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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第一部 ガーランド転生騒動

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「作戦失敗……か」

 放課後、私は机の上に肘をついて手を組み、そこに額をくっつけて唸っていた。
 作戦失敗後、迷惑をかけたと平謝りしてきた笹原さんを宥め、昼休みの終わり頃にお友達に迎えに来て貰って教室に帰した。

 その時に、彼女にはみんなの追及とキースを躱すための秘策を一つ渡した。
「エドよ。エドで釣って!」と。

 あの場にいた女子達は、皆エドに興味津々だった。まだ時間が経っていない今だからこそ、それを釣り餌にして、笹原さんにキースを近づけないようにするつもりだった。

「とにかく『主のために戦うことが彼の望みで、恋愛に疎くて今付き合ってる人はいない』これを主張しておけば大丈夫!」

 私の嘘八百なエドの売り文句を携えて戻った笹原さんは、案の定エドのことを聞きたがって集まった女子に、そのまま話したようだ。

 ……その撒き餌には、大量の女子がかかったらしい。

 あんな風にされてみたい、という女子が大半で、エドと話すにはどうしたらいいかと頼んでくる人もいたようだ。
 なので私にメールで「エドさんに誰かと会って貰うことってできますか」と尋ねてきた笹原さんに、エド派遣を了解した。

 だが出荷前にエドにはいろいろと言い聞かせねばなるまい。
 女の子の前で怖い顔をするなとか、優しい言葉遣いにしろとか。
 それに女子とふれあうことは、同級生女子を全て男同士のように雑に扱って良いと考えているエドに、女子にはどう接するべきかを教えてくれるはずだ。きっとお互いの為になるだろう。

 ――決して後付けの理由じゃないよ?

 以上の理由から、エド派遣は三日後がいいと言って、時間をもらっている。
 その間は、女の子達のエドに関する興味を引き続けられるし、おかげで笹原さんは女子に囲まれ、キースは近づきにくくなるからだ。
 キースファンの女の子達も、取られたくないからと、笹原さんにキースを近づけないようガードが固くなったらしい。いい仕事をしてくれるなぁ。
 その間に、私は次なる策を打つのだ。

「でもなぁ……私、別に策謀が得意なタイプじゃないんだけど」

 穏やかに、楽しい妄想だけして暮らしたい……。
 ため息をつきそうになるが、笹原さんに協力すると決めたのは自分だ。諦めて、キースについて再度検討することにする。

「キースはサドっ気があり……か」

 しかしこれも違和感がある。

「だって、異母妹とはいえ血の繋がった家族で、笹原さんが慕ってたってことはそこそこ仲良くしてたんだろうし。優しいと言ってたからには、いじめたりしてなかったと思うんだけど」

 なのに、妹を懐かしんで笹原さんに『妹に似てる』と言ったはずのキースは、彼女に『怯える姿も妹みたいだ』と言い出したのだ。
 怯える妹の姿を見て微笑む兄とか、どんな兄妹だ。
 それに笹原さんの手帳を読む限り、キースの前であんな怯え方をするとしたら、フェリシアがキースから見放された一件の時しかないように思うのだ。
 それを思いついた私は、早速に笹原さんに問い合わせのメールを送った。

《確かに、フェリシアはキースに怒られると、よく怯えて泣きそうになってたと思います》

「えーっと」

 笹原さんの返信に、私は数秒戸惑う。
 てことは? キースはその時以外にも、妹を怒ることがわりとあった?

「やっぱサド?」

 怯える姿が好きで、妹が死んでからそういう人を求めていたとか……変態だな。

「いやいや、恋人の敵と通じて、あげく恋人を巻き込んで自殺しようとしたんだから、妹が憎々しい……ってことかもしれないじゃない」

 恋人を殺しかけた家族を、死んだとはいえ1年で許し、懐かしむよりは、恨み続得ている方が自然な気もするのだ。

「むしろ探し求めるわけがないっていうか……そのためにはなんか別な要因が必要で……」
「……下僕? 師匠は配下をお望みですか?」
「ひいっ!」

 囁かれた師匠という単語とその声に、私は飛び上がるほど驚いた。
 椅子から立ち上がって、いつの間にか横にいて笑いをこらえている人物にじと目を向ける。

「ちょっ! アンドリュー、なんってタチの悪いいたずらするの!?」
「そんな似てたかな?」

 エドの声真似をしたアンドリューは、目の端に浮かんだ涙を指で拭いながら、笑いの気配を含んだ声で応じた。

「配下があれなんだから、主がまともなわけがなかったわよね……」
「ひどいな、ちょっとからかっただけなのに」
「もう、エドをけしかけられてからの私の苦労を分かってる? ちょっとしたトラウマになりかけたんだから」
「あれおかしいな。辛そうっていうより『逃げ切ってやる』って闘志が垣間見えてたんだけど」

 アンドリューよ、君はそんな風に私のことを考えていたのか。

「それにしてもエドって、なんであんな極端なの? 生まれつき?」

 右を向いたまま突っ込めと言われたら、その通りに右を向いたまま敵を斬り倒しそうな極端さだ。

「ちょっと厳格な家だったらしいけど……直角にしか曲がれないあの感じは本人の性質だろうね」
「よく騎士とはいえ、王子様に仕えるとかできたわね。なんか周囲の人と騒動起こしそうで。でもエドがその地位にいるのって血筋とか、身分とか、そんな理由なの?」

 興味があって尋ねてみた。
 なにせ異世界における騎士が、こちらの世界の騎士と同じかはわからない。

「ああ、エドはうちの国で一番強いから」
「……は?」

 私は目を丸くした。

「本当のことだよ。エドはうちの国で一番強いんだ。だから僕の護衛役だったし、だから留学中の護衛も彼に任されているんだ」
「へぇ~」

 意外であり、そして納得できる理由ではあった。
 強いからこそ、多少行動や考え方が普通の人間の枠に収まっていなくても良し、ということになっているというのだから。
 なにせ異世界は強い騎士がいないと立ちゆかないらしいので、死活問題故に、エドの奇矯さは許容されてしまうのだろう。

「でも、年少者のうちはまだ他の人がどうにかカバーできるけど、大人になってから部下が庇うのも限界があるからね。沙桐さんみたいな人と巡り会えて良かったよ」

 ……問題児の矯正係としてですか。
 一瞬でいいから、もうちょっと違う理由でその台詞を言われたかったのは、内緒にしておく。
 だからごまかすように、つい思い付きを口に出していた。

「でも、もう一つエドについては解決法があるでしょ」
「え?」
「永遠にエドを下っ端にしておく」

 さすれば彼が責任者として振る舞うこともないし、部下が上司をよってたかってかばったり、王国が彼一人を一生懸命擁護する必要はなくなる。
 エドには悪いが、多分みんなが幸せになれるはずだ。
 名案だと思って言ったら、あっさりアンドリューに却下された。

「うちの国、それなりに実力主義なところがあるから、強い人間が上に上がらないと不都合が生じるんだよ。……下から這い上がることができるって希望を打ち砕かれたら、下の人間は皆生きる張り合いも気力もなくなるだろう?」
「うう……」

 アンドリューの言う通りだ。
 民主主義で平等を謳ってる日本でさえそうなのに、身分制度があるアンドリューの世界で、能力による下克上ができなくなれば、平民の閉塞感は半端ないことになるだろう。

 しかし異世界についての理解は深まったが、キース対策は一向に良い案が浮かばない。
 どっちにしろ、姿形が似ていないはずの笹原さんに『妹みたいだ』と他人にキースが言うことに違和感があるのだ。
 個人的には、キースは恨みから病んでしまって、妹に似た人を探していたとしか思えない。なにせ笹原さんが『フェリシア』の記憶を持っていることなど知りようもないのだから。
 であれば、笹原さんに近づけてたら彼女が怪我をさせられる可能性もある。

「やっぱり、妹とは別人だと認識させるのが一番なんだよね」

 病むに至った対象ではない、と認識させるのが重要だろう。

「笹原さんのこと?」

 尋ねるアンドリューにうなずく。

「あれだけしつこく他人から妹呼ばわりされたら、気味が悪いでしょう? だからなんとかしてあげたくて、キース君の目を覚まさせる方法を考えてたんだけど」
「それでエドを連れて歩いてたんだ。エドから逃げ回ってたのに、どうしたんだろうと思ってたよ」

 確かに、アンドリューには笹原さんのことを話せないでいたので、私の行動が不可解に思えただろう。

「にしても、沙桐さんは面倒見がいいね。エドの時も結局かまっちゃうあたり、人がいいんだなと思ってたけど」
「うっ……」

 私は言葉に詰まる。
 このまま話していると、お人よしだから笹原さんを助けようとしたのではない、ということがばれそうで怖い。うっかり口に出してしまいそうだ。

「わ……私、なんか煮詰まったから、気分転換にジュース買ってこよーっと」

 慌てた私は、そんな口実を言葉にするという不審行動をとった上で、アンドリューから逃げたのだった。
 まぁでもジュースはいくらあってもいい。
 一日一個と決めてはいるが、こんな日には二個目を買ってもいいだろう。
 そして買うのは校内の自販機だと90円で買えてしまうフルーツ牛乳だ。

 自販機のある一階の購買店前に来た私は、100円を投入しガコン、と紙パックのジュースが落ちた音を聞きながら、10円のお釣りを取り出す。
 しかしその間に、誰かが取り出し口から、勝手に私のフルーツ牛乳を掴み出した。

「え! ちょっとそれ私の……っ!?」

 叫びながら振り返ると、そこにいたのはフルーツ牛乳片手にニヤついた顔をしているキースだった。

「はぁっ!?」

 最初に思ったのは、なんで一人でこんなとこにいるの!? というものだ。
 次になんで人の物盗ってんの!? という疑問。どちらにせよそれをキースがしたのが意外すぎた。

「なんで人のジュース盗ったのよ?」
「嫌がらせの仕返しだ」
「……え?」

 なんか頬がひきつった。

(まさか笹原さんに話しかけたのを邪魔したから? だからってジュースとっちゃったってこと? この人小学生? 小学生なの!?)

 そんな私を、キースは嫌そうな表情で見下ろしている。

「……なんだその表情は」
「いや……レディーファーストにこだわったり、随分礼儀作法にこだわるような貴族の坊ちゃんでも、安物のパックジュース片手にニヤつくんだなって思って」

 あと、と私は付け加える。

「別にあなたに嫌がらせしてるつもりはないし、出来ればこんな品性が欠けてる行動に出るような人、関わりたくないんだけど」

 笹原さんのことがなければ、近寄りたくもない。
 それを綺麗な言葉で包み隠さずそのまま言い渡せば、キースはぎょっとした表情になった後、フンと鼻先で笑った。

「お前だろう、ルーヴェステインの騎士にうちのクラスの人間を呼びに行かせているのは。それが迷惑だと言ってるんだ」
「そっちの予定なんてこっちが知るわけないでしょ。私はお友達と話したいから呼びたかっただけだし。エドはそれなら、って迎えに行ってくれただけよ。それにエドが奇矯で空気読まないのは本人の問題で、話が付くまでちょっと待てとか言うなら、エドに交渉してよ」

 キースの文句をバッサリ切り捨ててやる。
 エドの滔々とした斜め上演説に負けたのはキースの問題だ。そしてわざと邪魔をしている事については、キースも確証のない事のはずだ。であるなら、私はそれを認める発言をするわけにはいかないのだ。
 だってキースと妹のあれこれを知ってるのは内緒なんだし。

 一方のキースは、ここまで女子に真っ向から反論されたのがショックだったのかもしれない。
 ふるふると肩や腕をふるわせて、驚愕の眼差しでこちらを見ていた。
 ややしばらく衝撃を受けて思考停止していたが、彼は元から負けず嫌いさんなのだろう。私の発言を受け流すことはなく、真っ向から宣戦布告をしてきた。

「あ、あくまで認めようとしないなら……このジュースは返さん!」
「は、はぁっ!?」

 とんでもない微妙な脅しに、逆に私は度肝を抜かれた。
 やっぱりこいつ小学生だ!

「ちょっと返してよ!」

 今月のお小遣い、貯めようと思って節約してるっていうのに、また買い直すなどごめんだ!
 しかしキースは、あちらの世界の人間だけあって普通の男子より背が高い。
 かえして、かえしてと飛び跳ねても手を上に上げられると届かなかった。

 この絶対的な背丈は、脚立でも持ってこないと越えられない。一瞬、キースを蹴り倒して手の位置を物理的に下げさせるという作戦が脳裏をよぎったが、キースの来歴的に不可能だ。
 化け物と実戦経験がある鉄の剣を振り回していたような人間が、私のか弱い脚力でどうにかなるわけがない。

 ぐぬぬ……と悔しがるしかない私に、キースは見下すような視線を向けてきた。

「あがく姿は無様だな」

 あざ笑われた私は、怒りのあまり暴言が口を突いて出た。

「このせこい三下!」
「は?」

 キースは一瞬首を傾げた後、その意味に思い至ったのか顔を怒りに歪める。

「貴様……こんな子供だましで済ませてやろうというのに、つくづく愚かな女だ」
「盗人に偉そうに言われたくないわ!」

 私の怒りの表情に、とキースは余裕を取り戻したようだ。「違うな」とうっすら笑いながら言う。

「これはお前への罰だ。今後も、私の邪魔をしたなら、同じような目に遭うと思え」
「ちょっ、やっぱりせこ!」

 フルーツ牛乳をカツアゲ宣言に、思わず私は言ってしまう。

「はっはっはっは!」

 しかしそれを負け惜しみだとでも思ったのか、どこの悪役かと思うような台詞とともに、キースはフルーツ牛乳を片手に立ち去った。

「返しなさいよーっ!」

 叫ぶことしか出来ない私は、その場に立ち尽くす。
 そして雪辱を誓った。

「食い物の恨みは怖いのよ……覚えてらっしゃい!」

 その時、笹原さんを助けるという大義名分は私の中からどこかへお出かけして『キースをやっつける』という単語が心の中に刻まれた。

 そして私は、闘志を燃やしながら水道水をがぶ飲みしたのだった。
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