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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第一部 ガーランド転生騒動

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「ねー小幡ちゃん、火ちょうだい」
「はいよー」

 ねだられてシュワシュワと音を立てて火花を散らす手元の花火を差し出すと、朝井さんが自分の花火に点火し、楽しそうに花火を少し持ち上げる。

「うふふ、光の滝みたいー」
「いやー夏じゃないけど花火いいよね」

 日下部さんは線香花火を落とさずに長く燃やすのが楽しいらしく、身じろぎ一つせずにしゃがんで一点を見つめていた。

「山の奥地で何もないところだからつまらないかと思ったけど、こういう事してくれるならいいわー……あ、終わった」

 日下部さんの花火が終わったようだ。
 新しい花火を先生に貰いに行く彼女に、ヴィラマインもついていく。私も花火は終わったのだが、ここからはかねてからの計画を実行することにした。

「朝井さん笑ってー」

 パシャリと撮影。携帯のカメラではあるが、髪を二つ結びにした朝井さんが綺麗に撮れた。
 次に私は他の知り合いを探しに行く。

「リーケ様、写真とらせてー」
「宜しくてよ」

 快くうなずいたリーケ様は、渋く他の人と一緒に線香花火を垂らして円陣を組んでいるところを撮影。ついでにリーケ皇女とのツーショットも撮影した。
 エンマ様を探せば、なぜかねずみ花火を踏んづけようと格闘しているところを見つけたので、勝手に写しておく。後で保存不可かどうかを聞こう。

 アンドリューは実に標準的な花火で遊んでいたし、エドは花火で遊びもせずに木の上にいたところを、アンドリューに呼ばれていた。

「何してるんだい?」
「上空から、師匠の周辺を監視しておりました」

 監視されてたのか私……。

「や、あんたも一本ぐらいは花火したら? どうせ国に帰ったらこんなことしてらんないんでしょ?」

 思わず私はそう声をかけた。
 なにせエドは勤労少年だ。……年齢からすると少年でいいはずだが、ちょっと青年と言いたい老け顔ではあるが。
 とにかく帰ったら仕事があって、同年代の人間と集まって、ぼんやり花火をすることもできまいと思ったわけだ。

「ほら、沙桐さんもこう言ってることだし。一本あげるよ」
「左様でございますか? では殿下のご命令とあらば、この一本が燃え尽きるまで見守るとしましょう」
「いや普通に遊びなよエド」

 命令に従って花火を手にとったものの、さして楽しそうにもしないエドに私はあきれる。まさかと思うけど、この人って子供の頃に普通に遊んだことないのかな。それとも学校にいる間や行事中は完全に仕事スイッチが入ってて、全てを遊びではないと認定しているのか。
 やれやれと思って見ていた私に、一人の女の子が声をかけてきた。

「あの、小幡さん?」

 振り返ると、おかっぱ頭の女の子がいた。顔に見覚えがある。笹原さんのお友達だ。

「ごめんなさい、柚希が小幡さんを呼んで欲しいって言うの」
「笹原さんが?」

 そういえば笹原さんを見かけなかった。なので彼女がどこにいるのかと尋ねると、お友達は笹原さんが休憩室に居ると答えた。
 ヴィラマインの慕う按司先生のお部屋の隣にある、保健室代わりの部屋だ。
 建物の中で彼女も一緒に行くというので、エドに居場所だけを話して私は休憩室に向かう。

 宿泊所の中に戻り、廊下を歩いて階段を上る。そうして築年数が経ってそうな金属枠に木目調の扉を開けると、畳の上に敷かれた布団はあったが、笹原さんはいない。

「柚希? いないの?」

 笹原さんの友達の呼びかける声が、だんだんとうわずっていく。

「いない! どうして?」

 部屋には洗面所なども備え付けられていたが、そこにも人の姿はない。

「元気になって出たとか……?」

 とりあえず携帯を鳴らしてみることにした。けれども応答がないので、笹原さんが泊まる部屋へ探しに行ったものの、そこにも居なかった。
 皆、お行儀良く花火に参加しているので、体調不良の人しか部屋にいる者はいない。静まりかえった廊下で、笹原さんの友達は困惑していた。

「なんで何も言わずに……」
「とりあえず探そう。私、建物の中探すね? 手分けしよう」

 私の言葉に笹原さんの友達もうなずいて廊下を走り始める。それを見送った私はアンドリューに連絡した。そっちで笹原さんを見かけたら、教えてもらおうと思ったのだ。
 電話を終えた頃、エドが私を捜しにやってきたので、エドにも笹原さん捜索をお願いする。
 するとエドが渋い表情になった。

「五組の不埒者を疑ってはどうですか?」
「キースは風邪で男子用の休憩室にいるって」

 私も最初にキースを疑ったのだ。笹原さんに何か異変があれば、キースのせいだと思っていたので。
 そこで万が一のためにエド交流会に来ていた子に行方を聞いたら、キースは風邪で男子用休憩室にいるとのこと。山登りの時にぴっちりとジャージを着込んでいたのはそのせいだったようだ。

「とりあえず館内探してもらえる? 笹原さんも体調が良くないらしいから、それほど遠出してないだろうし」
「了解しました師匠」

 そう言うと、風のようにエドはその場から走って消える。
 なんかその後ろ姿が天井走ったりしてるように見えたけど、気にしない気にしない。異世界人だからね。
 そうして歩き回った私は、花火会場まで戻ってきたところで、キースの取り巻きから変な事を聞いた。

「笹原さん? さっき誰かとそこの出入り口にいるのを見かけたけど」

 指さした方向にあるのは、宿泊施設の庭を囲む柵の出入り口だ。柵と同じ鉄製で、かしゃんと掛け金をコの字型の受け部に引っかけて閉じるだけの簡単な構造のものだ。
 建物の中にもいない。そして出入り口にいたとなれば、外へ出たのか。一緒に居たのは誰なのか。

 私はそのまま追いかけることにした。
 体調不良ならば、そう遠くへ行くわけもないと思ってのことだった。
 踏み固められた小道を、私は虫に刺されないようにきっちりとジャージの上を着込んで進む。やがて道は下ったり、登ったりするようになった。

 宿泊施設はやや平らな場所に建てられているが、そもそもここは山だ。均されていない地面は細かな勾配があって歩きにくい。
 けれど道はそう長くはなかった。館内と同じくらい歩き回ったかと思った頃に、川の流れる音と人の話し声が聞こえる。きっと笹原さんだろう。そう思った私は近づいていく。

「笹原さ……」

 ようやく姿が見える場所に来た時、私はそのまま足を止めてしまった。
 地面に座り込んだ笹原さんの背を支えているのは、キースだ。笹原さんはぼんやりとした表情で、キースを見上げている。

「おにい、さま」

 そう呟く笹原さんへのキースの言葉は、意外なものだった。

「もう私は君の兄じゃない。目を閉じて、違うと念じるんだ」

 今まであれほど彼女が妹であることに執着していたのに、どうしてそんな言葉をかけているのか。私は予想外すぎて、言葉をかけるのをためらってしまった。
 一方の笹原さんは、どこか壊れたように兄と呼び続けている。

「おにい、さま……おにいさ、ま」
「ちっ」

 一方、そんな笹原さんの額に手を当て、違うと言い聞かせていたキースが舌打ちした。

「くそっ、なんで術が解けん」
「は? 術?」

 なんだそれと思った瞬間、私は突っ込みを入れてしまっていた。
 けっこう大きな声だったそれは、周囲にやけにこだまする。
 あ、反響の原因がわかった。キース達の背中の向こう、結構深い渓谷になってるからだ。人口の明かりがなく、月明かりがまんべんなく照らしているからこそ、それがうっすらと見えた。
 そして私の声に気づいたキースが、こちらを振り向く姿も。

「君か……小幡沙桐」

 そう告げたキースの声は静かで、だからこそ不審な行動をしているというのに、私は止めることもできずに呆然と見つめてしまう。
 するとキースが小さく笑った。

「どうも君とはとことん相性が悪いらしいな。君はまるで私のすることを、ことごとく邪魔するために生まれてきたような人だよ」

 勝手に私の存在理由を、自分中心に考えないでほしい。そう思いながら私は言った。 

「……私に邪魔されるようなことをしてたの?」

 キースからちらりとのぞいた敵意に、私は我に返ったのだ。
 今までと正反対のことを笹原さんに言い聞かせようとしていたから驚いたけれど、この人は笹原さんを連れ出し、こんな人気のないところで何かをしようとしていたのだ。十分妖しい。
 警戒を強めてキースを見る。しかしキースは首を横に振った。

「いいや、君にとっては良いことかもしれないな。これが成功したら、笹原柚希の中からフェリシア・クレイトンの記憶は消えるのだから」
「え?」

 記憶が消える?

「なんで、笹原さんが記憶を持っているとか、知って……」

 笹原さんも私たちも、決してキースにそのことは言っていないはずなのに。なぜ記憶を持っていると知っていたのか。
 するとキースがなんでもないことのように言った。

「やはり知っていたんだな? これだけ私と彼女の問題に深入りした上、笹原君の信頼を得ている様子から、君ならば事情を聞いているのだろうとは思っていた。彼女の中にフェリシア・クレイトンの記憶があることをな」

 私は大いに戸惑って黙り込んだ。
 どうしてキースはこんなことを聞くのか、どうして今になって笹原さんに否定の言葉を告げているのか。術とは何なのか。

 疑問と、今も大人しくキースの腕で背中を支えられて座っている笹原さんがこちらを一向に見ないこと。それらが組み合わさって私の中で一つの答えをはじき出す。
 けれど、私の理性が否定する。

 ――ありえない。あっちゃいけない。
 同時にまた揺れるのだ。
 ――でも、異世界人なら……。

 しかしキースの方は、それほど私の返事を欲していたわけではないようだ。

「なぜ私がそれを知っていると思う?」

 くくっと、喉の奥でこもるような笑い声を立てる。
 そうして彼が告げた言葉に、私は奥歯をかみしめるしかなかった。

「……その記憶を植え付けたのは、私だからだよ」
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