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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク

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2-4

「き……筋肉?」

 ディナン公子が問い返すまでに、十数秒かかった。
 まさか王女が筋肉万歳とは思わず思考停止し、まさかと思って問い返すまでのブランクがその秒数だったのだろう。

「筋肉です」

 私はあっさり肯定した。
 ディナン公子は再び黙り込む。
 きっと「うそだろ!?」と思ってるんだろうな。でもほら、異世界ってサバイバルな世界で、力が一番って感じの騎士職なんかもあるんだから、筋肉な人いっぱいいるんじゃないかな。だとしたら、一定数は筋肉礼賛する女性がいそうな気がするんだけど。
 なのに驚き過ぎだなと思って、リーケ皇女に尋ねてみる。

「あれ、異世界って筋肉むきむきな方って少ないんですか? 騎士とか剣で魔獣狩りしたりするわけで、筋肉すごそうだと思ってたんですけど」
「ヴィラマイン様の好みに叶う感じっていうと、市井の方が多いんじゃないかしらね。騎士は意外と筋肉隆々にはならないのよ。こう、筋肉組織が他の人と違う感じなのよね」
「マジ人外な感じですねそれ……」

 筋力が必要そうなことしてても、普通の人はボディービルダーを目指せても、騎士はムキムキにならずとも腕力や膂力がたっぷりなのだそうだ。確かに騎士職以外の異世界人の男性は、走る速さも腕力もこっちの世界の人間とそう違わない。
 だから体育の授業も、騎士は別な場所で好きにトレーニングさせ、他の異世界人は日本の学生たちと行うのだ。

「まぁ、文官とかと比べたらやっぱり騎士は大柄でしっかりとした体格の人が多いわよ。けれどこっちの世界でいうボディービルダー? のような感じがヴィラマイン様のお好みならば、少しもの足りないのではないかしら」

 ふーんと思っていると、リーケ皇女がいたずらっぽい笑みを見せた。

「でも筋肉量については、沙桐さんならなんとなく気付いてると思ったわ」
「なんでです?」
「エドに触ったことあるでしょ? あれだけ規格外な腕力なのに、変だと思わなかった?」
「さわっ……!」

 叫び出しそうになって、ぐっと声を飲みこむ。
 だって、エドに触ったという言葉を聞いた瞬間、私は思わずキースとの一件を思い出してしまったのだ。
 手を繋がれたこととか、抱えられて助け出されたこととか。それと一緒に「泣き顔を見せるな」と言われたことも記憶から掘り起こしてしまって、慌てて脳内の隅っこにしまい込もうとする。
 恥ずかしくなるから思い出さないようにしてたのに!
 だってわけがわからないのに、やたら赤面しそうになるんだもの。
 急いで平静を取り戻し、リーケ皇女に言い訳する。

「わわわ、私、あんまりき、気にしたことなかったからっ」

 だめだ動揺が声に駄々漏れた。
 くわーっ! 傍にエドがいるってのに、変な質問で動揺したことを変な風に思われたらどうしようっていうか、ヴィラマインにもアンドリューにもおかしいって思われちゃうよ!
 頭を抱えてうずくまりたくなるが、そんなことをしていては不信感をいや増すだけだ。

「ど、同級生の筋肉量なんて気にするの、ヴィラマインだけでしょ!」

 急いで他の言葉を重ねて、皆の意識を他へ向けるよう努力する。
 リーケ皇女は片眉を上げて「あらそう?」という表情をしながらも、それ以上私をつつくのはやめてくれたようだ。

「まぁ、どうせならばしっかりと守ってくれそうな感じの方がいいのは確かなことよね。そういう意味でしょうヴィラマイン様?」
「え、ええ……」

 ヴィラマインはリーケ皇女にうなずく。でも筋肉話なら大喜びするヴィラマインが、なんでか私をちらちらと見ながら、曖昧な表情をしている。
 ……お願いだから、さっきの動揺っぷりは忘れて……。
 アンドリューやエドの反応なんて、見るのが怖くて視線を向けないようにしてるっていうのに。
 そこに援軍が現れた。
 呆然としていたディナン公子だ。

「ひ……姫をお守りするのなら、何も本人がすべての資質を備えなくても良いのでは?」

 果敢にリーケ皇女とヴィラマインの間に割って入るようにそう言った。

「というと?」
「トゥイスベルクから総領姫をお迎えするのですから、どの国も王や王に継ぐ地位の者を姫の相手に押すはず。けれど王が、騎士ほどの素質を持つ必要も……筋力も必要はないはず。周囲に支える者がいるのですから。実際、お国に打診をしているお相手に、姫のおめがねに叶う方がいるでしょうか?」

 そう言いながら、ディナン公子はちらりとヴィラマインの背後に視線を向ける。
 じりじりと近づいてきていた他の婚約者候補たちは、すぐ傍まで迫っていた。そしてディナンに水を向けられたことをきっかけに、口々に訴え始める。

「ヴィラマイン様、先ほどご挨拶させていただきました、アールスコートのイオネルです。僭越ながらお話を耳にしてしまいまして、ぜひ私もお話に参加させていただきたいと……。ところでやはり剣を持てる者でなければ、姫としては選びたくないということでしょうか」
「先ほどはお話し頂きありがとうございますヴィラマイン殿。何やら体格の良い者が有利というお話を聞いてしまいましたが、どれほどの筋肉量が必要なのでしょう?」

 不安に駆られた男性たちの意見に、ヴィラマインがたじたじになっている。

「ええと、できればと思っておりますけれども……。ただ私の好みの問題で……」
「好みであればなおさら看過できません。私はヴィラマイン様に我が国に来ていただいた後も、心安らかに過ごしていただきたいと思っているのです。なので、どれくらい……鍛えたらご満足いただけますか?」
「私も、私も努力を惜しみませんよ。剣を両手で操れるほどの腕力があればいいでしょうか?」
「岩を持ち上げられるようにいたしますよ! どれくらいの大きさを持つことができたらご満足いただけますか!?」

 だんだん筋トレの会の会合みたいになってきた。
 ヴィラマインが困って私の方に視線を向けてくる。
 彼女としても、婚約者候補に筋肉達磨になることを望んでいる……望みすぎてはいけないことはわかっているだろう。ムキムキになってくれたらそりゃうれしいだろうが。でも無理をしたあげくに選ばれなかったら、その方がヴィラマインも断りにくいに違いない。
 私はすぐにヴィラマインが言い訳できる状況を作ろうとしたのだが、先手を打たれてしまう。ディナン公子だ。

「姫。我々も努力はいたしますが、姫の理想に到達できる者がいるかはわかりません。であれば、姫の好みを完遂できる別な者を擁する者がいれば、姫の専属の護衛として配置できる国であることも考慮にいれていただけませんか?」
「別な者?」

 代理を立てるのかと首をかしげるヴィラマインに、ディナン公子はうなずいた。

「えりすぐりの者をご用意致します。騎士以外の者が良いようでしたら、扉を守る衛士としてでも、毎日のようにご観覧いただけるよう配慮しましょう」
「う……」

 ヴィラマインの身体が小さく左右に揺れる。しまった、今の申し出にすごく心が動きそうになってる。
 毎日理想の筋肉を眺めて暮らせるという状況に、惹かれてしまったのだろう。
 でも耐えて、耐えるのよヴィラマイン。これじゃ返事を引きのばすどころではないんだから。
 と思って、断り文句を考え始めた私だったが、またしても横やりが突き刺さった。

「なら、どちらのお国の方が、一番ヴィラマイン様の理想的な方を連れてこられるのか、選考会でもなさったら?」
「選考会!?」

 ヴィラマインと同じく私も驚く。何を言い出すのだろうリーケ皇女は。

「あら、必要でしょう? だって結婚後も楽しく暮らしたいわよねぇ? なら、より自分に配慮してくださる国へお嫁に行きたいでしょう? なら、みなさんの方でも競っていただいてもいいと思うのよ私」

 うふふと笑うリーケ皇女に賛同したのは、ディナン公子だ。

「確かに。そうして姫に最も魅力的な国を選択していただけるなら、たとえ選に漏れた場合にもこちらも納得できるというものです」

 そう言いながらも自信ありげににやりと笑うディナン公子。なんだか怖いな。そんなに見事な筋肉に当てがあるんですか。
 しかし他の異世界人男性たちもディナンに同意してしまう。
 もう、開催すると決まったも同然だ。

「さて、条件はないかしら? ねぇ沙桐さん。ヴィラマイン様の最も親しい友人であるあなたならば、色々ご存じでしょう?」

 わざわざ話を振られた私は、リーケ皇女が最後に言葉にせず口を動かしたことに気付いてハッとなる。

 ――むずかしいものをかんがえて。

 リーケ皇女は、ヴィラマインが状況を引きのばしたいとわかっていて、こんな提案をしたのだ。
 確かに人を集めるのにも時間がかかるし、品評会ということになれば、この場でする必要はない。あまり長くは待たせられないものの、仕切り直して好きな時期に開催が可能だ。
 けど待って。うっかり長く期間を置いちゃだめだ。
 私は緊張で乾いた唇を引き結んで必死に考える。
 一か月も設けたら、ディナンなどはとんでもなくヴィラマインにとって理想的な筋肉自慢を探しあててしまうかもしれない。そのあげくに断るのは至難の技だろう。
 条件を狭めて、決して誰も勝たないようにする。
 その方法は……。

「ヴィ、ヴィラマインはあまり年上の方とかの筋肉ではだめなんです。できれば同年代の方を」

 年齢をまず区切る。これで選択の幅と同時に、手を広げられる幅も狭まった。
 ねっと促せば、ヴィラマインもこくこくとうなずいた。
 そんなわけでヴィラマインは、同年代の筋肉自慢な人が大好きなことになりました。

「開催期日は今度の木曜日で」
「えっ! 短すぎではないかね!?」

 抗議の声が上がるのも無理はない。たった6日しかないのだ。
 ヴィラマインが期限として欲しい一週間よりは短いが、これで本国から連れてくるつもりだった彼らに制限がかかることになる。急いで本国に通達後、手近な騎士や兵士の中から即選び出して送るのが精いっぱいのはずだ。
 そうなれば、ヴィラマインの『おめがねに叶わない』人ばかりが集まる可能性が高まる。それこそが私の目的だ。

「ヴィラマインの予定の問題です。ね?」
「ええ、他は沙桐さんやリーケ様方との予定が詰まっておりますの」

 話を振れば、ヴィラマインも今度は落ち着いて応じてくれた。

「私も、既に決まっておりました予定を動かしたくありませんもの。なので、開催日は決まりですわね。開場は皆さん同じ学校に通っているのですもの。学校内に場所を設けてもらうように私がお願いしておきますわ」

 私の出した条件で、リーケ皇女としても満足できたようだ。楽し気に話を進めてしまう。
 女の子同士の、しかも他国の王女たちとの予定とあれば、ディナン公子たちもそれ以上変更を申し出ることはできなかったようだ。渋々うなずいている。
 するとリーケ皇女が付け加える。

「それにしても、婚約を巡っての競争というだけでは殺伐としますわね。だから他の方にも選考会に参加してもらいたいと思いますの」
「選ばれなかったとしても、我々は非礼なことなどしないが……」

 殺伐とするという話に、ディナン公子が不服そうな表情をする。
 リーケ皇女は「そういうことではありませんわ」と言って微笑む。

「私、沙桐さんにもぜひ品評会に参加していただいて、ヴィラマイン様の理想を知り尽くした上で選んだ方を基準に、他の候補者を選考したいのですわ」
「は!?」

 私は一体何を言い出すのかと、リーケ皇女を見る。が、彼女は笑みを絶やさず婚約者候補たちに畳みかけていた。

「ヴィラマイン様の好みでとなるとはた目には分かりにくいでしょうから。その方が、勝ち負けがわかりやすくていいのではないかと思いますのよ?」

 そして、リーケ皇女の意見は婚約者候補たちに受け入れられてしまった。


 開催日は翌週の木曜。
 選考会に出せる人数は3人まで。
 そして私まで、筋肉を集めなくてはならなくなったのだった。
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