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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第一部 ガーランド転生騒動

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 計画開始の予定時刻は、午後3時45分。

 なんでこんなHR直後なんだ。もっと時間をとれと言えば、笹原さんがすぐ帰ってしまうからだとキースが返してきた。
 今週の笹原さんは掃除当番でもないので、光の速さでご帰宅予定なのだ。

 うぬぅ、と私は呻くしかない。
 キースに関わらないよう、すぐさま帰宅すべしと指示したのは自分だ。
 過去の自分が恨めしいけれど、今更それをキースには知られたくない。なので件の二人に、メールで指示をした。

《今日の帰宅は3時50分より開始で。キースと私が近くをちょろつくので、玄関前にてアンドリューと笹原さんは待ち合わせの後、笹原さんの乗る電車の駅まで二人で歩いて下さい》

 その後、キースがしつこく電車に乗る笹原さんを追いかけようとしたときには、電話を鳴らして合図するので、アンドリューが笹原さんを車に乗せて連れて行ってほしい旨も付け加える。
 エドにはキースが暴走したときに笹原さんを救い出すよう指示し、私のさらに後方から追いかけてきてもらうことにする。
 ここまで準備しておけば万全だろう。

 うん、とうなずきながら、私は先を行く笹原さん達を追いかけるように学校の玄関を出発した。
 キースとは校門を出たところで合流だ。
 双方共に、同じクラスの人間に目撃される可能性が高すぎる場所で、一緒に歩くのを避けたかったからなのだが。

「……ぎゃっ!」

 するりと伸ばされた手に、手を握られる。
 思わず手を振って離そうとしたら、よけいに強く握られる。

「ちょっと何すんのよ!」
「最初に頼んだだろう『手をつないで歩く』と。一緒に歩いてくれるんだろう? それに我が妹に恋人同士かもしれないと錯覚させるためには、手を取り合うぐらいしなければな」

 今や笹原さんを完全に妹呼びしているキースは、そう言って話してくれない。
 確かに一緒に歩くとは言った。こちらにも利点がありそうなので、キースに協力するとは約束した。
 しかしだ。

(すっっごく気味悪い!)

 私とて女に生まれて十数年。お姫様と王子様がハッピーエンドを迎える絵本をいくつも読んできた者として、かっこいい男子と手を繋いで歩いてみたいとか、そういう願望はあった。
 でも今ならはっきりと言える。

(顔が良くても変態とは嫌ぁああっ!)

 行動が薄気味悪い。ついでに握られてる手の感触も薄気味悪い。このまま邪魔者としてどこかに放り投げられるんじゃないかと、片手を拘束されていることに警戒してしまう。
 だって変態だ。何をするか分からない。
 意に反したことをしたとたん、手を握って逃げられない状態で、脅すためだけに握りつぶされるフルーツ牛乳の末路を見せつけられるかもしれないのだ。
 しかも相手は異世界人で騎士もやってた相手だ。

 こんなことなら、協力するなどと言わなければ良かった。
 後悔しながらも、学校前の道をてくてくと歩き続ける。
 こちらは渋面なのに、キースがなぜだか優しげな微笑みを絶やさない所もぞっとした。
 何を企んでいるんだ……。

 先を行く笹原さんは、ちらりとこちらを見ては不安そうな表情をしている。私のことを心配してくれているのだろう。大丈夫だとうなずいてみせる。
 そこでアンドリューとも目が合った。

 ……なんだろう。笑ってるのに、冷たい空気が漂ってくる気がする。
 しかもその目が「ちょっと自分の状況わかってんのか?」と言ってるような気がする。
 解せぬ。充分理解してるつもりなのだが。

「ふ、期待通りだ」

 キースは満足げだ。口の両端が上がっている。
 笹原さんが不安そうにしていることが嬉しいのだろう。サドっ気がひどいなぁ。

 嘆息していると、角を曲がったところで手を離したかと思うと肩を掴まれ、キースの右側に移された。
 首をかしげる私に、キースが呆れたように言う。

「危険な場所を、女性に歩かせるわけがないだろう」

 その言葉に私は「ほー」と感心する。
 ガーランドのレディーファーストは徹底しているらしい。しかも庇う位置につくということは、あれか。レディーファーストの発祥がこちらの世界とは違うのかもしれない。

(さすが魔物が実在する世界。純粋に弱い存在を守るための風習なのかもしれないわね)

 こちらの世界のレディーファーストは、権力者や男達が自分の身を守る生贄代わりに、女性達を使ったのが発祥だと聞く。それが紆余曲折あって、今の女性に優しくしようという代物になったらしい。

 しかし異世界は違うのだろう。
 騎士達は驚くべき跳躍力や膂力を持っている。でなければ、ゴジラやモスラみたいな代物とは戦っていられない。
 実際にゴジラそのものが異世界にるわけではないが、写真や映像で見たことがある魔物というのが、ゴジラ的トカゲの発展系と巨大昆虫だったで、ついその二つを連想するのだ。
 翻って、そういう資質を持たない人は、本当に私たちとさして変わらない身体能力しかそなえていない。
 だから弱い者を庇う風習が発展したのだと考えると、実に自然だ。

 しかしキースの手が、なかなか肩から離れない。
 異性と手を握るくらいなら小中学生でもなんどかすることだが、肩を抱く態勢というのは、女子同士でもそうそうするものではない。
 アンドリューならドキドキできるだろうが、相手はキースだ。
 近づきすぎると、手を握るよりさらに無気味さを感じた。まるでお化け屋敷に踏み込んだように、居心地が悪い。

「ちょっ、そろそろ離してくんない?」
「人にぶつかったら危ないだろう?」

 そう言って人が良さそうな笑みを見せるが、こっちは演技だってわかってんだぞ。
 しかし笹原さんの動揺がひどくなる。振り返る回数が増え、顔色も青白くなっていくのだ。
 私はほぞを噛む。キースの動揺させる作戦としては有効だったようだ。

 するとなぜか、アンドリューが笹原さんの手を引いて、オープンカフェに入ってしまった。
 どうしたアンドリュー。喉が渇いたのか?

 さっと笹原さんをエスコートして席に着いたアンドリューは、どこかへ向かって何か指を振ったり曲げたりしている。
 何の合図だろうと思いながら「これは好機だ」というキースと共に同じカフェで席ついた私だったが、唐突に椅子を引きずってやってきて、隣に座ったエドに驚く。

「え?」
「殿下の指示です」

 無表情でそう言ったエドは、唖然とするキースにもかまわず、さっさとメニュー表を手にする。

「き……君、無粋なことをしないでもらえないか?」

 動揺しながらもキースが抗議しても、

「殿下のご指示が最優先ですので。支払いは自分でしますので、ご迷惑はおかけしません」

 梨のつぶての対応をする。
 いや……たぶんそういう意味じゃないよエド……と思うが、正直夏にもなっていないのに、妙な恐怖体験をするのはゴメンだった私は、防波堤になるエドの存在を歓迎した。

「一杯ならおごってあげるよエド」
「恐縮です。ではこのカフェラテとティラミスを……」
「え、ケーキも食べるの? もうお腹空いたんだ。そっちはさすがにおごれないわー。お小遣いがちょっとね」
「元々自腹を切るつもりでしたので、お気遣いなく、師匠」
「あ、私こっちのオレンジアイスティーにしようかなぁ」

 早速メニューの相談を始めたところで、苛ついた表情のキースが割って入ってくる。

「おい小幡沙桐、お前の分は俺がおごってやる!」
「あそう? じゃあエドはこっちのケーキ食べても良いよ」
「有り難き幸せにございます」
「でも一口だけちょーだいよ」
「承知致しました」

 ケーキのシェアについて話していると、今度はキースが髪をかきむしっている……禿げるよ?

 一方の笹原さんはほっとした表情で、こちらも一つのケーキをアンドリューとシェアしていた。

「太りそうなので、私も一口で……」

 そんな彼女が頼んだのはフルーツが添えられたオレンジのシフォンケーキだ。本当にカロリーを心配しているのだろう。

「そんなに太ってないでしょう。それ以上、君に綺麗になられると困るな」

 しかしうっとりするような笑みとともにアンドリューに囁かれると、笹原さんは真っ赤な顔をして「ではもう一口……」とフォークを動かす。
 別な対象を視界に入れる作戦は、上手くいきそうな感じだ。

 よしよしと思いながらチーズケーキの端を頂いて、皿ごとエドに回す。エドは体育会系らしい豪快さで、残りを一口で食べてしまった。
 なかなか爽快な食べっぷりだ。しかも口を拭う必要もないほど、綺麗に平らげている。

「そんな風にケーキを節制しなくても、少し太った方が君は綺麗だよ」

 横からキースがそう言ってくるが、君の趣味など関係ないんだよね。

「私基準で、これ以上自分が太るのはアウトなの」
「そ……そうか」

 ばっさりと切り捨てると、キースは戸惑ったように引く。
 女心が分かってないなぁ。太っていいって言われてもうれしくないよ?
 気がある相手に、そのままでも綺麗だと言われたら騙されるかもしれないが、ご遠慮願いたい相手に言われても、さして効果はないのに。
 てか、容姿に特別見るべき物がない自分としては、せめて痩せ型ぐらいは維持しておきたい。なけなしの女の矜持というやつである。

 きっと美しいオディール王女とかばかり相手にしていたから、褒めるところが少ない平凡女へのお世辞は苦手なのだろう。

「し、しかしそんな事を言わずにほら、あーん」

 しかしめげずにキースは、自分が頼んでいたショートケーキを一片フォークに刺して、向かい側にいる私に差し出してくる。
 私は無言で手を伸ばし、その手首にそっと手を沿えたところで微笑んでみせた。
 かかった、と笑みを見せるキース。

 油断した隙を突いて、私はキースの手首を掴んでキースの口にフォークの先を突っ込んだ。

「うぼっ!」
「手を繋げとはいわれたけど、恋人ごっこまでは了承してないってば。でもそれじゃ悪いから、代わりにあーんしてあげたんだけど?」

 突然食べ物を口に突っ込まれてむせたキースにそう言って笑いかけると、彼は非常に困惑した表情になる。

「これは……お前が私に食べさせたことになるのか?」
「そうそう。わりとこっちの世界では、このやり方が標準」

 知らないのを良いことにしれっと告げると、キースが納得したようにうなずく。
 ふ、騙されてくれてよかった。
 さすがにこの人から「あーん」なんて真似をされたら、家に帰った後で絶叫して頭を壁に打ち付けかねない。

 一息ついてちらりと横を見た私は、笹原さんにメールを送りたくなった。

 顔に『騙されてるよキース君!』って書いてありそうな、焦った表情しちゃってる。ダメだよ笹原さん。

 しかしそつのないアンドリューが、上手く笹原さんを自分の方に向け、席を立った。
 アンドリューも既にケーキは間食していた。どうもルーヴェステインの人間は早食いが得意らしい。
長くなってしまったので、途中まで。
続きは明日お待ちくださいませ。
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