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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第一部 ガーランド転生騒動

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 なごやかなお茶会は、二時間ほどで終わりを迎えた。
 お姫様達は楽しげに微笑んでいるが、私は気もそぞろだ。

 せっかく場をセッティングしてもらったのに、なかなかオディール王女を誘い出す隙が見つけられない。このままでは姫様方の好意を無にしてしまう!
 お迎えの車に乗り込む前に、どさくさに紛れて申し込こもうと決意した。

 私は会計を、という流れになった瞬間にいざ、と席を立つ。
 それからヴィラマインに『突撃してくる』と示すために、小さく手を振った。ヴィラマインの笑顔を背に、いよいよ私は目標に接近する。
 他の姫達も立ち上がって移動を始める中、私は思いきってオディール王女に声をかけようとした。

「あの、オ……」

 その時オディール王女が振り返って言う。

「そうですわ沙桐さん、こちらの世界のことについて教えていただきたいことがあるの、この後お時間はありますか?」

 実に優しくお誘いをして下さった。目を細めて微笑むその顔から、事情を察していることが伺える。
 これは……きっとリーケ皇女が、あらかじめ私が彼女と話をしたがっていたことを教えてくれていたのだろう。かたじけないことだ。

「よ、喜んで!」

 返事をして、まずは会計を済ませる。
 自分の分を払い終えた私に、リーケ皇女がこそりと耳打ちしてきた。

「……先日お話していらっしゃったゲームをお貸し下さいな」

 どうやらそれが、今回の配慮に対する対価ということらしい。
 それは分かったのだが……

「え、ゲーム機持ってるんですか?」

 確かにこの間のお茶会で、ゲームの話はした。
 異世界では電気を使うとある種の魔物を引き寄せるとかで、あまり利用できず、そういった娯楽はあちらの世界にないことも聞いた。
 そしてリーケ皇女がかなり熱心に話に参加していたのも覚えている。
 とはいえ、国に帰れば煌びやかな宝石を散らしたドレスを着て生活していた皇女殿下が、よもやゲームをおたしなみになっていらっしゃるとは。

「戦術シミュレーションものばかりで、飽きてたんですの」

 ふふふと綺麗な笑みを見せ、リーケ皇女が自分の車へ乗り込んでいく。

 一体誰だ……戦術シミュレーションなんて色気のないものをお姫様に勧めた人は。
 リーケ皇女に関しては、また謎が一つ深まった気がする。

 私はオディール王女に誘われ、私は車に乗せてもらって別な場所へ行くことになった。
 ルーヴェステイン組の車と違って、内装も外装も明るいアイボリー色だ。王女の車らしい感じである。

 到着したのは、閑散とした河川敷の公園だ。
 岩が多く幅広い川の両岸は、大樹が多くて森の中に迷い込んだような錯覚を起こす。花壇もなく、どちらかというと『自然な風景』をなるべく保つような形の場所だ。
 まぁ、離れた場所にコンクリートの橋も見え、走っている車の姿も識別できるけど。

 私を案内してきたオディール王女は、辺りを見回して言った。

「ここ、生まれ故郷に風景が少し似てるんです」
「故郷は川の側なんですか?」
「今でこそ王女としてきちんとした待遇を得ておりますけれど、私は庶出の娘で。王位継承の関係で必要になるまでは、王都郊外の川の傍にある土地で暮らしていたんです。ずっとそこで生きていくのだと思っていたのですけれど……」

 オディール王女が一歩前に出る。
 風が彼女の美しい黒髪をさらりと揺らした。私には、それは彼女が背負った責任を現す外套のように見えた。

「兄達が亡くなり、王都に呼び戻された私はなかなか故郷に帰れなくなりました。安らぎなど後回し。世継ぎの王女として必要な礼儀作法と儀典の知識を学ばせること、そして未来の夫を捜すように迫られて」

 だから、と彼女は続けた。

「今こうして違う世界へ来たというのに、故郷と似た景色に浸ることができる今がとても幸せですわ」

 微笑むオディール王女。
 聞きながら、私はなぜ彼女がここへ自分を連れてきたのだろうと考えていた。
 彼女の故郷とは、笹原さんの話によれば王や貴族の避暑地だろう。そして川というのは、フェリシアが亡くなった場所でもある。
 どちらも、今はそれほど心安らぐ場所ではないはずだ。

 けれどそれをストレートに尋ねるのはためらわれる。オディール王女を殺しかけたフェリシアのことを彼女が恨んでいる、という場合もありえるからだ。
 とは言っても、キースについて知りたい情報を得るためには、良いきっかけになる話題だ。私はフェリシアの死後のことが知りたいのだから。

「でも川って荒れたりすると怖いですよね。溺れるかもしれないから、浅そうに見えても気をつけるようにと、小さい頃から親には注意されてました」

 ハッとしたようにこちらを見るオディール王女。きっと私が何を言おうとしているのか気づいたのだろう。だから私は続けた。

「オディールさんと同じ国からきているキースさん、彼の妹さんが、川で亡くなったと聞きました」

 まっすぐにオディール王女を見返しながら、内心では鼓動が鼓膜を震わせるほどに緊張していた。

 だって、キースはこちらに教えてはいないのだ。妹が川で亡くなったのだ、などということは。
 後で上手く口止めをしておかなければならないが、手っ取り早くフェリシアの話につなぐには、これしか思いつけなかったのである。
 やがてオディール王女は、目を伏せてうなずいた。

「リーケ皇女が教えて下さったところによると、貴方とそのお友達に、キースが迷惑をかけているようね。ごめんなさいね、私からも注意しておくわ」

 私は首を横に振る。

「オディールさんの責任ではありません。ただ、どうしてキースさんが亡くなった妹さんの代わりを探そうとするのか、とは思っています。私のお友達が、キースさんから『妹に似ている』と執着されるようなので……教えていただけませんか?」

 オディール王女はうなずいてくれた。
「たぶん……私が悪かったのだから」と。

 川に落ちてオディール王女が助かった後。
 唯一の王位継承者であるオディール王女を危険にさらしかけたとして、キースの家は存続の危機にあった。
 けれどオディールが女王として立つためには、後ろめたさを持たせて、決してオディールに逆らわない臣下がいてもいいと考えたようだ。そのため、彼女が事故に巻き込まれたことは伏せられ、フェリシアは一人で自殺したことになった。
 しかしキースは秘密裏に婚約者候補から外された。
 オディールもそれには同意した。

「フェリシアさんの言葉を聞いて……私は、別な願いを持ってしまったのです」
「願い?」

 オディールがうなずく。

「あの国では、小さい頃から『女の子の幸せは、立派な男性と結婚して彼に従って生きること』と言われます。私もそういうものだと思って生きてきました。けど、女王という立場が持ち上がってから、違和感はあったのです。王であっても何もせず、緊急時だけは代理となって玉璽を押すけれど……素晴らしい思い付きがあっても、臣下を立てるためには口を閉ざすようにと、政治の先生にも教えられるのです」

 国民を守るよりも、出過ぎないことが重要。せいぜい女王が率先してできるのは、貧しい子供や女性達の慰問ぐらい。

「でも王女として慰問を行えば行うほど、何もしてはいけない自分が嫌になって。その時にあの事件でフェリシアさんの気持ちを聞いて……私は傷ついた彼女を自分こそが守りたい、と思ったんです」

 自分を守ってくれる凛々しい騎士が欲しいのではない。オディール自身がなりたいのだという願いを自覚したのだ。

(それで、想像と印象が違ったんだ……)

 ようやく私は察した。
 お淑やかで逆らわない女性が好きなはずだったキースの恋の相手ならば、オディール王女のような人ではないのに、と思った原因が。
 彼女には慣習を変えてでもやり遂げたい理想があるのだ。それを自覚したからこそ、オディール王女は変わってしまったのだろう。

 そして私は、オディール王女がどう思っているのか、を想像しきれていなかったことに気付いた。
 彼女はフェリシアと川に落ちて怖いとか、嫌だったとか、そんな気持ちを感じただけで立ち止まるような人ではなかった。真実、王族の責任というものを背負う気持ちがある人だったのだろう。それが自分の統治する国民の一人であるフェリシアの行動によって開花してしまったのだ。

(でもそうしたら、今の王女様ってキースの理想と違ってるんじゃない?)

 はたしてキースは今のオディール王女に、まだ恋心を持っているのだろうか。
 好みじゃないとしたら、いまだに妹のフェリシアに恨みを持っているから、似た相手を探しているとは思いにくい。
 それとも、やり場のない気持ちを亡きフェリシアにぶつけることで、八つ当たりしているのか。

 首をひねりながらも、オディール王女の話の続きを聞く。

「折よく、父上も他国の女王陛下と会う機会があって、女王自身が権力をふるうという体制に気持ちが傾いたようなのです。
 ガーランドでは、女王が摂政である夫に離宮へ幽閉される可能性もありますし、愛人を作られても非難できない国です。幸いなことに私のことを可愛がってくれている父上は、このまま私が女王になった後のことを危惧して、あまりに女性の立場が弱すぎる現状を憂えるようになっていました」

 そこでオディールの父は、他国から婿を迎えることを検討し始めた。それならば他国人の夫を摂政とするよりも、女王が親政をする方が良いという意見を引き出しやすいと考えたようだ。
 その準備の間、オディールを異世界へ留学させることにしたのだという。

 そこにキースが加わったのは、王の要請にうなずかざるを得ない立場の彼にも、新しい女王を国王と同様に敬う素地を作るためだ。
 キースの父親は、家が傾くことにもなりかねなかったのに、表沙汰にしなかったことだけで感謝し、全て受け入れたらしいが、キースはそうではなかった。

「私が、フェリシアに殺されかけたからキースを嫌って婚約を破棄したのだと思い込んでいるのです」

 キースは何度もオディールに許してほしいと言いに来たそうだ。けれどこれは父王とオディールが合意した結果だ。

 がんとはねのけられたせいなのか、一時キースは引きこもったという。
 風のうわさでは、フェリシアの墓を暴いたとかいうものまで漂って来た。なのでオディールの親政を円滑に進める防波堤としたい彼に悪い評判が立ってはと、異世界への手続きに同行させて国から離すことにしたようだ。

「今はもう、彼も婚約については何も言わなくなりました。留学してからは、本当に臣下らしい対応をとっていて、私には特に問題を起こしていないのですけれど……」

 一連の話を聞いて、私は思わず眉間に力が入ってしまう。

「墓を、暴く……?」

 あのフルーツ牛乳強盗に似合わない所業だ。そうまで妹を憎んでいたのか、執着していたのか。

「あの、キースさんは……妹に、以前は愛情を持っていたのでしょうか」

 私の問いに、オディール王女は答えてくれる。

「彼が夫候補となる前、何度か妹のことは話していましたわ。私に許してくれと言いに来た時も、どうして妹は、自分の気持ちをわかってくれなかったのか、という言葉は聞きましたが……」
「……執着、なのかな」

 小さくつぶやいてしまう。
 何か考えがあってのことではないかと疑いつつ、その理由が一番強いだろうと私も結論づけた。

 だが、それにしてはなんだかよくわからない行動をとっているようにも思うのだ。なぜフェリシアとは外見が似ても似つかないだろう笹原さんをターゲットにしたのだろうか。性格もよく知らないはずだったというのに。
 わからないが、もうだいぶん長い時間話してしまった。
 それにフェリシアの死後の話が聞けたのは良かった。キースが錯乱したのは間違いないのだろうし、執着であることは確実になったのだから、方針的は立てやすい。

「今日はお時間を取ってくださってありがとうございます、オディール王女。あと、変に印象付けてしまうのが怖いので、今日お話したことや私の友達のことなど、できればキースさんには内緒に……」

 最後に口止めをしなければと頭を下げると、オディール王女が苦笑いした。

「私も、水面下の内情をお話ししましたもの。キースにもまだそれを知らせるのは避けたいのです。どうぞお互い、内密、ということにしてくださいませね」

 オディール王女の申し出に、私は「もちろんですとも!」とうなずいたのだった。
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