと身元が保証されて異世界に理解がある学生以外には、声をかけにくいのだろう。
 うっかり変な人をスカウトして、国内で問題を起こされたら困るからね。

 一方のヴィラマインは、雇わなければならないという制約がない。そのためクラスメイトの伝手を辿って人を呼んだところで、問題は起きないのだ。
 しかも同年代の高校生ならば、学校内に入る許可が得やすい。

「よく思いついたわね」
「たまたま、治田君が話していたことを覚えていたんだよ。それにボディビルディングの部なんてものはうちの学校にはないからね。でもヴィラマインの好みはそういう人だろう? なら、その手のものを個人で趣味にしている人を捕まえるのが、一番だと思って治田君にお願いしたんだ」
「はー。さすがアンドリュー」

 私がアンドリューの考えに感心している間にも、早速携帯端末で写真を見せてもらったヴィラマインは、うっとりとした表情で呼ぶ人を選んでいる。
 ……生まれながらの王女様なヴィラマインに限ってはないと思うけど、陶酔しすぎてよだれでも垂らしたらどうしようと、私はちょっと心配になった。

「ああ、実際にお会いしてみたい方ばかりだわ……」

 ヴィラマインはうっとりしながらそうつぶやいたが、できない理由がある。
 学校外でそういった人と接触をしたら、こちらの手の内がバレてしまうのだ。
 しかも接触相手に婚約者達が苛烈な交渉を行った時、提示金額やら待遇、そして異世界移住に魅力を覚えてころっとそちらに鞍替えされてしまったら、おしまいだ。
 そのため写真で選ぶという手段になった。

 ヴィラマインは苦悩の末、三人の男性を選んだようだ。
 すぐに治田君の弟が電話をかけて、当日の放課後にこちらの学校に来られるのかを打診してくれたのだが。

「あと一人足りない?」
「外せない用事があってむずかしい、そうなんです。でもその方以外ですと、年齢に問題がありますし……」

 同年代と指定したからには、ヴィラマインは中~高校生ぐらいの男性を選ばなければならない。ごまかせるとしても、大学一年生までだろう。
 数人、その年齢範囲に収まる人はいるようだが、今度はヴィラマインの好みとはずれてしまうという。

「好みじゃない人を入れたら、逆にあっちが好みに近い人を連れてきた時に、跳ね除けにくくなるわよね……」

 そうなると、どうにかあと一人を調達せねばならない。
 私は治田君に、知り合いのそのまた知り合いあたりで、そういうものを好んでいる人はいないかと尋ねようとした。
 そこで、ヴィラマインがアンドリューに言った。

「エド様をお貸し下さいませんか?」
「え? エド!?」

 ずっとヴィラマインが怖いと言って避けていたのだ。決してこの人だけは選ばないと思っていたのに。
 けれどヴィラマインは思い詰めたような真剣な表情で、じっとアンドリューを見ている。
 そんなにも深刻そうな顔をするのに……と思ったが、背に腹は代えられないのは確かだ。

 一方のエドは、あまりこだわりはないらしい。
 アンドリューに「どうする?」と聞かれて、つるっと答えた。

「殿下の頼みならば。それに姫君に殿下が求婚した際に、こういった状況に陥ることがあるかもしれません。後学のために参加いたします」
「いや、僕は筋肉品評会とか言われたら逃げるよ……」

 アンドリューは苦笑いしながらヴィラマインに答えた。

「じゃ、うちのエド貸すよ」

 とりあえず、これで三人集まったわけだ。
 ほっとした後で、私はふと気づいた。

「え、ヴィラマインってエドの……見たことあるの!?」

 筋肉を見たことが無ければ、選ぼうなどと思うまい。でもいつ? と思ったら、ヴィラマインがすごく言い難そうに私に耳打ちした。

「あの、体育の時にたまたまちらりと……」

 件の人外魔境な動きが見られるという、異世界体育の時間か。故郷のごとく剣で対戦して訓練したりしているようだが。
 でもそれを覗くってことは、ヴィラマインさん筋肉に飢えてたの?
 そんな疑惑を抱いたが、まぁいい。

 これで三人集まったので、私はもう勝ったような気分だ。
 後はヴィラマインが「こちらの方が好みなんです」ということを、心のままに語りつくせばいいだけなのだから。
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