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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク

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2-5

「まず6日後と日程を決めて下さったのが、素晴らしかったですわ、リーケ様」
 ほくほく顔で称賛するヴィラマインに、リーケ皇女はまんざらでもない表情をしている。

 場所は移って、ホテルの一室だ。
 とにかく作戦会議が必要! と私が主張し、それならばすぐ打ち合わせできるようにとリーケ皇女がホテルの一室を借りてくれたのだ。

 ちなみに一泊うん万もするスイートルームのリビングである。
 ちょっとお給料の良いご家庭の一軒家にありそうな、テレビにソファセットとローテーブルが置かれた部屋だ。続き部屋が寝室になっている。

「それにしても、なんで私まで筋肉……」
 自分がうんざりした表情になるのを止められない。
 三人集めるとなれば、学校の運動部へ突撃してヘッドハンティングするしかないが、あまりむさいところへ入って行くのは腰が引けるのだ。
 ……とそこで思いつく。

「ヴィラマイン、もしかしてあなたが国から連れてきている護衛って、素敵筋肉の主じゃ……」
「いけませんわ、沙桐さん」

 リーケ皇女が両手の人差し指で×印を作って私に見せた。

「いくらなんでも、ヴィラマイン様の配下を使うのはいけませんわ。さすがに沙桐さんが選んだという前提が崩れますもの。ヴィラマイン様の配下の騎士なんかを使うとしたら、他の候補者の方にも許可しなくては公平じゃないでしょ。労せずしてヴィラマイン様の好みを手に入れられる方法をとられたら、それは沙桐さんが好みを把握しているのではなくて、断る口実の出しにされたのだってあからさまにバレるわけですから」
「うぐぅ……」

 リーケ皇女に禁止されて、私は反論できない。
 確かに手っ取り早くヴィラマインの好みを満たせるとは思ったが、それでは私がヴィラマインのことを知り尽くしているから、求婚者選びに口を出したのだという前提が無くなってしまうだろう。

「沙桐さんが選んだ人をヴィラマインが本当に気にいって、そのほかの人と比べた時に明らかに差があるから諦めてもらおうという策が壊れてしまいましてよ?」
「そうだね。ヴィラマインが自分のお気に入りを連れていって、この人が一番だと言うようなことをしたら、ディナン公子なんかは反発しそうだね」

 ここまでついて来ることになったアンドリューが、リーケ皇女に同意した。

「でもさ、こうしてヴィラマインが私と友達である以上、誰よりも好みの人間を探しあてやすいわけでしょ? 最初から候補者の人達の分が悪いんじゃないの?」
「だから皆に、ヴィラマインの好みについては教えるのですわ。先ほどもそうだったでしょう? 同じ年頃の者であることって区切った以上、ヴィラマイン様には今後同年代の筋肉至上主義になっていただかなくてはなりませんけれど」

 リーケ皇女の話に不安をおぼえたのか、ヴィラマインが困ったような顔で言った。

「あの、私いつも学校内で按司先生を見つめてしまっていたのですけれど、大丈夫かしら?」
 もちろん按司先生は同年配ではない。

「女性は別枠ということで」
 リーケはあっさりと断を下し、ヴィラマインは「今後はそういうことにします」とうなずいた。

「そうすると、みんな按司先生基準に選んでくるのかな?」

 今のところ、さらっとヴィラマインの噂を調べれば『按司先生が大好き』だということはすぐに知れるだろう。その筋肉を見たなら、ヴィラマインがどうしてそんなに慕うのかも一目瞭然だ。

「かもしれませんわね。まぁ、按司先生のおかげでヴィラマイン様が間違いなく筋肉好きだというのは信じてもらえるでしょうし」
「あの先生、ボディービルディング大会にも出たことがあるのよね。先生の筋肉を基準にっていうと、荷運び系の労働をしてる人を本国から呼び寄せるか、学校内で探すとなるとレスリング部とか……ってうちの学校にあったっけ」

 私は自分が体育会系の人間ではないせいで、どうもスポーツ関係の部活にうとい。

「ウェイトリフティングって言ったっけ。なんだかすごいムキムキの人達は見たことあるよ。三年前ぐらいに、留学してきた騎士ではない生徒がその部活に在籍してたって聞いたことがある」

 アンドリューの情報に、なるほどと思う。
 ウェイトリフティングならかなり筋肉が盛り上がって、さぞかしヴィラマインも見ごたえがあるはずだ。
 聞いているヴィラマインも興味を引かれたのか、真剣な表情をアンドリューに向けていた。

「なら……私はそこを外して探すべきか」

 按司先生にそっくりではなく、ウェイトリフティング系の部活の人でもない。
 けれど筋肉があって、ヴィラマインの好みに合いそうな人。

「それなら、一つ良い案があるんだ」
 アンドリューがにっこりと微笑んで、私に提案をしてきた。

 ◇◇◇

 週が開けての月曜日は、朝から学校に通っているヴィラマインの婚約者候補たちが右往左往していたようだ。

「おい、朝練習に二年の公子が張り付いてるんだが、ありゃ何だ?」
「うちには一年の王子が来たぞ。なんでか三年の先輩をスカウトしてた。見事選ばれたあかつきには、王国で召し抱えるとかなんとか」
「え、異世界のヘッドハンティングかよ?」
「でもなんか、筋肉の選考会で選ばれないとヘッドハンティングは無しだとさ」
「やっぱ異世界わけわかんねぇー」

 教室に入ると、朝の部活動を終えた男子がそんな話をしていた。
 早速、理想の筋肉を探しに行った婚約者候補たちが、人材を物色していたらしい。

「ヘッドハンティング確実じゃないなら、わけのわかんない筋肉選考会なんて出ないよなぁ」
「ぬか喜びしたくないからって、先輩も断ってた。それに先輩、異世界港での勤務希望だったみたいで、移住するつもりはないんだってさ」

 しかし成果は芳しくないようだ。
 ヘッドハンティングされた! と喜んでいたと思ったら、謎の筋肉品評会に強制参加。しかも品評会で落選したら話はなかったことに……というのは、こちらの世界の人にとってはちょっと微妙な話だろう。
 特に異世界移住を夢見ているわけではない生徒には、旨みが少ない話に違いない。

 そうしてなかなか集まらないせいか、ディナン公子たちが昼休みに私達の教室におしかけてきた。
 ミートボールを咀嚼している私の横で、ヴィラマインがお行儀よくご飯を飲みこんだ所を見計らって、ディナンが床に膝をついて質問した。

「姫。『素敵』ということは、必ずしも筋肉量が多いということではないのですよね?」

 どうやらスカウトが上手くいかず『理想の筋肉』の範囲を広げようと考えたらしい。按司先生的なムキムキ筋肉のネタが尽きそうなので、少しムキムキしてなくてもいいよね? と言って欲しいようだ。

「えっと……そこそこはなければ、見栄えがしませんので……」

 戸惑いながらも、ヴィラマインはしっかりと自分の好みを要求した。彼女はけっこう理想の筋肉にうるさいのである。

 それにリーケ皇女にも、好みに嘘をつく必要はないと言われていた。
 なにせヴィラマインが断りたいのはディナンなのだ。彼さえクリアできるのなら、もし気に入った筋肉美の生徒をヘッドハンティングできた候補者がいて、国元でも問題ないという判断ならば、ヴィラマインが結婚してもいいと思えるなら選んでしまってもかまわないからだ。
 そんなヴィラマインに、ディナンが詳細を聞きだそうとする。

「具体的に言うと?」
「美しさでしょうか。確かこちらの世界の歴史の教科書に、昔の円盤投げをしている男性の像の写真があったと思うのですけれど、あんな感じが好みです」
 私もそれは知っている。世界史の教科書で、ヴィラマインが写真の枠を蛍光ペンで囲んで、付箋までつけていた。
 そんなに好きか……と驚いたのでよく覚えている。
 ディナンの横で、苦渋に満ちた声が上がった。

「今から鍛えたぐらいでは無理か……」

 そうして彼らは私達から離れると、教室の片隅でこそこそと話し出す。
 何をしゃべっているのだろう。知りたいなと思っていたら、隣でカツサンドの箱の二つ目を開けようとしていたエドがぼそぼそと実況してくれた。

「こっちの世界には色々と怪しげな科学物質があるだろう。私は筋肉をどうにかする薬を探すぞ。そして私自身が理想を体現したと姫に見せ、選んでもらうのだ。……でもあるのだろうか」
「おい、薬なんて後ですぐバレるだろう」
「他に思いつかないんだよ!」

 エドの実況を聞き終え、私は首をかしげる。

「エドのそれって、耳がすごくいいからなの?」
「多少は。でも聞き取りにくい所は読唇術ですね。こちらを見ながら話して下さるので、わかりやすくて助かります」

 ひょうひょうと答えたエドは、二箱目のカツサンドにとりかかった。
 よく食べるな……と感心してしまう。なにせひと箱にカツサンドが四つ入っているのだ。
 しかしじっと見ていると胸やけしそうだったので、自分のお弁当をかたずけながら、再び何かを相談している候補者達を見やった。

「せめて私が騎士であれば……。理想に及ばなくても姫を説得するのに良い材料になっただろうに」

 一人が歯ぎしりしそうな表情で言ったのが、漏れ聞こえてくる。
 確かに、婚約者本人がそこそこ良い筋肉を持ってたら、ヴィラマインも惹かれるだろうなと思う。
 そして普通の体格と筋力らしい候補者達を見て、やっぱり騎士って、発達しすぎたりはしないようだが、そこそこ筋肉すごいんだろうな……と思った瞬間、エドの胸板の硬さを思い出してしまって、私は慌てて記憶を奥に押しやる。

 なんで思い出すんだよ私……。
 内心で苦悩するけど、仕方ないと思うんだ。だって思春期以降に男子と接触したのってエドだけなんだよ!

(って、あれ。エドだけじゃない……うぅぅ)

 キース事件の時、何か必要なことだったらしいのだけど、アンドリューにもでこちゅーされたことを思い出した。

 本気でうずくまってしまいたい。
 しかしお弁当を食べながらそんなことをしたら、あまりに不審行動すぎるので、我慢して卵焼きを飲みこんで心を落ち着かせようとした。

 緊急措置で、それを好意があるとか勘違いする気はないけど、私にはとてつもない出来事だったのだ。
 ……あの時はショックなことが多すぎて、一晩眠った後で恥ずかしさにのたうちまわるという、恐竜かよ私、という状態になったのだが。

 でもキースにもいろいろされそうになったんだよと思い出したら、恥ずかしさが薄れた。
 なにせ今は40%ぐらい女性の思考が混ざってるキース子だ。あいつにされたことは、女子同士というカテゴリに放り込んでいい気がしているし、それと同じだと思えば少しはアンドリューやエドのことも、過剰に気にしなくてよくなる。

 ……人生、何が自分に幸いするかわかんないもんだ。

 私がなんとか気持ちを立て直した頃、婚約者候補達は新たな人材をスカウトしに旅立った。
 そうして数分後。お弁当を食べ終えた私は席を立ってアンドリューを促す。

「じゃ、素敵筋肉を紹介してくれるかしら」

 あの日、彼が提案してくれたのは、まさに穴場というべき人材を発掘する方法だった。
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